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4日目【5月6日】
難産の末生まれた夢の国の鉄道

東大門→江南→龍仁→忠武路



野心的な新概念の地下鉄・新盆唐線


▲レジデンスからは南山とNソウルタワーが一望


▲スタイリッシュな改札機が並ぶ新盆唐線・江南駅



▲電飾広告が彩りを添える

 昨年に富川(プチョン)市内へ乗り入れ始めたばかりの7号線に揺られ温水(オンス)駅へ、さらに1号線に乗り継ぎ根城の東大門に戻ったのは7時半。チェックアウトの日だが、13時と遅いチェックアウト時間に救われ、堕ちるように眠った。

 重い頭を抱えて12時に起床。近くのサウナで酔いをさまして、アカスリまで受けてサッパリした。風呂屋でのアカスリは1万ウォン少しと安く、全身ピカピカになる感覚は病みつきになる。韓国旅行の度、1回はやっておきたい。

 昼ごはんを食べにロッテリアに行けば、子連れの家族連れでいっぱい。今日は韓国も「子どもの日」。ご褒美のお出かけの最中なのだろう。日本では弱小ファーストフードのロッテリアだが、韓国では代表ブランド。マクドの追従を許さぬ雰囲気がある。ロングセラーのプルコギバーガーを食らった。

 地下鉄で忠武路(チュンムロ)駅へ移動。Nソウルタワーのある南山の麓に位置し、駅前には高層ビルの映画館がそびえている。忠武路は、映画の街とも呼ばれる。

 今回の旅行の最後の1泊は少し贅沢に、高層ビルのレジデンスを抑えた。レジデンスはキッチンや冷蔵庫を備えた、長期滞在もOKの宿泊施設。韓国らしさはないけれど、プチソウル暮らしの感覚を味わえて好きだ。忠武路レジデンスは、ロフト付きのツインルーム。天井が高くて、気持ちいい。大きな窓からは、南山が一望である。

 絶景を背景にごろごろしたくなるが、時間はもう3時半。あっという間に1日が過ぎてしまいそうなので、行動に移した。3号線で漢江を渡り、2号線で江南(カンナム)へ。動く歩道に乗り、長い乗り換え通路を歩いてたどり着いたのが、新盆唐(シンブンダン)線の乗り場である。

 近年の韓国の新路線は、PFI方式の民間資本で建設されるものが多く、新盆唐線も空港鉄道、9号線に続くソウルの民鉄である。駅間距離が長く、直線で結ばれた高規格路線で、従来のKORAIL盆唐線にほぼ平行しながらも、速達性で勝負している。代わりに加算運賃がかかるという運賃体系も韓国では唯一で、計画中のGTX(首都圏高速度大深度地下鉄)の成否を占う路線とも言えるだろう。

 ホームの手前にはさっそく、追加運賃徴収のための乗り換え改札口がある。自動改札機は他路線で見かけない、スリムでスタイリッシュなタデザインだ。コンコースには電飾広告が上品に輝き、内装材にも投資を惜しまなかったのだろう。、高級感が感じられ、百貨店の1階のような雰囲気だ。

 地下のホームに降りると、ラインカラーの赤帯を締めた電車が待っていた。これまでソウルの地下鉄に赤をラインカラーとする路線がなかったのは意外な感じがするかもしれないが、実は十数年前まで、1号線のソウルメトロ区間(ソウル駅〜清涼里間)で使われていた。当時、国電区間は京仁線、京元線といった線名で案内されていたのだが、乗り入れ先の地下鉄区間も総称して1号線と呼ぶことになり、逆に地下鉄1号線のラインカラーは国電を示す紺に統一されたのである。以来封印されてきた「赤」はソウル地下鉄を代表する色ともいえ、新盆唐線がソウルの地下鉄のリーダーになる!という意思の表れと見るのは、勘ぐりすぎだろうか。

 車内に入れば雰囲気うってかわり、青とオレンジの座席が鮮やかだ。スタンションポールも目新しい。なお他線では認められている自転車の持ち込みは明確に禁止されており、政策に「右に倣え」をしないあたりは、民鉄らしいと言えるかもしれない。

 発車すると、車内のテレビモニタに速度や次駅までの距離が表示された。飛行機ではよく見かけるが、地下鉄でというのは珍しいだろう。駅間ではコンスタントに90kmをマークしており、地下鉄としてはかなり早い方。駅間距離も最長で8kmあり、速達性に主眼を置いた路線である。

 新盆唐線のもう一つの特徴は、高速走行でありながら無人運転を行っていること。乗客は最前部まで近付くことができる。先頭には、運転士の資格を持つ添乗員は乗っているが、なにやらノートパソコンをずっと扱っていて、特に運転らしい操作はやってなかった。運転をしなくていいとはいえ、立ちっぱなしの乗務は、案外重労働かも。

 相対速度180kmのすれちがいは、迫力満点。途中で1ヶ所、トンネルの照明が虹色になる区間があり、先頭から眺めていると幻想的だ。電飾の装飾もあり、退屈な地下での無聊をなぐさめてくれる。

 江南から17.3kmを、16分で走破して終点・亭子(チョンジャ)駅着。従来の盆唐線だと、江南に近い宣陵(ソルルン)駅からでも亭子まで35分かかり、新盆唐線は驚異的な速さといえる。なお、乗り換え改札を通過する際に差し引かれる追加運賃は700ウォン。時間短縮効果を考えれば、安い「急行料金」と思うのだが、現地では高いという反応が多いようだ。

 9号線も従来の地下鉄の概念を打ち破る斬新な路線だったが、新盆唐線はそれ以上に目新しさを感じた。路線のさらなる延伸も計画されており、メトロやKORAILと競合する区間も増えそうである。スピードか運賃か、新たなるライバル競争が繰り広げられそうだ。


▲スタンションポールが並ぶ車内


▲虹色のトンネルを抜ける


▲ホームドアで電車の全貌は見えづらい


難産のエバーラインは地域の足


▲日本の私鉄駅を思い起こさせる梧里駅


▲高架の始発駅・始興は立派な建物


▲自動改札機はどこかずんぐりしている


▲ホームドアがなく開放的なホーム

 亭子から盆唐線に乗り換える。地下区間が続き「地下鉄」と呼べそうな路線だが、全線がKORAILの運営で、○号線という愛称も与えられていない。路線のほとんどがソウル市外を走るため、ソウル市の地下鉄公社の運営では馴染まないというのが理由らしい。3号線や4号線も、路線名は同一ながら市内はソウルメトロ、市外はKORAILと管轄が分かれている。ただ近年では7号線が大きく市外へ路線を延ばしており、逆に盆唐線も都心に乗り入れるようになっている。

 ずっと地下を走る盆唐線だが、以前の終点だった梧里(オリ)駅の前後だけは地上に顔を出す。輸送量にも段差が付くようで、僕の電車も梧里が終点だった。高架2面4線のレイアウトは日本の私鉄駅のようで、駅直結デパートの存在も、その感を強くする。2面4線とはいえ急行運転が行われているわけではなく、スピードでは新盆唐線に大きく水をあけられている。

 後続電車に乗り、始興(シフン)駅で下車。この駅も一時期終着駅だったのだが、昨年さらに南へ延伸されて途中駅になった。盆唐線は最終的に京釜線の水原(スウォン)まで達するようで、京畿道南部からソウル市内への新たなバイパスルートとなる。始興駅前は新線の駅らしく、周辺は開発途上だった。

 始興駅の高架ホームから、韓国最大とも言われるテーマパーク「エバーランド」を結ぶ路線が、龍仁(ヨンイン)軽電鉄(キョンジョンチョル)・通称「エバーライン」である。エバーラインの線路・設備そのものは2年前に完成済みで、試運転や試乗会も行われ開業まで秒読みという段階だった。ところが、運営会社と自治体が対立し、以来2年間も放置されてしまうという事態に。

 韓国初の軽電鉄…日本流に言えば新交通システムになるはずだったエバーラインだが、この間に釜山金海、議政府の2路線が開業。このまま廃止されるのではとの噂もあったが、紆余曲折を乗り越え、つい9日前の4月26日、韓国3路線目の新交通として開業した。

 高架のエバーライン始興駅は立派で、1両の電車が行き交う路線の始発駅とは思えない。改札口には、他線に比べて少しずんぐりした改札機が並ぶ。Tマネーなどの交通カードは使えるが、首都圏統合運賃制度には参加していないため、盆唐線から乗り継ぐ場合は初乗り運賃から別払いになる。同じ駅前に止まっているバスだと乗り継ぎ割引があり、ハンデになりそうである。

 エバーラインは新交通ながら鉄軌道、鉄車輪を採用しており、線路の真ん中にはコイルが敷かれている。大江戸線や七隈線と同じリニアモーター方式で、加減速や登坂性能に優れる。

 1両の丸っこい電車が到着。韓国離れした、日本でも見られないスタイルの電車は、カナダのボンバルディア社の製造である。近年の韓国の鉄道では珍しくホームドアがないが、出入口付近にセンサーを設けて安全を確保している。ホームと電車の段差・隙間はほとんどなく、乗降口も広いのでベビーカーのままでも楽に乗降できる。そして実際に子連れの乗客が多いのも印象的だった。

 車内には金属製のイスが展開しており、室内空間は釜山金海新交通に比べて広め。1両運行ではあるが、通勤時は3分、休日昼間でも6分という高頻度運行で輸送力を確保している。

 空席をかなり残したまま、始興駅を離れた。発車の度に「手すりにお掴まり下さい」との放送が流れるのはダテではなく、ぐっと加速感を感じるほどの加速を見せてくれる。

 エバーラインも、新盆唐線や釜山金海新交通と同様の無人運転なので、前後の車窓は思いのまま。物珍しさから前後には人垣ができていた。子どもは大喜びで、大人も写真を撮る人が多く、開業から日が浅い雰囲気を感じ取れる。釜山金海新交通は2011年の開業から時間が経っていることもあり、前後の車窓に目をやる人はいなかった。

 空いていた電車も、龍仁の市内に近付くにつれて乗客も増え、吊り革がふさがるほどの混雑になった。ソウル方面へアクセスよりは、都市内の気軽な街乗り電車として使われている様子が伺える。このあたり、金海市内の利用が目立った釜山金海新交通に通じるところがある。

 ほとんどが高架区間ではあるが、起伏のある土地なので、ときおり地上レベルを走るのは面白い。線路のアップダウンやカーブも普通鉄道に比べれば格段に多く、リニアモーターカーの性能を遺憾なく発揮していた。

 30分あまりで、終点の前垈(チョンデ)・エバーランド駅に到着。電車の進行方向左手は住宅街で、右手は広大な駐車場。園内にプールやサファリまで擁す一大レジャーランド、エバーランドのものである。高校3年生(1999年)の訪韓時に遊びに来たことがあり、あの時は水原からバスで1時間揺られた。同行者はバスに弱く、苦難の道中だった。

 エバーランドの正門までは距離があり、エバーラインで来た乗客も、マイカー客と同様、シャトルバスに乗り継いで行く。見た限りシャトルバスは頻発しており、エバーラインで訪れても不便はなさそう。韓国でも子どもの日だったこの日、エバーラインに乗って親子連れで訪れた人も多かったようだ。

 ただ龍仁市内の乗客がメインだったのは観察した通りで、電車を乗り継ぎ2時間の道のりとなるソウルからだと、やはりバスやマイカーが主役であろう。ディズニーランドに向かう京葉線の混雑とは、天地の差である。

 復路では、往路に見かけた「市」が気になり、金良場(キムニャンジャン)駅で降りてみた。駅からは川を挟み、延々2駅間に渡って市が展開。農産物から日用品まで、何でも売っている。在来市場の多い韓国ではあるが、ここは常設の市場ではないようである。調べてみれば、古くからの歴史を持つ「五日市」とのこと。この日の電車が混んでいたのは、五日市に行く人が多かったのも理由だったようだ。

 庶民的な市を歩きながら、地域の足として地に足を付けた経営こそが成功の鍵と思えた、エバーラインの沿線散歩だった。



▲イベント塗装車が多く、標準カラー車はごく少ない


▲高層ビル街の中を走る


▲エバーランド駅は、テーマパークの玄関らしい雰囲気も


▲五日市を見下ろし走るエバーライン

意欲的な観光列車と対面


▲闇夜に同化する旧ソウル駅舎


▲1日の疲れを休めるO−Train



▲ビュッフェや多彩な座席など観光列車としては一級品

 来た道を戻り、ソウル市内へ。明洞へ出る頃には8時を回り、すっかり暗くなっていた。夕食はカムジャタン。カムジャとはじゃがいものことだが、主役はごろごろ入った豚のあばら肉である。豚肉に「むさぼりつく」感覚で、上品な食べ方ではないものの、豚をおいしく食べる一つの方法である。黙々と豚の肉片と格闘した。

 乙支路(ウルチロ)から2号線に乗り、市庁(シチョン)で降りて1号線に乗り換え。市庁駅は、2号線ホームや乗り換え通路の壁がレンガ積み調になっており、初訪韓時から変わらぬ雰囲気で なんだかほっとする。近年、新線に対抗するかのように古い地下鉄駅のリニューアルが進んでおり、見違えるように美しくなってきているが、古い地下鉄路線の「泥臭さ」や「高度成長期の産物」的な雰囲気も好きなのだ。ホームドア設置が完了した市庁駅の内装が古いままなのは、あえて残しているのかもしれない。

 ソウル駅で降りて地上に出たが、旧ソウル駅舎は闇に沈んでいた。駅舎としての現役時代には美しくライトアップされており、また見られないかと期待していたのだ。韓国銀行本店や南大門は、ライトアップされていたのだが。電力不足の韓国、鉄道の駅構内の照明も控えめになってきており、旧ソウル駅も節電の流れなのかもしれない。

 旧ソウル駅の新館(何やらややこしいが)はディスカウントストアのロッテマートに生まれ変わっており、10時前だけどまだ開いてるかなとの不安をよそに、大賑わいだった。街中からでも便利なロッテマートは観光客にも大人気で、半分くらいは外国人のようだった。ノリやお菓子は土産屋で買うよりはるかに安く、飾らない土産の買い出しにはオススメである。

 夜の駅を見てみようと、ソウル駅のホームへ。端には、日本の日立製の特急電車が2編成、止まっていた。1本は「韓流観光列車」、そしてもう1本は登場して1月にもならないニューフェイス、中部内陸循環観光列車「O−Train」である。

 O−Trainは多種多様な設備が自慢の観光列車で、トロッコ列車調の「V−Train」と組み合わせて沿線に下車観光ができる、これまでの韓国にはなかったタイプの列車だ。今回の旅行中、列車内ではバンバン宣伝されていて、KORAILとしてもかなり力が入っているようである。1ヶ月で3万人が利用し、週末の予約は至難の業とかだが、是非次回の旅行では乗ってみたい。

 忠武路の冷麺屋でツルッと冷麺をすすり、ライトアップされたNソウルタワーを見ながら韓国最後の夜は更けて行った。


▽5日目に続く
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