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名鉄・近鉄 全線乗車
5日目
関西の近鉄各線を走る

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より華やかに、よりあでやかに・さくらライナー

 お洒落なカフェスペースで、アメリカンブレックファストを食べて、最後の1日がスタート。西長堀から、今日は長堀鶴見緑地線に乗り込んだ。コンパクトな車体が特徴の、リニア地下鉄のパイオニアだった路線だが、全国各地で走り始めて物珍しさは薄くなった。一方、気合が入っている各駅のデザインは今もって色あせず、荘厳な発車メロディも健在だ。

 谷町6丁目で、谷町線に乗り継ぎ。名古屋の地下鉄では、照明を間引い節電していたが、大阪の地下鉄ではそのような取組みは見られない。まだ中部電力エリアに比べれば、余力があるのだろうか。

 天王寺からは、まず南大阪線に乗り込む。昨日まで乗った、新幹線と同じレール幅の大阪線系統とは異なり、こちら南大阪線系統は、JRと同じ狭軌線。走る電車は大阪線と同じデザインで「近鉄」ブランドを醸成しているが、吉野という観光地を抱えるだけに、オリジナリティある特急も走っている。それが、これから乗る「さくらライナー」だ。さくらライナーには4年前にも乗ったことがあるのだが、デビュー20周年を迎えた今年の春に大規模なリニューアルが行われたとかで、どのような姿に生まれ変わったか楽しみだった。

 まずは外観。以前は黄緑色のグラデーションをまとっていたが、ピンク色に化粧直しして、より「さくら」のイメージが強くなった。車体そのものはもちろん変わっていないが、優美な曲線を描いたフロントデザインは、今もって新鮮だ。

 外観以上に大きく変わったのが内装で、床や壁など要所要所に木目を使い、やさしい雰囲気に。以前からさくら色だった普通車の座席は、より濃い目の桜色になり、華やかさが増した。前後のデッキには、ベンチを配した展望スペースも設けられている。

 南大阪線にはなかったDXシートも、今回初登場。3列のシートは、アーバンライナーや伊勢志摩ライナーと異なり、完全に独立したシートになった。アーバンライナーnextでは「今後のPC機器の発展を考えれば、要らなくなるかもしれない」として見送られていた座席コンセントも、時流に合わせて設置されている。このあたりの設備は、観光特急のさくらライナーよりも、ビジネスマンの多いアーバンライナーにこそお似合いだと思うが、多分に実験的要素を盛り込んでいるのかもしれない。

 2両編成が多い吉野特急にあって4両と余裕がある編成からか、空席が目立ったまま、定刻に阿部野橋を離れた。乗客は家族連れや、BBQ道具一式を持ち込んだ若者グループなど、華やいだレジャー特急の雰囲気である。こうなると、一番求められてい車両はサロンカーなのかもしれないが、4両編成とあっては難しいそうだ。

 高い高架から雑然とした街並みを見下ろす車窓は好きで、快適な車内と相まっていつまでも乗っていたくなるのだが、今回は「乗り試し」ということで、30分弱の尺土で降りなければならない。また乗ってやるぞ!

 


▲優美なフロントラインが吉野へ誘う


▲3列の独立シートが一大特徴のDXシート


▲普通車も、強めの桜色が主張

支線を巡る・御所線、天理線

 尺土から分岐する、近鉄御所線に乗換え。2両編成の都市型ワンマン電車が行き来する、支線らしい支線のひとつだ。バスを介して近鉄葛城山ロープウェイに接続する路線であり、正月には終夜運転も行われるとのことだが、夏のありふれた1日とあって、生活路線の色が濃い。

 田園風景を見ながら走ることわずか9分で、御所着。ロープウェイは週末パスで半額になるとかだが、時間もないので駅周辺を一巡り。和歌山線の駅もあり、両駅の周辺に古くからの市街地を形成していた。古びたアーケードには車が行き交うが、開いている店は少なく、静か。家並みは立派な旧家が多く、賑わった昔の姿が想像できた。

 尺土に戻り、急行で橿原神宮前へ。南大阪線と橿原線が接するターミナル駅で、電車が着くと相互に乗換える客で賑わう。改札内に滞留する時間も長いので、駅ナカ店舗も充実。奈良県第二の都市の玄関口ということもあり、都会の匂いがする駅だ。

 橿原線を上り、平端で乗り継いだのは、次の未乗路線・天理線。近鉄お得意の路線を越えた直通運転は橿原線系統でも行われており、天理行きも京都から直通の急行電車である。6両と長く、座席もほどほどに埋まっている。

 天理市・人口7万人。玄関口の天理駅はJRと接し、「天理総合駅」の呼称も見られた。その規模たるや、大ターミナルを彷彿させる。4面3線で、線路両側にあるホームは乗降で分けられており、幅もゆったり。今日こそ人影は少ないが、天理教の信者が押し寄せる日には、スムーズな改札に一役買うのであろう。高架のJR駅には入らなかったが、こちらもホームは相当に長いように見えた。

 駅前広場ものびのびと広く、ごみも少なくきれい。まだ12時前ではあったけど、ちょうどお好み焼きや産の看板を見つけて、関西最後のメシに食べておく。

 折り返しの急行は、京都方面への直通で6両と長い。平端で下り急行に乗換え、来た道を戻る。乗換え時間はタイトで、後ろの車両にいたらアウトのようだ。天理で「乗換えのお客様は前へ」と促されていたが、なるほどこういうことだったのか。



▲アーケードの中をJRの電車が走る御所


▲幅の広いホームが並ぶ天理駅


▲天理駅は駅前も広い

離れ小島の田原本線

 田原本からは、ちょっと異色の路線、田原本線に乗り換える。ちなみに「たわらほんせん」ではなく「たわらもとせん」である。

 始発駅の西田原駅から珍しく、本線格の橿原線にある田原本駅とは離れ、駅前広場を挟んで独立した駅舎を構えており、名前も別名になっている。橿原線も上下線で別々の駅舎を構え、最低でも3人の駅員が必要ということになり、ちょっと非効率でもあるようだ。

 田原本駅から西田原駅までの約3分の道のりは、屋根が掛けられ雨に濡れる心配はない。地元が気合いを入れて整備したようで、駅前広場もきれいだ。駅前広場に面して古い家が並び、広場ができる前にはこうした住宅が並んでいたものと想像する。古いたたずまいを生かし、店舗を営んでいる家もあった。

 新王寺行きは、例によってワンマンの3両編成。ぱらりと座席を埋めて、夏の線路へと踏み出す。すぐに橿原線との連絡線も見えたが、西田原駅から折り返してくる方向の配線になっており、「統合駅」にするのは困難なようだ。

 新王寺まではわずか21分。この駅も独立しており、接続する生駒線の王寺駅は別駅になる。つまり田原本線は、路線図上では他の路線からまったく独立した離れ小島の路線ということになる。こんな路線、日本でも唯一ではなかろうか。

 生駒線の王寺駅は、JR王寺駅の入口を挟んだ反対側にひっそりと佇む。JR王寺駅は大阪への直通電車も走り、駅の構えも近鉄とは比べ物にならないほど立派。JRの駅は橋上駅になっており、駅舎改築を行う時、離れた近鉄の駅も線路をつなげられたのではないかと、よく事情を知らないよそ者は思う。

 生駒線の電車は4両と長めだが、なんとワンマン運行。安全対策は大丈夫なのだろうか。山深い街・生駒に向かう電車らしく、軽く峠を超える。緑は大都市近郊とは思えないほど深く、平地は少なくて生活は大変かもしれないけど、恵まれた環境に写った。

 奈良線、東大阪線と接続する賑やかなターミナル、生駒着。そして500km以上に渡ってネットワークする大私鉄、近鉄も全線を走り抜けた。海に山に大都市に、路線ごとの個性は様々。いくつもの私鉄をミックスして、JR的な要素もパラリとふりかけたような、ご飯を何杯でも食べられるような大私鉄の旅だった。

 生駒から鶴橋へは、ノンストップの俊足ランナー、快速急行で一気に平野へと下る。大阪平野を一望しながら下町へと下って行く車窓は、何度乗っても飽きない。夏の日差しの中、高層ビル街はかげろうに揺れるようだった。




橿原線の奥に、西田原が見える


▲新王寺から王寺へも徒歩連絡


▲4両ワンマンの電車が静かに待つ王寺駅

関西久留米、ひとっとび

 鶴橋駅からJR大阪環状線への乗り継ぎはスムーズ。乗換え改札口には無数といっていい程の台数の自動改札が並び、ラッシュ時の人の渦が想像できる。私鉄電車ばかり乗ってきた身には、どこか地元の電車にも通じる所があるJRの電車に、違和感がなく懐かしい感慨すら覚えた。首都圏では引退した「オレンジの電車」も、関西ではばりばりの現役だ。

 大阪では時間を取って、話題の大阪ステーションシティを見物。ホーム全体を覆う屋根はヨーロッパ的で、韓国KTXの光明駅も連想させる。人のスケール感からは計れないダイナミックさだ。ただ悪天候時にはホームへの「降り込み」が多いらしく、予定されていたホームの上屋の撤去は見送られている。光明駅の場合、ホーム直角方向にも「下がり壁」が設けられており、大阪駅にも必要だったかもしれない。

 空中エスカレーターに乗り、さらに梅田貨物駅を見ながら汗をかきつつ階段を上がれば、屋上庭園。それも貸農園になっているのがユニークだ。コメも育てられており、今年の秋には「梅田米」が収穫されるのだろう。

 京都駅でも博多駅でもそうだけど、スケールの大きな駅ビルは、小一時間の滞在じゃ全容は掴めない。何度か訪れるうちに、少しずつ分かっていくことになりそうである。

 京都線の電車で新大阪駅へ出て、帰路は九州新幹線直通の「さくら」で一気に久留米へ。開業以来何度も乗った九州新幹線だけど、山陽と直通で利用してみるのは今回が初めてだ。改札口の上のLEDは、ずらりと黄色の「のぞみ」が並ぶ東京方面に対して、九州方面は「さくら」のピンクが華やか。列車名もバラエティに富み、どこか在来線的な雰囲気も漂う。

 僕にとって「青い」N700系新幹線は、九州新幹線のイメージで、大阪で出会うとなんだか違和感がある。それも九州オリジナルの車内放送メロディを奏でるJR九州所属車両なのだから、尚更だ。指定席の4列シートはゆったりしていて、3時間の乗車には充分すぎるゆとりがある。帰省ラッシュの最中とあって満席だけど、ぎっしりと詰め込まれた感もない。

 お弁当にビールを傾けつつ、少しずつ暮れ行く車窓を見ながらいつしか博多へ。車掌とともに、客室乗務員も交代する。客室乗務員の話しぶりはJR九州独特のもので、車両こそそのままながら、JR九州の列車に変身したかのような感覚だ。会社を超えて直通する列車の妙味である。

 夜8時前、久留米着。家まではバスで3分、さらに歩いて10分もかからない。我が家と大阪がここまで近くに結ばれたことを、今日初めて実感したのだった。

 


▲大屋根のスケール感に圧倒される大阪駅


▲屋上菜園は憩いの空間


▲乗換えなしで久留米まで!








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