▲TOP ▲鉄道ジャーニー

中京圏私鉄めぐり
5日目
中国山地を越える

1日目2日目3日目4日目5日目

目覚めれば山陰・出雲

 岡山到着直前に、一度目が覚めた。岡山で高松行き瀬戸との分割が行われ、その後はロビーコーナーで新見まで駅弁販売してるはず…と寝ぼけながらに頭は回ったものの、眠気には勝てず再び目を閉じた。

 次に起きれば8時、列車は単線の伯備線を坦々と走っていた。まずい、このままでは眠ったまま終点に着いてしまうと、洗面に起き出す。ブルートレインでは1両に2箇所ある洗面台も、サンライズでは1箇所。個室で定員が限られているので、これでも充分ということらしい。洗面台にはハンドソープが備えられているのが嬉しく、きめ細かいサービスだ。

 車内をぐるりと一回りしてみる。岡山や倉敷で降りた人も多かったようで、扉の開いたシングルやシングルツインの部屋が目に付いた。前回、のぞいて見ることができなかった、最高級個室のシングルデラックスや2人用のサンライズツインは扉が閉まっているので、住人がいるのかいないのか、はっきりしない。こればかりはいずれ、大枚を叩いて乗ってみるしかなさそうだ。

 一方、廉価版の「C寝台」的設備としてお馴染み、ノビノビ座席も、半分ほどの「座席」は住人が旅立った後だった。一人分のごろ寝スペースにひざ掛けが付いて、寝台料金不要なのだからお手ごろ。人気は高いようだ。
 これだけバラエティに富んだ設備、高い人気にも関わらず、その他の列車に広まらなかったのを見ると、よほど民間会社JRにとって、夜行は「お荷物」なんだなあと、前回と同じ絶望感を感じる。せいぜいサンライズ2兄弟には、車齢尽きるまで、走り尽くしてもらいたい。

 島根の中心、松江着。大挙して乗客が降りていく。昨年冬の山陰旅行では、松江の街だけ満足に見ることが出来なかったので、よほど降りようかとデッキに何度も足が向きかけたが、サンライズに終点まで付き合うことを選んだ。

 空いた2階の個室にお邪魔して、天井まで回りこんだワイドな窓から、宍道湖の眺めを堪能する。思えば、列車の窓なんて4人で一つ、狭い窓でも2人で1つを共有するのが普通なのに、これだけのワイドな窓を独り占めできるのだから、とんでもなく贅沢なこと。寝台料金が高いだなんて、簡単に言ってはいけないと思う。
 最終コースは、菱川町の田園地帯を抜けて出雲市駅に到着。近代的な高架駅に、都会的な寝台電車はよく似合った。

 さて、出雲市駅での滞在時間は約40分。どこに行けるでもなく、駅前をふらふら歩いていたところ、面白い建物を見つけた。ビックハート出雲なる生涯学習センターで、地形がそのまま建物内まで生きているのが特徴的。
 何より面白かったのが、漢字一文字で表したサイン。レセプションは「催」、トイレは「厠」といった具合に、ピクトグラム化された漢字がサインの役割を担っているのだ。ただ分かりにくいのか、紙で補足説明している箇所もチラホラ。

 難しいと思わせたのが、後から入ったと思われる「ジョブ・ステーション出雲」で、新たなサインを委託する費用もなかったのか、職員手作りと思われる苦肉のサインが作られていた。建物は変わり行くものであり、デザインの一部であるサインも、汎用性のあるものが望ましいのかもしれない。



▲二階から見る宍道湖はまた格別


▲太陽の下やわらかな表情を見せるサンライズ


▲地形を生かしたビックハート出雲


▲デザイナー力作のサインも、経年に合わせて…

超ローカル線は楽しめるポイント満載 ~木次線~

 出雲市駅からは、山陰本線を宍道駅まで逆戻り。車両は、国鉄色のキハ40系だったが、抜本的リニューアルが施された車内はきれいで、気持ちいい。ぱっと見が古くとも、レールバスのような新型車よりは、よほど快適な旅を楽しめる。

 宍道駅では、駅内のキオスクで軽く買出しをして、木次線ホームへ。西日本のローカル線を席巻したキハ120系の初期の投入線区でもある木次線には、鋼製でクロスシートの1次車と、ステンレス製でロングシートの2次車が活躍中だ。
 備後落合行きは両車併結の2両編成で、迷わず後方の鋼製車に向かったら、締切中。四国では2両以上のワンマンが認められていないことから、2両目を締切にして「回送」とすることがよくあるが、ここは中国地方。いぶかしく思いながらも、1両目のロングシートに収まった。2時間40分もの「旅」を楽しむ車両としては、残念だ。

 ロングシートがさらりと埋まる程の乗客を乗せ、発車。地元の人と見受けられる人は少数で、ほとんどは中国山地の山越えを楽しもうという旅行者風情の方々だ。
 宍道駅を出て、いきなり山越えへ。斐伊川を遡上してゆく。ほどなく平坦になった線路は、木次まで河畔の田園地帯を坦々と走った。その先は再び上り坂にかかり、30km制限を受けゆっくりと上る。高性能のキハ120系気動車にしては重い足取りだが、エンジン音にはまだ余裕がありそう。JR西日本のローカル線で実施されている、線路保守合理化のための減速運行というやつだろうか。

 昔ながらの木造駅舎が懐かしい出雲八代を越えれば、下り坂に。亀嵩駅は蕎麦屋がある駅として名高く、列車に乗り降りする人は少ないが、駅の中は蕎麦屋の客でいっぱいだ。僕は降りないが蕎麦は食べたくて、列車への出前を出雲市から電話で頼んでおいた。後ろの出入り口で、おばさん店員から「そば弁当」を受け取る。500円なり。
 ロングシートで蕎麦をすするのはすこし気恥ずかしくもあったが、名物の味に満足。こんな潤いがあるだけで、イマドキのワンマンカーのローカル線もぐっと豊かになる。

 中核駅ともいえる出雲横田駅で、11分停車。ここで後ろの車両を切り離し、折り返し列車に化ける。なるほど、回送扱いにせざるを得なかったわけだ。
 横田駅は立派な寺社風建築。周辺も昔ながらの街並みを売り出しているようで、中国地方ならではの茶色の瓦の家並みが並ぶ。ただ駅前や表通りは広すぎて、どこかちぐはぐな印象を受けたのも確か。ゆっくり裏通りを巡ってみたい、横田の街だった。

 出雲横田駅から先は、1日わずか3往復という超閑散線区だが、趣味人を乗せた列車はあまり空かない。
 出雲坂根駅では、ディーゼル機関車に引かれたトロッコ列車「奥出雲おろち号」が待っていた。ローカル線活性化をはかるべく生まれた、木次線を走る観光列車だ。できればこの列車に乗りたかったのだが、サンライズからの接続は悪く、かなわなかった。広島方面からがメインターゲットで、日帰りも可能なダイヤになっているようだが、サンライズとからめた周遊コースができれば関東方面へのアピールもしやすいと思うのだが。

 坂根駅には木次線名物の「延命水」があり、タヌキの置物の前にこんこんと水が湧き出ている。駅で手にした沿線ガイドには、
 「車で汲みに来ている人がいても、列車の人が優先です」
 と書いてあったものの、トラブルが絶えなかったのか、車の人の水汲みは禁止になっていた。お陰で、手持ちのペットボトルにゆっくりと満たすことができ、先々、喉を潤してくれることになる。

 出雲坂根駅を列車は逆向きに出発、3段スイッチバックにかかった。一気に高度を稼ぎ、再び折り返し。分岐器付近は屋根で覆われていたが、雪から守るためだろうか。
 はるか眼下に坂根駅を望み、さらに勾配を上っていく。右側の景色が抜けると現れるのが、奥出雲おろちループ。沿線道路の未整備を理由に延命されてきた木次線の命運を左右する国道だが、それを観光資源にトロッコを走らせ、普通列車も徐行するのだから、物は生かしようだ。

 上り下りを繰り返していたが、国道の「分水嶺」の看板に、ようやく中国山地を越えたことを知る。山の中をあと一歩、駆け抜ければ、ターミナル駅の備後落合だ。



▲車内に出前!名物の亀嵩そば


▲出雲坂根で「おろち」号と出会う



▲タヌキが見守る延命水


▲ライバル、ループ橋を見下ろす

都市圏電車的列車に変身 ~芸備線「快速みよしライナー」~

 備後落合。3方向から線路が集うターミナル駅だけに名前だけはよく知っているし、手持ちの切符にもしっかりと経由地として「備後落合」の字が刻まれている。なんとはなしにジャンクション的なイメージを持ってきただけに、現実に立った駅とのギャップはすごかった。

 ホームは1本で、駅そのものは無人。単なるローカル駅の風情だ。そして駅前には商店街はおろか、商店の一つもなかった。あるのは、休日で閉局中の簡易郵便局一つ、開いていない食堂一つ、そして飲料の自販機一つ。手に入れられるのは、飲み物だけ。乗り換え時間中に腹ごしらえなんて計画を立てていたら、挫かれそうな駅である。
 仕方ないといえば、仕方がない。この駅を出発する列車は新見方面、宍道方面が1日3本、比較的多い三次方面すら1日7本しかないのだ。乗継ぎ需要があるとはいえ、駅前への経済波及効果など微々たるものなのである。今日こそ旅行者の姿がパラパラと見えるが、こんな日が年中続いているとは思えない。

 やはり1両ワンマンの三次行きでは、なんとかクロスシートを確保。数時間振りの、進行方向に座っての旅である。出発するやいなや、制限速度15kmが連続。あまりにゆっくりした走りになるものだから、乗り慣れない旅行者は前をキョロキョロ見渡しているが、これがこの区間での制限速度なのである。
 もちろん15knまで落とさなければならないほどのカーブではなく、ここも保線の手間を軽減するための意図的なケチケチ減速である。高速輸送手段としての長所を自ら放棄しているようで、嘆かわしい感すら受ける。
 もっともこの区間の場合、3年前には災害で半年運休になった区間でもあり、安全を目視で確認するための徐行でもあるようだ。落石検知装置など、防災設備を全力で整備すれば徐行もいらないのだろうけど、そこまでの投資もできないギリギリ経営のローカル線である。

 1時間少々で三好着。三次~広島間は都市間路線としての性格を帯び、2時間間隔で快速列車も運行されている。かつての急行列車の成れの果てだが、利用しやすいダイヤで悪くはない。車両は2両編成だが、ほとんどがロングシートの通勤仕様なのが残念。山陰で走っている快速用気動車キハ126系あたりを入れてやりたい列車だ。
 さすがに足は早く、主要駅のみ停車でどんどん飛ばす。優等列車格ということで車掌も乗務、それも女性車掌が乗り込み、切符の発行にまめまめしく動く。乗客からは、
 「急行券いらないんですか?」
 との声も聞かれ、つい2年前まで急行が現役だった路線ならでは、だ。

 広島市内の下深川からは各駅に停まり、ICOCAも通用する広島シティネットワークの一翼を担う。三次から混雑していただけに、もはや空席はなく、本来なら快速は駅を飛ばして「遠近旅客分離」したいところだろうが、単線の芸備線では増発余力がなく、遠近の乗客混在も仕方のないところか。
 木次線から芸備線へ、ドラマチックな山越えは、近郊列車の雰囲気を乗せて、大都会・広島にて終わった。

 広島では乗継に時間をとり、新球場をのぞきに行った。駅からは赤いラインに誘導されれば、迷わずに行き着ける。最近の球場には珍しくドームでないのは嬉しく、カープファンというわけではないが一度観戦に来たい球場だ。

 帰路、博多までは混雑する「のぞみ」を避け、こだまで倍の2時間をかけて帰ってみた。僕にとっては新幹線の最高傑作だと思う100系で、しかもグリーン車用の座席を装備した車両だった。全車4列座席化されている100系新幹線だが、元「ウエストひかり」普通車向けとグリーン車向けの座席があり、当然ながら後者の方が断然すわり心地がよい。

 GWというのに「のぞみ」にも空席があったが、「こだま」は輪をかけてガラガラ。席を向かい合わせにして、のんびりと弁当を食べつつ車窓を眺めれば、気分は鈍行列車。「のぞみ」「ひかり」に抜かれるため各駅で停車するが、長い停車時間は不足した燃料(アルコールのこと)を補給するにもちょうどよい。さすがに大阪~博多間を乗るには時間がかかりそうだが、広島程度の距離なら「こだま」も悪くないと思う。
 新岩国では、対面ホームにうわさの「500系こだま」が停車中。今回は時間が合わず乗れなかったものの、指定席はグリーン車そのままらしく、あちらも乗ってみたい「こだま」の一つだ。

 夕暮れの瀬戸内工業地帯を眺めていれば、やがてとっぷりと日が暮れ、関門トンネルを抜け5日振りの九州へ。小倉からは少し区間利用者で賑わったものの、ゆとりを持ったまま博多着。快速電車で久留米へ戻り、長い旅は終わった。



▲3方面が出会う緑深い乗り換え駅・備後落合


▲新球場のデッキからは列車ウオッチングも楽しめる



▲ゆったり分厚い「こだま」の座席


▲新岩国で500系こだまと出会う

▼もくじに戻る








inserted by FC2 system