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 開業一週間前には、新幹線沿線はすっかりお祭りムードへと包まれていった。各駅はもちろん、周辺でのイベントの告知も百花繚乱、まるで九州が一つの巨大なお祭り会場にでもなったかのようだった。

 ご当地・久留米も、バス乗り場のリニューアルや駅ビルのオープンなど玄関口としての整備が進み、駅前も見違えるようにきれいになった。市内には「KURUME2011」の青い旗が揺れ、開業の日を迎える準備が整えられた。

 世紀の一大事業の完成は、在福マスコミ各社の注目度も高く、開業日には各局が特番を組む予定…という新聞記事が出るほどだった。特にKBC九州朝日放送では、始発列車を空撮で追いかけつつ二時間ぶち抜きの生放送という、格段の扱い。各局の番組が重複する時間も多く、録画してもらえるよう、友人らの協力を取り付けた。熊本のローカル特番も、熊本の友人に依頼した。

 開業前日は朝からソワソワしっぱなしで、周りから、
 「浮かれてるやろ?」
 などと声を掛けられる始末。地元の新幹線開業という最初で最後の、そしてこれまでの僕の人生で立ち会った中でも最大の鉄道イベントは、もう目前なのである。

 昼間には、明日の開業イベントの練習として、ブルーインパルスの編隊が博多駅の上空を飛び去ったという。今夜は今夜で、新幹線開業前夜の特番もあるし、在来線特急「リレーつばめ」のラストランも控えている。明日に備えて早寝した方がいい気もするけど、新幹線時代の移り変わりもしっかり記録しておきたい。贅沢な悩みにさいなまれた。

 ◇ ◇ ◇

 「震度7!?」
 午後三時頃、隣の課から大声が聞こえた。東北地方で震度7。のぞき込んだ携帯の画面には、平地を飲み込んでいく、この世のものとは思えない大津波の映像が流れていた。これまでに見たこともなければ、想像をも絶する、とんでもない事態がまさに今、起きていた。

 東京の被害も甚大で、関東にいる妹も心配だが、緊急通報が最優先の中で電話するわけにもいかない。ひとまずメールを入れたが、当然のごとく、まったく返事はなかった。

 日本も九州も、もはや新幹線開業どころではなくなった。JRの開業式典も、久留米市の開業イベントも中止との情報が入ってきたが、当然すぎるくらい当然のことと受け止めた。

 退勤後、久留米駅の様子を見に行ってみたが、開業前夜祭は開催一時間にして中止の決定が下されたとのこと。ステージ、受付、花輪…開業式典の準備もすべて整っていたが、使われぬまま既に片づけが始まっていた。

 夜中にようやく、妹からのメール(それも携帯が通じず、友人宅のPCから送ったそうだ)が入ってきて、ひとまずは安心したが、東日本の事態はますます深刻になる一方だった。テレビとパソコンから目を離せず、リレーつばめの最終列車の時間も、気付かぬまま過ぎていった。

 しかし九州新幹線開業を含むダイヤ改定は、予定通り実施されるという。新幹線は、遊園地でのアトラクションなどではない公共交通機関なのだから、祝典の中止と同じくらい、当然のことである。浮かれた気分は完全に消え去り、明日の開業に立ち会っても意味はない気はしたのだが、数十年来の宿願が実る瞬間は、見届けておきたい。そうとなれば早起きにはなるが、とても早寝などできず、深夜までテレビを見続けた。

 

▲出発式の準備はほとんど終わっていた


▲多数の来賓が来る予定だったことが分かる受付


▲改札内に整っていた出発式会場


▲開催1時間で中止となった前夜祭


▲物産市の準備も終わっていた

▼開業日に続く








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