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 九州新幹線…その計画は、一九六九年にまでさかのぼる。当初の計画では七九年に開業するはずだった鹿児島ルートだが、博多まで開業した山陽新幹線が先へと延びる気配は、まったく見られなかった。

 国鉄の分割・民営化後にようやく前進が見られ始めたが、計画案は紆余曲折を繰り返し、全線フル規格新幹線での整備決定は二〇〇〇年まで待たなくてはならなかった。小学生の頃から、新聞誌上では二転三転する計画が報じられていたが、本当にできるのだろうかと思っていたものである。

 しかし決まれば早い公共事業。二〇〇四年に新八代~鹿児島中央で部分開業した頃には、筑後平野でも工事の槌音が響き始め、高架橋が立ち並ぶまでに多くの時間は要しなかった。二〇一〇年には駅名も決定、夏の試運転一番列車へとつながっていく。

 そして二〇一一年二月十二日、新幹線開業ダイヤ改定の一ヶ月前を迎えた。そしてこの日は、開業日の指定券の発売日でもある。

 昨年十二月に開業した、東北新幹線の八戸~新青森では、東京発の一番列車は四十五秒、新青森発に至っては三十秒で売り切れたのだという。また三月五日デビューの新型新幹線「はやぶさ」も、四十秒で完売だったとか。

 僕が狙うのは、博多発の一番列車「つばめ327号」の指定席だが、九州新幹線の一番列車争奪戦も、加熱することが予想される。一方で、東北新幹線の時よりは余裕を持って買えるかも知れないという、甘い期待も抱いていた。というのも、博多から新八代という中抜け状態を埋める形で迎える今回の開業では、一番列車と呼べる列車が多くあるからだ。下り列車では、博多発はもちろん、新大阪始発の「みずほ」も一番列車と呼べるだろう。上り列車では熊本発に加え、鹿児島中央発の一番列車もある。バラけることで、各々の列車の競争率は下がるのではないかと思ったのだ。

 前日は久留米市城島町の酒蔵開きで飲みすぎたため、かなり出遅れて、九時二十分に久留米駅へ。行列がなかったのは想定外で、朝五時に開いたみどりの窓口に来た人から、予約を随時受け付けていたのだとか。そうと知っていれば、五時に一旦申し込んで、家に帰って眠ればよかった。それでも、順番に処理するので、確実には買えませんと念を押されて、注文を受けてくれた。

 発売時刻の午前十時。駅員さんは、一般の指定券販売を一旦中止して、まとめた注文を次々に入力していった。見守る人にとっても、手に汗を握る瞬間である。
 「申し訳ございません、博多発の一番列車はすべて、お取りできませんでした」
 なんと、久留米駅は全敗であった。しかしプラチナチケットであることはみな承知のことなので、文句を言う人は一人もおらず、がっかりした顔で帰っていった。

 この日のニュースによると、博多発一番列車「つばめ327号」は二十五秒、新大阪発の「みずほ601号」に至ってはわずか十五秒で売り切れたとのこと。ほぼ一瞬という勢いであり、これでは買えなくても当然である。

 さて買えなかったことは諦めるとしても、開業日はどうしようか。混雑を覚悟で自由席を狙うかとも思っていたが、ネットサーフィンしていたところ、未だ売り切れていない一番列車があるという記事にあたった。「つばめ320号」。筑後船小屋を六時に出発し、わずか二十七分で博多駅に着いてしまうというショートランナーである。さっそくインターネットで調べてみると、なるほど空席多数を示す○マークが表示されていた。

 つばめ320号も、運転区間を営業列車として最初に通る、名実共に一番列車と呼べる列車である。しかしあまりに地味な区間だし、筑後船小屋駅に朝六時に行こうと思えば車くらいしか手段がなく、事実上周辺の人しか乗れないというところも、なかなか売れない理由と察する。

 しかし、僕の身近な久留米や新鳥栖駅にとっても、つばめ320号が一番列車である。待ちに待った筑後平野の新幹線を筑後の民として祝うには、最も適任な列車ではないかと思えるようになってきた。地味だろうが、この列車の様子を記録することも、筑後平野に住む鉄道ファンの勤めのような気がした。

 さっそく翌日、筑後船小屋から博多までの新幹線指定席特急券と乗車券を買い求めた。お値段、二七九〇円。こんなことでもないと、ます買わないきっぷだろう。

 

▲多数の注文をさばく久留米駅窓口


▲自動券売機もスタンバイ


▲のりば案内もお目見え
▼開業3週間前に続く








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