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転職記念北海道旅行
6日目
峠越えはバスにお任せ

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旧士幌線の面影を探して

 迎えた糠平の朝は、晴れ渡り路面の雪も消えかけていた。すっかり冬化粧した山々が、青空によく映えている。川のせせらぎを見下ろしながらの、貸し切り露天風呂。爽やかで最高な朝だ。今日はシーズンオフということもあって、名物という手打ち蕎麦はやっていなかったようだけど、コテージやライダーハウスなどの老舗らしからぬ客室もあり、季節を変え誰かとまた来たいものだ。

 せっかくここまで来たので、おばさんに「2番目におすすめ」の温泉を教えてもらった。お隣の旅館に洞窟風呂があるというので、どんなものかと思って行ってみれば、半地下式の浴室を、吹き付け材で「岩」風にしたというもの。なんだ、と思わなくもないが、露天風呂じゃない弱点も活かしようといったところか。宿全体の雰囲気はよく、泊まってみたくなった。

 バスの時間まで少しあり、糠平湖へ出てみようと湖畔の野営場に向けて歩き出した。今年になってキャンプという趣味ももった僕、夏にここでキャンプできたら、気持ちいいだろうなと思う。

 すると、林の中に向かう線路が残っているではないか。それも単なる廃線跡ではなく、あえて遊歩道として残してあり、夏場に開いている鉄道資料館へも線路を歩いて行けるようだ。いい活用法だとは思うけど、以前はここまで鉄道で来られていたのだから、そんな時代が心底うらやましい。大人たちって、ずるい。

 紅葉と雪と水面のコントラストを楽しみ、バス営業所へ。鉄道代行という重みからか、ここもきちんと切符売り場があり、パートさんが詰めていた。乗り込むバスは、旭川行きの都市間バス「ノースライナー」。4列シートながらピッチは広く、ビデオやトイレも備えたデラックスバスで、2時間半の旅も快適に過ごせそうだ。

 当初はレンタカーで帯広に戻る予定で、なくなくバスに転向した後も同じ行程を考えていたのだが、帯広まで戻っても愛国駅、幸福駅に行く余裕はない。だったら「レンタカーでは到底できないコース」を取ることにして、都市間バスで旭川へ抜けることにした。自分で雪道を運転するのはまっぴらだけど、バスに身をゆだねて雪の峠を越えようという魂胆だ。転んでもただでは起きない。

 そしてこのバス、実は糠平から、途中の十勝三股は鉄道代行バスの役割も果たしている。士幌線時代、特に乗客が少なかったこの区間は先行してバス代行になり、本体が廃止された後も、帯広〜糠平、糠平〜十勝三股は別系統として運行されていた。

 しかしこの末端区間、乗客が年間40人(1日ではない、1年である)という超に超がつく過疎路線で、ついに廃止。その代替措置として、都市間バスがこの区間の地域輸送を受け持つことになったわけ。例えば原則、十勝管内となる帯広〜糠平といった区間は利用できないのだが、帯広〜十勝三股間ならOK、糠平〜幌加といった短区間の利用も可能になった。

 この区間、休止期間が長かったお陰で鉄道施設が放置されることになり、現在でも路盤やホームの跡をところどころで見ることができる。美しいアーチ橋が特に有名な区間ではあるが、これは道路から確認できなかった。幌加、十勝三股とも人家は見当たらず、すごい場所に鉄道が通っていたものと思う。唯一の人の気配は、十勝三股バス停の前にあった喫茶店。いつか立ち寄ってみたい。

 


▲雪見の貸し切り露天風呂


▲林の中に消え行く士幌線の痕跡


▲糠平湖

自分で運転できない峠を越える

 国道は道幅が広く、橋梁も立派。夏ならば、さぞかし快適なドライブルートだろうと思う。時速70km。制限速度ややオーバーの「巡航速度」でバスは走り、早いはずだがスピード感がまったくないのは、道路のよさから感じる錯覚か。一台、また一台と、一般車が追い抜いていく。

 三国峠にかかれば、うっすら雪化粧した下界がどんどん遠ざかっていく。ゆるやかなカーブを登り続け、休止中の展望ドライブインを通り過ぎれば、三国トンネルへ。立派な道路だった国道273号線だったが、このトンネルだけは狭い。40年前そのままの構造なのだろう。改良だって容易ではなさそうだ。

 トンネルを抜ければ、道が真っ白。北海道に来て初めて聞いた、そして未知の世界である「圧雪アイスバーン」である。そこをバスはこともなげに走り、急カーブでも速度を落とさずクリアしていく。スタッドレスタイヤなるものを履いてみたことがないので、路面とタイヤにどのくらいの摩擦抵抗があるかも分からず、ただ自分の感覚で手に汗を握る。そして同じ、いやもっとスピードを上げて走るトラックと地元車。驚愕だ。

 休憩所での10分休憩があり、運転士さんと乗客の一人は降りていったものの、駐車場のアイスバーンに恐れをなした僕は、とてもとても。車内のトイレで用を済ました。雪に覆われた層雲峡温泉でも乗降はなかったが、車窓には雪道を黙々と歩く夫婦を発見。どこから来たのか、どこへ行くのか。

 平地に降りれば雪も消え、上川からは石北本線と平行。この石北本線も以前に夜行で通っただけなので、上川から先だけでも乗れるとよかったのだが、平行しているのだし車窓は似たようなものだ。驚いたのは平行する旭川紋別自動車道で、なんと通行料は無料だとか。この道路に乗ればバスも早そうなのだが、なぜか一般道を黙々と走った。

 


▲急に幅が狭まる三国トンネル


▲圧雪アイスバーンをこともなげに走る

勝ち組動物園

 旭川市域に入れば、さすが北海道第2の都市で、郊外のロードサイド型店舗で賑わっていた。旭川を前に、旭川4条で下車。このバス停で、旭山動物園行きのバスに乗り換えができる。もちろん旭川駅まで行って乗り換えることもできるが、それでは時間がなかったのだ。

 4条は同名のJR駅の高架下で、ちょっとした都会の駅のようではあるが、停車するのはディーゼルのローカル列車。それでも石北本線と宗谷本線の列車を合わせ、本数はそこそこあるようだ。

 ところで道内時刻表には、旭山動物園行きのバスが1時間に3本書かれており、これを元にノースライナーと動物園行きバスを乗り継ぐプランを立てたのだが、実は危ないところだった。動物園行きバスは3系統あり、4条を経由するのはそのうち1系統のみで、1時間に1本。たまたまプランニングしたバスがその系統だったので、思惑通りに乗り継げたのだが、下手すれば1時間近い待ちぼうけを食らうところだった。ノースライナーからはもちろん、4条駅からの乗り継ぎでもご用心。

 旭山動物園行きのバスは、木の床も懐かしい、レトロというか古いバスだった。バスが古いのは構わないけど、車内の掲示物は品がないし、赤信号は通過するし、停車時も急ブレーキ気味。案内放送はテープまかせで、運転士はハンドレスマイクさえつけていなかった。なにか車内に案内する時は、どうするのだろう。

 旭山電気軌道・・・と言っても路面電車は廃止されており、今はバス会社である…といえば、デザインされた低床バスの写真を見たことがあり、先進的な会社というイメージを持っていたが、実際はそうでもないようだ。

 郊外へ抜け、30分少々で動物園着。さすがは話題の動物園、つきものの親子連れの姿は目立たず、大人ばかりだ。さすがに男一人で入るには少し気が引けるが、苦境の公営動物園の「勝ち組」といえる動物園を、この目で見てみたい興味関心からやってきてみた。

 お昼ご飯もまだというわけで、まずは食堂で味噌ラーメンをすする。公営施設らしくなくデザインされていて、どこぞのフードコートにでもいる気分だ。お腹もふくれ温まり、園内散策をスタート。

 あざらし館、ほっきょくぐま館、オオカミの森、ぺんぎん館と、ぐるり一巡り。どの施設も、屋外から見ると普通の動物園だ。しかし中に入ってみれば、ガラスのすぐそばに動物たちが迫ってくる。特にあざらしは、「マリンウェイ」というチューブの中を愛らしい姿で通り過ぎていき、わあと歓声が上がった。

 動物が間近に見られるという旭山の魅力は、これまであちこちのメディアで語りつくされたところ。しかし聞くのと見るのとでは大違いで、大の27歳の男が、童心に返ってしまう楽しさだ。まわりの大人たちも同じ。数少ない子供の入園客と、同じ顔をしている。

 それをささえる人的スタッフの多さも特徴で、各建物に数人の人がはりつき、適宜解説にあたっている。餌付けの時間「もぐもぐタイム」では飼育員自ら、ピンマイクを使っての解説もあり、楽しいだけでなく動物のことも楽しみながら学べてしまう。

 こんな新しい施設だけではなく、「総合動物舎」なるお堅い名前の施設もあり、キリンやサイがのんびりと過ごす様は、いわゆる「市民動物園」らしい姿だ。ちょっと老朽化が進んでいるこれらの施設も、いずれ「魅せる」施設へと生まれ変わっていくのだろう。

 ここまで散々「シーズンオフ」を感じ悲喜こもごもだった北海道だが、ここの賑わいだけは別格だった。人気の施設では行列ができていたし、ペンギンの「もぐもぐタイム」では何重もの人垣ができた。しかしこれでも、旭山にとってはオフらしく、シーズンの賑わいはとんでもないもののようだ。さすがは日本トップクラスの動物園。とにかく、楽しかった。

 冬らしく、午後3時半には閉園。同時刻発のバスは、予想通りぎっしり満員になった。自家用車での来園がほとんどのようではあるが、JRの「旭山動物園きっぷ」利用者も多く、コースになっているバスの利用も多いようだ。これで途中からさらに乗り込んでくるんじゃ、かなわんなあと思っていたが、多くの乗客が待つバス停も遠慮なく通過していき、下車客のいるバス停だけ停まっていった。

 旭川駅で降りてみれば、バスの方向幕は「臨時」に切り替わっていた。どうやら途中のバス停は、別のバスを続行させていたようだ。あんまりいい印象を持たなかった旭川電気軌道ではあるが、旭山対策は抜かりなかった。

 


▲チューブを下るあざらし



▲人間の視線に動じぬおおかみ達


▲もぐもぐタイムでは楽しく学べる


▲実は臨時便だったバス

再会

 旭川は北海道2番目、北日本全体で見ても3番目の大都会。人口でいえば35万そこそこで、久留米を5万人上回る程度ではあるのだが、賑わいは段違いだ。

 駅前からまっすぐ伸びるのが、平和通買物公園。日本でも初といわれる恒常的な歩行者天国とのことだが、昔日を知らない旅行者としては、「屋根のない大規模アーケード商店街」という風にも映る。熊本の上通商店街あたりのスケール感に近い気がするからだ。

 郊外への拡散はここも同じというが、まだまだ賑わっている印象。特に街行く人の世代はぐっと若く、4方面へ路線が延びるJRのお陰で、車のない世代も集まりやすいのかなと思う。

 一方、旭川駅は高架化工事が進行中。駅の南北の流動を増やし、活性化にも一役か、と思いつつホームに行ってみたら、なんと駅裏は原野。地図を見るとその向こうには川があるようで、高架化で活性化といくだろうか。橋をかける計画があるのかもしれないが…

 ここから、富良野線を美瑛へ向かう。函館本線と同じキハ150系だが、さわやかなラベンダーカラーで、富良野らしさを演出している。
 ただ車内はさわやかさとは無縁、マナー無視の高校生が荷物で席を埋め、立たざるをえない人多数。ムム、マナー無視は若者だけではなさそうだ。席に荷物を置いていたおばさんに、
 「どなたかいらっしゃいます?」
 と聞いてみれば、なんと無視。
 「空いてますか?…空いてるんですか!?」
 と3度聞きなおすと、無言で荷物をどかした。地域の大人の背中を見て、子供は育つということが、よく分かった。

 富良野線沿線は住宅が固まっていて、旭川周辺のベッドタウンという顔も強いことがよく分かる。札幌に続いて旭川圏でもKitaca導入を! と思わなくもないが、絶対数でいうと厳しい面はありそうだ。

 石造りの重厚な駅舎が出迎える、美瑛着。今日の泊まりは、こちらの「とほ宿」星の庵で、宿にお迎えに来ていただいた。「とほ宿」は、男女別相部屋の民宿で、一人旅でも気軽に利用できる宿。北海道に多く、僕も北海道旅行の度に利用していて、どこもいい思い出になっている。

 着いてみれば、宿は新しく木の香りいっぱいで、暖炉も燃えてていい感じ。九州人の描く「北海道らしい」雰囲気ぴったりだ。それでも値段は1泊2食5000円程度と良心的で、相部屋システムの成せる業だ。もう真っ暗だけど、窓の外に遠い街明かりでうっすら見える稜線は、なだらかな丘。明日の朝、どんな景色が広がるか楽しみだ。

 談話室でくつろいでいると、帰って来られた連泊の人から、
 「あれ、礼文で会いませんでしたっけ?」
 と声を掛けられる。礼文には行ったことないですけど…と答えつつも、僕自身、あれ、どこかでお会いしたようなという気持ちだった。
 「たしか何年か前、池田の宿で…」
 「そう、そうですよ! おひさしぶりです!」

 ほぼ同時に記憶がつながった。あれは3年前の秋、就職してわずか2週間目に、台風災害の調査で足寄に出張した帰り、池田の「とほ宿」に泊まった。ガッツリ十勝牛の焼肉を食べ、一緒に温泉にも行って楽しい夜を過ごした仲間の一人だ。あの時は確か、近くで開催されるフルマラソンに出場するため、友人と池田に来たと言ってたっけ。

 「で、あの後どうなったんです? 彼は応援もしないで、遊び行くって言ってましたけど」
 「それがゴールにもいなくて、参加賞の鮭1匹貰って、ヘトヘトで座り込んでましたよ」
 なんて3年前のあの日の話から、その後就職で東京へ出たこと、今でも北海道が好きで時折訪れていること、いろんな場所で走りたくて沖縄から北海道まで全国の大会に出ていること、などなど「その後の話」で盛り上がり、ご主人から「座って話しなよ」と言われるまで、立ち話していることも忘れていた。

 今日は一人旅6人に、家族連れ2組。ここでもオフとは無縁だ。夕ご飯は、一人者には心から嬉しい手作りで、残りが僕(27歳)と彼(26歳)の所にどんどん回ってきた。珍しいことにサッポロクラシックの「生」も置いてあり、ついつい手が伸びてしまう。

 皆さん連泊で、今日は車であちこち観光してこられたようだ。話を聞くにつれうらやましく、鉄道旅行派の限界も感じる。北海道を又に掛けるような旅は今回までにして、次回からは道東とか道央とか、地域を限ってレンタカーも組み合わせた旅をしたいなって思った。

 夜のお酒の時間の前には、翌朝のパン練りがあり、ともかく若い男の僕と彼が抜擢。しっかり腰を入れて、練り上げた。パン作りでも、一番楽しい部分だけやったようで、なんだか悪い気も。期待していた美瑛の星空は見えず残念だったが、お酒の時間も盛り上がり、やはり思い出深い一夜になった。

 


▲「屋根なしアーケード街」的な買い物公園


▲ラベンダーカラーのキハ150系


▲木もよいアクセント・美瑛駅

▼7日目に続く

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