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卒業旅行は韓国へ(2)

2日目 大田で知る

韓国上陸!

朝。窓の外には、山の上までびっしりと建物の詰まった、釜山の街並みが広がっていた。日本で言うと、神戸か長崎にでも似た雰囲気と言えるが、山の上にまで高層ビルが立ち並ぶ光景は、テレビで見る香港の街に近い気がする。

日本人だったので気持ちに余裕があった出国審査と違って、緊張の入国審査。特に問題はなくパス。続いて手荷物検査なのだが、なにせ韓国人の荷物は多いものだから、とにかく時間がかかる。すごい熱気で、圧倒されてしまいそうだ。長期戦を覚悟で列に続いたが、「日本人の方!」と係員に呼ばれ先に通してもらえた。無事、韓国入国だ。

何はなくとも、韓国のお金がなければ始まらないので、フェリーターミナル内の釜山銀行で、ウォンへの両替を済ませておく。この日のレートは¥100=W1008.61だったから、ほぼウォンを一桁切り落とせば、円になる計算だ。差し当たって2万2千円を両替しておいたので、22枚の1万ウォン札が帰ってきた。万札が22枚、なんだか、とんでもない金持ちになった気分だ。

ターミナルから少し歩けば、すぐに地下鉄中央洞駅だ。ここから一駅乗れば国鉄釜山駅だが、街の雰囲気を味わおうと歩くことにした。幅の広い道路を、車やバスがビュンビュン行き交っている。近代的なビルか立ち並び、パッとみた風景は日本と変わらない。しかし、看板はすべてハングル文字、もちろん街ゆく人に日本語は通じない。軽い緊張を覚えつつ、街中を歩く。途中、何度か道に迷いながら釜山駅にたどり着いた。


韓国の鉄道に乗った!

釜山は、日本でいえば大阪に相当する都市なのだが、駅の規模はあまり大きくない。国鉄が、近郊輸送を担っていないためだろうか。韓国に着いたばかりで、まだ釜山の街も見てはいないのだが、ひとまず列車で、韓国第六の都市・大田(テジョン)へ行く。長年憧れていた韓国の鉄道に、やっと乗れるのだ。ともあれ売店で時刻表を買い込み、すぐさまセマウル号切符売り場へ向かった。

韓国の列車には愛称が付けられているが、これは個々の列車を示すものではなく、列車種別を表すものだ。現在、四種類(実質五種類)の列車が走っている。

名称意味
セマウル新しい村超特急格。全車指定席で、食堂車・特室など連結。
ムグンファ韓国国花のむくげの花特急。全車指定席で、列車によっては食堂車やカフェ、寝台車など連結。
トンイル統一急行。全車指定席。減少傾向にある。
都市通勤型トンイル統一各駅停車。旧トンイル型車両や新型ディーゼルカーを用いている。
ピドゥルギ各駅停車。かつては各線で走っていたが、現在は旌善線のみの運行。消滅寸前。

 運賃体系は運賃+料金ではなく、各種別・区間毎に運賃が定められている。また、切符も一列車対一枚の販売(乗り換えがあれば2枚のきっぷが必要)で、システム的には日本とかなり異なっているのだ。

大田まではセマウルで行く。セマウルには後日、ソウル〜釜山で乗る予定があるのでムグンファでも良かったのだが、大田で人と会う約束があるので、一刻も早く行きたかったのだ。セマウル号専用窓口に、用意していたハングルのメモを差し出す。すぐさま発行されたが、11時の列車を頼んだのに、10時の列車の切符だ。11時の列車を頼みなおそうとも思ったが、満席なのかもしれず、そのまま受け取った。セマウルは曜日別運賃で、この日は水曜日だったので、10%オフのW14,900。大田まで280km弱乗って1,500円程度なのだから、日本の感覚からすればかなり安く感じる。1時間早い列車になってしまったので、売店でW10,000(W11,000分使用可能)の韓国のテレホンカードを買って、急いで大田に電話した。

もっと旅立ちの余韻に浸りたいが、時間もないので急いで改札をくぐる。ムグンファ号に比べて運賃も高めの特別列車なので、駅員さんが仰々しく礼をしてくれるが、なぜか切符のチェックはなし。ディーゼル動車だが、フランスのTGVのように、編成の両側に動力車があるプッシュプル方式。その8両編成を2編成ドッキングした、堂々の16両編成だ。途中、8〜9号車へは通り抜け出来ないので、注意が必要である。

ヨーロッパ式の低いホームからステップを踏み、指定された6号車へ乗車。ゆったりとしたリクライニングシートに収まる。まるでソファーのような座り心地‥‥ 韓国鉄道の軌間は標準軌で、車体も新幹線ほどではないが大柄だ。そこに4列の座席だから、横幅も充分で、前後も足が前の席に届かないほど。普通車だが、日本の並のグリーン車を上回る乗り心地だ。

定刻10時、列車は釜山駅を離れた。どこかゴミゴミした、釜山の下町の中を猛然と加速しはじめる。駅の自販機で買った815コーラ(W500)を飲みつつ景色を眺めていると、なんだか嬉しさがこみ上げてきた。鉄道ジャーナルや旅と鉄道といった、鉄道雑誌の世界でしかなかった韓国の鉄道に、今こうして乗っているのだ。生きていればいいこともあるもんだ。

10分もすると釜山の市街地を抜けて、のびやかな眺めになってきた。左手には、北を除く韓国最長の川、洛東江が悠々と流れている。日本のように家並みが続きはしないが、そのかわり小さな街が、現れては消える。

ところでセマウル号には嬉しいことに、日本では風前の灯となった食堂車が、ほとんどの列車に連結されている。少々値段は張るが、食堂車ファンの僕としては行かないわけにはいかない。11時前と食事時間帯を外れていたため、客は僕ら二人だけだ。ある本に、セマウル食堂車には韓国風ビーフシチュー「カルビチム」があると紹介されていたので、それを食べようと楽しみにしてきたのだが、メニューに見当たらず、無難なハンバーグステーキになってしまった。韓国上陸してから初めての食事であるが、味付けに抵抗はないし、お米のご飯もおいしい。中国では食べ物が口に合わず、日本食に焦がれたものだったが、どうやら韓国では心配なさそうだ。

 列車は大邸(てぐ)を過ぎ、秋風嶺と呼ばれる、山越え区間に差しかかった。さすがのセマウルもスピードが落ち、隣を走る京釜高速道路を走る乗用車にも追い抜かれる始末だ。もっとも、釜山〜ソウルで比べれば列車が圧倒的に早い。今、ソウル〜釜山間に韓国版TGVが建設されているが、それが完成すればもっと早くなる。フランスまで行かなくてもTGVに乗れるわけで、その時にはまた来たいものだ。


大田を歩く

大田では、大田駅員で1年来のペンフレンドである、Kさんにお世話になった。Kさんのおかげでセマウルの切符を残すことができて、大感謝。

 駅から出て、いざ大田市街地へ。駅前広場は日本では考えられないほど広く、のびやかだ。駅前の地下街に入ると、店という店が閉まっている。どひゃあ、IMF不況もここまで来たか! と思ったがそうではなく、どうやら商店街全体の定休日らしい。大田に転勤になって日の浅いKさんも「初めて知りました」と言っている。

まずは、近くの百貨店へ。もちろん物価の違いもあるので安く、大学の入学式のスーツは、こっちで買うんだったかなとも思った。一つ驚いたのは、女性店員がびっくりするほど幼いこと。制服も学校のそれのようなので、最初は「平日の真っ昼間になぜ女子高生がほっつき歩いてるんだ?」と思ったほどだ。

空模様が悪くなってきたので、先程とは別の地下街に入ると、こちらは買い物客でごった返している。軽食屋で蒸し餃子を御馳走になったが、はっきり言ってうまい! というか、日本のものと寸分違わぬ味である。韓日の食の嗜好は、近いのだろうか。Kさんもその息子さんも、大好物なのだそうだ。

その後は書店や公設市場、若者向きの繁華街などを歩いて、韓国の空気をどんどん吸収。韓国でも「プリクラ」が流行っていたのは発見だった。

Kさんの住むアパートは、中心部からバスで15分ほどの距離にある。だがこの雨なので、タクシーで行くことになった。タクシーに限らず、韓国の車はとにかく運転が荒いと聞いていたので、少し怯む。幸い、このタクシーの運転技師さんは穏やかな運転だった。ちなみに初乗り料金はW1,000。日本の物価に換算して安い安いと言ってはいけない気もするが、韓国内で相対的に見ても、交通費が割安なのは確かなようだ。それとも、日本の交通費が高すぎるだけなのだろうか。

しばらく走って、Kさんのアパートに到着。Kさんの奥さんと、娘さんが待っていた。Kさんはずいぶん研究熱心なようで、本棚には、所狭しと日本の鉄道の本が並んでいる。しかし負けず劣らず、息子さんも鉄道が大好きなようで、新幹線のビデオを止めたら泣きだしてしまったほどだ。即席・韓日鉄道文化座談会は、日が暮れるまで続いたのであった。

夕御飯も御馳走になり、疲れてもいるので早々に眠りにつかせてもらった。敷布団、掛け布団が薄手でも、床暖房オンドルのおかげで、ポカポカと温かかった。

つづく



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