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名鉄・近鉄 全線乗車
4日目
伊勢志摩の近鉄各線を走る

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忍者の里を駆ける電車・伊賀鉄道

 宿場町で目覚めた朝は、前夜の酒も残らず爽やかなものだった。朝日に照らされた街道も、泊まったからこそ見られるもの。その街の表情を知るには、少なくとも1晩は泊まりたいと思う。

 宿に戻れば、宿主の親友さんが、小豆島のそうめんを作っているところ。三重という地で瀬戸内の離島のそうめんという、思わぬ朝ごはんにあずかることになった。しっかりした太めの麺は、だけど冷麦とは微妙に違う食感。そうか、これが小豆島そうめんなのかと合点しかけたが、普通の素麺のような麺と太麺の、2種類があるのだとか。

 今日も行きたいところは沢山あるので、9時に出発。早起きの観光客がぽつぽつ現れ始めており、昼には賑わう宿場町なのかもしれない。ブルトレの宿にも泊まってみたいけど、石垣屋を目当てにまた訪れてしまいそうな街である。その時は、もっとゆっくりと…

 関西本線の、大阪方面の列車に乗り込む。昨日と同じ紺色顔のキハ120系で、十数年前と変わらない車両だけど、トイレが付いたのは変化。朝のお腹の調子があまり良くない僕にとっては、何よりの安心である。

 バスのような軽快な気動車とはいえ、ハイパワーは新世代気動車の身上。蒸気機関車があえぎあえぎ越えたという加太の峠も、なんなくクリアする。途中駅での停車時間は少し長めで、これも「ゆとりダイヤ」なのだろうか。

 伊賀上野駅で下車し、JRのホームの片隅から発車する伊賀鉄道に乗換え。伊賀鉄道は、養老鉄道と同じく、近鉄本体から分離された第三セクター鉄道の一つである。よって近鉄のパスも使えないのだが、独立独歩の道を歩み始めた伊賀線の様子も見たくて、別途払いでの乗車体験である。

 待っていた電車は、ステンレス製の「近鉄離れ」した電車。それもそのはず、東急から移籍してきた車両である。養老鉄道が、近鉄の車両をあえて昔の近鉄色に塗って使っているのとは、対照的である。関西本線との接続はよく、追い立てられるように飛び乗った。

 近鉄時代から変わらないのは、忍者の里・伊賀らしく、忍者電車にラッピングされていること。車体の前後で、ぎらりと睨みをきかせる忍者の顔が、ユーモラスでありちょっと不気味でもある。車内にも石畳(?)がラッピングされ、ドアには駆ける忍者のシルエットが映る。面白いだけではなく、東急時代のオールロングシートから一部がクロスシートに作り変えられ、観光利用にも配慮されていた。

 


▲先に出発するライダーさんを見送る


▲関西本線は、今日も2両編成のキハ120系


▲ギラリと前方を注視する忍者電車

満席の中に滑り込む・阪伊特急

 電車はワンマン運行という名目だが、案内員が乗り込んで切符の販売に当っている。利用の多い列車に「特改」として乗り込んでいるのかなと思ったが、車内放送では案内員が乗っていることが前提の内容だった。車窓左には上野城の雄姿が見えて、歴史の里を走っていることを実感する。

 上野市駅で途中下車。北海道の駅を思い起こさせるような、マンサード屋根の駅舎がレトロだ。駅周辺は市街地ができあがっており、JR関西本線と近鉄大阪線のいずれも街なかを通らなかった旧上野市にとって、伊賀線が頼みの綱だったことが分かる。関ほどではないが、こちらの駅前界隈にも昔ながらの軒が揃った街並みや、擬洋風のビルが見られた。

 上野市から、伊賀神戸行きの区間運転の電車に乗る。この電車も200系の忍者電車だったが、近鉄時代からの電車も何本か残っているようで、養老鉄道と同じくリバイバルカラーを身にまとっていた。

 上野の市街地ではカーブが多く、車輪をきしませ家並みの中をすり抜けていく。市街地を脱っした市部駅では、無料のパークアンドライド駐車場という、自治体の新しい取組みも見られていた。伊賀鉄道の車両や設備更新にも、伊賀市の合併特例債が投じられており、半官半民で支える地域の足なのだ。

 丸山駅を出たところで、伊賀神戸まで3駅を残しているのだが、乗車券を回収された。乗客の数に応じて早めの回収を行ったのかなと思ったが、テープの車内放送でも回収を行う旨放送されており、マニュアル通りの作業のようである。

 伊賀神戸駅は、近鉄とは別会社になったことを象徴するように、近鉄線との間に中間改札が設けられていた。朝限定で、定期専用の連絡改札口が開くようではある。

 窓口で特急券を買い、4両編成の宇治山田行き特急に乗り込んだ。丸顔のACEで、若干固めのシートだが至極快適。ほぼ満席に近く、伊賀神戸で降りた人の席をたまたま抑えられただけのようだ。近鉄特急は遠方からでもネットで予約できるので、混雑期には事前に席を押さえておきたい。

 青山峠を越えて、名古屋方面との乗り継ぎ駅・伊勢中川駅で2/3近くの人が下車した。もちろん大阪から名古屋方面への直通特急は多く走っているのだが、あぶれた人たちが伊勢方面の席も埋めたのかもしれない。

 40分の快適な時間はあっという間で、伊勢市で下車する。



▲レトロな面構えの上野市駅


▲忍者電車の床には石畳が


▲快適な時間を約束してくれる特急電車

伊勢神宮を歩く

 せっかくお昼時に伊勢に来たのだから、まずは伊勢うどんを食してみなくてはなるまい。駅前通りにはアーケードがなく、じりじりと夏の盛りの日差しを肌に受けながら、汗をかきつつ歩く。わき道の食堂に目当ての舌代を見つけ、迷わず飛び込んだ。

 出てきたそれは、太めのやわらかい麺に、濃い目のダシをかけた、他のどの地方でも見られない食べ方。我らが筑後うどんもやわらかな麺が持ち味だが、あれとて「コシのある麺」と表現できそうな食感だ。毎日食べたい味ではないけど、また伊勢に来ることがあればその証として食べたい。

 近鉄電車乗りつぶしの旅とはいえ、ここまで来たからには伊勢神宮への参拝も外せまい。外宮(げぐう)は、駅駅から徒歩圏内である。というか、鉄道が伊勢神宮を目指して延びてきたというのが正確だろう。

 深い木立に囲まれた境内は、どことなく背筋がしゃんとするような空気に包まれていた。パワースポットなんて今風の言葉が軽々しく思えるほどだ。正宮の横には、平成25年に迫った次の遷宮に向けて、すでに準備が始まっていた。千年以上に渡って脈々と受け継がれてきたしきたりの現場が、今目の前にある。

 木立の中を歩いたとはいえ汗でぐっしょりになった身を、内宮(ないくう)行きの満員バスに預ける。さすがはお盆で車はなかなか進まず、立ちんぼうの身には辛い。とはいえ駅も遠いこの場所では逃げ場もなく、じっと耐えるのみである。

 内宮はさらに輪をかけた人出があり、しかも外宮とちがって日陰がない場所も多いものだから、背中に背負ったリュックも汗でじっとりとしてきた。それでも、周囲の自然と一体になったゆるやかな雰囲気は、作られただけではない癒しの空間だった。

 内宮から駅までのバスは10分間隔で出ており、宇治山田駅から1駅下った近鉄の五十鈴川駅で下車。バスが着いた時間は電車の出発数分前で、息を切らしながら高架のホームに上がったが、電車は遅れていて余裕で間に合うことができた。

 華やかな特急電車が行き交う鳥羽、賢島方面の近鉄線だが、普通電車は2両編成のワンマン運行。それでも小駅を目指す観光客の姿も多く、単なるローカル電車とは違った華やぎがあった。鳥羽に近付くと、夏の日差しに輝く鳥羽湾が出迎えてくれた。

 


▲遷宮を待つ


▲大賑わいの内宮


▲ローカル電車は前後2両の短編成

鳥羽・志摩を歩く

 鳥羽駅を一駅越えて、中之郷駅で下車。鳥羽水族館や伊勢湾フェリー乗り場に近く、観光地への玄関ともいえる駅だが、ホームはぎりぎり2両編成分。それでも橋上駅舎はこぎれいで駅員もおり、それなりの体裁は整えていた。

 さすがはお盆で、鳥羽水族館はファミリーでいっぱい。一時は廃止が取り沙汰されていた伊勢湾フェリーの乗り場にも活況があった。真珠島や観光船など、鳥羽駅までの間には観光施設が目白押しで華やかな雰囲気。よほど遊覧船に乗ってみようかと食指が動いたが、一人旅ではいささかさみしい。肌を焼く暑さの中、おだやかな鳥羽湾の風景を眺めつつ、ゆったりと散歩を楽しんだ。

 リアス式海岸の美しい風景は、大地震の際には津波の危険と隣り合わせであることも意味する。過去にも津波に襲われている地域であり、道路には「津波ひなん場所」の看板も見られた。3.11が他人事ではない地域の一つであろうと思う。

 鳥羽港の施設の一つ、鳥羽マリンターミナルまで出てきた。薄く柔らかい板を折り重ねたような柔らかいデザインで、地盤面から屋上へのゆるやかなスロープは緑化されている。眺めの良い2階の待合室では、暑さにたまりかねて生ビールを頼む人がたえず、僕も思わずつられてしまった。青い海と空を見ながら、ほどよく効いた空調の中で一杯。たまらない。

 1時間弱の鳥羽散歩を終え、2両の普通電車で賢島へ。半島の突端へ向かう電車だが、沿線にはほどほどに民家が張り付いており、普通電車の利用者も少ないわけではない。カーブが多く、長編成の特急列車は本線での快速性能を殺し、身をくねらせて抜けていく。2両の普通電車の方が、軽快に走れるように見えた。

 頭端式のどんづまり式のターミナル駅、賢島に到着した。駅付近は、近鉄系のリゾート施設の他にあるのはホテルや旅館くらいなもので、遊覧船にでも乗らなければ行き場はない。汗だくになったので温泉でも浴びれればと思ったが、駅から近い場所は日帰り入浴を受けてくれないところばかりのようで、行き先も決めずにフラリと訪れた旅人は行き場にちょっと困る。

 高台に立つ志摩観光ホテルまで行けば、リアス式海岸の眺めを楽しめるかなと思い坂道を登ってみたが、宿泊者以外が気軽に立ち入れる雰囲気でもない。なんだかなあ…と腐りつつ歩いていたら、湾をまたぐ賢島大橋に出た。静かな湾に点々と浮かぶ養殖いかだ、少し傾き始めた太陽、そして海沿いをことことと走る2両の普通電車。ようやく、志摩の地に来た実感が湧いた。

 


▲リゾートホテル立ち並ぶ鳥羽湾


▲ガラス張りのフェリーターミナルは憩いの場


▲橋の上から見下ろした湾の風景

乗った時からそこはリゾート

 普通電車で鳥羽へ戻れば、インターネットで予約していた特急電車まで1時間。せっかく海辺の街まで来たのだからと、食堂の固まっている通りを何度も吟味して、刺身定食を出す店に飛び込んだ。やはりファミリーが多く少し場違いな感じもしたのだが、海の幸に舌鼓を打てば、腐った気分もどこへやら。目から口から、海の恵みを堪能した志摩半島でのひとときだった。

 鳥羽への観光客は関西からの人が多いようで、賑やかな関西弁が耳につく。伊勢にしても、近鉄のフリーきっぷとクーポンがセットになった「まわりゃんせ」を手にした人が多く、関西にとって身近でメジャーな、不動の観光地であることが分かる。ただお店の人も、挨拶は「おおきに」で、三重弁は関西弁に近いのだろうか。

 大阪へは、「アーバンライナー」「さくらライナー」に並ぶ近鉄の看板特急「伊勢志摩ライナー」に乗り込んだ。関の飲み屋のおっちゃんも推薦のこの電車に乗りたいがために、少し遅めの夜19時15分の特急にした。日帰り観光の帰りの時間帯にあたる列車だが、お盆の連休中でもあるので、乗る人はごく少ないようだ。

 僕は、3列座席のゆったりしたデラックスカーを予約した。追加料金は500円なのだから、JRのグリーン車に比べればだいぶ割安である。汗でぐっしょりの体で乗っていいものかと思うが、空間にゆとりがあるので、隣の人に迷惑をかけるということもなさそうである。

 伊勢志摩ライナーは観光特急らしく、車内は華やかな色彩で、伊勢志摩行きならリゾート気分も盛り上がること請け合いだろう。グループ客用の「サロンカー」は、大きな窓が付いたボックスシート。横3列とゆったりした配置で、テーブルも大きく、さっそく家族連れが弁当を広げていた。これで一般席と同じ料金なのだから人気も当然で、空席が目立つ中この車両だけは満員近かった。

 運転席の後ろにはパイプチェアのある展望スペースや、休業中ながら軽食カウンターの「シーサイドカフェ」なんて設備があるのも、リゾート列車ならでは。これらのフリースペースは、出入口のデッキの空間を利用しているのが一大特徴で、シーサイドカフェにいたらドアがいきなり開いたものだから面食らった。乗降客のいない時にはデッドスペースになりがちな、全車指定席列車のデッキの有効利用といえそうだ。

 こまめに停車することもあって、途中駅から一般の特急と区別なく利用する人も多い。車内販売もなく、雰囲気とは裏腹にビジネスライクな空気も漂わせつつ、闇の中をひた走る。途中、先行列車の遅れとかで、榊原温泉口着は3分遅れたが、車内放送でいちいち謝罪しないのは逆に好感が持てた。

 ビル街の明かりがきらめき始めれば、大阪の街である。終着・上本町駅は、名古屋線・難波線の地下ホームとは異なる、壮大な頭端式地上ホームが終着地である。

 さて今日の宿は、西長堀にあるゲストハウス。大阪の地下鉄といえば頻発運行のイメージがあるのだが、なかなかやってこない千日前線の電車にイライラ。駅からも若干の距離があり、宿にたどり着いたのは10時前だった。

 デザイナーズ・ゲストハウスともいうべき、古いビルをリノベーションしたおしゃれなゲストハウス。バーカウンターで瓶ビールを頂き、ふかふかのベッドに倒れこめば、あっという間に夢の中だった。

 


▲ゆったりしたシートが招くスーパーシート


▲シーサイドカフェはデッキと一体


▲デザイナーズ・ゲストハウス

▼5日目に続く








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