北濃駅は、延長72キロを誇る長良川鉄道・越美南線の最果ての駅。ここを始発駅に鉄道の旅を始めるというのも、なかなかオツなものである。無人駅だが、かつての有人窓口の上には、「エキゾチック・ジャパン」キャンペーンのステッカーが残っていた。郷ひろみ「2億4千万の瞳」がCMソングだったことでも知られる、旧国鉄のキャンペーンである。
広い北濃駅の構内は、無人駅とは思えないほど手入れがなされており、転車台も残っている。一日わずか8.5往復の列車を迎え入れるだけの駅なのだが、周辺の方々に大事にされている駅なのだろう。ホームの先端には「終着駅」の看板が立つが、島式ホームはこの先の延長を目論んでいたことが分かる形態である。福井県側の越美北線と結ばれる日は来ないのだろうが、もし結ばれていたら両県の間の流動はどう変化していたのだろうと思う。
長良川鉄道のディーゼルカーは単色塗装で、JR西日本と同じく経費節減策なのかもしれないが、新しい軽快気動車ながら、渋い味わいを醸し出している。セミクロスシートの車内には、座席にも網棚の上にも、郡上市の観光ポスターがずらり。どのポスターもセンスがあり、旅気分が盛り上がってくる。これから郡上八幡に向かう観光客としては、歓迎されている気分だ。車内に差してあった観光パンフレットは、のちのち役に立つことになる。
白川郷から乗ったおじさんと共に、三人を乗せて出発。ローカル線らしいなと思ったが、駅ごとに小まめに乗客を拾っていき、白鳥駅では家族連れも載せてさらりと座席が埋まった。白鳥駅は木造の大柄な駅舎で、駅員さんも詰める。家族連れの実家なのか、見送るじいさん・ばあさんの姿に、タイムスリップしたかのような錯覚に陥った。
線路には東海北陸自動車が並行し、目障りでもあり、長良川鉄道に与えている影響も小さくないだろうとも思う。しかしそんなことは無関係かの如く、長良川沿いを、のんびりと走る長良川鉄道。先頭から流れる川を見つめる乗客の子どもたちにとっても、輝く夏の思い出になっていることだろう。
約45分で、国鉄の雰囲気を色濃く残す、郡上八幡駅着。ここで「途中下車」する。僕が手にしている切符は、白川郷〜北濃の白鳥交通と、北濃〜美濃太田の長良川鉄道を乗り継いで利用できる割引きっぷ。通常運賃3,850円が3,000円になる上、途中下車自由なので、降りれば降りるほどトクになる計算だ。しかも二日間有効で、僕らの旅のためにあるような切符である。
ただ切符の通し番号は、七番。四月二〇日の発売から三ヶ月近く経っているのに、白川郷発では十枚も売れていないようだ。
|
▲夢途切れたどん詰まりの終着駅
▲夏の思い出を残し行く
▲時代がかった郡上八幡駅
|