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関東ローカル私鉄めぐり
3日目
渡良瀬の渓谷を乗り、歩き、浴びる

1~2日目3日目

歴史香る「わ鐵」の旅

 6時半に早起きして、早朝の桐生駅へ。さすがは上州の空っ風、刺す様に痛む寒さだ。後から聞いたところによれば、この日の最低気温はマイナス6度だったとか。冬の北海道、東北、あるいは韓国に行くのであれば、それなりの備えをしてくるのだが、冬の北関東がここまで冷え込むとは、思ってもみなかった。震えつつ、駅まで行く。

 今日のターゲットは、ここ桐生と日光市間藤を結ぶ3セク鉄道「わたらせ渓谷鐵道(略称:わ鐵)」。高架下にあるわたらせ渓谷鉄道のアンテナショップが開いていたので、沿線ガイドをいくつか受け取る。これが後々、何かと役立った。1日乗車券1,800円なりは、JRみどりの窓口で販売。カードサイズで、財布にしまえて便利だ。

 高架駅にちょこんと止まるわ鐵の単行ディーゼルカーは、渋いマルーン1色に身をまとっていた。車内はクロスシートでトイレもあり、まずまず快適な旅を楽しめそうだ。早朝の下り列車とあって、乗客は僕を含め3人。定刻、列車はユラユラと駅を離れた。

 しばらくは両毛線上を走り、川を渡ってわ鐵へ。相老で東武とも接続、この列車の終点・大間々まではあっという間の15分だった。駅構内には、今はシーズンオフのトロッコ列車と、旧国鉄のジョイフルトレイン「サロンエクスプレス東京」を譲り受けた「サロン・ド・わたらせ」が留置されていて楽しい。乗れないのは、残念だが。

 ホームは古びていて、昔ながらの青地の看板を掲げた駅舎は、JRよりも国鉄の色を出している。夜にはイルミネーションが光るよう施してあるが、これは大間々に限ったことではなく、各駅とも輝いているようだ。次の列車は50分後。例によって沿線ガイドを取り出し、1時間程度と書かれている散策コースを歩いてみた。

 耳の切れるような寒さの中を駅裏に歩くと、現れたのが渡良瀬川の流れる渓谷。大間々はみどり市の中心部でそれなりの集落があるのに、そのすぐ裏手に渓谷があるとは、奥深い。切り立った岩壁も深い。岩場に沿って遊歩道があるが、トラス橋の「はねたき橋」が塗装改修工事中で通行止めとのことで一回りのコースは取れず、途中で引き返した。

 大間々の街中も、大多喜ほどではないが古い建築物が並んでいる。大間々博物館は、レンガ調のレトロな建物。醤油蔵は立派で、歴史を持ちつつも地域の中心として動いた町のようだ。

 後続列車は2両編成だったが、後部1両を切り離して出発。やはりガラガラだ。あまりの寒さに、レールバスの暖房の効きが悪い。

 次の上神梅駅は、古びた味わいのある木造駅舎。渓谷沿いを走りつつ くぐるトンネルも、レンガ造りで歴史を感じる。最近の わ鐵の話題といえば、これら一連の施設を一体で登録有形文化財に登録したことだ。

 登録有形文化財は、今までの文化財制度よりも「活用」に重きを置いた制度で、補助率は低い代わりに、改造に対する規制はゆるやか。「国の文化財」というお墨付きも得られるとあって、登録件数は増え続けている。路線まるごと文化財というのはユニークで、わ鐵でも沿線の歴史遺産も織り交ぜた文化財マップを作成、PRに努めている。

 


▲国鉄の駅のような大間々駅舎


▲2つのジョイフルトレインが並ぶ


▲街中から至近の渓谷


▲レトロな建物が並ぶ大間々の市街地

渓谷と詩と湯に癒される

 渓谷鉄道の名に恥じず、渡良瀬川の流れはつかず離れず。岩場で商用林としての利用が難しいためか、落葉樹がほとんどで、紅葉の時期はさぞかしと思う。まだ水気を含まない落葉が、列車の通過と共に踊る。

 神戸(こうど)を過ぎ、トンネルを抜ければ鉄橋を渡って、渡良瀬川は左岸に。このあたりまで来ると岩が花崗岩になり、白い岩場となる。通洞駅にはなぜか、貴重品の通勤型気動車・キハ35系が、整備された姿で保存されていた。博物館開設の計画でもあるのだろうか。

 どん詰まりの終着駅・間藤着。駅前に出てみれば、足元には氷、山の頂には雪。さらにきんとした寒さが、どんどん体温を奪っていく。行政区域上は栃木県日光市になり、日光市営バスが市内まで連絡する。せっかくの日光への裏ルート、行きは東武伊勢崎線+わ鐵+市営バス、帰路は東武日光線経由の回遊きっぷなんてできないものだろうか。

 折り返し列車に乗り込み、神戸(こうど)駅で下車。バスで10分の富弘美術館へと向った。土日であれば、ほとんどの列車にバスが接続しており、旧村部のバスとしては立派すぎるほど立派なダイヤだ。3連休というのに乗客が2人では、心もとない気もしたが。

 富弘美術館は、事故で手足の自由を奪われながらも、口に筆を加え表現を続ける画家・詩人の星野富弘さんの作品を展示したミュージアム。優しいタッチの草花の絵に、万物へ感謝する暖かい誌を添える。絶望的な状況でもその中で生きていく希望と、表現できる手段を持つ喜びを、一枚一枚から感じ取った。

 ヨコミゾマコト設計の建物は、幾つもの円を外接させた平面が、ユニークであり機能的。柱の存在を意識させない巧みさも持つ。ダム湖を見下ろす眺望も良く、自家製パンを口に運びながら、カフェで静かな湖面を眺めた。

 神戸駅に戻る。本当は、もう少し早い時間のバスで戻って、わ鐵直営の列車レストラン「清流」でランチするつもりだった。ところが、12月24日から1月14日までという、かなり長い冬休み中。3連休まで休むとは、商売っ気があるのかな? 東武のデラックスロマンスカーに乗ってのランチ、楽しんでみたかった。

 次の列車は、いすみ鉄道と同じ、初期のレールバスタイプ車両。ロングシートなのは仕方ないが、トイレがないのは困りもの。首をひねり渓谷美を楽しみつつ、25分の水沼駅で下車した。

 ここは温泉センター併設駅として、あまりに有名な駅。一時は休業しており、どうなることかと気を揉んだが、再開を果たしている。フリーきっぷを持っていれば、500円の入浴料が400円に。ほとんどの人は車での来訪ながら、鉄道利用者にはしっかりサービスしてくれる。

 露天の「かっぱ風呂」が工事で閉鎖されていたのは残念。お湯は浴槽から流れ出ているけど、少し塩素臭を感じた。ともかく、全国12駅の温泉駅のうち、ほっとゆだ、高畠、津南、藤崎宮前、阿蘇下田城ふれあい温泉と合わせ6駅目を制覇。ようやく半分で、全駅入湯への道はまだまだ通そうだ。

 食堂では「鹿焼肉」の舌代を見つけて、珍しいので飛びついてみた。脂身の少ない肉はあっさりしていて、なかなかいけた。

 


▲花崗岩の渓谷に沿って


▲終着駅、間藤


▲「円」を重ねる富弘美術館


▲神戸駅の列車レストランは空振りに

午後の渡良瀬から、その日のうちに久留米へ

 次の列車は、開業当時からの車両ながら、転換クロスシートとトイレを備えたイベント対応車両。小さな私鉄ながら、車両のバラエティは富んでいる。往路の大間々から、ずっと同じ行程を辿っていたおばさんと言葉を交わす。列車本数が限られるローカル施設、動きは自ら似てくるものだ。

 帰路は相老駅で下車。都内へのメインルート、東武との接続駅なので、どんなに立派な駅かと思っていたが、木造駅舎が出迎える古びた駅だった。窓口で特急券を買い、簡易リーダーにSuicaをタッチさせて入場。同じ駅舎を共用しているとはいえ、わ鐵とは二時代違う。

 白い車体に赤い帯の特急「りょうもう」号に乗車。日光方面のスペーシアとは違い、座席を並べただけの質実剛健な特急列車だ。テーブルが背面ではなく、窓際に折りたたまれているのが珍しい。どこかで見たテーブルだと思ったら、さきほど乗ったわ鐵イベント対応車と同じものだった。

 一駅前の赤城が始発で、以降館林までは快速並みにこまめに停まる。単線での交換待ちもあり足は遅いが、両毛地域から都心への便利な足で、ビジネス特急の別名も持つ。

 桐生の玄関とも言える新桐生駅は、平屋の地平駅。JR桐生駅の方が私鉄っぽい。車窓はのどかな田園風景、交換待ちで駅に停車する様は、なかなかの汽車風情も漂う。

 ホーム3面を有する太田までには、満席に近い盛況に。走りも、ようやく特急らしくなってきた。とはいえ全速力の息遣いは感じられず、余裕を持ったダイヤになっているようだ。北越谷を過ぎれば、20km近い私鉄最長の複々線区間に入る。メトロや東急の車両も織り交ぜ、すれ違う、あるいは追い抜く列車の種類も多彩。今まであまり縁のなかった東武鉄道だが、なかなかファン心をくすぐる鉄道に思えた。

 都心方面への乗り継ぎ駅、北千住で大挙降ろせば、出発時のようにガラガラに。都心の裏街道といった狭い線路になって、窮屈そうに下町を走る。突然、巨大な建設現場が現れたと思ったら、話題の新東京タワー・スカイツリーの根元を通過。現在の高さは254mとのことで、まだまだ倍以上に伸びることになる。建設中の姿に向けて、シャッターを構える人も見られた。

 行き止まり式の、ターミナルらしいターミナル、浅草着。豪華な仕様のスペーシアと並び、旅気分が沸く。ぜひ次の機会には、この駅から日光・鬼怒川に旅立ってみたい。

 浅草界隈も未踏の地なので、浅草寺・雷門くらい拝んでいこうかとも思ったが、空港までの時間を考えると厳しそう。素直に浅草線に乗り、上野へ。日本で最初の地下鉄区間を乗ったことになる。鉄骨の柱に、歴史を感じる。メトロの路線は多彩だが、小断面・小型車の銀座線、丸の内線に乗ると、東京の地下鉄に乗った感を強くする。

 都内から羽田方面へは500円きっぷがなく、Suicaで空港へ(やっぱり区間快速だった)。思いの他早く着き、これなら浅草寺も行けたかなと思ったが、後の祭り。第2ターミナルの有料ラウンジから飛行機を見下ろしつつ、300円なりの生ビールを飲みながら、ゆっくりとくつろいだ。

 6時の飛行機は15分ほど遅れたものの、福岡空港で高速バスに乗り継げば、9時半には久留米の自宅に着。早い、便利、でも東京~九州間にはやっぱり一晩かけたいと思ったのだった。

 


▲小さなジャンクション、相老駅


▲スマートなビジネス特急りょうもう


▲スカイツリーもだいぶ「伸びて」きた


▲川を渡り浅草へ

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