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3日目【10月14日】 野崎島→小値賀島→博多→久留米

小値賀ステイと動くバル


飛行機運に恵まれる


▲島と学塾村に朝が来る


▲鹿たちに見送られ



▲小値賀の路地裏を巡る

 夜も開けやらぬ朝6時、寝床を抜け出した。木の廊下をきしませながら静かに玄関を開け、裏のフェンスをくぐって野首教会への石段を登る。眼下に見えるのは今まで寝ていた自然学塾村、その下に広がるのは大海原だ。

 静かな海から、生まれるように朝陽が登ってくる。太陽に照らされ、色付き始めた海と雲、そして芝の草原。早起きの鹿たちが、昨日と変わらず、残り少ない草をはむ。新しい、朝が来た。

 朝ごはんを食べ終わった後は、部屋と台所の掃除を済ませる。研修施設なので、すべてセルフ。転職以来関わってきた子ども達との活動で、「自然の家」的な研修施設の利用には慣れたので、このあたりの段取りはあまり迷わなかった。無事に時間までに整理を終えて、荷物をまとめて出発である。大きな荷物は行きと同様、軽トラが送ってくれた。

 朝陽を浴びてオレンジに染まる教会も、朝陽のオレンジに負けない青い海も、丸1日も過ごせば名残惜しい存在である。林の中からは何匹もの鹿が現れ、短い住民だった僕らを見送ってくれた。峠道を越えれば、野崎集落である。

 野崎港で、24時間ぶりに船を迎えた。休日はまだ1日続くのに、朝早く立ってはもったいない感じだが、8時5分の船に乗らねば福岡にたどり着けないため、致し方なし。

 帰路の船はデッキで過ごした。ひょうたんにも似た姿の島影と、見慣れたレンガの教会が、遠くに離れて行く。

 小値賀に舞い戻ってきた。人口2,500人ののどかな島ではあるのだが、野崎島から帰ってきた身にとっては、とんでもない文明社会に来た気がするといっては大げさか。

 博多行きの船は午後発、まだまだ時間はたっぷりあるので、処女地の島を存分に楽しみたい。島内に路線バスが走っているのは立派だが、天気もいいのでレンタルサイクルを借りた。路地にまで迷い込めるので、機動力抜群。アップダウンは多い島だけど、電動アシスト付きなのでラクラクである。ペダルを漕ぎ出し、出発進行!

 島の集落には町屋形式の民家が並び、時代がかったいい雰囲気。リフォームされ、旅館に生まれ変わった町屋もある。坂道を登った先には、広い駐車場と3階建てのRC造建物という、スケール感の違う一角が突如現れた。そこは島民の生活を支える拠点、町役場だった。

 松林の中を駆け抜けると、さらに急な上り坂にかかる。電動アシストをハイパワーモードに切り替え、軽くペダルを踏み、なるべく力を掛けずに坂を上った。一気にバッテリーを消費してしまったけど、アシスト大活躍である。

 登った頂上は、愛宕山。島々が点々と浮かび、渡し船がミズスマシのように縫う。しばし休息。

 小値賀島には「古民家ステイ」なるブランドの宿泊施設があり、名前だけを聞くと昔風の民宿なのかなと思うのだが、中身は今風に言うと「プレミアム」な路線なのが特徴。離島としてはなかなかな宿泊費がかかるのだが、その分、高級感のある落ち着いた雰囲気を提供している。

 古民家レストラン「藤松」もその路線にあり、お休みだったのは残念だが、のぞきみたら、いい雰囲気だった。しかし驚きなのは、庭の裏手にはプライベート波止場があること。かつての豊かな暮らしが、垣間見えてくる古民家である。喫茶の利用もOKみたいだけど、ゆっくり食事しに来てみたい。

 小値賀空港に向けて、ペダルを進める。空港までのバスはなく、交通が不便なのは道理、定期便は2006年に廃止されてしまったのだそうだ。ただ今年からは週2便の定期チャーター機が復活しており、福岡からの運賃は1万円とのこと。

 チャーター機は土日の運航なので、月曜の今日は空港自体がお休みである。ほぼ休止状態の空港施設だけでも見れればいいなと思っていたが、空港に着くと、ターミナルの出入口が開いていた。あれと思ったまさにその瞬間、一機のセスナ機が滑走路に着陸。たまたま個人の飛行機がやって来たのだ。

 熊本空港からやって来た「飛行機仲間」の3人とのことで、管制塔で役場の人に何やら手続きを取っていた。パイロットさんが機体を見せてくれるというので、ご好意に甘えることに。日頃なかなか見ることのできない小型機の仕組みに、一同、興味津々である。

 コクピットと客席は想像以上に狭く、軽自動車の方がよほど広いのだとか。大の大人が3人も乗れば、ギュウギュウ詰めになりそうである。しかしあの海を眺めながらのフライトは、さぞ気持ちいいことだろう。福岡からのチャーター機の運賃1万円も、経験としては悪くないのかも。

 「ぜひ今後は飛行機で来てください。遊覧飛行と思えば、安いものですよ!」
 と、役場の方からも営業された。


▲愛宕山から箱庭のような島々を俯瞰


▲古民家の楽しみ方も提案してくれる島


▲セスナの仕組みに、一同興味津々


船上で話す、次回の島の話


▲島らしい、お値打ちの定食


▲お祭りの準備が進んでいた



▲見送ってくれる人がいる嬉しさ

 まちなかに戻り、味処「ふるさと」でランチ。スペシャル定食は、千円で海の幸がズラリと並ぶ、お値打ちのメニューだった。昼間からビールもぐいぐいと進む。

 隣の席で盛り上がっていた3人組は、さきほどのセスナおじさんたちだった。ビールを傾けていたのは、この先操縦のないお一人だけ。飛行機も飲酒操縦厳禁だという、当たり前の事実を知ることになった。「即、命に関わる」とのこと。

 ちなみに長崎の離島で飲み食いしたりお土産を買ったりするなら、プレミアム商品券の「ながさきしまとく通貨」がお得だ。プレミアム商品券といえばプレミア10%程度が一般的だが、しまとく通貨はなんと20%!6千円分(売価5千円)から買えるので、一回の旅行でも充分に使い切れる。このお昼ごはんも、2割引きで食べることができた計算だ。

 満腹のお腹をかかえて自転車を返却すれば、お土産を買う時間しか残されていない。島の名産、ピーナッツと、「I AM ISLANDER」のロゴも粋な島オリジナルTシャツを買い込んだ。13時30分、まだ島にいたい気持ちとは裏腹に、無情にも迎えの船がやって来た。

 すっかり顔見知りになってしまったムーンライトフォトグラファーさんは、明日まで小値賀に滞在されるとのこと。島の乗船客のように、見送ってくれる人がいるのはいいことだ。大きく手を振り合い、博多港へ向け出航した。小値賀も野崎島も、遠くに離れて行く。

 さて小値賀から博多港までは、実に5時間以上の長い船旅である。家を出てもう5日目。旅疲れもあるし、ぐーぐー寝て過ごそうかなと思っていたが、眠らせてくれないものがあった。断続的に現れる、離島の数々である。

 まずは、次の寄港地である宇久島。今は、佐世保市の一部である。実は小値賀町も佐世保から合併の申し入れがあっていたのだが、独立独歩の道を選んだ。どちらが賢い選択だったのか、人によって答えはそれぞれだろうが、旅人としては佐世保から2時間以上もかかる離島が「市内」という感覚は、なんとも不思議である。島そのものは坂の上まで家々が続き、賑やかさを感じた。

 出航すると、フェリーを一艘の漁船が追いかけてきた。船長はデッキに向けて大きく手を振っていて、港外に出るとカーブを描いて去って行った。ちょっと派手な、見送りだったようである。

 生月大橋をくぐり、平戸の島々の間を縫うように進んでいく。大規模な風力発電の風車が何機も周り、景観にアクセントを添える。佐賀県まで来れば、「お休み中」の玄海原発の姿も。対局軸にあるエネルギー減が、近距離で隣り合っていた。

 続く唐津の沖合にも7つの離島があり、次々に島影が現れてくる。中学生時代、転任になった美術の先生を訪ねて行った、思い出の小川島の姿もよぎった。なんてエピソードを話していたら、
 「今度、行ってみようか?」
 という流れになってしまうのだから、さすがはアイランダーズである。

 結局5時間の間、アルコールを傾けつつデッキにほとんど立ちっぱなし。オープンエアの、動くバルであった。秋にも関わらず「焼けたね!」と言われるほど黒くなったのは、昨日、今日の空の下で飲んだ故である。

 8月に行ったばかりの能古島の島影も流れ、フィナーレは、玄界灘に沈む夕陽。朝と夕方の太陽に挨拶する日なんて、1年の間にそう何度もない。停泊中の豪華客船に迎えられて、博多港に入港した。

 博多港からは西鉄福岡の方が近いのだが、荷物を博多駅に預けているので、博多駅方面のバスに乗車。博多からはちょうど、1日4本しかない下り「有明」の時間に当たり、回数券を買ってのんびり久留米へと戻った。5日間の長い旅?は、心地よい疲労感とともに無事終演である。


▲漁船がおっかけてくる


▲島は再生可能エネルギーの宝庫


▲夕陽に送られ福岡へ帰る


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