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1日目【12月28日】 久留米→福岡→桃園→台北
一抹の不安と共に台湾の地を踏む


9日間の生活基盤を整える


▲キティが踊るエバー航空のジェット機


▲機内もそれこそキティちゃんだらけ



▲焼き立てパンの香りが食欲をそそる機内食

 2013年12月27日土曜日のお昼過ぎ、福岡発エバー航空2105便は台湾・桃園国際空港に向けて降下を始めた。生憎の曇り空で南国の海は望めず、白い雲海の中へ潜って現れた景色は、田園地帯。一見では、成田に着陸する時の風景とよく似ていた。目に付いた違いといえば、工場の屋根が白い物が多い…強烈な太陽光線を反射するためだろうか…くらいだろうか。より地上に近付くと、6車線はあろうかという広い高速道路に、右側通行で車が行き交うのが見えて、ようやく「外国」であることだけは実感できた。

 台湾…韓国とともに、中学生だった僕が最も関心を寄せていた『国』の一つだった。きっかけは、雑誌「旅と鉄道」1992年夏の号に掲載されていた、海外紀行文2編。韓国、台湾それぞれの鉄道旅行記を通じて知った両国の鉄道は、日本の鉄道とまさに「似て非なる」もので、中学生時代の僕の好奇心を大いに揺さぶったものだった。

 その後韓国は、韓国ラジオの国際放送との出会いもあって興味を深めて行き、大学時代には留学まで果たすほどの関わりを持った。一方の台湾は、韓国よりは距離があることもあって、なかなか一歩を踏み出せないまま。休みが取れてもつい、安くて、知人も多い韓国へと足が向いてしまっていた。

 しかし2013年から14年の年末年始は、暦の並びがよい9連休である。いい加減、この機会は逃すまいと重い腰を上げ、8月には飛行機のチケットを抑えた。ただ、飛行機の予約こそ立ち上がりが早かったものの、その他の準備に至るまでは時間を要し、本格的なプランニングに取り掛かったのは12月から。冬の台北は案外寒いだとか、台湾で曜日を一〜六、日で表現するだとか、基本的な知識を仕入れたのも、つい最近のことである。

 今朝も、国際線なんだから3時間前には行くべきだろうと思い込み、9時過ぎに福岡空港に乗り込んでみたら、手続きは2時間前からと言われ出鼻をくじかれる始末。前日は2時まで飲んだし、もう1時間眠っておけばよかった…と寝不足の頭でぼおっと考えながら窓の外を眺めていたら、いつの間にやら機体は滑走路へと進入していた。21年越しの目標、台湾の地を踏んだ瞬間だ。キティちゃんだらけの機内から、ボーディングブリッジへと踏み出す。なるほど、雪が舞っていた福岡よりマシとはいえ、充分に「寒い」。

 さて、言葉の分からない外国に来るのは、まだ韓国語を習得していなかった頃の韓国以来だから、10年以上ぶりのこと。中国語はまるっきりできないし、英語も中1レベルの僕にとって、入国審査は胃が痛くなるほど緊張する瞬間の一つである。

 審査場は、さすが『国』を代表する玄関口だけあって、美しく整えられていた。到着が集中する時間のようで、外国人窓口は長蛇の列。台湾人窓口に余裕があるのは、無人の自動審査機の効果も大きそうである。コンピューターで入国審査とは、確かな技術の裏付けがあってのことだろうけど、思い切っている。人手に頼らざるを得ない外国人の緊張とは裏腹に、生身の審査官は何ら問題なく、僕をパスしてくれた。

 さて放免の身になったとはいえ、これから9日間に及ぶ旅である。まずは現金がなければ心もとない。クレジットカードは3社分持っているが、JCBとアメックス、もう1枚はVISAだが番号の凸凹がない日本独自企画のカードで、どれも台湾で通じるか確証がなかった。少し多めかなとは思ったが、見当もつかないのでとりあえず8万円を一気に両替しておく。返ってきたのは、手数料の30NT(ニュー台湾ドル、以下同)を差し引いた22,274NT。1円=3.6NTで、ひところに比べればかなりの円安らしいが、初めての僕には幸い比較対象がない。韓国だったら、だいぶ損したと入国早々ふてくされていたことだろう。

 早く街に飛び出したいところだが、もう一仕事である。9日間もの滞在となれば、通信手段を確保しておきたい。韓国ではよくレンタルケータイの世話になっているが、台湾ではプリペイドのSIMカードが便利とのことで、手持ちのスマホのSIMロックを解除してきた。携帯3社のカウンターに行って見れば長蛇の列。3社の値段は横並びとのことだが、他社と違って無料通話を使い切ってもデータ通信ができるという、台湾モバイルの列に並んだ。待つこと20分、手慣れたお姉さんに支払い、本人確認、設定まですべてお任せして手続き完了。

 ここまではスムーズだったのだが、最終的な確認には再起動が必要で、僕のスマホは起動までになぜか10分かかる。お姉さんに「ぷりーず、うぇいと、あばうと、てんみにっつ」と自信なさげに伝えてみれば、「10 Minits!?」と答えが返ってきた。僕の発音でも、通じないわけではないようだ。

 再起動が完了すれば、しっかり電波を捉えており、いつも通り使えるようになっていた。500NT(1,850円)で10日間ネットつなぎ放題、100NTの通話料付きだから、国際ローミングやwifiルータを借りるよりも、かなり割安である。ただ日時設定は初期化されてしまい、時刻の自動補正も機能しないので、手動で再設定しないとつながらないサービスもあるのは覚えておきたい。つながらなくて焦ったのは誰?…僕です。



▲曇り空の桃園空港に着陸


▲さすがに「一国」の玄関、立派なターミナル


▲台湾モバイルのカウンターでSIMを手にする


軽い散歩のはずが


▲台北行きのバスは最新鋭車両


▲ダイナミックな立体交差を繰り返す



▲台北駅前のナローゲージSL


▲久留米を思い出す裏通りだが、バイクが遠慮なく通過する

 これでようやく空港を離れられる。ここもまた美しく磨きこまれたバスターミナルに行き、「国光客運」のカウンターで、バスの無料クーポンを切符に交換した。クーポンは、台湾観光協会にFAXで申込み、郵送して頂いたものだ。協会では定期的にバスチケットや交通カードのプレゼントを行っており、行く前にチェックしておいて損はない。

 「人が多くて1本待つけど大丈夫ですか?」と念を押され、バスの切符を貰って乗り場に行って見れば長蛇の列。実際は2本待ちになり、40分ほど待たされた。この間、高速鉄道桃園駅行きのバスはガラガラで何本も出発しており、混雑時に台北市内に向かう際は高速鉄道経由のルートも一考である。すでに切符を交換してしまった僕は逃げ場がなく、行列の中で寒さに凍えた。

 ようやくやってきたバスは、ヨーロッパ調のデザインで、LED照明の最新鋭モデル。車内はなんと冷房がきいている。台湾では冷房=サービスという発想があるようで、外気温とはお構いなしに冷房を付けてしまうようだが、まさかダウンが必要な気温で冷房を効かせるとは思ってもみなかった。

 市内までは、建設中の鉄道路線を横目に、高速道路を疾走する。広々とした高速道路に、ダイナミックな立体交差、ゲートもなく高速で通過するETC。ようやく、外国に来た実感が沸いてきた。市内に入れば、道路にはバイクが溢れ、商店街には普段着の人々が日常生活を送る。はやくこの世界に飛び込んでいきたい!と、ガラス越しの風景にニヤニヤしてしまった。

 桃園空港から約1時間で、台北駅に到着。鉄っちゃんとして鉄道の駅、それも国を代表する駅ともなれば興味がつきないが、まずは宿にチェックインである。大通りの反対側なのだが、いちいち地下道に潜らされる韓国と違って、地上の横断歩道を渡れるのは、大荷物の旅行者にとってありがたい。街並みの雰囲気も、看板が少し派手かな?と思う以外は日本と似ていて、不思議の世界に迷い込んだようである。

 三越の隣にそびえる高層ビル、その名も「五鉄秋葉原」(秋葉原は『アキバ』と読ませる)へ。15階にあるゲストハウス「EASY STAY 台北」に、1月1日までの4泊を御厄介になる。ドミトリー1泊600NT(2,200円)という値段は、激安というほどではないけど、台北駅前という立地はベストだ。

 ゲストルームはビル内に点在していて、部屋ごとにシャワー、トイレもあり、鍵も渡されるので、レセプションにはチェックアウトの日に顔を出すだけになる。僕の部屋は10人部屋で、荷物はあったが誰もおらず、まだ見ぬルームメイトの皆さんはお出かけのようだった。

 ここまでで既に夕方5時。今日は移動と手続きだけで、なんだか疲れてしまった。まずは台湾に慣れるための1日だと割り切り、今夜は宿のまわりをブラブラする程度に留めよう。荷物を解き、身軽になって、15フロアを下り街に出た。

 台北駅北側も一定規模の繁華街のようで、学生の姿も目に付く。ユニクロ、ファミマ、ダイソー、吉野家…見慣れた看板も立ち並び、違和感もないのだが、まわりから聞こえてくるのは異国の言葉。ちょっとした緊張感を覚えながら、一歩一歩、開拓していく。路地裏には赤ちょうちんが下がり、テーブルで飲み食いする人々の姿。久留米の裏通りのようだ。

 しかしやはり外国で、まず違うと思ったのが建物のつくり。ビルの1階部分のみがセットバックしていて、歩行者空間として開放されている。新潟の雁木造に似た発想ではあるけど、あちらは雪を防ぐためのもの。台湾は、日差しや雨を防ぐためのものだろう。隣り合うビルとの間に段差があっても、お互いをゆるやかに結ぶという発想はないようで、アーケード街の感覚で歩いていると、つまずくことになる。

 それはいいのだが、11時頃に食べた機内食以来、何も口にしておらず、小腹が空いてきた。地元の人で賑わうおいしそうな麺屋があったので、思い切って飛び込み、身振り手振りで注文。店員さんに何か言われ、もちろん言葉は理解できなかったものの、「こちらは2名様以上の席ですので、お一人の方はあちらに移って下さい」と言われたのは、雰囲気で分かった。何かの賞を受賞したという、逸品の牛肉麺をすする。うまい!

 現金なもので、これだけでもなんだか元気と自信が付いた。衣食住のうち、衣は着てきたし、住は先刻確保、そして食もどうにか食べられたのだから、後はどうにでもなりそうだ。というわけで宿に戻らず、今度は台北駅に足を伸ばしてみた。

 台北駅は、国鉄に当たる台湾鉄道管理局(以下、台鉄)と、民間経営の台湾高速鉄道(以下、高鉄)の駅。日本で言えば東京駅に当たるターミナルだが、線路はいずれも地下を通っているので、列車の姿が見えないというのは、どこか調子が狂う。駅のターミナルの雰囲気もこれまた日本と酷似していて、サインのデザインや土産屋の並び方に違和感がなく、その土産屋にしても日本ブランドが多い。福岡ではお馴染みの「てつおじさんのチーズケーキ」には行列ができており、博多駅のコンコースにでもいる気分になってくる。

 ただ駅ビル中央に広がる大広間は、日本のどの駅でも見たことがない空間だ。荘厳な雰囲気があり、台鉄駅舎のシンボルといっていいだろう。そんな空間のど真ん中に座り込んで、列車までの時間を待つグループが多いのは面白い光景だ。他の駅でも見かけることはなく、台北駅独特の風習?のようである。

 台湾での鉄道趣味の浸透度を物語るのが、台鉄直営の鉄道グッズショップ。キーホルダーやペンなどの小物類はもちろん、鉄道雑誌まで置いてある。興味深かったのは、新型特急「太魯閣」「普悠瑪」を模した酒瓶に入ったお酒で、JR九州にも同種の商品が見られる。「太魯閣」のモデルは885系「かもめ」で、グッズのノウハウまで合わせて輸入したのではなかろうか。今日は見るだけにして、帰る直前にはごっそり買い込もう。

 コンコースの片隅には、台鉄平渓線と、日本の江ノ電の姉妹鉄道締結を記念したコーナーも設けられていた。平渓線は山の中、江ノ電は海沿いを走る路線だが、いずれも民家の軒先をかすめつつ路上を走る列車ということから、姉妹関係の成立と相成ったようである。双方の使用済み1日乗車券を、相手側の路線の1日乗車券と交換できる制度もあるとかで、ずいぶん前に使った江ノ電の1日券、持ってきておけばよかった。


▲座り込む人が多い台北駅コンコース


▲サインの色合いは日本と共通


▲台鉄夢工房には鉄道グッズがいっぱい


▲江ノ電との姉妹鉄道締結記念コーナー


土曜夜市に繰り出す


▲久留米のそれとは似ても似つかぬ善導寺駅


▲きれいに整備された入口


 台鉄の乗車は明日のお楽しみに取っておいて、捷運(しょううん)の駅に降りた。台北捷運は台北都市圏に100km以上のネットワークを持つ近郊鉄道網。捷運にあたる適当な日本語に思い当たらないのだが、地下鉄とも言えそうだし、新交通システムとも訳せそうである。長い滞在で何度か捷運に乗る機会もありそうなので、券売機でIC乗車券「悠遊カード」を購入しておく。デポジットの100NT(370円)でカード本体を買い、チャージして使う方式。乗車の度に割引もあるので、すぐモトは取れることだろう。

 さっそく板南線のホームへと下る。感心するのは駅構内がピカピカで、清潔感があること。台北駅は1997年開業だから、建築後もう16年も経つはずなのに、ひと月前にできた路線だと言われても分からない程である。捷運の駅構内は飲食禁止(よって自販機も売店もない)になっているのが、功を奏しているのだろう。清掃もマメに行われているようだ。

 捷運の電車は、外づり構造のドアが新鮮に見えるヨーロッパスタイルだが、製造にあたっては日本も関わっているらしい。車内にも清潔感があり、弱めだが冷房が効いていた。車内放送は4言語に渡るので聞き取りにくく、漢字圏の日本人にはLED表示が頼りになる。

 さっそく台北の1駅隣、善導寺駅で下車した。降りた理由はただ1つ、久留米に同名の駅と、同名の寺があるからだ。久留米の善導寺駅は古びた木造駅舎で、無人駅ながらも風情があるのだが、台北は大きな吹き抜けのある地下駅である。

 地上には駅名の由来である善導寺があり、こちらも久留米の重文建築物とは対照的な、近代的な高層ビルだった。それでも見慣れた文字を異国で見ると、親近感が沸いてくるものだ。

 疲れたらここで引き返すつもりでいたのだが、だんだん、どこまでも行ける気がしてきた。また同じ道を台北駅に戻るのもなんなので、忠孝新生で新荘線へ、民権西路で淡水線へと迂回し、剣潭駅で降りた。高架の地上駅で、ホームは人であふれている。エクスキューズミーと声を掛けられ身構えたが、どう見ても日本人。僕が乗ってきた電車が淡水行きなんで、台北行きは反対側ですよと、入国5時間目にしての道案内である。


 剣澤駅は、台北でも有名な夜市、士林夜市の最寄り駅。まして土曜日とあって、夜市に繰り出す人でごった返していた。道案内など見らずとも、人の流れに乗ってたどり着くことができた。地元の人より、外国人観光客の方が目立つ。

 夜市といえば、久留米では夏の土曜日に6回開かれ賑わうのだが、こちらは毎晩のことで規模も大きいのだから、感心するばかり。人口規模の違いもさることながら、夜に出歩くという文化の浸透度の違いも大きいのだろう。夏の台湾は、地元の人でもあまり昼は出歩かないと聞く。

 屋台で飲み物を買ったり、ビーフステーキ(150NT=550円)を平らげてみたりして、一人旅なりに楽しんでみる。射的や金魚すくいなど、縁日的な出店もあり、見ているだけでも楽しい。夜市は年に数回しかないから楽しいものだと思い込んできたけど、日常的にあっても、もちろん楽しいことだろう。

 違和感があるといえば、あまり酒を飲む雰囲気ではないことが挙げられる。屋台の中には台湾ビールを置いてあるところもあるのだが、飲んでいるのは外国人ばかりのようだ。酔っ払う人もいないし、だからこそ子連れでも安心して夜に遊び歩けるのだろう。基本的に子ども向けのはずの久留米土曜夜市も、大人にとっては外で飲めるのも楽しみの一つで、違えば違う感覚である。

 まだまだ土曜の夜は盛り上がるのだろうが、初日でもあるので、ほどほどにしておこう。秋葉原ビル1階のコンビニで寝酒を買い出しして、部屋に戻ってみれば、同室の6人は酒盛りの真っ最中。
 「すみません!盛り上がってて」
 と言われたものの、こちらも片手には缶ビールである。初対面30秒で乾杯と相成り、結局は日付が変わる時間まで盛り上がって、楽しい1日目はふけて行ったのだった。


▲路地まで人でぎっしりの士林夜市


▲吊り橋のようなデザインの剣澤駅


▼2日目に続く
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