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南九州に返り咲いた787系

 二日酔いで目覚めた、鹿屋の朝。何食わぬ顔で出勤していく友人の横で、冴えぬ頭を抱えて「友人の友人」の車に乗せてもらい、鹿児島市内まで送ってもらった。桜島も噴煙を上げ、青空に映える煙がきれいではあるのだが、大地震に触発され火山活動も活発になっているのではないかと、不安にもなる。

 桜島フェリーで市内へ渡り、鹿児島中央駅で降ろしてもらう。感謝感謝。

 鹿児島中央駅からは、特急きりしまに乗って、一気に宮崎へ。宮崎・鹿児島のんびりきっぷは、その名前とは裏腹に、鹿児島中央駅以外での途中下車ができない。その間には霧島という一大観光地を抱えているのだし、鹿児島~宮崎間はフリー区間、それが無理なら途中下車自由にしてほしいものである。

 二十四時間ぶりに立った鹿児島中央駅四番ホームに待っていたのは、787系特急型電車。ダイヤ改定前までは「有明」として走っていた、四両編成・個室なしの編成である。側面に貼り付けられていた「ARIAKE」のロゴは、ダイヤ改定前に「INTERCITY AROUND THE KYUSHU」という汎用性のあるものに貼り変わっていた。初期に貼り代えられたものはきれいな仕上がりなのだが、直前にバタバタと作業がすすめられたものは、ARIAKEの文字が透けて見えて、いかにも急ごしらえといった風情。時間をかけて、きれいに直していってもらいたいと思う。

 みずほ603号の接続を受け、十一時四十七分に鹿児島中央駅を発車。右手に桜島を眺めながらの、優雅な旅が続く。ダイヤ改定に合わせて大分~鹿児島間で車内販売が復活したのは嬉しいニュースで、さっそく弁当を買い求めた。お昼時という時間帯もあって、よく声が掛かっていたようだ。また姿を消すことにならないように、乗車の折にはせいぜい利用していきたいものである。

 さて、きりしまにコンバートされた787系電車。中古車両とはいえ、メインルートの看板特急として活躍してきた車両だけに、豪華な仕様である。ダイヤ改定前まで走っていた485系電車に比べれば歴然で、趣味的には貴重な国鉄型ではあったけど、デッキの手動ドアは重く、車内全体に染み付いた長年の「匂い」もあり、料金を頂く列車としては限界にあった。787系は、ゆったりした座席が売りの一つで、快適さでは二ランクは上がったように思う。

 ただ観光客も利用する「きりしま」だけに、個室やボックスシートもつないだ「リレーつばめ」タイプの車両が主に「かもめ」と「きらめき」に回され、南九州に来なかったのは残念である。もっとも一両十人にも満たない乗客とあっては、六両のつばめタイプでは過剰で、致し方ない面もありそうだ。ちなみに混雑時間帯にあたる列車では、定員の多い五両編成のハイパーサルーン(783系)が入る。

 途中ですれ違う「きりしま」も787系ばかり。普通電車も銀色の817系が多く、民営化二十四年を経て、ようやく南九州も底上げが図られたと思う。「きりしま」は国分、霧島神宮までの区間列車が減ったものの、鹿児島中央~宮崎間では二往復の増発という前向きな改善も見られており、利用増につながってほしい。

 明るい高架の宮崎駅着。「ダイヤ改正」の告知ポスターには、新幹線よりも大きく787系の投入が謳われ、宮崎日日新聞への全面広告にも打って出たようである。大分、福岡方面の「にちりん」の一部に入った個室の解説も入っており、こちらの利用も定着してほしい。



▲まさに今、噴煙を上げたばかりの桜島


▲ゆったりシートが並ぶ787系の車内


▲背面テーブルには「ARIAKE」の字が残る


▲宮崎に帰ってきた787系


定着なるか?宮崎への新ルート

 一時間ばかりのインターバルでは、駅から歩いて十分の繁華街、橘通りまで出てみた。ワシントニアパームが立ち並ぶゆったりした大通りは、お気に入りの都市景観の一つ。自転車と歩行者のレーンが明確、明快に区分されているのは優れており、時代を先取りした計画と思う。

 次なるランナーは、JR九州バス他が運行する高速バス「B&Sみやざき」号。800系新幹線とお揃いの塗装に、本家からは消えた「TSUBAME」のロゴを掲げた専用のバスがメインで走っている。新八代で新幹線とリレーして、宮崎と福岡を、陸路最速の三時間八分で結ぶルートである。

 専用バスの外観がJR九州テイストなら、内装もJR九州ならでは。明るいナチュラルカラーの座席に、フローリングの床が目新しい。トイレも備えられているので、新八代まで二時間十分の道のりも安心である。最前列の席にたすき型のシートベルトが付いているのも珍しいが、宮崎交通では路線バスでも最前列にシートベルトが付いており、宮崎県警の考え方なのかもしれない。

 ただ座席が四列になっているのは、残念というか、解せない。福岡行き高速バスは三列シート車ばかりで、四列シートは続行便か、格安便くらいなものだ。新八代までの運賃は四千百五十円と決して安くはなく、他社の格安便ならば、福岡まで乗れておつりが来る値段である。

 平日の昼という、人の動きが少ない時間とはいえ、僕の他には親子連れ一組だけという寂しい姿で、宮崎駅を出発した。大淀川を渡って、ターミナルの宮交シティへ。なんとこちらの乗車はゼロ!これでは高速代も出ないという、なんとも寂しい状態で宮崎道へと入った。新燃岳の降灰が激しい時には通行止めになることがあり、昨日の噴煙を見た後だったので心もとなかったが、スムーズに走った。

 都城から一人、さらに小林からも一人の乗車があったのは意外だが、それでも乗客は総勢五人に留まった。すれ違うバスを見ていても、福岡発に比べて新八代発は三分の一とも四分の一とも言えそうなほど、空いている。割引きっぷを使っても往復一万三千六百円という運賃(バスなら一万円、四列シートなら六千円)は、やはりネックになっているのか。四月十三日からは、福岡行き高速バスの運賃値下げも予定されており、より苦境に立たされる可能性もある。

 鉄道はループ線とスイッチバックで越える宮崎と鹿児島の県境も、高速道路は長大トンネルで貫いて通過。人吉から先も、球磨川沿いを丹念にトレースする鉄道に対し、高速バスは谷から谷へと橋で渡る。宮崎から新八代への新ルートに、JRですら鉄道を選ばなかったのは自明の理である。気動車急行「えびの」が宮崎から熊本、博多を結んだのも、遠い過去の話になってしまった。

 高速道路上ではずっと雨模様だった天気も、西回り自動車道と合流する頃には日が差してきた。高速道路からは新幹線新八代駅の姿も見え、八代インターからは目と鼻の先。この立地があってこそ、実現した高速バスともいえる。定刻通り十七時二十分、新八代駅に到着した。

 新幹線の発車までは二十分あり、やや時間を取り過ぎと感じるが、渋滞で遅れた時のことを考慮した上での時間配分なのだろう。おかげで福岡までの上りの所要時間は三時間二十分と、下りより十分ほど余計にかかってしまう。新幹線を一本乗り逃せば一時間待ちになるだけに難しかろうが、実績を見ながら乗換えの時間を詰めていけたらと思う。



▲歩道が広い宮崎の中心市街地


▲つばめカラーのB&Sみやざき号(写真は1本前の便)


▲フローリングが目新しい車内


▲球磨川ははるか眼下に


日常新幹線

 新八代駅は、三日前までリレーつばめと新幹線が接続していた駅。ホーム対面で在来線と新幹線が接続するという、全国でも例を見ない形態を取っていた駅だった。わずか三分の接続で列車から列車を乗り移るだけだったので、もともと新八代駅自体にターミナル駅の風格は乏しかったが、いよいよ単なる中間駅になってしまった。一時間に二本発着していた新幹線も、一本に減っている。

 そして在来線特急が乗り入れてきていた旧十一番ホームからは、乗車口の案内を含めて一切の表示が消え去ってしまった。博多方の信号機も赤を示したままで、活躍を終えた線路であることを、暗に物語っている。八年に渡る新八代駅の活躍はしかし、全線開通までの立派な「リレー」として、今後も語り継がれていくだろう。

 新八代からのさくらはN700系で、指定席もグリーン席も乗り試したので、五列の自由席に乗ってみた。窮屈な印象がある新幹線の五列座席だが、シートピッチが充分に広いので、狭いという感は受けない。バスの狭い座席に二時間耐えてきた後だけに、なおさらである。

 熊本以南各駅停車の「さくら」は、熊本~博多では新鳥栖のみ停車というのが基本パターン。バスから乗り継いできた時も、目的地が新鳥栖駅以外であれば、熊本でつばめに乗換えなければならない。もちろん久留米も同じで、ちょっと残念だ。せっかく博多発の「のんびりきっぷ」を持っているので、そのまま博多まで乗り続けてみる。初の平日を迎えた新幹線だが、乗る人にも普段着の人が増えた。

 十八時三十三分、博多駅着。ちょうど通勤時間でもあるので、九州新幹線の客層はいかばかりか、ホームで観察してみることにした。

 さくら569号、新大阪から直通の鹿児島中央行き。自由席の乗車位置にはずらりと列ができるものの、出張や旅行帰りといった人が多く、会社帰りといった風情の人は少ない。入れ替わりは多く、二分の停車時間では足りないようにも見える。降りてきた乗客は、
 「前までは終点だったけど、このまま鹿児島まで行くようになったんだな」
 と話していた。行列は長かったが、乗ってしまえば乗車率四割程度で済むことから、新幹線の輸送力を物語る。

 つばめ361号、十八時五十二分発。ずらりとできた行列は、後続の博多南線の列車を待つ人で、つばめ自体は余裕がある。乗降口に近い三号車こそ50%近く乗っているものの、一、二号車はガラガラ。熊本行きの各駅停車だけに、さくらよりもぐっと日常的な利用の方が多かった。木目の美しい800系での通勤は優雅だろうが、まだまだ絶対数は少ない。

 新幹線通勤が本格化するのも、定期券の書き換えが終わる四月以降のことだろう。



▲赤信号が灯るアプローチ線


▲使用停止になった旧11番ホーム


▲さくらを待つのは出張帰りや用務客



▲次発の博多南線を待つ列が長い、つばめホーム

残った残った、有明の姿

 JR博多シティは、相変わらず賑わっていた。九州新幹線の利用者数はこの開業三日間、想定よりかなり少ない数で推移したようだが、博多シティは来店客数、売り上げとも予想を上回るペースが続いている。

 久留米までの帰路は、ちょうど一日に上下七本だけ残った在来線特急有明の時間に当った。在来線の特急に乗る時には、決まって駅周辺の金券ショップで4枚きっぷのバラ売り(久留米まで正規価格一三四〇円が、八〇〇円)を買っていたので、今日も地下街の金券ショップへ。久留米までの4枚きっぷは新ダイヤとともになくなり、「有明2枚きっぷ」に衣替えしたが、変わらず扱ってるだろうと期待したからだ。ところが地下街も、筑紫口ヨドバシ前の金券ショップにも扱いはなかった。一日七本、それも朝と夜だけの特急がターゲットでは、売れないと判断されたようだ。仕方ないので、先々使う機会もあるだろうと、自動券売機で2枚きっぷを買う。

 一九時三六分発・有明三号は、783系「ハイパーサルーン」四両編成を二本連結した、八両編成。有明からは二〇〇〇年に783系が撤退していたので、今回十一年ぶりの復活である。783系では最後尾の区画(783系は中央にドアがあり、一両が二部屋に分かれている)が高床になっており、眺めがよくお気に入りなので、八号車に収まった。ガラガラではあったが、前方の車両はまずまずの乗り具合だったようだ。

 超満員で発車していった快速に、ゆとりある特急が続く。久留米までならば在来線の特急でも充分で、在来線特急の廃止は残念という評もあるのだが、快速が充実したのだから、まだよしとすべきだろう。4枚きっぷでの大幅割引も、特急に快速の役割を持たせていたからで、快速が充実したのだから役割を終えたとも言える。ただ、新幹線の4枚きっぷが出て欲しかったというのも、久留米市民としては正直なところ。特定運賃のおかげで抑えられた料金ではあるが、もう一声、欲しかった。

 二〇時〇六分、久留米着。新しい時代の幕を開けた九州の乗り初めは、混乱の日本とは思えないほど順調で、「通常通り」だった。



▲節電営業中の駅前ヨドバシ


▲有明3号は783系の二編成併結



▲見慣れない長洲行きの方向幕

▼開業1ヶ月目に続く








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