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中京圏私鉄めぐり
3日目
大井川鉄道ざんまい

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高速道路のニッポン代表 ~東名高速~

 朝、目覚めれば眼下には浜松の町。駅の北側には特徴的な円形バスセンター、そして新幹線の駅の向こう側には、大きな太平洋が広がっていた。浜松祭りでは海辺での大凧揚げもあるとかで、GWの浜松、まだまだ賑わいそうだ。

 今日の目的は一つ、大井川鐵道に乗ること。沼津のお父さんが車でやって来ているので、まずは愛車「黒いカラス号」に乗って東名高速へ。
 九州に住んでいれば、高速道路の元祖であり、日本を代表する高速道路の東名に乗る機会は、そうそうない。東名阪をつなぐ日本の大動脈だけに、なんとはなく3車線の道がずっと続くようなイメージを持っていたが、実際は2車線。静岡県内を見る限り、地元の九州道と同じ、普通の高速道路だった。

 違いといえば、ETCのバーが開くタイミングが遅いことか。ETCレーンで減速するための安全対策なのだが、九州ではこの時点でお目にかかっていなかった。NEXCO西日本は大阪本社だから、せっかちな関西人気質に合わないからですよ!なんて遠来の人には冗談交じりで説明していたが、さて…

 さすがに2車線の大動脈、しかも「高速1000円」初のGWとあって、この時間から渋滞が発生している模様。大井川鐵道の時間は決まっているので気を揉んだが、20kmの渋滞が発生しているのは無関係な静岡~富士間らしく、ひとまず安心。スムーズに天竜川を渡った。

 相良牧之原インターで高速をアウト。何かと話題の富士山静岡空港最寄りのインターで、バイパス道路も整備されつつある。信号機は早くも「空港入口」を名乗っていた。東名阪へは新幹線で便利に行ける静岡県も、九州からはなかなか時間のかかる場所。一気に身近になるだけに、一層交流を深める契機になればなと思う。

 さすがはお茶所だけあり、周りは茶畑だらけ。それも道路沿いの「ここは田んぼか!?」というような土地にも緑の葉が見られ、なかなか面白い風景だ。飛行機を降り立った遠来の人も、いち早く静岡であることを実感するに違いない。

 山から盆地へ、風光明媚な風景を見ながら一気に駆け下りれば、大井川鐵道のターミナル駅・新金谷着。マイカーでSLに乗りに来た人たちで、駐車場はぎっしり満員だった。



▲市内を串刺しにして走る新幹線


▲特徴的な円形バスセンターも上空からならよく分かる


▲早くも「空港入口」を名乗る交差点

ホンモノの汽車旅 ~大井川鐵道・SL急行かわね路~

 下見板が時代を感じさせる、新金谷駅。中をのぞけば、有人の出札窓口。昔のままの駅の姿が好ましい。でも、これだけの人が押し寄せるのに、小さな駅で切符をさばけるのだろうか?
 ご心配なく。SL切符の販売や買い物、出発前の待ち合わせは、駅前に建つ「プラザロコ」の大きなキャパが受け入れてくれる。駅そのものを大きくするのではなく、駅は駅として昔の姿を残す。忠実な保存運転を行う大井川鐵道のこだわりを、まず見たような気がした。

 ホームの上屋も木造で、昔ながら。そして線路には旧型客車に近鉄特急、南海ズームカーなどが停まり、まさに動く鉄道博物館といった趣だ。
 そして金谷方から入ってきたSL列車は、こげ茶色と青色の旧型客車6両を連ねた、昔のままの堂々たる編成だった。最後尾には電機の補機もついているが、この機関車も貴重品に見える。きらびやかな「SLイベント列車」が隆盛の中、あくまで昔の汽車旅にこだわったSL列車である。

 さっそく、天井の高い旧型客車へ。白熱灯が灯るデッキ、夜行列車の旅では重宝したという「頭もたれ」のついた青いボックスシート、センヌキの付いたテーブル…博物館の中でしか見たことがなかった旧型客車が、現役で走っている。奇跡のような光景だ。
 車内は全車禁煙だが、JNRマーク入りの灰皿は残されている。車掌も、もはや死語になった「乗客専務車掌」の腕章を誇らしげに巻いていた。快適できれいな観光列車もいいけど、やはり文化遺産としては大井川に勝るものはないと思う。ちょうど一週間前に、運行開始わずか2日目のピカピカの「SL人吉」に乗ったばかりとあって、両者の違いは際立って感じられた。

 満席の情報だったが、僕らは2人でボックスシートを占有しての旅。汽笛一声、新金谷を離れた。家並みからお茶畑を抜け、やがて大井川沿いに遡上する。SL弁当をつまみつつ、缶入りながら静岡茶を一杯。たまらなくいい気分だ。
 「SL年中定期運行」の大井川鐵道だけに、沿線の人にとっては珍しくもないSL列車のはずなのに、こちらに手を振ってくれる人が多いのは嬉しい。茶畑から、農作業の合間に手を振られると、ああ静岡にいるんだなあという気分にさせられる。川沿いの露天風呂から、裸で手を振られたのはちょっとおかしかった。

 冷房がなく、5月ながらに汗ばむ陽気だったこの日。窓を大きく開け放してのエアクルージングも、現代とあっては珍しい体験だ。トンネルのたびに窓を閉めなければならないというのも、手間はかかるながらも、本の中での知識を実践できる滅多にないこと。ただ石炭も昔のものと違い、吸い込んだからといってすぐ激しく咳き込む…といったものではないそうだ。
 
 車内販売が乗り込んでいるのも嬉しく、昔の急行列車ばりに飲み食いしながらの旅を楽しめる。車掌のハモニカも軽快、拍手が起こる車内の空気は平和そのもの。新型インフルとも核ミサイルとも、無縁の世界だ。

 相変わらず川幅は広いものの、さかのぼるにつれ少しずつ水量が減っていく大井川。カヌーから手を振られれば、間もなく終点、千頭だ。

 


▲天井の高い懐かしの雑型客車


▲壁も床も、ホンモノの木づくり



▲大井川とともに


▲どこでも人気者のSL

迫力のミニ列車 ~大井川鐵道・井川線~

 千頭で接続するのは、通称「ミニ列車」と呼ばれる井川線。線路幅こそ大井川本線と同じだが、もともとダムの建設用に軽便規格で作られた鉄道だけに、車体はナロー鉄道並みの小ささ。しかしさすがはGWで、車両は堂々たる8両編成だ。
 先頭は客車に運転台を付けた「制御客車」で、機関車は最後尾から後押しする。急勾配の渓谷を安全に走行するための知恵で、日本では珍しい部類に入る。そもそも客車列車が定期運行しているということ自体、稀有な部類になってきた。

 列車はすでに満席近く、リベットだらけの車体もレトロな小型車量・スハフ4に押し込められた。編成の中でもいっそう小型の車両でロングシートながら、天井はなく車体の骨組みが丸見えの、秘境に向かう雰囲気は満点の車両。なんと昭和28年製というから、もう50年以上を走り続けるベテランなのだ。

 千頭を発車した列車は、しばらく千頭の家並みの中を走る。このスハフ4は2軸車で、遊園地の豆汽車のような乗り心地と相まって、車窓とのギャップが楽しい。カーブの激しさはさすが軽便規格で、車輪の軋む音が絶え間なく響く。
 1駅目の川根両国駅ではさっそくホームをはみ出し、下車する人は砂利の中へ降りていく。バリアフリーとも近代化とも無縁ながら、駅員さんという人の手は手厚い路線だ。

 街を抜ければ、車窓の友は再び大井川。ところどころで渡る橋の上では、川面をなでてきた風が爽快である。思えば、堂々と窓を開けられる列車というのも、今や珍しい存在である。
 川根駅は、ホーム1本の交換駅。と書くと簡素な駅に見えるが、屋根があり駅舎も立派、温泉へのバスも通じるターミナル駅だった。いや、大きな電車の走る路線であれば簡素な駅に見える程度の規模の駅で、スケール感が次第に狂ってくる。降りる人も多い一方で、観光バスからの乗り換えか乗り込んでくる人も多く、車内は空かない。

 アプトいちしろ駅からは、井川線のハイライト・アプト式区間に入る。ダム建設の影響で線路を付け替えた区間で、最大90‰の勾配をクリアするために歯車をかみ合わせ坂を登る「アプト式鉄道」を復活させた。非電化の井川線もこの間だけは電化されており、(相対的にだが)図体のでかい電機機関車が、がっちり重連で後押しする。
 井川線の列車にはトイレがないため、トイレが近い人や飲兵衛にとっては貴重なトイレタイム。スモーカーにとっても一服の時間で、汽笛が鳴れば車内に戻る合図。「日本一の旅」の始まりだ。

 90‰、パーセントに直せば9%で、高速道路なんかではザラにある勾配だ。しかし列車で真横の車窓を眺めてみれば相当な急勾配で、車窓が斜めに傾いた。車窓に映るのは井川ダム。オートキャンパーたちが、ミニ列車の乗客に目一杯手を振っている。

 長島ダム駅ではアプト式機関車を開放し、再びディーゼル機関車の旅へ。ダムの上に上がれば、湖の上を渡って、奥大井湖上駅。あたかも湖の上に浮かんでいるかのような、半島上にある駅だ。周辺散策するためだけに設けられた、観光駅である。本数も限られるだけに下車は難しいのだが、思いのほか多くの人が乗り降りした。全線走破に拘らないむきは、ここを目的地としているのかもしれない。

 新線区間が終わる接阻峡温泉駅では、大勢の乗客が下車。それも交換駅の到着していない線路に向かってぞろぞろ降りるという、およそ現代の鉄道風景らしくない光景が広がった。いいじゃないか、すべてが近代的で規則がらめになってもつまらないし。そう語っているかのような光景だった。

 尾盛、閑蔵と「秘境駅」にこまめに停車し、終点の井川着。はるばる1時間50分の旅だった。



▲豆汽車のような井川線列車の車内


▲がっちりアプト式機関車を連結!



▲急勾配の傾きが肉眼で分かる


▲線路上に下車する観光客

近鉄特急でたどる夕暮れの大井川 ~井川線・大井川本線~

 井川駅は、ダムの目の前にある山中の駅。行政区域上は広大な静岡市葵区に属しており、浜松市と同様、奥深い市である。ひんやり涼しく、夏は別天地ではなかろうか。
 駅付近には井川ダムが威容を誇り、観光客相手の商店が1軒店を開けているのみ。木造の懐かしい雰囲気の駅舎にはストーブの火が揺れていて、なんだかほっとした。

 帰路の列車は空いていたので、ボギー車のボックスシートに納まった。国鉄型の近郊電車を思い起こさせるシートだったが、固い2軸車のロングシートに座ってきた身には、グリーン車のシートに座ったかのような座り心地だった。

 再び1時間50分かけて千頭へ。秘境を往復してきた身には大都会のように写ったが、まだ5時半だというのに店という店が閉まっている。駅に併設された資料館も、固く扉を閉ざしていた。ここもまだまだ、山間部なのだ。

 空いたお腹を飲み物でごまかしつつ、金谷方面の普通電車へ。SL列車で有名な大井川鐵道だが、一般の普通電車も大手私鉄の中古車で運用されており、塗装もそのままで「動く電車博物館」のようだ。
 僕らの乗る電車は、元近鉄の特急電車16000系。3編成が在籍し、元特急型としての居住性の良さから主力として活躍しているとの由。車内はデッキと客室の壁が取り払われ、運賃箱も設置されたワンマン仕様。少々くたびれた感はあるものの、回転式のシートはすわり心地がよく快適だ。

 座席は回転式ではあるものの、少ない乗客に快適に過ごしてもらおうという意味でか、向かい合わせにしてボックスの状態で運用されている。ただ連休中とあって、ボックスはぜんぶ埋まってしまい、1~2人の気付いた人は席を回転させているが、出入り口で立っている人もいたようだ。多客期には、面倒でも回転させておいた方がいいかもしれない。

 夕暮れの大井川を、ゆらりゆらりと下る。観光鉄道かのようなイメージの大井川鉄道だが、途中駅で乗降する地元の利用客も多い。SLで収益を確保しつつ地元の足を守る大鉄に、エールを送りたい。
 車を置いたのは新金谷駅だったが、線路はさらに一駅、JRの金谷駅まで続いている。沼津のお父さんは大昔、この区間には乗ったことがあり、
 「全区間乗りたいんでしょ?乗ってらっしゃいよ」
 との言葉をありがたく頂き、金谷までの全区間走破となった。カーブを描き、段丘へ上がっていく線路は、ラストコースにふさわしい線形だった。

 再び「黒いカラス」号に乗り込み、東名高速を一路東へ。いよいよ渋滞に掴まり、30分ほど牛歩となったが、その他はスムーズだった。
 今日のお泊りは、駿河健康ランド。健康ランドとはいってもホテルを併設しており、広い風呂でのんびりくつろいで そのまま眠れることから、大人気のようだ。レストランは東海道の夜景を眺められ、風呂もひろびろ快適。しかし、我々にとっては更に嬉しい立地でもあり、これはまた明日のお楽しみにしておこう。
 まだまだ風邪は全快しておらず、新しく手に入れた風邪薬をゴクリと飲んで、おやすみなさい。



▲つっかえ棒になって勾配を下るアプト機関車


見た目はそのままの近鉄特急


▲車内も快適な特急仕様



▼4日目に続く








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