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1日目【5月3日】 久留米→博多→釜山港→機張→東莱
郡部へ伸びる新交通に乗る


空前の大型連休に韓国は


今回の旅のルート(別サイトが開きます)

 今年のゴールデンウイーク後半戦は、4日間。6日が振替休日になりなんとか4日間になったものの、3、4日は土日と重なってしまい、ちょっと短めの連休である。

 日本はGWでも、海外に出ればただの平日。混雑を避けるには海外脱出が一番!というわけで、GWはたいてい、韓国へと足を向けている。今年も2ヶ月前にははやばやと、ビートルの乗船券を抑えていた。

 ところがその後、韓国のカレンダーをよく見てみると、5月の4連休は完全に日本のGWと重なっているではないか。5月5日の子どもの日は韓国も同じだと知っていたが、なぜ6日まで? 実はこの日は、釈迦誕生日。旧暦を基準に決まる祝日のため、今年はたまたま6日に当たっていたのだ。しかも5月1日はメーデーで、これも祝日。2日に有休を入れれば6連休という、近年まれにみる絶好の暦並びになっていたのである。

 韓国ウォッチャーを自負していたのに、迂闊にも気付いていなかった大連休。これじゃあ韓国国内の観光地も人でごった返すだろうし、列車の切符も取りにくいかもしれない。覚悟しなくちゃいけないなと思っていた所へ、大きなニュースが飛び込んできた。4月16日に発生した、セウォル号の沈没事故である。

 過積載という事故原因もさることながら、その後の対応のまずさで、多くの乗客の命が失われてしまった。まして修学旅行中だった高校生らが多数犠牲になった衝撃は大きく、国全体が哀悼の中にあるとニュースは伝えている。SNSの中にいる韓国の友人らも、ぶつけようのない気持ちで日々を過ごしているようだ。

 本来であれば、底抜けに楽しいムードだったはずの大型連休。4日間の旅は、韓国の負った傷の深さをあちこちで垣間見ることになったのだった。


苦境の日韓航路も今日ばかりは満席

 韓国への足は、お馴染みのビートル。連休でも定価通りに乗れるのがありがたく、ビートル&KRパスを使えば、韓国内での移動も自由自在である。

 ビートルに乗るには、久留米からだと西鉄電車が便利だ。博多港という名前ではあるが、港まではJR博多駅より西鉄福岡駅の方が近い。6時に早起きして、花畑駅まで自転車を漕いで急行電車に乗った。連休中とはいえ通勤客も皆無ではなく、浮かれた気分の行楽客と混乗で天神へと上る。

 バスに乗り継ぎ、約10分で博多港へ。ビートルカウンターには、隣のカメリアラインのカウンターまで達する長蛇の列が出来上がっていた。GWの朝のビートルは30分毎に雁行しており、便ごとに順次乗客をさばいていっている状況である。

 就航当初の苦境もどこへやら、韓流ブームの追い風もあり、黒字経営を続けていたビートルだが、近年は再び苦戦している。円安による日本人客の減少、日韓関係の悪化、LCCの就航など複合的な原因と見られ、減便とともに保有する船1隻の売却が、さきごろ発表されたばかりだ。これに加え、セウォル号事故後には「船離れ」により、キャンセルが続出しているともいう。ただ連休初日とあって、9時の便はほぼ満席だった。

 GW初日の午前便とあって、乗客はほぼ100%が日本人。出航後ほどなくして始まった船内販売で、朝ごはんのサンドイッチ(400円)とビール(150円)を求めた。消費増税があったのにお値段据え置きとは良心的だと思いかけたが、ビートルは国際航路、免税なのだった。

 博多出航から2時間、左手に巨大な対馬が見えれば、見えない国境を超える。手持ちのスマホの「ネットワーク通信」を切断して、レンタルしてきたWi-fiルータの電源を入れた。これまで韓国に行く時はケータイレンタルを利用してきたけど、Wi-fiルータならばネットが使えるし、韓国の友人らとはSNSで連絡を取れるので、前回訪韓から変えてみたのだ。レンタル代は690円と、ケータイの150円程度に比べれば高いが、ネット使い放題の魅力は大きい。ばっちり電波を掴み、感度も良好である。

 「鯨出没注意」のため5分延着、12時に釜山港へ到着した。入国手続き場は長蛇の列だが、日本人ばかりという日は「外国人」窓口の一番左側に並ぶことをお勧めする。さらに左側の韓国人専用窓口は、韓国人の手続きが終わると「こちらへどうぞ」と案内してくれることが多いのだ。やはり今日もほどなくして解放となり、すぐに手続きを終えることができた。

 お馴染み釜山銀行で両替。100円=970ウォンと、円安傾向とはいえ、僕の留学当時の10年前に「戻った」感がある。ただ韓国内の物価は体感で1.5倍程度になっており、以前のような値ごろ感はなくなってきた。


▲9時発の便は満席状態


▲小さな高速線で玄海灘を渡る


▲カメリアラインとクルーズ船に見送られ


▲釜山駅前には釜山市の焼香所が設けられていた


▲願いを託す黄色のリボン



▲釜山駅のロッテリアは豪華仕様

 ターミナル前で待機していた、おばちゃん運転士のシャトルバスで釜山駅へ。以前はこのバスもなく、重い荷物を背に地下鉄の駅まで歩かねばならなかったので、大助かりである。港まで伸びる線路に釜山港駅を設け、KTXを直通させるとの構想も数年前に打ち出されてはいるが、こちらは進展がないようで残念だ。

 屋台街を見ながら裏通りを走り、10分少々で釜山駅前に到着。駅前広場は旅行中の人が多く、記念写真を撮る人の姿が多く見られた。4年前の訪韓時には「デジ一」(デジタル一眼レフ)がブームだったのだが、今やほとんどがスマホに取って変わられている。世界のサムスンといえどデジ一とスマホでは画質が雲泥の差と思われるが、このあたりはIT大好きの国民性といえるだろう。

 駅前には、セウォル号沈没事故の釜山市民焼香所が設けられており、多くの市民が列を作って花を手向けていた。駅舎と地下鉄駅の地下通路工事現場の仮囲いには、行方不明者の帰還を祈る黄色いリボンがぎっしりと貼り付けられている。旅の高揚感より、祈りの空気を強く感じる駅前風景だった。

 駅の切符売り場は長蛇の列で、10分以上待ってようやく順番が回ってきた。今日は釜山市内に泊まる予定だけど、明日から使う切符を予め抑えておく。大型連休とあって気を揉んでいたが、混雑する時間の列車ではなかったようで、すべて希望の席を抑えることができたのは幸いだった。

 ランチは駅コンコース上のロッテリアで、「韓牛プルコギバーガー」を食べた。韓国ロッテリア、旅行中は一度食べておきたいのである。ロッテリアはコンコースのフロアにもあるが、ワンフロア上がった店舗はぐっと空いていておすすめ。ゆったりソファ席もあるし、釜山港大橋を望む景観もなかなかである。

 地下鉄の駅にもぐり、券売機で地下鉄用の1日乗車券(4,500ウォン)を求めた。おおむね4回乗ればモトが取れる計算である。バスや釜山金海新交通では使えないので、旅程に合わせて賢く使いたい。

 1号線の電車に乗って、北へ上る。市庁(市役所)駅の手前では、釜山市の歌が流れるようになった。帰路の中央駅手前では、日本人にもお馴染み「釜山港へ帰れ」も流れ、地域性を感じられる放送は楽しい。

 大柄なソウルの地下鉄と違って、釜山1号線の電車は日本の電車の大きさに近く、親しみを感じられる。地上に出て、高架の駅になるのは東莱(トンネ)駅から。せっかく景色を楽しめるようになったが下車して、4号線に乗り換える。4号線ホームは地下になるので、乗り換えは高架から地下への大移動だった。


無人運転の電車は市域を飛び出す

 4号線は2011年3月に開業した、釜山都市鉄道でもっと新しい路線。ゴムタイヤを履き、ATOによる無人運転を行ういわゆる「新交通システム」で、日本では「ゆりかもめ」や「ニュートラム」でお馴染みの方式である。一昨年秋に途中駅まで乗ったことがあるが、終点まで乗るべく再び、訪れてみた。

 地下ホームにすべりこんできた、スマートな電車に乗り込む。運転士はいないので、客席は最前部、最後部まで解放されており、先頭からは地下トンネルを展望することができる。景色が広がるわけではないが、意外とアップダウンの激しい線路形状を見通すことができて、迫力ある展望だ。同じように見通しがきく福岡の地下鉄七隈線でも、必ず前方を眺めている人がいるものだが、鉄道趣味が一般的ではない韓国ではそんな人はいなかった。

 日本との違いに少し寂しい気もしていたが、途中駅で乗り込んできた二組の母子連れは、空いた席を見向きもせずに先頭部へ。「下るよ下るよ~」「すれちがうよ~」と、大喜びだ。子どもが乗り物好きなのは、万国共通の現象のようである。

 盤如(パニョ)農産物市場駅を出れば、急坂を登り地上へと飛び出した。緑豊かな山が寄り添い、足元の広い道路にはほとんど車が走っていない。郊外というより田舎の風景で、新交通システムとはミスマッチな風景だが、それがまた新鮮だ。

 4号線の電車の座席は、青が基調。釜山市のシンボルである、カモメのワンポイントが可愛い。成田エクスプレスや富山ポートラムでお馴染み、日本のGKのデザインなので、日本人にも違和感ない内装である。窓はドア間に1枚とかなり大きく、高架区間では展望が広がる。

 盤松(パンソン)の街まで来ると、住宅街が見えてきた。駅周辺には、RC造の小さな家がびっしりと並ぶ一方、背後の丘陵地には高層マンション群が林立する。飲み屋やサウナなど一通りのものは揃っているようで、大学も2つ立地していることから、若者の乗降も目立った。街との距離感がほどよく、住み良さそうな街である。

 東釜山大学駅を出ると、眼下の道路に「機張郡」(キジャングン)の看板が見えた。都市鉄道はついに、郡部にまで伸びてきたのである。ただ機張郡は広大な釜山広域市(日本で言う政令指定都市)の管轄であり、福岡で言えば糟屋郡が福岡市にあるようなもの。日本の感覚で、市内というのか郡部と表現すべきか、微妙な位置ではある。


▲地下トンネルを駆ける4号線


▲地上に出ればすっかり田舎


▲古さと新しさが同居する盤松の街


▲膜構造の安平駅


▲座席にはカモメ舞う4号線の車内



▲橋を渡る4号線の電車

 終点、安平(アンピョン)駅着。高層マンションがそびえ、ベットタウンとして終点になっているようだ。ただ機張郡の中心部まではあと数キロあり、延伸がかなえば喜ばれるだろう。駅周辺は畑地と花園で、駅前は馬糞の匂いが漂っていた。

 折り返しの電車に乗り、石坮(ソクテ)駅で下車。駅の南はリサイクルセンター、北は川で、つまり目的地となるべき場所がほとんど見当たらない駅である。駅員さんは一人だけで、暇を持て余しているように見えた。

 その分、空気はきれいに感じられる場所で、石坮川の河川敷に整備されている遊歩道を歩いてみた。川の水はきれいで、歩くにもサイクリングするにも気持ちのいい散歩道である。頭上には、4号線のシンボルといえるアーチ橋がまたぐ。時折頭上を、音も立てずに4号線の電車が走り去っていく。

 結局、隣の盤如農産物市場駅まで歩いた。周囲は市街地というわけでもないのに、駅ビルがそびえ、コンコースには大空間が広がっていた。なぜここに大きな駅を?といぶかしむが、どうやら保線担当の事務所があり、4号線の運営の中枢になっているようだ。

 東莱駅に戻り、夕方4時、釜山在住の友人らと合流。釜山大学周辺や温泉場は歩いたことがあるのだが、東莱駅周辺は初めての土地だ。まずは、街中をぶらぶらしてみた。

 人が集まっていたのは、大型マートの「メガマート」。韓国のマートといれば留学中に世話になったEマートやロッテマート、最近ではホームプラスなんかがメジャーだが、メガマートは釜山の地場企業とのこと。平屋建てで天井の仕上げはなく、棚の上には箱詰めの補充品が積み上がっていた。棚の上では曲芸のように店員さんが荷捌きしており、倉庫にかかるスペースの節約と、陳列の迅速化を図っている。

 合理的な分店員さんは少ないのかと言うと、そうではない。試食コーナーがずらりと並び、他のマートよりずいぶん多い印象だ。おかずからヨーグルト飲料まで、巡っていればお腹いっぱいになりそうだが、おばちゃんからの売り込みは激しく、1ヶ所あたり数分は売り口上にお付き合いすることになる。頂くかどうかは、くれぐれも慎重に…。


東莱と釜山大をハシゴする

 東莱駅の東側には「そこそこきれいで、そこそこ安い」飲み屋がずらりと並んでいた。夕方5時前なのに、お店ごとに2~3組は、早くも飲み始めている人がいる。流り廃れがはげしい界隈でもあるようで、10軒に1軒は改装工事中と言っても大げさではない。

 日本式居酒屋も、相変わらず多い。「火の将軍」や「サラリーマン金太郎」など、あれ、日本にこんなチェーンがあったような?というネーミングの店もあり、どこにいるのか分からなくなってくる。焼き肉や海産物、ビアホールまでなんでもござれで、南浦や西面に飽きた人にはおすすめできるかもしれない。

 ぐるぐる回った挙句、釜山市内にチェーン展開している人気店「男子ホルモン」に入ってみた。一部の席は屋台風になっていて、もちろんそこをキープ。まずはビールでカンパイ!韓国風味付けのホルモンをつまんでいれば、ビールがすすむすすむ。匂いに誘われ、野良猫がやって来た。

 フェイスブックで店のタグを付けてアップすれば、焼酎1本がサービスになるという、SNS大国らしいサービスも。日本語のFBでも、タグ付けされたことは理解されたようで、お馴染みの緑色の瓶が出てきた。おかげで、焼酎もすすむ。

 すっかりいい気分になったところで店を出ても、時間はまだ7時過ぎ。空は明るい。地下鉄で釜山大へ移動し、友人宅に荷物を置いた後は、釜山大前周辺を探検。友人は釜山大に留学しているので、学生街の案内はお手の物だ。激安のコチュプルコギやチャンポンの店など、学生御用達の店もしっかり押さえていた。

 2次会は、日本ではなかなか口に入らなくなったユッケの専門店へ。学生街の店だけに学生ばかりで、お値段も比較的、お手頃である。感染症の恐怖もなくはなかったが、久々のユッケの誘惑には勝てなかった。うまい。少し肌寒いなと思って上を見上げてみれば、屋根が折りたたまれていた。気候さえ良くなれば、外で食べたがるのが韓国人である。

 さらに3軒目にハシゴし、パジョンにマッコリ(濁り酒)を楽しむ。日本でも人気のマッコリだが、本国では庶民的な店だと、ヤカンに入って出てくる。ちょっといい店だと、小さな甕というのが定番だ。飲みすぎると翌朝に強烈なパンチを食らうことになるが、あまり細かいことを言ってても楽しめないとばかり、グイグイ開けた。

 隣の席からは日本語が聞こえてきて、何かと思えば、ライブハウスの日韓交流ライブの打ち上げだった。しかし意思の疎通がままならないということで、僕ら3人が即席通訳に。楽しい方々ですっかり打ち解け、日付が変わるまで盛り上がったのだった。


▲「男子ホルモン」でホルモン焼きを食う


▲ユッケも手頃に味わえる


▲締めはパジョンで!


▼2日目に続く
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