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3日目【12月29日】 台北→花蓮→太魯閣→台北
観光列車で訪ねる大地の裂け目


楽しい・おいしい観光列車の旅路


▲台北発、台北行きの「観光」号


▲車体のラッピングは派手やか



▲野菜が美味しかったモーニングのボックス

 毎日、夜は美味しく飲んでいるが、朝も早い。

 今朝は7時に早起きして、ezTravelの観光列車利用ツアー「【秋の軽い旅行】花蓮太魯閣國家公園一日遊」へ参加する。団体専用列車「環島之星」で花蓮に出て、専用バスに乗り換え。花蓮市内と太魯閣渓谷を巡って台北に戻るという、日帰りコースである。ツアータイトルのうち「秋の軽い旅行」だけ日本語なのが、興味深いところだ。参加費は1,999NT(7,400円)。

 ツアーの予約にあたっては、ホームページの中国語をなんとか解読し、ネットで申し込んだ。海外からでもクレジット決済のおかげで、予約を確定できるのはありがたい。参加証は一昨日、高鉄台北駅のezTravelカウンターで受領しておいた。

 ツアーとはいえ、列車への乗車は自己責任。8時11分発の観光列車、「環島之星」に乗り、まずは花蓮へと下る。「環島之星」は台湾を一周する観光列車で、時計回り・反時計回りでそれぞれ毎日1本の運行。列車利用のさまざまなツアーは、このダイヤを駆使して組まれている。発車案内に「環島之星」という字は見当たらず、列車種別の「観光」の二文字のみ。ちょっと戸惑うが、行先が「台北」になっているのはユニークだ。

 環島之星は、日本のグリーン車を超えるゆとりがある3列シートで、贅沢な気分に。なお台北~花蓮間以外では、急行「莒光」扱いの普通車も連結され、一般の乗客も乗ることができる。停車駅は自強号並みに少なく、立席券の扱いもないことから、人気は高いようだ。

 日帰りツアーながら、朝食から3食付いているのは嬉しく、地上に出る頃には朝食のパックが配られた。野菜とサンドの洋風ブレックファーストは、野菜がシャキっとしていて、思いのほかおいしい。飲み物も、一人一人にカップで配ってくれて、いい気分である。ただ環島之星には食堂車があると聞いており、そこでの食事を楽しみにもしていたのだが、残念ながら連結されていなかった。帰路の列車にはあるかもしれないので、楽しみにしておこう。

 台湾の主要都市は西海岸に連なっており、東海岸を結ぶ東部幹線は、九州でいうと日豊本線的なポジション。ただ西部幹線のように、別会社の高速鉄道が並行していないため、台鉄にとって台北~花蓮間は稼ぎ頭でもある。振り子式の特急電車も頻繁に行き交い、列車種別では急行的なポジションの環島之星は、特急に追い抜かれてしまった。

 車窓に見える側溝から湯気が上がっていたので、オヤと思っていたら、最初の停車駅・礁渓に到着。温泉地とのことで、日豊本線にならすと別府の姿に重なる。さっそく下車するコースもあるようで、何人かが降りて行った一方、ゆっくり温泉に浸かってきた人たちも乗り込んできた。

 環島之星にはカウンターバー車両があり、礁渓を発車した頃から営業開始になる。各種ドリンクがフリーで、何杯でももらえるのは嬉しいところ。九州の観光列車なら地ビールや地酒を置いていそうだが、アルコール類は一切なし。この先、他の列車でも車内販売でアルコール類を見つけられず、車内で飲んでいる人も見かけなかった。公共の場で飲まないのが、台湾のマナーなのかもしれない。郷に入れば郷に従おう。

 そしてカウンターバーの奥にあるのは、何と車内カラオケボックス。こちらの利用料金も運賃込みで、無料で何曲でも楽しめる。さっそくご家族連れが盛り上がっていて、何曲も予約が入っていたけど、僕が来るとサッと曲目リストを渡してくれた。日本の曲もあるようで食指が動きかけたけど、一人で歌うのも寂しく、今回はパス。いつか誰かと乗ったら、車内で盛り上がってみたいものだ。

 ここまで3日間、台北ではぐずついた天気が続いていたが、花蓮まで下ると晴れ間が見えてきた。青く透き通った海に、南国へ来た実感がようやく沸いてくる。海の青さは違うが、2時間の旅路の果てに出会う車窓左手の海に、日豊本線の日出から別府あたりを思い出した。



▲退屈知らずのカラオケ車両


▲座席はすべてグリーン車クラス


▲太平洋が見えてきた


手に汗握る太魯閣観光


▲ガイドさんの案内でバス観光に出発


▲曇り空でも青い海



▲台湾に来て初めての豪華な食事


▲台湾を東西に結ぶ大動脈の隘路の入口

 約2時間半で、花蓮に到着。隣に並ぶのは、日本製傾斜式列車のプユマ号で、白いソニックに出会った気分である。それにしても、ムッとくる暑さ。台北とは気温そのものも、暑さの質も全然違うようである。

 駅前にはツアーの旗を持ったガイドさんが数人待機しており、EzTravelの緑の旗を持ったおじさんに受付を頼んだ。最初は僕を台湾人と思って話していたようだが、途中で日本人と分かると日本語で話してくれた。僕の名前は、台湾でもありうる字並びなのかもしれない。ガイドさんは英語までとのことで、このお客さんは中国語ができないからよろしくと、引き継いでもらった。

 よく効いた冷房が心地よい、スーパーハイデッカー(2階建てバスレベルの高さがある1階建てバス)に乗り込む。台湾の観光バスとしては一般的なスタイルのようで、むしろ普通のハイデッカータイプの方が少数派のようだ。参加者の年配の女性二人組がなかなか姿を現さず、10分ほど遅れて花蓮駅を離れた。

 どこの国もバスガイドさんは名調子で、切れ目がない車窓案内が続く。言葉が分かれば、もっと楽しめるんだろう。

 まずは最初の見学地、景勝地の七星潭へ。石ころの海岸には、曇り空にも関わらず青い海が広がる。これだけでも、来てよかったと思える風景である。2日後のお正月のニュースでは初日の出の様子も流されており、日の出の名所でもあるようだ。

 台湾の人の様子を見ていると、石ころの浜に寝そべっている姿を何人か見かけた。別に昼寝をしているわけではなく、ちょっと寝てみたり、記念写真を撮ったりしている様子である。寝ることで何か感じられるのか、何か見えるのか、結局は分からずじまいだった。

 海岸でのリフレッシュタイムの後は、市内を移動し、昼食会場のパークビューホテルへ向かった。海岸にリゾートホテルができるまでは、花蓮を代表するホテルだったそうだが、今も充分に立派なホテルである。1階にはビュッフェスタイルのレストランがあったのだが、僕らの昼食会場は2階の円卓席。テーブルには、日本人グループ(&案内役の台湾のご友人)と、ご夫婦が同席した。

 円卓に回転テーブルが乗った本格的な中華料理で、台湾に来て以来、初めての豪華なご飯にお腹が鳴る。さすがは一流ホテルで、どれもいい味だ。ご飯も進み、モリモリ食べていたら、ご夫婦がウェーターさんにお代わりを頼んでくれた。台湾の方は親切だなぁと思っていたら、ご夫婦は上海からの参加とのことだ。大陸の人というとやたら騒がしいイメージもあったのだが、ご夫婦は極めて上品。変な先入観はいけない。

 満腹のお腹を抱えてバスに戻り、本日のハイライト・太魯閣峡谷へ出発である。市内を離れること40分、台湾の東西を結ぶ標高3千メートルの隘路「東西横貫公路」入口の門をくぐれば、いよいよ渓谷である。

 渓谷までの道は大きながけ崩れが起きていたようで、大規模な復旧工事が行われていた。この辺りまではまだまだ開けていたのだが、次第に崖が切り立っていく。「大地の裂け目」という比喩がしっくりくる。

 東西横貫公路は幹線道路でもあり、狭い道では頻繁に対向車と行き違う。崖側の車が譲るというルールはないようで、谷側を走るバスがバックするシーンもしばしば。落ちれば深い谷底へまっさかさまで、手に汗を握る(心臓に悪い)シーンが連続する。運転士の腕は確かだが、何もこんなにバカでかいバスを乗り入れさせなくてもとも思う。

 景勝地、燕子口の前で下車。バスは先の駐車場へと走り去り、参加者は片道の散策路を、マイペースで散策できる。落石があるのか、安全のために、無料レンタルのヘルメットを着用。ヘルメット自体は工事現場でかぶり慣れているが、ちょっと汗臭くて、萎えた。

 燕子口付近では旧道が散策路になっており、おそるおそる渓谷を覗き込んでみれば、下を見れば深い谷、上を見上げればどこまでも高い崖。写真1枚には収まりきれないスケールである。歩く人の姿と比べれば、人間の小ささを実感するが、ここに道を切り拓いたのもまた人である。壮絶な工事を想起させる造形に、先人たちの苦労が忍ばれた。横貫公路の建設途中には、数えきれないほどの犠牲者を出したという。

 自然と人間の作り上げた造形に見入っていたら、他のツアー参加者を見失ってしまっていた。集合場所も実はよく分かっておらず、このまま台湾の山中に置いてけぼりを食らってはかなわない。きょろきょろしていたら、花蓮駅で遅れてきた2人組を見つけた。足がご不自由なようで、いざとなればサポートしますよというような体で付いて行った。

 バスが固まっていた集合場所はただの路上で、特に休憩施設や売店などがあるわけではなかった。バスを何台か留め置けるような場所すら貴重な、渓谷である。周囲からは、日本語よりも韓国語の方が多く聞こえてくる。台湾旅行がブームなのだろうか。

 再びバスに乗り、渓谷を奥へと進む。この先、まとまった街として天祥があり、そこまで行くのだろうと思っていたが、時間が足りなかったのか、バスは途中でおもむろに引き返し始めた。折り返すといっても、普通の車を一旦停車させるような空き地で、誘導もなくバックさせるものだから、怖くて仕方がない。ギリギリまで後退させて、何事もなかったかのように来た道を戻った。

 花蓮の街に戻る頃には、夕方の下校時間に。道には、楽しそうに家路に着く学生の姿が目立った。詰襟やセーラー服は見かけず、ジャージのようなラフな格好の学生ばかり。これが通学服のようで、日本や韓国とはずいぶん違う。

 バスはパークビューホテルに戻り、お土産購入の時間か何かと思い降りかけたが、宿泊付きコースの人を降ろすため立ち寄ったのだとか。全員が日帰りコースかと思い込んでいたが、この先南を目指すコースも同舟していたのだ。一晩ゆっくりして、明日の環島之星で下っていくのだろう。毎日同時刻に1本走っている列車なので、各都市で24時間滞在するコースになるわけである。効率もよく、九州でも応用できる列車の運行形態ではないかと思う。

 1/3ほどの参加者を降し、16時40分に花蓮駅へと戻った。17時発の台北行き「環島之星」まで、いい頃合いであった。


▲大型トラックとおそるおそる擦れ違う


▲岩に飲みこまれてしまいそうな散策路


▲ここに道を築いたのもまた人


▲運転士さん、お疲れ様でした


ツアー後の夜も街歩き


▲電源車が切り離され薄暗いな車内


▲食堂車がなくて残念だけど、おいしかった池上弁当



▲台湾の中枢、総統府

 台北行き「環島之星」は花蓮駅発車15分前の、16時45分には到着した。15分停車の間に、急行「莒光」扱いの普通車の切り離しと、「環島之星」用客車の増結が行われる。一時的に電源車が切り離されるため、残された車両の車内は真っ暗になっていたが、乗客は特に気にする素振りはみせていなかった。

 残念だったのは、帰路の「環島之星」にも食堂車の連結がなかったこと。台湾唯一の車内での食事も楽しみだったし、台鉄の萌えキャラがラッピングされた「痛車」状態の外観も見てみたかったのだが…。実際、いつ連結しているのだろうか。

 行きと同じ、ゆったりした3列の座席に納まって、台北まで3時間弱の旅がスタート。発車してほどなく、食堂車代わりの夕食として駅弁が配られた。米どころとして有名な池上米を使った、「池上弁当」である。中身は台湾の弁当としてポピュラーな形式の、肉をどんとご飯の上に載せた「排骨飯」。初めての台湾の駅弁は、おいしかった。

 さらに1時間ほど経つと、デザートが配られた。沿線のお菓子に、ボリュームたっぷりのフルーツ盛り合わせが付いていたのは台湾らしい。甘くてみずみずしい果物は南国ならではで、これだけでお腹がいっぱいになりそうだった。

 帰路はみなさんお疲れなのか、カラオケ室で楽しむ人はいなかった。代わりに車掌さんと乗務員さんが、乗客と同じ池上弁当をつついていた。行きの列車でも車掌さんが居座っており、乗務員休憩室を兼ねてしまっているようだ。

 だんだんと灯火が増えて行き、20時前、台北駅に到着。台湾で初めての長距離列車の旅は、風変りで楽しい体験だった。

 でもまだまだ1日は終わらない。宿に荷物を置いて、夜の街並み散策へと出かけた。台北駅から南側が官庁街になっており、歩いても10分少々の道のりである。

 台湾の中枢、総統府は日本時代の建物で、中央の塔屋には「慶祝中華民国開国一〇三年」の明朝体の文字が掲げられていた。明るいイメージを持ってきた台湾だが、やはり中枢ともなると、近寄りがたい威厳を感じる。ただ総統府前に立ち並ぶ亜熱帯植物は、南国の雰囲気も醸し出していた。

 さらに歩いて西門町へ。官庁街とはうって変って、こちらは若者の集まる繁華街である。明日は大晦日とはいえ普通の出勤日なので、平日の夜の感覚のはずだが、それでも真昼のような賑わいである。クリスマスが終わってもう1週間経つが、通りはツリーの飾りがそのまま。花蓮のパークビューホテルでも「MERRY X’mas & HAPPY NEW YEAR」なんて飾り付けもあったし、日本人がせっかちなだけなのかもしれない。

 レンガ造の西門紅楼の周囲はオープンカフェ風になっていて、お洒落にお酒も楽むこともできるようだ。外で堂々と飲んでいる光景は、台湾3日目にして初めて目にしたが、大声で騒ぐ人もおらず大人な雰囲気である。

 歩行者天国は明るく、夜中の繁華街だが危なっかしい感じはない。店もほとんどが開き買い物も楽しめて、このあたりの感覚は韓国に近い気がした。

 あてもなくウロウロしていたら、何やら行列のできている店を発見。店の周りでは、大勢の人が立ち食いで麺をすすっていた。弁当一個を収めただけでちょうど小腹も空いてきていたし、何より寒い体を温めたくなって、列に続くことにした。10人以上並んでいたが、店の人の手際がよく、5分も待たなかった。

 最初は「小」(45NT)を頼むつもりだったが、おいしそうだったのでつい「大」(60NT=220円)に方針転換。箸を渡されずに戸惑っていたが、周りの人を見るとレンゲを使って器用に食べていたので、見よう見まねですすってみた。ホルモンの入った麺は独特の風味はあるが、つるりと入りおいしかった。

 後から知ったのだが、この「阿宗麺線」さんは、なかなかの有名店のようである。たまたま出会えて良かった。

 西門から1駅、捷運に乗って台北駅前へ。部屋に戻ると、埼玉の教師4人グループが帰った後のベッドは、きれいに埋まっていた。10人部屋の半分近くが入れ替わった格好だが、すぐに意気投合である。

 1人は韓国の会社員さんで、思い立って来たものの、あまりの寒さにびっくりしたとのこと。半袖、半パンで過ごすつもり満々だったそうである。あちこちで韓国の人を見かけたことを話すと、なんでもバラエティ番組で台湾を旅する企画モノがあったそうで、それ以来一種の「ブーム」になっているのだそうだ。どうりで最近、福岡でもめっきり韓国人を見なくなったはずだ!と返すと、最近の日本、右傾化がひどいじゃないですかとポツリ。まあ韓国からの視点だと、そう見えてしまうものだろう。

 とはいえ一個人、一旅人の同世代に壁はない。トイレ、シャワーは10人もいると混んでしまうので、シャワー中でもカギはかけずにトイレを使っていいとうルールを確立。そして今夜も酒盛りが始まるのだった。



▲西門町にはクリスマスツリーが残る


▲夜中でも安心して歩ける西門町


▲肌寒い中麺線をすする


▼4日目に続く
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