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転職記念北海道旅行
5日目
釧路で冷え糠平で温まる

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北海道的要素の詰まった花咲線

 朝5時20分起床。夜行列車での朝なら、起きる時間としては不自然じゃないけど、宿になるとおっくうになってしまうのは、なぜだろう。自慢という健康朝食も時間外で食べられず、寒く人気のない釧路駅へ踏み出した。

 また釧路駅に戻ってくるのは確実なので、ロッカーに荷物を預け、根室行き快速「はなさき」に乗り込んだ。根室本線の末端区間、通称「花咲線」は7年前に乗ったことがあるが、あの時は真っ暗闇だったので、初乗りに近い。

 快速「はなさき」は、かなりの途中駅を飛ばす速達列車。この夏までは、夜行特急「まりも」に接続するダイヤだったのだが、それが廃止になった今、根無し草のようだ。夜行バス「スターライト釧路」には接続するが、別に根室行きの夜行バスもある。早朝に釧路から根室に向かう人、あるいはスターライト釧路から根室までの途中駅へ乗継ぐ人が残るターゲットということになるが、釧路から乗ったのは僕と合わせて2人だった。

 夕暮れが早い分、夜明けも早く、出発時刻の5時55分頃にはすっかり夜が明けた。あっという間に市街地を抜けた列車は、まず原生林茂る峠道へと踏み出す。葉を落とした落葉樹ばかりというのは、人工林だらけの九州人から見ると、新鮮な眺めだ。公園の中を走っている気分になる。

 「はなさき」は1両ワンマンのステンレス製気動車だが、デッキ付きで窓は2重と、昔ながらの北海道仕様になっている。昨日、一昨日に乗ったキハ150系よりは、まだまだ汽車の雰囲気を残す車両だ。0系新幹線の中古品のシートが並んでいて、すわり心地は快適。地図で見れば北海道の端と端とはいえ、所要時間は2時間以上。快適に過ごせる座席はありがたい。

 峠を越えれば厚岸(あっけし)。かきめしで有名な駅だが、この時間ではもちろん売り子の姿はなかった。釧路方面の列車は2両編成、それも高校生らで満員で、通学需要は旺盛なようだ。こちら「はなさき」は、なぜか8分停車。運転士さんもゆっくり煙草をくゆらせてから、発車する。

 厚岸を出た列車は、湾から湿地帯へ。羽を休める水鳥が群れをなしている。次の停車駅、茶内では1人だけだった乗客も降りて、僕一人になってしまった。ここでも6分停車で、駅舎に入ってみれば、つい4日前の10月末をもって、無人化された旨の告知があった。荒れていかないか、心配だ。

 寂しくなってしまった車内。突然の急制動になにかと思えば、ここでも多発するという鹿の飛び出しだった。すばやく身をかわした鹿は、列車の横を軽やかに駆けていく。厄介者ではあるが、それはあくまで列車とヒトを主語とした場合の表現。鹿にとっては、鉄ならぬステンレスの馬は、線路に立ちすくむほどの恐怖の対象だろう。

 その後は厚床から乗り込んでくる女子高生がおり、根室への需要もごく僅かながら存在する模様。丘陵地の向こう側に海が見えてくれば、根室に向かってラストスパートだ。東根室駅は日本最東端の駅として知られるが、住宅街の中の棒線駅。やはり線路がぷっつり途切れる根室こそ、最果て終着駅の旅情を感じられた。

 


▲まずは峠を越える


▲厚岸湾で朝日を迎えた


▲厚岸湖の湿地を見ながら


▲丘陵地では馬が草を食む

暫定日本最東端

 根室駅からは、バスに乗り継ぎ納沙布岬へ。所要35分で片道1040円と、なかなかいい値段ではある。ワンマンバスなので、そのまま整理券を取って乗ればいいのだが、バスセンターをのぞくと往復割引券があり、迷わず購入。こんなこともままあるので、とりあえず切符売り場はのぞいて見ることだ。

 根室市内をくまなく回り、車内はそこそこの乗り。7年前にも、闇の納沙布岬へレンタカーを走らせたのだが、こんな道だったかな? と、うっすらとした記憶しかない。まとまった集落になっている歯舞バス停で全員降り、僕一人が岬を目指す。最東端の郵便局、中学校、小学校を通り、納沙布岬へ。

 岬まで出れば、水平線の向こうに、はっきりと島影が見える。北方領土だ。その近さは、なぜあの場所に行けないのかが分からないほど。国境ではない国境、あるべきではない境界。経緯はまったく違うとはいえ、韓国の都羅山から北朝鮮を見た時のように、パズルの最後の1ピースが見つからないようなもどかしさを感じだ。

 資料館に上がれば、北方領土の返還を望む資料の数々を展示。ロシア語での解説も見られ、ロシアの方が来れば、まあ気分はよくないだろうと思う。それぞれの受けてきた教育とアイデンティティがぶつかる、自国領土への思い。個人対個人が無用ないさかいをせずに済むよう、国と国との結論が早く出て欲しいと思う。

 岬の周辺を歩いてみれば、いろんな団体が建てた、碑の数々。中には千島全島と樺太南部まで含めた返還を願うものまで。1日も早く、納沙布が純粋に、「本土」最東端であるだけの観光地になってほしいものだ。

 灯台や記念碑を眺めていたら、あっという間の1時間。平和の塔に登る時間もなく、折り返しのバスで根室市内へ戻る。帰路は市内の病院へ通うのか、乗ってくるのはお年寄りばかり。道から離れた家から大急ぎで出てきた高校生を待ってあげる一幕もあり、のどかなローカルバスだ。

 根室駅に戻り、駅付近を歩く。市役所の前には、根室支庁の存続を嘆願する横断幕が揺れていた。一部の支庁の廃止が検討されているようだ。九州の人間からみて「支庁」がどんな機関なのか見当もつかないのだけれど、地方分権の流れの中では必要な機関という気もするのだが。

 釧路まで帰りの列車も、快速「はなさき」だった。こちらは、釧路で昼過ぎの用事に間に合うとあって、結構な乗り。根室で4割、厚岸からは7割程度の乗車率になった。根室名物というカニめしを食らい、あとは昏々と眠りに落ちた。

 


▲「太平洋まわり」という表現がダイナミック



▲あくまで「本土」最東端に到達


▲望遠鏡の向こうには北方4島の島影

きんと冷えた釧路の街を歩く

 釧路へ戻った。初めてに近い街なので、3時間ばかりインターバルを取っている。さっそく市内散策に出発だ。

 駅にあったパンフレットの薦めに従うまま、まずは和商市場から幸町公園、釧路市こども遊学館へ歩く。遊学館は巨大なガラス張り建築で見栄えはするものの、月曜休館で見学はかなわず。もしかすると、どこの公共施設も休館日なんじゃ? と思い歩いていると、レンガ作り風の建物に行き当たった。

 その名を、釧路芸術館というらしい。実際にレンガ建築というわけではなく、レンガ「調」のようではあるが、どっしりとした重厚感を持っている。かといって重苦しいわけではなく、海側に出てみれば、ガラス張り。ロビーは開放感があって明るかった。屋外のテラスも、小さいものがいろんなレベルに分かれていて、それぞれに眺めがある。

 こりゃ名のある建築家の作品だな…と思い帰ってから調べてみると、やはり、「象設計集団」の手によるものだった。みっちり調べていく旅も充実するが、発見の楽しみがあるのもいいもだ。

 そのお隣に立つのが、釧路フィッシャーマンズワーフMOO。釧路のみやげ物から味、情報まで揃う複合商業施設らしいが、シーズンオフとあって観光客の姿は少ない。それよりも目立つのは、館内にあるハローワークを訪れる人。観光で浮き立って訪れる人とのギャップは大きく、同じ建物に入れるには酷な機能ではないかなと思う。

 渡り廊下を挟んで、お隣には温室のEGGも並ぶ。北海道の中でも寒い道東、一年中緑のあるこんな空間の必要性は、九州人の考えの及ばない範囲にあると思う。11月の今日ですら、耳がちぎれるほどの寒さなのだから。

 そう、今日は北海道に来て、はじめて身にしみて辛いほどの寒さに襲われている。気温は5度程度と、まだ耐えられる範囲内なのだが、海岸のこの街では、海風の前に成すすべがないのだ。MOOのカフェに釧路のおすすめ散歩コースなんてマップがあり、お手ごろだし回ってみようかなとも思ったのだが、風邪をひきそうで、幤舞橋を渡ったロータリーで早々と断念した。

 ロータリー、あんまり日本の街で見たことはなく、以前は多かった韓国でもたいていは信号機が設けられた「ロータリー跡」になっているのだが、ここ釧路では交差点に流入する車をぐるぐる回し、信号機を設けない、本来の意味でのロータリーだ。

 そのロータリーを見下ろすように立つのが、生涯学習センター「まなぼっと幤舞」。いかにも公共施設といった名前だが、その姿は名前から想像の及ばない、10階建てビルだ。高い建物の少ない釧路、それも高台の上に立っているから、円筒形のビルはよく目立つ。

 展望台は無料で、釧路の街が一望。市街地の規模は人口に対して大きいように見えるが、市街地の途切れた先が原野になっているのは新鮮というか、豪快な眺めだ。これが九州なら山が迫るか、田んぼが広がるかのいずれだろう。

 2階には市立美術館も入っている。あれ、さっき芸術館があったけど…と思えば、あちらは道立なのだった。九州の県庁所在地でも、ままあることだ。ここでは釧路出身の芸術家4人の作品展が開かれていたが、4人の作品を連続してみることで個性が際立つ、ライブイベントに通ずる面白さがあった。

 幤舞橋を市街地側に戻ると、Kuteなる商業施設を発見。以前は丸井今井(九州人にはなじみがないが、名の通ったデパートらしいという知識はある)だったらしく、その後継店だったようだが、開いている気配はなし。周囲の活気がなかったのは、寒いという理由だけではなさそうだ。北海道の都市って、人口と比較して活気があるイメージを持っているのだが、やはり全国共通の流れにはあるらしい。

 広々とした道路を駅にもどれば、体はすっかり凍てついていた。あたたまりたいだけという理由で、駅そばをすすった。

 


▲重厚さと軽快さのバランスを見せる釧路芸術館


▲ハローワークが主役!?フィッシャーマンズワーフ


▲市街地の向こうは大平原


▲どうなる!?静かな市街地

帯広でこの旅2度目のアクシデント

 釧路からは、スーパーおおぞらで帯広へ。この列車の指定席も新シートで、おおぞら系統ではほとんど交換が完了したようだ。池田までは日のある時間に乗ったことがなかったので、車窓を楽しみにしていたのだが、やはり日没に負けた。一部高架化が進んでいたこと、海沿いを走る区間もあることが分かったくらいだ。

 帯広着。これまで降り立った、「汽車駅」然とした駅とはまったく異なる、高架の都会的な駅だ。この駅から札幌までは特急「とかち」も走り、1時間に1本の特急街道になる。照明がホームまで暖色系を用いているのは珍しく、寒いだけに温もりが感じられる。ホーム毎に改札を分け、高架下で線路方向の通りぬけを可能にしているのはユニークで、宮崎駅と同様だ。

 駅前に出てみれば、なんと車にうっすらと雪が積もっており、げんなり。というのもこの先、レンタカーを使う予定なのだ。今日はここから車で1時間半の糠平温泉に泊まり、明日は帯広に戻って旧広尾線の愛国・幸福駅を訪ねようというラフデッサンを描いている。雪道運転は不安だ。でももう、手元にはクーポンもある、やめるわけにはいかない。

 駅前長崎屋と、高架下の豚丼屋で晩飯を買出し、いざマツダレンタカーへ。事務的なお姉さんの手続きを終え、
 「では免許証を」
 …あれ、ない、ないない。いつも定期入れに入れているはずの免許が、ないのだ。当然そこにあると思っていたから、出発前に確認すらしていなかった。これじゃ借りようがない。奥から出てきた社員の方は、
 「こういう事情ですから、キャンセル料は結構ですよ」
 と言ってくれたが、職場で割引クーポンを発行してもらっていたので、キャンセル料はかかるかもしれないとのこと。ガックリ、しかししょうがない。

 せっかくだから、糠平温泉には行こうと思うが、次のバスは1時間半後。高架下の豚丼屋さんに、さっきテイクアウトで買ったけど、時間ができたので中で食べていいかと聞いてみれば、打てば響くように、
 「どうぞどうぞ、味噌汁も出しますからね」
 と迎え入れてくれた。糠平方面は間違いなく雪だから、こうなってよかった、せっかくの旅なんだし、のんびり行きなよと慰めてもらった。

 


▲上下線で改札が分かれる帯広駅


▲いよいよ気温は零下圏へ

士幌線代行バスで雪の温泉へ

 バスターミナルで切符を買ってみれば、鉄道の硬券そっくりの券に、重そうな刻印機で日付を打って出てきたものだからびっくり。まるで国鉄のようで、窓口のおっちゃんの対応も国鉄職員ばりだった。かつての士幌線の代行バスだけに、国鉄ローカル線の色が残っているのだろうか。

 バスは意外にも新しいワンステップバス。発車したバスは、20分ほど市街地を走り続けた。街を抜けても住宅街は続き、35分くらい走った音更付近でようやく闇へ抜けた。廃線になった町だけに寂しい場所を想像していたが、帯広の街の広がりは思いの他、大きいようだ。PHSもずっと圏内だ。部分存続という柔軟な考えが国鉄にあれば、このあたりまでは鉄道も残ったのかもしれない。

 市内では残っていた雪が、このあたりまで来ると消えたのは意外。北海道だけに道路の規格も高く、快適な夜ドライブになっただろうなと思う。おっちょこちょいな自分に、再度へこむ。

 士幌に入ると、バス停が中士幌○号、士幌○号という名前で延々と続き、北海道らしい。時には鉄道を離れてみるものだ。52分で士幌の中心部、士幌待合所に到着。車内を埋めていた高校生もここでほとんど下車、雪を踏みしめて家路についていた。学ラン一枚で、寒くはないのだろうか。士幌も、夜目に見たって決してさびれた町ではなく、せめてこの街まで鉄道が残っていたらと思う。

 次のバス停で残った一人のおばさんも降り、ついに乗客は僕一人に。2車線の高速道路のような道を、スタッドレスタイヤ独特の走行音を立て、快調に走り続ける。これだけノンストップで走っていても時間調整がないということは、この走りを前提にしたダイヤを組んでいるということだ。「バス○分」の距離感は内地と違うというがまったくその通りで、1時間40分で1200円のバス料金は、かなり安めなのではと思えてきた。雪は完全に姿を消した。

 上士幌の東2線から高校生の乗車があり、びっくり。国立公園エリアに入るという案内テープが流れたと思うと、風景が一変した。雪、強風、そして路面凍結。雪道経験ゼロの僕、とてもこんな道を落ち着いて運転できなかったろう。バスで来てよかった!

 糠平公園前のバス停で降り、アイスバーンに足元をすくわれながら、夜9時半、ようやく「湯元館」にたどり着いた。老舗ながら食事は出さず、素泊まり4000円前後で泊まれるという気軽な旅館だ。おばさんは優しく出迎えてくれた後、ドアに鍵をかけた。このシーズンオフ、今日の泊まりは僕一人だとか。壮大な貸し切り温泉となった。

 温泉の湯質は素晴らしいし、大浴場は広々。真っ暗では分からないが、川沿いにある「らしき」露天風呂からは星空ものぞき、最高に気持ちよかった。ここまでの道のりは長かったが、これだけでも北海道まで来てよかったと思えるほどのものだった。吹きすさぶ風の音が少し怖くはあったが。

 凍てついた体もすっかり温まり、広い部屋でぐっすりと眠りについた。

 


▲昔の列車のキップを思い出す


▲つるつる路面の糠平温泉


▲ひろびろ湯元館の大浴場

▼6日目に続く

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