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卒業旅行は韓国へ(1)

韓国に向けて

1999年春、長かった受験勉強の毎日も大学入試の前期試験で終わり、やっと旅立てる季節になった。高校卒業、新たなる人生へのステップだ。そこで卒業旅行では、僕の“旅”も一歩、ステップアップさせることにした。それは、海外に行くことだ!

 その行き先は、お隣の国・韓国である。特に九州から見ると身近な国で、佐賀から見れば大阪よりも釜山、東京よりもソウル、そして札幌より平壌のほうが近い。しかし、行きたい理由は近いからだけではない。中学のころからずっと、韓国の鉄道に乗りたいと思っていたのである。標準軌の鉄路を驀進する特急列車、日本と似て非なる雰囲気、そして安い運賃と、興味を持つには充分すぎて余りある魅力を持っているのだ。

 旅行日数は、往復の船中2泊を含め、7日間。中国への修学旅行を除けば、初めての海外旅行だ。本当は2泊3日の釜山ツアーあたりから始めたかった気もするが、一緒に行く友人Fが「せっかくだからソウルまで行こう。」と譲らなかったのだ。おかげで初めてなのに、かなり濃く長い旅になりそう。病気になったらどうしよう、食べ物が合わなかったら困る、パスポートを無くしたら‥‥ 不安も尽きない。緊張の前期試験を終え、着々と準備を進めたのであった。


1日目 博多からプレ韓国

 列車のなかで合流した僕とFは、正午前に博多駅に到着。駅内のJR九州系旅行センターに1週間前、帰りのソウル〜博多間の「日韓共同きっぷ」を頼んでおいたので、それを受け取りにゆく。しかし、受付嬢から「まだ出来ていません」という、なんとも頼り無い返事が帰ってきた。1週間も時間をあげたのに、なんたる手際の悪さ。ぎりぎりの時間に来なくてよかった。

 1時間半でできるというので、駅前の郵便局でトラベラーズ・チェックを作るなどして時間を過ごす。2時半にやっとできあがった切符を手に、釜山行きの船の出る博多港国際ターミナルに向かった。

 日韓間の航路と言えば下関〜釜山間の関釜フェリーが有名で、最近ではJR九州と韓国鉄道の高速船・ビートル&ジェビが、大韓航空を抜き博多〜釜山間のシェア1位の座についたことも特筆される。しかし今回、往路で利用するのはカメリアラインという、博多からのフェリーである。2時間半のビートルに比べ時間はかかるが、料金は安いし、一晩かけて行くので一泊分の宿泊費も浮かせる。

博多港行きのバスは、なんの変哲もない西鉄バスである。しかし、車内には旅行者風の人やハングルの書かれた段ボール箱を持ったおばさんなんかもいて、国際港へ向かうバスらしい雰囲気だ。ベイサイドプレイス、マリンメッセ福岡など、ウォーターフロントの新施設を見つつこれも新しく立派な、博多港国際ターミナルに到着した。時刻はまだ15時前、17時の出航時刻まで2時間もの余裕があるが、国際航路ともなると、このくらいの時間には来なければならないのだ。

国際航路だから、乗船手続きだけでなく、出国関係書類も仕上げなくてはならない。手続きカウンターも2階の待合室も、係員さえも見事に韓国人一色だ。頭のなかでは、カメリアの乗客は日本人優勢か、せめて半々くらいではと予想していたのだが、意外である。ふと、急に不安になってしまった。この人たちに日本語は通じない。これから、そんな世界に飛び込んでいくのだ。大変だ、心配だ、やっていけるのか!? 思わず、帰りたい衝動にまでかられてしまった。

出国手続きが開始されたので、腰を上げる。実はそのずっと前から、韓国人は列を作っていた。そうでもしないと場所がなくなってしまうのか、それともせっかちなだけなのだろうか。出国手続きといってもカードを半分切られ、パスポートにスタンプを押すだけの簡単なもの。今、韓国へは30日以内ならばノービザ入国が認められているので、手続きも簡単なのだ。手荷物検査もなく、気づいたら出国してしまっていた。

1階に降りると、乗船口への連絡バスが待っていた。すでに満員の車内に乗り込むと、続けてぐいぐいと、全力でおばさんが押し込んできた。日本の普通の路線バスでは考えられない‥‥ 車内も韓国人一色、右ハンドルの日本のバスなのだが、雰囲気は完全にポスだ!(=Busの韓国読み) まだ日本の陸の上なのに、さっそくカルチャーショックを受けてしまったのだった。

あっと言う間に着いたバスから押し出され、さっそく船に乗り込む。2等船室の指定の区画に行くが、まだまだ空いている。なぜ、皆あんなにあせったのかな? 韓国の方は皆、荷物が多い。特に○印やタ○ガーの炊飯器を持った人が多く、人気のようだ。

さっそく船内探検へ。新しくはない船だが、ゲームコーナーやレストラン、浴室など、一通りの設備は揃っている。船内各所に出ている表記はほとんどが日本語、通用する通貨は日本円で、公衆電話も日本の物のみ。しかし、船員、乗客とも9割方は韓国人だ。韓国の船なのか、日本の船なのか、さっぱり分からない。また、船内の物価は、缶ジュース170円、ビールは免税なのに200円と、日本人から見ても高い(台湾航路のビールは120円くらいと聞くが)。

デッキに出てみれば、博多の港の風景が広がっている。しかし、あちらは日本、こちらは書類上すでに外国。同じ空間なのに、妙な感じだ。4時50分、定刻より10分早く、船は博多港を発った。都市高速や百道浜周辺のドームなどを見ながら、日本に別れを告げる。ラジオが安室奈美恵の母親が殺されたと伝えている。

しばらく湾内に停泊していた船だが、玄界灘に出ると少し揺れはじめた。ここ数日、海の天気には気を配っていて、一昨日は5〜6mの大荒れの天気だったという。今日は珍しいほど穏やかだというが、それでも昨年夏に乗った日本海航路よりも揺れている。さすがは荒れ海、玄界灘だ。

 船内レストランを使おうと思ったら千円以上の出費が必要だが、食券方式ではないちゃんとしたレストランスタイルだ。だが、Fのうどんの箸を忘れたり、釣り銭を間違えたりと、至らない点が多かったのが残念。浴室は24時間営業とサービス上々。そして湯上がりに、甲板で春の潮風に吹かれながら飲んだビールのうまかったこと! この味は一生忘れまい。ちなみに韓国では、飲酒は18歳から合法なので悪しからず。

KBS(韓国放送公社)の日本語放送でウォン相場を聞いたのち、9時過ぎには早々と眠りについた。10時には消灯、時間が過ぎてゆく。しかし空腹のためか熟睡できず、1時ごろカップ麺の自販機へフラフラと向かった。でも、早起き(!?)は三文の得、窓の外にはすでに、釜山の夜景が広がっていたのだ。港が開く時間まで、釜山港に停泊するのである。テレビでは、韓国の深夜番組が放送されている。もう韓国だ!

つづく

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