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1日目【5月2日】
ほぼ全通!KTX京釜線

久留米→博多→釜山→蔚山→大田・儒城温泉



3年間のご無沙汰の間に

 昨年11月、2年半ぶりの訪韓を実現させたものの、2泊3日の旅では釜山周辺を回るだけで精いっぱい。これはこれで、気軽で楽しい大満足の旅だったのだけど、他の地域にも行ってみたいという気持ちはむしろ大きくなった。

 というのも、前回韓国全土を巡った3年前から、韓国の鉄道網はぐっと充実している。一部区間で在来線を走っていたKTXは、高速専用線がほぼ全線開業。金浦空港発で暫定開業していた空港鉄道も念願のソウル駅乗り入れを果たしたし、民間企業が運営する新交通や地下鉄が次々開業している。

 そういうわけで、GWの4連休に1日の代休をつけて5日間の休みを作り、例によって「ビートル&KRパス」5日間用を駆使した旅に出ることにした。旅の相棒は、前回の釜山と同じく職場の同僚こんちゃんである。

 旅が決まれば、後は予約だ。希望するビートルの便は1ヶ月前の時点で埋まっていたけど、円安や韓国の政情不安定からか、どんどん空いていった。ホテルは4泊のうち、2泊は高級、2泊はチープにとメリハリを付けてみた。高級といっても5千円程度なのだから、韓国旅行、まだまだ安い。

 5月1日の仕事も無事に終え、準備万端、旅の態勢を整えた。


釜山駅の鉄道カフェに憩う


▲ガランとした博多港国際ターミナル


▲快晴の中、釜山までの船旅がスタート



▲乗客は釜山の街並みにくぎ付け

 いつもの出勤時間よりやや早く、JR久留米駅に集合。まずは博多駅まで、新幹線で北上する。世間では平日。快速列車はぎゅうぎゅうの混雑だと思うが、さすが新幹線はゆとりがある。一人旅だったら快速で我慢したと思うが、二人ならば「日帰り2枚きっぷ」が使えてお得だ。

 博多駅からバスで国際ターミナルに着くと、ビルはいつになくガランとしていた。連休1日前の平日ではあるが、カウンターにはいつでもそれなりに、列が伸びていたものだけど。運航本数自体も、今日は3往復止まりである。

 いつも通り、緊張感ゼロの簡単な出国審査を終え、乗船。2階席を予約したが、船内もガランとしている。乗船にも時間がかからなかったためか、5分ほど早発した。クジラの多発で減速運行する海域があり、遅れを最小限に止めるため、可能な限り早発しているようだ。

 以前のビートルには売店があったのだが、上記の理由で急停船することが増えたことから、なるべく船内を歩かずに済むよう、ワゴン販売に切り替わっている。150円の免税ビールを買い、旅立ちの祝杯。海から見る福岡の街並みが、後方へと流れていく。

 2月にスマホを手にして以来、初めての訪韓でもあるので、今回は各地のWi-fi事情も検証していこうと思う。このビートル船内でもWi-fiサービスが行われており、対馬を過ぎて日本の携帯が圏外になった後でもネットが使えるようになった。まずまず高速で安定しており、便利だ。

 船内のテレビでは、ドコモの広報ビデオが30分くらい流れている。国際ローミングへの対応方法は以前から流れていたが、韓国国内で使える便利アプリについての宣伝は、スマホ時代らしい。日本の電波が通じるうちにDLするように呼びかけている。思えば、ケータイの電源を入れたまま国境を越えられるのも、国際航路ならでは。このビデオ、他の国際航路でも流れているのだろうか。

 山まで、びっしりと高層住宅が立ち並んだ釜山の街並みが近づいてきた。関西から乗り継いできたグループ客なのか、
 「大きな街やね」
 「神戸に来るべき荷物が、こっちに来てるんやろね」
 と感嘆の声を上げる。人口400万を数える大都会の釜山だが、ダイレクトに都心に入る船旅だと、ファーストインプレッションは強烈だ。

 3時間の船旅を終え、これまた緊張感のない入国審査を終えて韓国の地を踏んだ。

 なにはともあれ、まずは両替。100円で1,080ウォンを買えるレートで、1桁を切り落とせば円換算できる計算だ。半年前までの100円=1,300〜1,500ウォン程度という円高は見る影もないが、6年前の100円=720ウォンというレートに比較すればまだまだマシで、1,000ウォンさえ切らなければ御の字とせねばなるまい。ただ韓国内の物価も上昇基調で、今のレートだと日本の方が安いと思えるシーンは多くなった。

 地下鉄中央駅から1駅、釜山駅へ。駅前の食堂街で、釜山名物「テジクッパ」を昼食にした。玄界灘を挟み、豚骨ラーメンに通じる味が名物というのも、毎度面白いと思う。

 釜山駅の切符売り場で、バウチャー券からKRパスへの引き換えを受ける。KRパスが出始めの頃はずいぶん戸惑われたものだが、年々スムーズになってきた。日本人鉄っちゃんの「乗り鉄」的行程の指定券発行も、珍しくなくなったようで、おびただしい数の指定券発行も、驚くこともなく受け付けてくれる。手こずっていたので、
 「あとで他の駅で出してもらうから、いいですよ」
 と言ったけど、すべての券に黙々と取り組んでくれた。

 釜山駅のガラス張りの駅舎は以前と変わらないが、線路をまたぐ巨大なコンコースが出来上がっており、駅の規模は倍になった印象だ。KTXまでは20分ほどの時間があったので、新しいコンコース内にあるカフェ「DEL TREN」で一服。KORAIL(韓国鉄道公社)の運営する「鉄道テーマカフェ」で、天井に鉄道模型が走り回る鉄っちゃん必見のカフェだ。

 鉄道関係の販売もやっていて、TOMIXやKATOの鉄道模型が並んでいる。韓国モノとして新型KTXの模型もあったが、数万円レベルで手が出なかった。韓国初の隔月刊鉄道雑誌も置いてあるとのことで楽しみにしてたが、こちらは残念ながら在庫切れだったようだ。

 4面ガラス張りの店内は開放的なのだが、周囲からの視線が気にならなくはない。こんちゃんは、高校の「説教部屋」を思い出したそうだ。


▲釜山名物のテジクッパで遅い昼食


▲広大な釜山駅の新コンコース。節電のためか照明はOFF


▲天井に汽車が走るカフェ・DEL TREN


新蔚山駅は空港のノリ


▲真新しい高架橋を快走する


▲蔚山駅に到着



▲空港ターミナルのような駅舎

 いよいよ、韓国鉄道の旅である。15時00分発のKTX150列車は、第1世代KTX。下車予定の蔚山(ウルサン)までは20分少々なので、自由席に収まった。全席指定が一般的な韓国で、自由席はあまり根付いておらず、いつも空いているイメージがある。2人旅の時はあえて指定を取らず、広々とした真ん中のボックス席におさまるのを定番にしてきた。

 日本の新幹線自由席と異なるのは時間帯指定があることで、指定時刻の前後1時間の列車に限って発売される。枚数も限定があるようで、ギュウギュウの混雑にはならない。ただ以前は2両だった自由席も1両に減車されており、事情は変わってきているかも。

 ちなみにKRパスを持っていたので、そのまま自由席に乗ったのだが、女性車掌からは「こういう乗り方はダメなんですよ」とのご注意を受けた。釜山駅では、そのまま乗って下さいと案内されたのだが… 蔚山までと言うと、次からは指定券の発給を受けて下さいと言われそのままになったのだが、自由席に乗る時の正式な扱いは、今もって謎である。

 全線開業前のKTXは、釜山の街並みを見ながら少しずつ田舎に抜けて行き、やがて悠々とした川の流れと併走するという趣ある車窓だった。現在の高速新線は、釜山駅発車間もなくトンネルに入り、抜ければ山の中という、いささか面白みに薄れるものにはなっている。高速鉄道らしいといえば、らしい。A市からB市まで、車窓とは関係なしに最速サービスを提供するのが高速鉄道である。

 なんせ、蔚山まで22分である。釜山から蔚山への在来線は単線のローカル線で、都市間交通の主役にはなっていない。メインルートのバスに頼るにしても、釜山北部の老浦(ノポ)まで地下鉄で30分、そこからバスで1時間という道のりである。KTXの高速効果、まざまざだ。

 蔚山市は広域市、日本でいうところの政令指定都市で、人口100万人を数える。現代自動車の本社がある企業城下町でもあり、韓国経済にとっては重要な地位にある街ではあるのだが、鉄道はKTX東大邱(トンデグ)から分岐する大邱線に乗り換える必要があった。実際のところ、ソウルからだとビジネスマンは航空機、それ以外はバスの利用が一般的だったようである。

 それが、KTXは従来の京釜線沿いではなく、東側に迂回し慶州、蔚山を経由することになった。慶州、蔚山は、日本の東海道に相当する「京釜軸」に編入されたのだから、革命的な出来事だったろう。蔚山駅は、在来線の蔚山駅とは別の場所に設けられたのだが、駅名「新蔚山」駅とせず逆に在来線の駅を改称させているあたりからも、期待の大きさがうかがえる。

 その蔚山駅は、山の中だった。ホームからは、100万都市の勢いも工業の街の匂いも感じられない。列車が過ぎ去ってしまうと、ホームからは人影がなくなってしまった。

 駅舎は他のKTX同様に大きく、垂れ幕が掛かり自動車の展示があるコンコースは、空港のようだ。駅舎の外に出ると、より強く空港らしく感じられる。駅舎と並行してバス、タクシーのレーンが走り、横断歩道を渡った先に駐車場がある。しかも市内行きのバスは「リムジンバス」と称するのだから、まるっきり空港である。

 街まで遠い駅ではマイカーも重要なアクセス手段で、駅左手は広大な駐車場になっている。右側は産業団地の用地が広がっているが、今のところ建設事務所以外はすべて空き地だ。空港と違って貨物輸送がない分、苦戦中なのだろうか。いっそ駐車場にしてしまった方が、市民には喜ばれそうな気がする。

 駅前には巨大なクジラのモニュメント。蔚山は捕鯨の街でもあり、海岸にはクジラ博物館もある。以前、タクシーを飛ばして行ってみたら休館日で、再訪を期したことを思い出す。その機会は、あるだろうか。

 街外れのため、列車の発着時間外は人影が少ないのだが、ソウル行きKTXの時間が近づくにつれて、人が集まり始めた。その多くが、スーツ姿のビジネスマンだ。出張帰りの風情で、金浦〜蔚山間の航空機を減便に追いやった勢いを見せつけられた。

 1時間の駅見学を終え、再びKTXに。新線は続き、新慶州駅は高速で通過。こちらも従来の慶州駅とは大きく離れた山の中だが、蔚山と違って空港があったわけでもないので、観光には便利になったことだろう。韓国の古都・慶州には十数年前に行ったきりだが、今度はKTXで訪ねてみたいと思う。

 東大邱を前に、在来線へと「降りる」。ソウル、大田、大邱、釜山の各駅は、従来の在来線の駅と共用になっており、前後は在来線を走行するのだ。KTXが「ほぼ」全線開業と表現したのはこんな事情からだが、大田、大邱の前後では高架方式での新線建設が進んでいる。ソウル側でも江南方面への新線建設が計画されており、完成の暁には一層の輸送力アップが図られることだろう。

 東大邱から先は、すでに開業済みだった「1段階区間」なのだが、この区間上にも「2段階区間」開業と共に新駅が設けられている。金泉亀尾(キムション・グミ)なる駅名は、天安牙山(チョナン・アサン)に続く複合地名の駅名で、駅勢圏の広い高速鉄道らしい。上越新幹線の燕三条を思い出す。

 郊外の駅ではあるのだが、駅前の開発は蔚山より進んできている印象で、数年後には大化けしているかもしれない。今でこそ駅前にビルが立ち並ぶ天安牙山も、開業当初は土埃が舞う駅だったのだから。
 

▲タクシー乗り場やバスストップも空港的


▲巨大なクジラのモニュメント


▲ビジネスマンが待ち構える蔚山駅


歴史ある温泉ホテルでくつろぐ


▲ホームドアも完備の大田地下鉄


▲温泉祭りを前にイルミネーションが輝く



▲超肉厚のサムギョプサルに舌鼓

 KORAILのツインタワーがそびえる、大田着。夕方6時前のコンコースは、ベンチというベンチに人が溢れていた。長距離列車しか発着しない駅なので、通勤客と言うわけではない。ただ京釜線に通勤電車を走らせ、「大田都市鉄道3号線」の役割を担わせる構想もあるとかで、大田駅の通勤時間帯の賑わいは一層増すことになるかもしれない。

 駅前の地下鉄乗り場へ。大田の地下鉄は2006年の開業で、まだまだ新しい。首都圏の交通カードも使え、チャージも自動券売機で問題なくできた。相互利用先ではチャージできる機械が限られているそうで、大助かりだ。券売機は日本語対応で、入金のことを韓国語式で「充填」とせず、日本語式に「チャージ」と表現するのも目新しかった。

 釜山地下鉄3号線に似た、地方都市向けの小型車両に乗り込む。ラッシュアワーではあるけど、無理せずに座ることができた。車内の様子は、とにかく乗客という乗客が一心不乱にスマホに向き合っていて、これは他都市との地下鉄と変わらない。駅ごとにWi-fiスポットがあるようだし、携帯の電波も通じているようだ。

 25分ほど乗って、儒城(ユソン)温泉駅へ。韓国では歴史ある温泉地の一つだが、地下鉄で結ばれ便利になった。乗り換えを嫌う向きには、ソウルからの直行バスも頻繁にある。温泉祭りを控えているらしく、飾り付けが賑やかだ。

 今夜の泊りは、儒城温泉の中でも歴史あるホテルである儒城ホテル。建物はそんなに新しくはなさそうだが、マメに手を入れているようで、中はきれいだ。日本から予約しておいた部屋は、1部屋で11,000円と、日本で同クラスのホテルに泊まることを考えれば安い。ただホテル内の物価は、例えばコーヒー1万ウォンと聞けば、押して図るべしであろう。

 それに比べて温泉は6,000ウォンで、雰囲気もぐっと庶民的。韓国の温泉ホテルは大浴場の入口が別になっていて、宿泊客でも有料なのが一般的だ。その分、日帰り入浴はずっと気軽で、僕も留学生の頃、ここの温泉には入りに来たことがある。部屋の割引券を持っていけば、3,000ウォンになる。

 儒城ホテルの大浴場には露天風呂、それも岩風呂があり、韓国では珍しい部類に入る。湯もかけ流しで、気持ちよかった。

 ホテルの高級レストランで食べる気にはなれず、ほてった体で街中へ。日本食や「夜の店」ばかりで適当な店が見つからず、イルミネーションがきれいな街路公園沿いを延々と歩く。1軒だけ、ほとんど満席の焼肉屋があり、ここしかないだろうと潜り込んだ。

 サムギョプサル1人前1万ウォンという値段にたじろかなくもなかったが、味に間違いなかろうと2人前をオーダー。肉厚のそれは、学生街で食べるような冷凍肉とは似ても似つかぬ代物。うまい。きちんとした炭火の炎が、肉のうま味を倍加させているようだ。

 大満足のお腹をかかえて、フカフカのベッドに倒れこんだ。


▽2日目に続く
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