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旅は道連れ ~ゴールデンウイークを韓国で遊ぶ~
2日目
芸術の桃源郷?へ

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 ■ KTX2ndステージ前夜

 昨夜は遅かったが、6時には起床。週末には、よく一緒に近場の温泉に行っている こんちゃんと共に、お隣ホテル農心の温泉施設、虚心庁(ホシムチョン)へ行ってみた。7,900ウォンと結構な値段のする温泉だが、8時までは早朝割引6,000ウォンと、ちょっぴりお得だ。

 この施設、温泉センターという概念を越えており、サウナだけで4つ、温泉に至っては露天風呂から洞窟風呂、打たせ湯に…と、温泉デパートとでも呼びたい多彩さを備えている。これだけの規模がありながらお湯の質がよく、サラサラとした質感は肌にも良さそう。しかし隣に こんちゃんがいるのを見ていると、ここは久留米か熊本かという気分にはなる。

 7時半にホテルを出発し、3号線に乗り継いで亀浦(クポ)駅へ。釜山におけるKTXのサブターミナルともいえる駅で、北部の東莱温泉からであれば、こちらが便利だろうとの読みだった。ところが時間の計算を誤り、地下鉄亀浦駅に着いたのは、KTX出発の4分前。走るほどではないが、早足で歩き、ホームに降りる頃にはKTXの轟音が聞こえてきていた。

 KTXは、特室(日本でいうグリーン車相当)を押さえた。KRパスでも追加料金が必要だが、料金は半額の9,000ウォンで、ちょっとした贅沢の範疇である。ミネラルウォーターやワッフルなどが無料で貰えて、特にワッフルがおいしく、朝ごはんも食べずに出てきたので、皆無心でむさぼった。

 もう何度も乗ったKTXなので目新しさはないが、今年中には大きな変化を控えている。現在は在来線を走行している東大邱~釜山間の、高速鉄道線が開業するのだ。雄大な洛東江(ナクトンガン)のほとりを、高速性能を殺しゆるやかに走るKTXの姿も、あとわずかである。

 また高速線区間でも、金泉亀尾(キムチョン・グミ)と五松(オソン)の、2駅の建設工事が進行中。金泉亀尾駅付近では徐行運転を行う影響で、京釜線全体で5~10分程度の遅れが出ている。徐行を見込んだダイヤを作らず、「遅れ」で処理してしまうのが大らかといえば大らかだが、現場は大変でないかと思う。切符にも遅れの可能性は明記されているが、時間が読めず利用者としても不便だ。

 五松駅は、留学していた忠清北道(チュンチョンポクト)に開設される駅で、開業すれば留学先だった忠州(チュンジュ)を訪れるのも楽になりそう。ただ五松駅は単なる新駅ではなく、2015年の湖南方面の高速鉄道開業時には、分岐駅として機能することになっている。釜山方面から湖南地方へは現在、大田から西大田までバスなりタクシーなりで移動する必要があるが、ぐっと便利になりそうだ。

 予告通り10分程度遅れ、11時20分にソウル着。ブランチは僕のすすめで、ロッテリアでパクつくことに。韓国らしいプレミアムメニューとして韓牛プルコギバーガーと韓牛ステーキバーガーがあり、これがとにかくおいしいのだ。

 値段もセットで6千ウォンを越える高値なのだが、ランチタイムサービスが始まっており、セットで4千ウォンとかなり安く食べられた。マクドともども3千ウォンからという値段でランチ合戦をやっており、不況のあおりで安売り競争は熾烈になっている模様。ただ、以前よりもパテのジューシーさがなくなった気がするのは遺憾だ。値段とともに品質を下げちゃ、プレミアムメニューの意味がない。

 地下鉄で1駅下り、南営(ナミョン)駅へ。京釜線の地上線上に位置し、列車線を行き交う長距離列車を眺められるのが楽しい。駅舎は高架下にあり、鉄骨むき出しの構造物に囲まれた高架下の雰囲気は、総武線や大阪環状線の駅を見ているようである。

 今日と明日は、この駅前にあるレインボーホテルに連泊。12時前ではもちろんチェックインできず、ひとまず部屋の前に荷物を置かせてもらって、駅に戻った。



▲地下鉄3号線亀浦駅


▲ゆったり特室車でソウルへ北上


▲建設が進む五松駅


▲ソウル駅到着

 ■ 広域急行バスで北へ

 今日の目的地は、ソウル北部の軍事境界線を臨む街・坡州(パジュ)にあるヘイリ芸術村。韓国の情報にはアンテナを張っているつもりだったのが、僕自身はまったく知らなかった場所だ。たっちゃんからのリクエストを受けて調べ始めたが、なかなか日本語での情報は出回っておらず、韓国のサイトでも行き方についてはいろんな情報が出回っている。可能性の高そうなルートを取ってみようと、まずは1号線で市庁へ、さらに2号線で合井(ハプチョン)駅へと出てきた。

 合井駅の2番出口を出れば、バス乗り場は目の前。すぐに「出版団地・ヘイリ行きます」と大書きした200番バスが来たが、このバスは一山(イルサン)新都市へ迂回していくので時間がかかるという情報を得ており、パスする。それから10分も待つことなく、本命の2200番バスがやってきた。最近新設された路線とかで、これまで2時間以上を見なくてはならなかったヘイリへの所要時間が、1時間程度に大幅短縮された由。

 中央バス専用レーンを走らず、路肩のバス停にいくつか止まって乗客を拾った後は、漢江(ハンガン)沿いの自由路を北上。漢江の川辺は、ソウル市民の憩いの場。運動やピクニックを楽しむ休日の家族連れで賑わっていて、いい雰囲気だ。

 しかし北上するに従って、鉄条網が張りめぐらされ、軍人が銃を手に警戒する、ものものしい雰囲気になってきた。川を挟み北朝鮮と対峙する場所であり、今も戦時中の国家であることを否応なく実感する場所である。ただ首都圏拡大の勢いは、最前線か否かなど言ってもいられない状況のようで、周辺の宅地開発は留まることを知らないし、今でも充分広い自由路に平行して、第2自由路を建設する工事も進んでいる。

 自由路を右に折れ、バスが立ち寄ったのは出版団地。出版社から印刷所、書籍の流通センターまでを集めた、活字文化の発信地ともいえる工業団地である。この街のすごさは、それぞれの会社が力を入れて、名建築家による社屋を建てていること。たっちゃんは、建築展の模型の中に紛れ込んだような気分と表現していた。

 これでもまだまだ完成形ではないようで、第2出版団地の造成も進んでいた。整然としていて緑の多い街並みもよく、建築屋、都市計画屋なら、ヘイリと共に訪れたい場所だ。

 時間のない僕らは先を急ぎ、自由路を北へ。再び道を右に折れると、出版団地よりは小ぶりな、でも明らかに違う光を放つ建物群が出迎えてくれた。目的地の、ヘイリ芸術村だ。

 


▲開業控える空港鉄道の漢江鉄橋


▲全員着席が原則の座席バスだが、つり革の姿も


▲ユニークな建物が並ぶ出版団地(帰路の車内より)

 ■ どこでもない村

 ヘイリ芸術村は、作家や建築家、画家など芸術家が集まり、アトリエや住居を持って、芸術活動をしながら発表し住まうという、まさに芸術の街。有名建築家の手による個性的な建築物が並び、見て回るだけでも楽しい街だ。クラキチは、ここって日本で言ったら、どこなん?と聞いてきたが、何とも答えられない。たぶん、日本にこんなコンセプトの街はないんじゃなかろうか。湯布院の、本来の湯布院だった部分を抽出した場所と例えればよいだろうか。

 こんなコンセプトなので、入場券を買って見学するというスタイルの場所ではない。しかし総合案内センターはあり、ギャラリー・博物館共通の入場券を売ったり、自転車を貸し出したりしている。そこそこ広い村のようなので、自転車を借りて探検に繰り出した。

 芸術村では建物が3階建て以内に制限されており、建物の間隔にもゆとりがあって、出版「団地」を見た直後では、より「村」の感を強く受ける。建物群は、デザイン性もさることながら、収まりや素材使いが大胆。この村だからこそ、建築家たちも思い切り羽根を伸ばして、そして実験的な気持ちも込めて設計をしているのではないかと察する。細かく見れば、施工が悪かったり清掃がなされていなかったりするのだが、個性と、それらが集団で主張しあう勢いの方が凌駕している。

 芸術村なので、もちろんギャラリーが多彩。芸術家のアトリエはもちろん、体験工房から、作品を直販するショップまで揃っており、好き者にはたまらないだろう。工芸品に関しては、日本よりだいぶ安いように感じた。荷物になるものは大変だけど、お気に入りの小物を見つけてみては?

 山手には住宅が立ち並び、これがまた強烈な個性。塀や庭木で囲まず、オープンになっているのも共通の決まりごとだろうか。おかげで、住まいの全体を、余すところなく鑑賞することができる。

 カフェやレストランも多く、いい雰囲気の店ばかり。夜は妹、友人と市内でご飯を食べる予定にしているが、ここでいい店を探してもよかったかなと思う。ヘイリ芸術村としてではなく、お気に入りの店を訪ねるために訪れている人も多いようだ。

 惜しいなと思うのは、道路に街並みへの配慮がないこと。韓国でお馴染み、適当な施工のインターロッキングブロックで、ガタガタだし街並みにも似合わない。街灯には気を使っているのに…明るい色の石畳か、荒い粒子の舗装材なんかが似合いそうだ。路上駐車だらけなのも景観上は好ましくなく、住民以外の車両入村は禁じた方がよいと思う。

 歩きつかれた僕らは、オープンスカイのカフェで一休みすることに。ドイツ直輸入の生ビールは、500mlで12,000ウォンという高値。しかし歩きつかれた体を、爽やかに吹く山間の風に任せ、ギターの生演奏(これがまた上手かった)を聞きつつ飲むビールが、どうしてまずかろう。豊かな時間を潤してくれたビールは、恐らく生きてきた中でもトップ10に入る旨い酒だった。

 せっかく博物館の共通券を買ったのに、ここまで一つも見る時間がなかった。せめて一箇所は入っておこうと、案内所で一押しだった、昨日オープンしたばかりという韓国近代史博物館へ。その名前からお固いものを想像していたのだが、実際は韓国の数十年前の風景を再現し、その中に展示を紛れ込ませた、誰しもが楽しめる敷居の低い博物館だった。

 以前、「昭和の街」として売り出し中の大分県豊後高田市を訪ねた韓国人から、
 「僕にとっても懐かしくて、楽しかった!」
 という感想を聞いた。逆に韓国の少し昔を再現したこの博物館、僕にとっても共有の郷愁を誘う。時代を反映して漢字の看板も多く再現されており、ぱっと見、日本の昔の街にいるような錯覚を覚えるほどだ。アートはちょっとよく分からないという人でも楽しめる施設だけに、ヘイリは、誰しもが楽しめる村としておすすめできる。

 昔の学校を再現した教室では、韓国人の若者グループと写真を撮り合い、最後は一緒に記念撮影。素晴らしい思い出の1枚が、また増えた。

 


▲山の中に数々のギャラリーが並ぶ


▲住宅博覧会のような住宅エリア


▲冷たいドイツビールを傾けながら至福のひととき


▲昔ながらの路地裏を再現した近代史博物館


▲小学校校門前の坂道を再現

 ■ 旅は道連れ

 帰路のバスは予想通り渋滞に巻き込まれ、1時間10分かけて合井駅に戻ってきた。2号線と3号線を乗り継ぎ、鐘路3街(チョンノサムガ)駅へ。

 だいぶ電車もバスも乗ったので、僕以外のメンバーの釜山交通カードの残高が寂しくなってきた。ところがチャージ機でチャージしようにも、機械が受付けない。エラーすら出ず、機械がまったく反応しないのだ。日本だと相互利用先でも問題なくチャージできるのでうっかりしていたが、韓国の場合、相互利用先のどこでもチャージできるわけではないらしい。調査不足を詫び、改めてソウルの交通カードを買いなおして貰った。

 そうしていると、隣にいたおじいさんから声を掛けられる。400ウォン足りないのだと…99年、初めて韓国を訪れた時は逆に400ウォン恵んでもらったことがあり、いたく感動したので、お返しのつもりでもないが、どうぞとそのまま握らせた。おじいさん、ようやく日本人だと気付いたようで、
 「おお、日本人なのか、ありがとう。日本人も韓国語を話してくれる時代なんだな。仲良くしていこう!」
 と、いたく感激されてしまった。

 地上に上がり、タプコル公園前で、韓国留学10ヶ月目の妹と、友人の看護師、その同僚と合流した。伝統文化の街、仁寺洞(インサドン)をそぞろ歩き、韓国式の食堂へ。せっかくだからいろいろ食べてみようと、コース料理を4人分、お肉を4人分頼んだら、まあどんどん出てくること。一つの料理を食べ終わる前に、次の料理をドン!と出され、テーブルに乗り切れなくなるほどだった。

 積もる話もたくさんあるのだけど、まずは出てくる料理をこなしていくので精一杯。こんなに食べ疲れた食事は始めてだったけど、とにかくうまかった。

 このまま別れるには早いし、食べ疲れを癒したかったので、路地にあったカフェへ。韓国の伝統的建築様式である、「韓屋(ハノク)」をリフォームした、「リンゴの木」なるお店だった。韓屋の特徴の一つである囲み形式を活かし、中庭にも席が設けられている。昼間は汗ばむ陽気だったこの日、中庭の席が一番の人気だった。僕らも中庭がよかったのだが、満員御礼だったので中の席へ。

 コーヒー、生ジュースやパフェなどの喫茶メニューから、ワインやビールなどのバーメニューまで。お値段はさすがにソウルの都心とあって福岡並みの水準だが、韓屋の空気は福岡に代えがたい。飲み物もデザートもなかなか出てこなかったが、ゆったりと落ち着いた時間を過ごすことができた。

 見知らぬ異国人同士、どうなるかなと思ったけど、すっかり意気投合した様子で、幹事としては嬉しい限り。しかし看護師の二人は明日から新しい一週間というわけで、10時半には一旦解散とした。

 僕は妹と積もる話もあるというわけで、雰囲気を察してくれたのか、男4人は夜の街へと旅立っていった。妹とマックで1時間ばかり話したものの、親に預ける荷物を忘れてきたとかで、明日もう一度会うよう約束。妹が住むのは高麗大学おひざもとの安岩(アナム)という街で、1号線と6号線を乗り継いでいけるのだが、妹はバスで帰るのだとか。いわく、乗換え通路を歩かなきゃいけない地下鉄より、バスがラクとのこと。もはやソウル市民的な発想である。

 僕は地下鉄の駅へ。地下鉄の駅ホームには、デジタルビューなる情報装置が次々設置されている。韓国の大手ポータル、NAVERの提供する衛星地図を見ることができ、タッチパネルで直感的に操作できる優れもの。電話も付いており、試験運用中ということで無料通話できてしまうようだ。右側の広告で運営費を稼ぐようで、さすがは韓国のIT、どんどん進化していく。

 地下鉄1号線で南営へと下り、ホテルへ。うとうとしていたら、真夜中にタクシーを飛ばして4人が帰ってきた。なかなか危険な経験をしてきたようで…旅にはアクシデントが付き物だけど、気をつけてよね!

 


▲テーブルに載せきれないほど料理が並ぶ


▲看板もかわいい「リンゴの木の家」


▲韓屋のたたずまいを生かしつつ洒落た空間


▲IT技術を駆使したインフォメーション

▼3日目に続く
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