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旅は道連れ ~ゴールデンウイークを韓国で遊ぶ~
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バスドライブ

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 ■ 2階建てバスで巡る海雲台

 ここまで概ね天候に恵まれた旅行だったが、釜山の朝は大雨だった。朝9時半、開庁の時間を待って日本領事館へ。パスポートをなくしたという申し出に少し驚かれたが、必要書類は揃えているというと、坦々と事務手続きは進んだ。

 ちなみに、たまたま日本の運転免許証を持っていたのでスムーズに手続きできたが、写真入りの公的身分証がなければ、もう少し手間取るとのこと。パスポートとは別の場所に免許を入れておくのも、一つの旅の知恵かもしれない。

 その間にも、突然休むことになったため、職場や仕事の相手先へ随時連絡を入れる。かさむ電話代。最終的に、この2日間での電話代は4,500円に達した。

 無事に、薄いパスポートといった体裁の「帰国のための渡航書」を入手。すぐさまビートルの予約センターに電話し、今日の便にキャンセルが出ていないかの確認を取ると、次の便は空いているという。しかし時間はもう1時間もなく、帰国のための渡航書では手続きに時間を要するかもしれず、厳しそう。仕事の段取りも付いたので、予約していた夕方のフェリーで帰ることに決めた。

 そうとなれば、今日は終日フリータイムである。身分証のない状態で、あまり適当にフラフラするのは避けたい。というわけで、初日に乗れなかった釜山シティツアーバスに乗ってみることにした。

 釜山シティツアーバスは、釜山市内をぐるりと回る観光バス。主要コースの海雲台(ヘウンデ)コース、太宗台(テジョンデ)コースは40分間隔で走り、途中観光地で自由に観光ができるというスタイルだ。1日乗車券は1万ウォンで、都心コースや夜景コースにも乗れて、距離やバスのグレードを考えれば割安。当日のKTX乗車券を見せれば2割引にもなる。

 発車を待っていた次のバスは、2階がオープンになった新型バスだった。幸い雨も上がり、少し肌寒いものの、2階席に陣取ってみた。遮るもののない開放感は、乗ってみなければ分からない。

 走り出せば曇り空の風が寒いが、巡り変わる風景がとにかく楽しい。すぐ頭上を道路標識がかすめていくし、街路樹の葉っぱも攻撃してくるが、ご愛嬌だ。シートベルトの着用が義務付けられているとのことだが、徹底されているかというと、ここは韓国らしさが垣間見えた。

 周囲からの注目度は高く、散歩の幼稚園児が大歓声で手を振ってきたので、こちらも大きく振り返した。それもそのはず、オープンタイプのバスは4月の末に走り始めたばかりなのである。パレードの主役になったようで、悪い気分じゃない。

 繁華街を抜け、地味な住宅街を抜ければ、広安里ビーチへ。さえぎるものなく広がるビーチの風景は、まさに大パノラマ。よい季節だったら、爽快感もさぞかしと思う。

 海雲台の新世界・ロッテ百貨店前で降りて、改めて新世界百貨店をのぞく。デパートだけではなく、巨大な温泉施設もあるとかで、お年寄りが大挙行列を作っていた。新世界クオリティならば、かなり豪華な施設のはずで、いずれ再訪してみよう。地下のフードコートで、軽く食事をして再出発。

 次のバスは、オープンではない2階建てバスだった。釜山シティツアーのホームページを見れば、1階、2階のバスの区別はつくものの、オープンか否かまでは分からず、「来てからのお楽しみ」だとか。2階から見下ろす広安大橋上からの眺望はよかったが、オープンだったら絶景だっただろう。

 もっとも今日のように肌寒ければ普通の2階建てバスが快適で、流れる街並みを眺めながら、ウトウト。充実したドライブは、ぐるりと釜山駅に舞い戻って終わった。



▲二度と来る機会がないことを願う領事館


▲ビーチを走るオープンデッキバス


▲デザインもポップでかわいい


▲広安大橋を渡る2階建バス

 ■ マニアックなツアーコースも

 午後は、乙淑(ウルスク)島自然生態コースに乗ってみることにした。釜山の自然を体験するという、なかなかマニアックなコースである。

 ところが運転士さんに1日券を見せたところ、これじゃ乗れないよとのこと。このコースのみ、別払いにて1万ウォンのチケットが必要なのだそうだ。別払いしてまで乗るかなと少し迷い、このコースは面白いですかと運転士さんに聞いてみると、
 「面白くないですよ」
 と笑いながら言うものだから、運転士さんが面白くないって言っちゃダメでしょ!と毒づく。逆に興味が湧き、千円にもならない金額、ケチケチするまいと乗り込んだ。1階建てバスながらゆったりとした3列シートで、快適な旅を楽しめそうである。

 乗客は家族連れが1組に、ソウルから来たと思しきおじいさんひとりで発車した。おじいさん、タクシーのような感覚で運転士とずっと話を続けている。日本にいた経験があるようで、かなりの日本贔屓でもあるようだ。日本人の方もいっぱい乗るかねと運転士に問うていたが、
 「ああ、今日もその後ろの方が日本人ですよ」
 と言わなかったのは、僕に対する配慮だと信じている。

 影島(ヨンド)大橋から南港(ナマン)大橋へ、まずは2つの橋を渡って釜山の港湾地区の大パノラマを眺める。釜山でも最も初期に開発されたという松島(ソンド)海水浴場を過ぎれば、松林を走る海辺らしい風景に変わり、最初の見学地である岩南(アムナム)公園に到着した。

 他のコースと違い、このコースは下車地で観光して、同じバスに戻ることになっている。日本の観光バスのようにガイドは付かないが、運転士さんが運転しながら適宜案内を入れてくれる。岩南公園での所定の見学時間は20分だが、早着したようで30分に時間が延びた。

 その名の通り、岩壁が連なる海岸で、岩場沿いに鋼鉄製の遊歩道が延びている。遊歩道自体はしっかりしているが、雨に塗れて滑りやすく、落ちれば岩場に真っ逆さまである。なかなかスリリングだ。

 海岸の大噴水を車窓観光しつつ、次の目的地は峨嵋(アミ)山展望台。京釜線からの車窓でもお馴染み、洛東江(ナクトンガン)の河口を一望できる展望台である。京釜線沿いの洛東江は悠々と流れる大河で、河口ともなればさぞかしと思うが、残念ながら時ならぬ濃霧で一切視界がきかなかったのは残念。展望台の写真を元に、うっすらと見える島影から想像するしかなかった。

 再び高層アパートが増え始め、堰を渡れば、最終目的地の乙淑島エコセンター。洛東江の河口へ広大に広がる湿地帯に立つ、自然の資料館である。ここではゆっくり、1時間の見学時間。さっそく入ってみよう。

 見学ゾーンはほぼ2階にあるのみで、湿地の成り立ち、仕組みから、洛東江流域の生態系まで分かりやすく展示されている。しかし目玉は、大きなガラス窓を通して見る湿地帯と、自然の中の水鳥たちだろう。釜山という大都市にありながら、時間の流れはずっとゆるやかだ。開発の中でこれだけの自然を守ることは、簡単なことではないだろう。水質保全にも、苦心しているものと思われる。

 外に出て、金海空港に発着する飛行機を見上げながら、春風に吹かれ湿地帯の中に立つ。パスポートをなくし、ちょっと腐っていた気持ちも癒された気がした。

 帰路は、地下鉄1号線の上に連なる市街地を駆ける。6月の統一地方選挙まで1ヶ月を切り、今回の旅では街に候補者の垂れ幕が溢れていた。釜山も例外ではなく、ビルの側面に候補者の笑顔が連なる。1人1箇所に決められているようではあるが、なんせ市長、市議、区長、区議、市教育長、市教育員まで一度に選挙するのだから、候補者数も半端ではない。候補者の垂れ幕はビル3フロア分とかなり大きめで、日本とは規制が異なるのだろう。

 予定より10分ほど早く、17時半には釜山駅着。釜山ビギナーにはお勧めしないけど、自然に関心がある人や、僕のようにぽっかり時間が空いた人なら、乗って損はないコースであった。



▲3コースのバスが縦列駐車


▲岩場を巡る岩南公園


▲天井・壁・床を同じ材料で仕上げてあるエコセンター


▲豊かな湿地で羽根を休める水鳥たち


▲街に溢れる候補者

 ■ 時間を使うという贅沢

 釜山駅から地下鉄を1駅、中央洞へ。ロッカーから荷物を取り出し、国際旅客船ターミナルへと戻る。携帯を返し、乗船手続き。昨日やるはずだった作業を、また繰り返す。

 下関行きの釜関フェリーと、博多行きのカメリアラインが出航する夜の時間帯。いずれも大型フェリーなので乗客の数も多く、双方の手続き時間をずらして対応している。我らカメリアラインの手続き時間は19時から。下関・博多行きともほとんどが韓国人で、ビートルとはまったく逆の傾向である。

 うすっぺらい臨時渡航書ではあったが、出国手続きはすんなり済んだ。免税店で「花より男子チョコレート」を買い込めば、クラキチからのお土産ミッションはすべてクリア。達成感を胸に、ビートルとは比べ物にならない巨船に乗り込んだ。

 最近では、ビートル&コリアレールパスのお陰でビートルばかり利用しているが、99年の初訪韓で利用したのはこのカメリアラインだった。当時は隔日運航で、博多・釜山発とも夜行だったが、現在は毎日運航になった代わりに、博多発は昼行、釜山発は夜行になっている。ちょっと古びた雰囲気だったフェリーも、国内航路の新造船にも負けない美しい船に変わっていた。

 さっそく船内探検。レストランは定食が千円からと、移動する船内であることを考えれば、なかなかリーズナブル。日本式の船ではあるけれど、韓国の面影を引きずり焼肉定食を突いた。レストランの生ビールは400円、自販機は200円と、これは免税であることを考えたらもう少し安くてもいいかなと思う。ゲームコーナーやカラオケボックスもあり、特にカラオケは1室1時間1,000円と、人数が増えれば陸のカラオケより安い。

 さて、今回の根城は2等船室。今回みたく疲れを残して乗るときは、のんびりくつろげる寝台を押さえることが多いのだが、カメリアには相部屋の寝台がなく、1人で使うには一人用個室か、ルームチャージを払うしかない。いずれにしても想定外の出費を強いられた僕には、高くて手が出なかった。2等は男女や国籍もバラバラの呉越同舟。団体さんや「かつぎ屋さん」は部屋を分けているようで、僕らの部屋は1~2人の旅人ばかりである。

 こんな雰囲気では自然と会話も弾むもので、韓国に嫁いだ姪っ子を尋ねた帰りという元塾講師師と、韓国人の実業家さんと意気投合。釜山港を眺める大浴場でのんびりくつろぎ、グリルバーでは生ビールで乾杯。塾講師氏は農業での独立を目指しているそうで、もう60歳を目前にしているそうだが、とてもそうは見えない。夢追い頑張っている人って、何歳になっても若さを失わないのかなと思う。

 ついつい盛り上がってしまい、何杯もビールをお代わり。釜山の夜景が窓辺を飾る。成り行きで乗ったカメリアだけど、乗れてよかったし、2等でよかったと思う。今後もビートルを使うことが多いのだろうけど、機会を見つけて、国際フェリーの楽しさも味わいたい。

 日付も変わり、いつしか動き出していた船の揺れに身を任せ、根城へと戻った。


 明けて、5月7日金曜日。夜中、実業家氏のいびき、歯軋り、寝相の悪さにだいぶ睡眠を妨害されたが、疲れが打ち勝ち熟睡して博多湾上で目覚めた。携帯も6日ぶりに圏内復帰、日常と現実はもうすぐそこだ。

 同室だったが今朝初めて話を交わした韓国人のおじいさんは、なんと社会福祉学を学ぶ大学生。日本は初めてだそうだが、ほとんど下調べはしていないようで、到着までの間、九州観光について徹底指南しておいた。登山も目的で、富士山に行って見たかったそうだが、さすがにその日程じゃ厳しいですよと、由布岳を勧めておく。高速バスで行けますが、観光案内所で聞いてみてくださいねと念押ししておいたが、さて、どこかの山に登れたのだろうか。

 博多港の入国手続きは、外国人と日本人に分けられており、1箇所だけの日本人窓口はしかし、あっという間に順番が回ってきた。白の臨時渡航書を差し出すと、すんなりとは通れず、
 「パスポートを無くされたんですか?」
 と呼び止められ、女性職員は確認のため事務所に引き揚げていった。このままじゃ入国できないのだろうかとやきもきし始めた頃ようやく戻られ、無事入国。やれやれ。

 塾講師氏と天神にまで出て、西鉄電車で久留米へ。一旦自宅に帰り、スーツに着替えて出勤。職場の皆さん、哀れみの苦笑いで出迎えてくれた。課長からは、
 「お前のパスポートは今頃、北やぞ」
 「そのうちフランスから逮捕状が来るぞ」
 と突っ込まれる。が、その程度で済んでしまう寛大な職場に感謝。眠気と戦いながらの仕事は、残業まで続いた。

 


▲日韓の物流動脈でもあるカメリア号


▲日韓の機械が見えるカラオケボックス


▲暖かい食事も船旅の楽しみ


▲船上からは釜山の夜景を一望


▲雑魚寝の2等船室も楽しい

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