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4日目【5月6日】 ソウル→世宗→釜山→福岡
もう一つの首都を走る本格的BRT


快速・快適な新首都への足

 旅館で目覚め外に出て、そこが鐘路3街であることを初めて知った。不思議と前日の酒は残っていないが、なんとも冴えない形での韓国の旅、最終日。陸路と海路で九州へ帰るだけではあるのだが、1ヶ所、寄り道したい場所があるので、7時台にはしっかり目覚ましをかけておいた。こんなところだけは、酔ってもしっかりしている。

 地下鉄1号線でソウル駅へ出て、朝8時50分のKTXに乗車。残念ながら、座席の狭い1次車だった。リクライニングも浅く、座席も回転できない不評ふんぷんの車両は、ライセンスの切れる開業2年後から順次改修していくという話だったが、開業10年を経ても、その気配は見られない。

 ソウル駅から40分、留学先でもあった忠清北道の玄関口・五松(オソン)駅で下車した。2010年に開業した新駅(正確には休止中の在来線の駅があったので、旅客扱いの復活)で、周囲には高層アパート群が立ち始めている。今でこそ閑古鳥の鳴く駅だが、来年開業予定の湖南高速鉄道の分岐駅でもあり、これから重責を担っていく駅だ。

 そして五松駅に与えられたもう一つの大きな使命が、新行政首都・世宗(セジョン)市への玄関だ。もともとは首都機能移転として計画されていた世宗市だが、紆余曲折の末、国の行政機能移転として決着。順次、ソウル・汝矣島(ヨイド)の官庁街から移転が進んでいる。

 五松駅から世宗市へのアクセスを担うのは、モノレールでも地下鉄でもない、バス高速輸送システム・BRTである。日本では、東日本大震災の被災各線の「仮復旧」として注目されるBRTだが、さて計画都市の「足」としてイチから整備されたバスの実力やいかに。

 BRTは、KTXの高架下から15分毎に出発している。数人の乗客を乗せて駅を出発したバスは、すぐさま6車線の幹線道路に出て、時速80kmで走り始めた。真ん中の2車線がバス専用となっており、一般車両で進路が支障されることはない。信号もなく、路線バスとしてはかなり早い速度で走る。

 世宗市が近づくと信号や交差点が現れるが、BRTのみ立体交差になっていて、ノンストップで走り続ける。本格的なBRTとされる所以であり、高速性、定時性ともかなり高い。

 世宗政府庁舎着。市街地でも、道路のど真ん中に専用レーンが確保されており、バス停にはホームドアまで設けられていた。充分、「駅」と呼んでいいような体裁が整えられている。


▲幹線道路でも真ん中に専用レーンを確保


▲交差点は立体交差でクリアする


▲世宗市中心部のバス停は「駅」のよう


▲憩いの場も整備された行政地区


▲省庁と並行して住宅の建設も進む



▲自転車レーンの上に設けられた太陽光発電

 市内では、政府庁舎の建設工事が進行中。全3期に渡る移転工事のうち2期まで終わっており、今年に予定されている3期移転に向け、連休中にも関わらず急ピッチで工事が進んでいた。

 完成済みの庁舎は、道路をまたいで立つダイナミックな姿。相互は連絡橋で結ばれ、ひとたび入ってしまえば、雨に濡れず省庁間を自在に移動できる。これで省庁間の「縦割り」打破となるだろうか。最終的な完成形は巨大で、端から端まで歩いていたら30分はかかることだろう。

 バス停前には政府庁舎案内室があり、中にはお土産品の影も見えたのだが、さすがに連休中とあってお休み。固い門扉が閉ざされ、建物の周囲にも柵がめぐらされていた。省庁のビルは現代風に、ふわりとした軽やかな建築物なのだが、さすがにガードは固い。

 砂利敷きの駐車場は多く見られ、まだ外回りの工事には至っていない場所も多い。公園のような憩いの場は順次整備されているようだが、あえて菜の花畑やコスモス畑になっている区画もあり、作られた人工都市ながら自然を感じられる工夫もなされていた。

 行政機能移転と共に、周辺では高層マンションの建設が続いており、将来は官僚たちの住まいになるのだろう。職住近接は結構なことだが、過渡期の今は大変なことだろう。KTX通勤を余儀なくされている人も、多そうである。賛否両論の行政機能移転だが、世宗市は10年後、まったく変わった風景になっていることは間違いない。

 ところで国会機能の移転には至っておらず、国会中の省庁対応はどうしているのか、素朴に疑問である。他国の政治の話でもあるし、余計なお世話か。

 ふたたび同じ方向のBRTに乗って、今度は大田地下鉄の盤石(パンソク)駅方面へ。住宅街のバス停では大挙、官僚ではなく普段着の市民が大勢乗り込んで来て、一般的な路線バスの雰囲気になった。専用レーンは続くので速達性は高く、大田市内までのスピーディーな足として人気があるようだ。

 広い幹線道路の真ん中には柵に囲まれた自転車レーンが設けられ、珍しい姿。一休みしようにも逃げ場はなく、あまり楽しそうなサイクリングコースではなさそうだ。レーン上には、ずらりと太陽光発電設備が並んでいた。


ト・マンナヨ~また会いましょう

 終点、盤石駅で大田地下鉄に乗り継いだ。ソウルより一回りこぶりな、丸みを帯びた地下鉄電車が走っている。光州や、釜山の3号線と同じタイプの車両だ。

 景色のない地下鉄で、退屈な時間を過ごすこと約40分で、大田駅着。ちょうど12時前ではあったのだが、列車の時間も迫っていて、ゆっくり食堂に入る暇はない。そこで、売店の弁当に初挑戦してみた。駅弁といった風情はないが、トッカルビ弁当を頼むとその場で肉を焼き、たきたてご飯を詰めてくれた。弁当といえど、食堂の水準の調理である。その分お値段は7,000ウォン(700円)と、ちょっといい食堂のレベルだった。

 12時06分発のKTX釜山行は、連休最終日の午後とあって満席。初日に席を抑えておいてよかった。隣にはかわいらしい女の子が座り、通路をはさんだお母さんに席を替わりましょうかと言って見たが、そのままでよいとのこと。女の子からは、ククダス(エリーゼのようなチョコ菓子)をプレゼントされた。

 さっそく、お弁当の包みを開ける。あたたかいご飯におかずが嬉しく、シャキシャキした野菜もおいしかった。ちなみにソウル駅のコンコースにある「ほっともっと」もこの高級弁当の路線で、日本のリーズナブルな弁当というイメージでいくと「高っ!」と思ってしまうのでご注意を。

 満席だったKTXだが、蔚山(ウルサン)で、1/3以上の乗客が下車していった。現代(ヒョンデ/ヒュダイ)のおひざ元、人口100万の工業都市とあっては当然という気もするが、蔚山にKTXがやってきたのはわずか3年半前。それまでは飛行機が主役だった地域である。短期間の間に、KTXはすっかり定着したといってよいだろう。

 釜山駅到着。駅前のカフェでコーヒーを飲めば、もう日本に帰る時間しか残されていない。土産の買い出しはコンビニでいいかと思い、港近くの中央駅前のGS25をアテにしていたら、改装工事中。みなさん済みません、今月末にまた釜山に行くので、その時まで待ってて下さい…。

 帰路のビートルは、往路とうって変わってガラガラ。明日からの日常に備え、もう少し早い便がピークになったのだろうか。間もなく開業の釜山大橋に見送られ、何度目か分からない韓国の地を後にした。


▲大田地下鉄で駅へアクセス


▲連休最終日とあってKTXは満席状態


▲ビートルはうって変わってガラガラだった


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