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関東ローカル私鉄めぐり
1~2日目
2つの私鉄でつなぐ房総半島横断

1~2日目3日目

3ヶ月連続の祝福

 昨年の11月から、1ヶ月毎に続いている、遠方での結婚式。年が明けて1月には、都内で、韓国留学仲間の挙式がある。

 出費多々の折。毎年恒例の越年旅行は控え、今回の東京行きもマイレージ利用で節約した。その分、行った先の関東では、めいっぱい鉄道の旅を楽しみたい! というわけで、式の後の日曜・祝日は、関東のローカル私鉄を巡るプランを立てた。なかなか東京近郊を旅する機会がなく、楽しみだ。

 1月9日土曜日、朝7時半。まずは花畑駅から、西鉄電車で天神へと上った。


冬晴れのフライト

 久しぶりに乗る、通勤ラッシュの西鉄電車。1年前、西鉄通勤していた頃を思い出し、相当な混雑を覚悟していたが、土曜とあって肩が触れ合うこともない混雑だった。地下鉄に乗り継げば、1時間で福岡空港へ。3連休の初日とあって、不況もどこ吹く風。搭乗待ちの列で賑わっている。

 混雑するチェックインカウンターを素通りし、ケータイをタッチして保安検査場へ。ANAで行われているICカード搭乗システムを活用すれば、こんな芸当も可能だ。新幹線にもこれに近いスマートさを誇る「EX-IC」サービスがあるものの、年会費が必要なこともあって、なかなか利用に踏み出せないでいる。

 9時半発の東京行き・トリプルセブンに搭乗、「第2国土軸」上を順調に飛行する。今日は冬晴れの素晴らしい快晴で、気流も安定していてほとんど揺れない。車窓からは、知多半島とセントレアや、雪を頂いた富士山まではっきりと見渡すことができた。こんなフライトばかりなら、飛行機でもいいと思う。

 羽田では、格安航空会社が使うような、ターミナルから遠く離れたスポットに到着。延々と長い「動く歩道」に閉口しつつ、第2ターミナルにたどり着いた。

 Suicaのチャージを終え、モノレールで都心へ。京急が入り便利になった羽田アクセスだが、モノレールも追い抜き設備の建設、快速増発、そして僕も手にしている500円なりの「モノレール&山手線きっぷ」で精一杯、対抗している。

 モノレールといえば乗るまでに階段ばかりで、乗ってみればさほど早くないイメージがあるが、東京モノレールは低重心を生かして、なかなかの俊足。運転本数も多いし、なにより快速系電車が過半を占めると合って、一般的な私鉄に近いイメージのするモノレールである。ノンストップの空港快速、あるいは途中駅で追い抜かれる各停に乗ってみたいのだが、なぜか僕の前にはいつも区間快速が現れ、待つことなく乗ってしまう。

 東海道新幹線や山手線を見下ろす、ワクワクするような車窓を眺めつつ、浜松町駅到着。山手線で東京駅へ出て、丸の内側へ出てきた。大好きな建物だった駅前の東京中央郵便局は、再開発のため再生工事の真っ最中。今までの建物を生かした姿になるとはいえ、一部が取り壊された姿は痛々しい。某大物政治家が工事中止を命じかけ話題にはなったが、そういうことは計画段階で言ってくれなければ、止められるものも止められない。

 一方の東京駅も、竣工当時の3階建て駅舎に復元する工事が進行中。木に竹を接いだような、妙な姿にならないことを祈るばかりだ。数年後の丸の内は、大きく姿を変えそう。よい物になるか否か、怖いもの見たさの心境ではあるけれど…

 


▲セントレアと知多半島を見下ろす


▲痛々しい姿の東京中央局


▲都心の雑木林



東京を観光する

 式場のホテルは皇居に隣接する竹橋にあるので、丸の内から皇居の中を通って行ってみた。全国各地に足を伸ばしている僕だけど、東京の名所らしい名所にはあまり行っておらず、皇居も初めて。

 豊かな緑と石垣は、大都会の中にあってエアポケットのような存在で、観光客は外国の方が多そう。江戸城から続く石垣や門のたたずまいもよかったが、落ち葉の降り積もる雑木林も、背後の高層ビル街とのコントラストが際立っていた。

 気付けば昼1時前。東京に行ったら必ず蕎麦を食べることにしており、毎日新聞地下の蕎麦屋で「せいろ」を昼ごはんにした。うどん文化圏の九州では、おいしい蕎麦になかなかありつけず、あってもかなり高い。

 3段に積まれた「せいろ」だったが、目の前にしたのは初めてで、恥ずかしながら店員さんにどう食べるのが正解か聞いてみたところ、
 「お客様の食べやすいように食べていただければいいんですが、たいていのお客様は…」
 と前置きした上で、丁寧に教えてくれた。お客様に恥をかかせぬよう…といった配慮が行き届いていて、さすがは競争の激しい都心の店と思う。

 一旦ホテルにチェックインしたが、開宴まではまだ2時間余り。思い立って、地下鉄で霞ヶ関に行ってみた。国会議事堂から官庁街を、ぐるりと一回り。仕事でこの街に来るほど偉くはなれそうもないけど、僕らの生活や仕事を動かす国の中枢を、一度見ておきたかったのだ。

 議事堂は会期外にも関わらず、周囲が警備でものものしい。霞ヶ関の官庁街は、さすが土曜日でもほとんどの建物に明かりが付き、仕事の真っ最中のようだ。特に財務省は、全部の窓にと思えるほど人の気配がして、週末とは単に正門が閉まっているだけ…といった風情だった。

 旧文部省のビルが異彩を放つのは、文部科学省や会計検査院が入る霞が関コモンゲート。歴史的建築物で、登録有形文化財にもなっている旧文部省ビルを前面に、民間ビルのようにフワリと軽い感覚の超高層ビルがそびえ建つ。新たな東京中央郵便局も、こんな感覚になるのかなと思う。

 メトロを乗り継ぎ、ホテルへ。4時からの式はこじんまりした、しかし背景に東京タワーや国会議事堂のライトアップを望む素晴らしい景観。日韓カップルということで、2ヶ国語でスピーチしたけれども、緊張のあまり台詞が飛んだり、助詞を間違えたりして散々な結果だった。でも、幸せを願う気持ちは届いたかな? お幸せに!

 


▲目の前のパトカーがものものしい議事堂


▲文科省・新旧の融合


▲ホテルからの夜景は素晴らしい


時代離れした小湊鉄道

 明けて東京での朝。新郎と朝食を食べた後は、一人旅のスタートだ。東西線で大手町まで出て、東京駅のコインロッカーにスーツと引き出物を預け、まずは身軽に。自動券売機で、ホリデーパス2300円なりを購入した。関東一円のJR線とモノレール、りんかい線で利用できる、関東近郊の気軽な日帰り旅には欠かせない切符だ。青春18きっぷと違って、料金券を買い足せば優等列車も利用できるのがミソ。

 総武線地下ホームへと降り、総武快速線のE217系快速電車で、千葉へ。狭いボックスシートに耐えること40分、千葉で内房線に乗り換えた。

 房総半島の普通電車といえば、紺とクリームのツートンカラーに身をまとった113系の活躍舞台だったが、京浜東北線を追われた209系が大挙移籍。5両編成のうち前後の1両はクロスシートに改造されているものの、「延々と続く通勤」的な旅に変貌してしまった。もっとも千葉近郊は総武線の続きといった都市景観で、209系の方がむしろお似合いかもしれない。

 千葉から約20分の五井駅で、接続する小湊鉄道に乗り換え。小湊鉄道乗り場は改札内でつながっているので、ここまでSuicaで来た人は、こ線橋上の簡易リーダーにタッチする。小湊鉄道の切符売り場は、こ線橋から降りる階段の下にあり、存在に気付きにくい。

 手にしたのは、「房総半島横断乗車券」。上総中野でいすみ鉄道に乗り継ぎ、房総半島の反対側の五井まで乗れる、片道乗車券だ。通常運賃2,070円が1,600円になる上、途中下車自由というのも嬉しいポイント。片道券でありフリー券ではないので後戻りはできないが、うまく使えば沿線観光にはもってこいである。ただし上総中野まで入る列車は1日5本に過ぎず、駅員さんからは、
 「列車が少ないですが、大丈夫ですか?」
 と念を押された。

 ホームに待っていたのは、キハ200形気動車。国鉄のキハ20系列に似た、JRではほとんど見られなくなったタイプの気動車だ。塗装も時代を追うことなく、昔ながらのオレンジ系のツートンカラーでまとめられている。今の小湊鉄道で活躍する車両は、これがすべて。今の日本で、それも東京からほど近い場所でこんな車両が活躍しているとは、奇蹟のようだ。

 しかも驚いたことに、鞄を携えた女性車掌が乗務。ドアの開閉と、切符の販売に当たっている。時代離れとは、まさにこのこと。ハイキング客と地元の人でほどよく賑わう車内も、好ましい。唯一残念なのはオールロングシートであることで、トイレ付き、ボックスシートなら旅気分もひときわと思う。

 五井を離れた列車は、エンジン音を轟かせて広い平野に飛び出す。途中駅も、昔ながらの木造駅舎ばかり。ホームのひなびた雰囲気もいい。

 のんびりした汽車旅を楽しむ乗客とは対照的に、車掌は忙しい。JRから乗り換えた人の多くは切符を持っていない上、企画きっぷの説明を行ったり、Suicaタッチをしなかった人には不使用証明と始発駅からの運賃を収受したりと、大わらわだ。駅間距離は短く、せわしく車掌室に戻りドア扱いもせねばならない。もう少し、五井のホーム切符売り場の存在を目立たせないと、遅れの原因にもなりそうだ。

 区間列車の折り返し駅、上総牛久からはぐっと減るかと思われた乗客も、ハイキング客中心なのでさほど減らない。少しずつ勾配が急になり、トンネルも現れ始めれば、渓谷観光への入り口・養老渓谷駅に到着した。

 


▲房総を209系が埋めていく


▲今も当たり前に走る旧型ディーゼル


▲車内は残念ながらロングシート


▲養老渓谷駅はかわいい木造駅舎

小駅で出会う、二つの私鉄

 駅前で蕎麦をすすり、渓谷ハイキングに出発。五井駅ホームに置かれてあった観光案内に示されている、養老渓谷一周・1時間40分コースが手ごろそうだ。ただ距離を見れば7kmとあり、1時間4kmと山道としては早いペース。次の列車に間に合うよう、少し足早に歩みを進める。列車の旅はのんびりしていそうだが、特にローカル線では時間の束縛を受けてしまう。

 季節はずれのキャンプ場を抜ければ、きれいなせせらぎに。少し道に迷いつつも、舗装された林道をしばらく歩けば、渓谷に出た。斜めに縞の入った岩場が、独特の景観を作っている。水は川底が見えるほどの透明度だが、泡が浮いているのは少し気になった。

 ぐるりと、休憩なしで一回りして1時間半。休みつつ、景勝地での時間を取ろうと思えば、2時間半は欲しいコースだった。欲を言えば3時間取って、養老渓谷温泉で一浴びしたいところである。

 代わりといってはなんだが、疲れた足を癒すのに嬉しいのが、駅の足湯。列車の切符を持っていれば、無料で浸かれる。ホームを見ながらの足湯は、鉄っちゃんにも嬉しい癒しの時間だ。せっかくの温泉、できれば、全身浸かりたいものだとは思った。

 わずか1日5本の中野行き列車を待つ人は多く、賑わいを載せて残り一区間の列車が出発。1駅間とはいえ4km以上あり、トンネルから谷へと変化に富んだ車窓だ。

 いすみ鉄道と出会う終点・上総中野は、ターミナル駅という気負いとは無縁の、最小限の無人駅。連休中とあって上下方向とも列車を乗り継ぐ人は多く、列車にカメラを向ける人で賑わいが生まれた。接続時間は18分。以前は、相互の乗り継ぎはほとんど考慮されていなかったという両鉄道だが、今は乗り継ぎ時刻表も掲示されるなど、連携が取られるようになってきたようだ。

 いすみ鉄道は、旧国鉄木原線を受け継いだ第三セクター鉄道で、発足から22年。車両は発足当初からのレールバスタイプで、他社では老朽取替えの対象にされるような車両だ。車内外には「ムーミン」のラッピングが施され、大好きなキャラクターだけに楽しい。

 やはりロングシートをほど良く埋めて、中野を発車。うちらうつらしているうちに、沿線最大の街で、い鉄本社もある大多喜に着いたので、途中下車してみた。

 売店では、「い鉄揚げ」なるオリジナル菓子を売っていて、試食してみたらうまかったので、3袋1セットを売り上げ貢献。「ぬれ煎餅」で再起をかける銚子電鉄を連想させる。キャラクター列車といい、他の鉄道会社での成功例を、貪欲に取り入れているようで、頑張る姿勢は好ましく思う。

 実はい鉄、年間当たり億単位の赤字を出しており、存廃の岐路に立たされている会社でもある。とにかく、やれることはやってみようという、背水の陣とも言える状況のようだ。い鉄揚げについて言えば、お土産にするにはちょっと安っぽいのが遺憾。銚子電鉄のぬれ煎餅は、個別放送で職場のお土産には最適だった。い鉄揚げも職場での反応がよかったし、包装を変えるだけでもぐっとお土産向きになりそう。

 大多喜は、大多喜城のおひざもとだった城下町。駅前から1本入った街中にも、昔ながらの建物が残っている。かなり「歯抜け」になっている上、木造で建替えられた建物も駐車場を確保するためセットバックしているものが多く、軒の連続感がないのは残念。それでも住宅や酒蔵など、古いながらも手を入れられ、きれいに使われている建物が多いのは良かった。中でも登録有形文化財の大屋旅館は、いつか泊まってみたい。

 


▲養老渓谷をハイキング


▲ホームの足湯でのんびり


▲2つの私鉄が出会う上総中野


▲大多喜の手の行き届いた酒屋

大原から桐生へ普通乗り継ぎ

 大多喜からは本数も増え、始発の区間列車で大原へ。観光客の姿も消え、乗客はまばらだ。上総中川駅ではホームに2人の乗客の姿が…と思いきや、正体は案山子。洒落にもならない。

 外房線の線路と合流し、大原着。ホリデーパスの区間からは飛び出した駅なので、境界駅の茂原まで切符を別途購入。千葉行き普通電車は113系、それも10両の長い編成だったので、余裕で座れた。ぱっと見、九州の地方部と変わらない風景なのだが、さすがは首都圏、流動は多いようだ。

 千葉までは1時間半ほどの道のりなので、手持ちの本を取り出し読書タイム。これが209系のロングシートだったらと思うと、ぞっとしない。日ごろ本を読むようなまとまった時間は取れないが、あっという間に1冊を読み終えてしまった。成人式帰りの若者で賑わい始め、ネオンまばゆい千葉に到着。

 千葉からは総武快速線へ。快速線とはいえ、途中駅では特急の通過待ちがあって、緩行線に対して圧倒的に早いというレベルではなさそう。錦糸町で緩行線に乗り継ぎ、更に秋葉原で山手線に乗り換え上野へ。都内には戻ってきたものの、今夜は、明日乗る予定のわたらせ渓谷鉄道の始発駅、桐生まで出なければならないので、まだまだ長い道のりだ。

 桐生へは高崎経由の方が短いようだが、小山経由の方がホリデーパスの飛び出し区間が短いので、宇都宮線を選択。駅弁とビールを買い込み、750円也を投じてSuicaにグリーン券情報を書き込んだ。小山まで1時間少々、少しの贅沢だ。

 宇都宮線・快速ラピッドのグリーン車は、7時台とあって満席近い盛況。いくらグリーン車とはいっても、弁当を広げて浮きはしないかと思ったが、隣の親子連れのお母さんも車内販売でビールを買って空けており、なごやかな雰囲気。値下げされたとはいえグリーン券は安くないが、親子連れにとって逃げ場があるというのはいいことだ。

 1時間ばかりくつろぎのひと時を過ごし、小山で両毛線に乗り換え。オールロングシートの107系電車だったが、トイレ横に前向きの座席を見つけて、転がり込む。通勤電車のような車両で車窓も見えず、電車好きとはいえ、延々1時間以上乗り続けるのは苦痛だ。早く着いてほしい。
 思い扉をよいしょと開けて、桐生駅に降り立つ。単線上の駅なのに、立派な2面4線のホームを持つ高架駅だ。ただし駅も駅前もがらんとしており、きれいな駅前のイルミネーションが輝くのみ。早めに宿に入って、寝るのがよさそうだ。

 


▲ムーミンのキャラクターを掲げた い鉄気動車


▲113系が来るとほっとする


▲2階建グリーン車でしばしくつろぎのひと時


▼3日目に続く








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