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転職記念北海道旅行
7日目
これぞ夜汽車の醍醐味

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富良野ドライブ

 明けて北海道最終日。窓の外には、なだらかな丘が広がっていた。寒いが、風が気持ちよく、爽快な朝だ。夜中には雨も降ったようで、まだ少し残っているものの、なんとか天候は持ちこたえてくれそう。

 これまたたっぷりの朝食を食べた後は、同宿だった方お二人の車に便乗して、富良野まで連れて行ってもらった。美瑛と富良野なんて近い場所と勝手にイメージしていたけど、1時間くらいかかるのだそうだ。富良野線の美瑛〜富良野間を乗り残すことにはなってしまうけれど、あまり小さいことには、こだわらなくなってきた。

 皆さんの見送りを受け、ドライブに出発。
 「昨日はこの道に迷い込んじゃったのよね」
 「あら、ここが近道なの?」
 お二人とも道外なのに、すっかり地元人のような会話である。それぞれに「とっておきの」ビューポイントを持っており、確かに紅葉に彩られた丘は、どこも絵になるた。富良野名物、「ジェットコースターの路」も、車だからこそ体験できた。なるほどまっすぐに下る坂道は、ジェットコースターのよう。来られて嬉しい。

 ラベンダーで有名な、ファーム富田にも寄り道。もちろん今はラベンダーの季節ではなく、かといって雪原が広がるわけでもなく、何もない今日はガラガラだった。シーズンには駐車場に列が出来るというが、富良野を一望する風景を独り占めする気分も悪くはない。花こそないラベンダー畑だったが、うっすらと香りだけは漂っていた。

 富良野の町にまで来ると、美瑛にはなかった雪景色になり、かなり離れた場所と分かる。支庁の区域も分かれるらしく、気候帯も別れるのかもしれない。富良野駅で、お世話になった二人ともお別れ。今回は短い滞在だったけど、次は「連泊」で来たいものだ。どうもお世話になりました。

 


▲目覚めれば美瑛の丘


▲ジェットコースターの道を下る


▲この画像、デスクトップにしています

北海道最長距離どん行にお邪魔する

 富良野駅からは、根室本線を通って新得へと抜ける。このルートこそ、石勝線開通以前の釧路へのメインルート。日本三大車窓と謳われた狩勝峠こそないが、ありし日の栄華を留める旧幹線の旅を楽しもうとの志向だ。

 21分という長時間の停車をしていた列車は、ありふれたキハ40形式シリーズの北海道バージョン。とはいえ本州以南向けの車両とはまったく違う構造で、デッキつき、2重窓の「急行型」然とした姿が特徴だ。座席も国鉄時代そのままの青色モケットで、いかにも汽車という雰囲気。汽車旅の気分が高まってきた。

 2両編成なのもいい。無人駅では後部車両のドア開閉を行わず、暖房がよく効くし、落ち着いた時間を過ごせる。ほとんどは無人の途中駅で降りる区間利用者なのか、2両目はガラガラだ。そしてこの列車、なんの変哲もない普通列車と見せかけて、滝川〜釧路間300kmあまりを8時間かけて走る、浮世離れした列車の一つでもある。

 富良野を発車すると、雪を頂いた山々と平野が車窓を飾った。九州だったら、まだ山間部の初雪の便りすら聞こえない季節。こちらへ来て、すっかり季節を先取りしてしまった。駅の引込み線にはロータリー除雪車が待機しており、来るべき季節に備えている。乗客の少ないローカル線であろうとも、備えは万全だし、そうせねばならないのが北の鉄路だ。

 金山を過ぎたあたりから、金山ダムが車窓を飾るようになる。北海道の青空を写す水面はきれいな青で、夏場はアウトドアのメッカでもあるらしい。鉄道旅行もいいけど、大自然にも飛び出してみたいなと思う。

 久しぶりに集落が現れ、止まった駅は幾寅駅。映画「鉄道員」で幌舞駅として登場した、映画好きには有名な駅だ。駅舎には「ようこそ幌舞駅へ」の看板も見え、本来の幾寅駅よりも知名度は高そう。南富良野(このあたりまで富良野圏というのも驚きだ)町の中心部ということで、降りた乗客も数人いた。

 9分で、落合へ。ここで17分の小休止。交換列車は数分で現れ、その後も止まっているのでどうしたことかと思っていたが、この後に合流する石勝線ダイヤの影響もあるようだ。急がぬ旅人には、外の空気を吸えるいい時間。砂利敷きのホームを、行ったり来たり。

 落合を出発して程なくトンネルに入り、ジョイント音が小さくなる。規格の高い石勝線に合流したのだろう、長いトンネルを抜ければ「おおぞら」で見慣れた風景に変わっていた。新得の町を見下ろしながら、雄大な牧場(畜産試験場らしい)を横切り下っていく風景は、ありし日の狩勝越えを知らぬ身にとって「新鉄道三大風景」だ。

 地図で見れば、そして8時間にわたるこの列車の全行程からみれば、ごく一部の1時間40分だったが、変化に富んだ車窓と「汽車然」とした車両に満足。鈍行乗り継ぎ旅行が難しくなり、面白みも失われつつあるご時勢だが、時折はあえて、こんな旅を楽しみたいものだ。

 


▲昔ながらの青いボックスシート


▲金山湖を見ながら


▲幌舞駅・・・もとい幾寅駅


▲落合駅で小休止

「スーパーカムイ」乗り比べ

 新得駅で有名なのは、新得産そばを使った駅そばだ。ここまでお腹を空かせてきた(朝ごはんはたらふく食ったけど)ので、期待して箸を付けたが、一度茹でてからの時間が経ちすぎていたようだ。茹でたての新得蕎麦を食べてみたい。

 静かな駅前をぐるりと一回りして、3度目のスーパーおおぞらに乗る。石勝線は、高規格の路線ながら人里離れた秘境度満点の路線。楽しいものの、出張で3度も通った区間でもある。旅も7日目、少し疲れ気味の僕は、眼を閉じてリラックスの時間に充てた。アルコールをディーゼルの振動で体内にまわし、心地よく睡魔に身を授ける。

 札幌着。帰路の「北斗星」の発車時間まで2時間弱あり、札幌の街をのぞく余裕はあるのだが、駅前に立っただけで引き返した。高さが高いだけでない、品格のある札幌駅は好きな駅ビルの一つ。福岡市民としては、札幌を何となくライバル視している面もあり、新博多駅はこれ以上の賑わいを得て欲しいと思う。

 駅に戻り、旭川行き特急「スーパーカムイ」に乗り込む。札幌〜旭川間の「北海道随一の都市間輸送」を支える、表定速度100km超の俊足ランナーだ。いずれ乗る機会はあるのだろうけど、まずは体験しておきたいというわけで、最初の停車駅である岩見沢駅までの往復を企てた。

 この列車は、785系電車の運行。カムイ登場までは、「スーパーホワイトアロー」の名前で同区間を結んでいた、登場後18年目の車両だ。車内はリニューアルが施されており、ふっくらと丸みを帯びた前面が飽きのこないデザインということも相まって、まったく古さは感じない。指定席車は6年前に増備された車両で、なおさらだ。

 自由席9割、指定席3割程度の乗客を乗せ、札幌を発車。さすがは電車で、加速も鋭く、直線区間が多いだけにトップスピードで駆けていく。自由席志向が強いのは、快速並みの利便性で使われている証。

 一方の指定席は快速エアポートと同様、グリーン車と普通車の中間的な地位にある「uシート」だ。自由席では2列に一つの窓も、この車両では1列に1つとなっていることからも分かる通り、座席のピッチが広い。ヘッドレストも立派なものが付いていて、体全体をしっかり包み込んでくれるようだ。500円の差額指定券はお値打ちと思うが、いつでも飛び乗れる利便性の方が買われているのか。後刻見かけた新千歳空港行き(札幌からは快速エアポート扱い)ではほぼ満席の盛況で、落ち着きたい空港行きでは人気が高いよいだ。

 札幌の市街地も10分ほどであっという間に抜け、後は大平原。23分間をノンストップで走り抜け、岩見沢着。普通系統もここまでは30分間隔、Kitacaエリアもここまでと、札幌都市圏の末端といったところだろう。できればもう少し、乗っていたかった。

 岩見沢まで来たのは、カムイの最初の停車駅だからということもあるが、一番の理由は設計コンペで選出された駅舎が建てられたとの話を聞いたから。なるほど赤レンガの温もりを持ちつつ、直線的で現代風、伝統を感じさせながらも重くない、バランスの取れた駅舎だ。正面のガラス張りカーテンウォールは、なんと古レールが使われているとか。

 駅舎そのものだけでなく、ライトアップや「名前刻印レンガ」の使用などのイベントも多いようで、またその告知ポスターもセンスあるもの。歴史ある駅舎の消失は残念だったと思うが、災い転じて福となす、街づくりの中核を成していきそうな駅舎だ。現在は第1期の完成状態で、来春のグランドオープンが楽しみである。

 駅内のキオスクではKitacaグッズを売っており、僕もマウスパッドを1枚、手に取った。エゾモモンガのキャラクターが愛らしく、北海道土産にも最適と思う。事実、Kitacaそのものが「土産用」の思わぬ需要に予想を超える売り上げとなり、ほどなく発売中止となってしまった。キャラクター戦略が「成功しすぎ」の例と言えるだろう。

 帰路のカムイは、運よく新型車の789系だった。785系とは完全に共通運用が組まれており、どちらの車両が来るかはJR関係者すら分からないというスーパーカムイ。1本前の札幌行きが789系だったのを見ており、望み薄かなと思っていたので、御の字だ。

 789系は、往路で乗れなかったスーパー白鳥と同型車両ではあるが、こちらは785系に合わせてシルバー基調のデザイン。ややずんぐりな印象もあるものの、785系とともにスマートな都市間ランナーとして活躍中だ。

 共通運用なだけに、指定席「uシート」を伍する編成はまったく同じ。しかし車内の雰囲気は異なり、デッキと客室を隔てる窓や、サイン類に多用されている縦のラインが印象的だ。uシート車両の座席はスーパーおおぞらの指定席車と同じもので、僕は785系の方が好み。これは好みの分かれる所だろう。

 もちろんスピードは素晴らしく、785系と同程度の24分で札幌と結んだ。北海道新幹線開業までは、JR北海道にとって唯一のドル箱である札幌〜旭川の都市間輸送。今後も安定した輸送で「冬こそJR」を体言してほしいものだ。

 札幌到着直前に流れたチャイムが鉄道唱歌で、JR世代は面食らう。北海道では「特別急行」という時代がかった表現も健在で、鉄道の伝統を大切にしているらしい。

 


▲4列ながらどっしりした785系uシート



▲伝統を重んじつつも軽快な岩見沢駅舎


▲告知ポスターもこのセンス


▲789系スーパーカムイ

ラウンジ北斗星は終夜営業

 北斗星の発車までは21分。コンコースの本格的蕎麦屋でもりをすすっていたら、発車時刻が迫っていた。今回の旅、札幌、函館は駅前に降り立っただけとなってしまったが、こういう旅もいい。

 北斗星はブルーの客車を連ねた、正統派の寝台特急。出発時刻が夕方5時過ぎと、実用性を求めるには早すぎる感じで、車内は余裕がある。個室車は売り切れとのことで、この先函館あたりまでに乗ってきて賑わうのだろう。

 今夜の寝床は、「ぐる北」でも追加料金なしで利用できる、B個室寝台の「ソロ」だ。7年前の旅でも帰路は北斗星だったが、あの時はついに個室が取れずB寝台になった。この春、1往復に減便されたのに簡単に個室が取れては、逆にこの列車の行く末に不安がつのるが、巡り会わせというものもあり、何とも言えない。

 1往復化でJR北海道編成、東日本編成のドッキングとなった北斗星だが、ソロにも両者の個性が出ており、東日本は上下2層の個室が完全に重なる構造、対する北海道は鍵型に組み合わさっており、居住性で言えば北海道編成が格段によい。運よく僕は北海道編成で、直立して着替えられる下段だった。ロビーの真横で自動ドアの開閉がうるさく、ロビーで酒盛りが始まれば更にうるさそうだが、これは結果的にオーライとなる。

 ガタンというショック音と共に、スルスルと北斗星は札幌を離れた。楽しかった北海道との別れよりも、寝台特急のはるかなる旅立ちに心踊る。夜行列車による旅の効用の一つだ。オーディオのチャンネルはクラシックに合わせた。日ごろクラシックなんてそう聞くことはないけど、そんな気分になる。

 快適な個室ではあるが、部屋内にコンセントがないのは不便で、充電は難儀した。乗務員にきいてみれば、洗面所や通路のコンセントを自己責任で使うのは構わないとのことだが、青函トンネル通過中に電圧の変化でメモリーが飛んだという事例もあるとか。くわばら、くわばら。ミニロビーのテレビのコンセントが一つ空いており、ここでくつろぎつつ充電するのがおすすめである。

 空いているうちに、車内をぐるりと一回り。北海道編成は、前回乗ったときと特に変わりはなかった。個室化の遅かった東日本編成の方が全体にきれいで、特にB個室車は清潔感がある。国鉄時代の寝台特急「ゆうづる」から連結されているA寝台個室「ツインデラックス」も、20年以上の歳月は感じなかった。

 食堂車の雰囲気も上々。厨房横の通路も木目調で、高級感を演出していた。北海道編成では白の壁そのままだったと記憶しており、こちらが好みだ。食堂車の従業員から、シャワーカード300円なりを購入。従業員の案内放送や接客も、もう少し洗練されていたらとは思う。

 ロビー横の共同シャワー室でゆっくりとシャワーを浴び、温まった体で、ロビーでくつろいでいたところ、横で飲んでいたおじさん二人に誘われた。二人も知り合いというわけではなく、たまたま出会って盛り上がっただけのようだ。

 お一人は札幌の家から宇都宮へ単身赴任中とのことで、往路では飛行機でひとっ飛びするが、帰路は北斗星に揺られ朝に到着し、そのまま出勤するのが常だとか。観光列車として見られがちな北斗星にあって、きわめて実用的に使われている常連さんなのだった。食堂車を利用したこともなく、ロビーにお酒と弁当を持ちこんでくつろぐのが、何よりの楽しみなのだとか。

 僕も弁当や酒のおすそ分けに預かり、いつしかいい気分に。フランス料理フルコースの予約利用が原則の食堂車は、21時以降は「パブタイム」として予約なしで利用でき、食事系のメニューも用意されているのだが、すっかり盛り上がってしまい、もういいやという気分になってきた。

 函館では機関車交換とともに、進行方向も転換。千鳥足で機関車の撮影に向かった。函館を出れば、
 「このテレビ、見れないんですかあ?」
 と迷い込んできた、同世代の女の子も酒盛りに合流。車内販売からビールや缶チューハイ、隣の食堂車からも小樽ワインを次々に買い込み、単身赴任氏も北斗星でこんなに飲んだのは初めてとのこと。

 青函トンネルが近付いたものの、「見学」に訪れる人もなく、車掌からの説明会もなかった。すっかり青函トンネルが当たり前になったとも言えるけれど、それ以外の時間でもロビーに出てくる人は少なく、寂しい限り。個室に閉じこもっていては列車の旅の楽しみも半減で、ぜひ歩き回って楽しんでほしいものと思う。

 蟹田からは東日本の車掌さんに交代となり、
 「夜も遅いので、お静かにお願いしますね」
 との忠告があったものの、もっとも迷惑を掛ける9番個室は僕の根城。多少の盛り上がりは、容赦されそうだ。12時を過ぎてもまだまだ続く勢いだったけど、さすがにまぶたがくっつきそうで、一足早くリタイア。漏れ聞こえる声を聞きながら、瞼を閉じた。

 


▲食堂車の光が旅情誘う出発前


▲ミニロビー。ここで大盛り上がりすることになる


▲函館で機関車交換。実は千鳥足で撮影


▲次々にワインが空いた

▼8日目に続く

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