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始発駅へは鈍行乗り継ぎで

 2013年3月23日、南九州の第3セクター鉄道「肥薩おれんじ鉄道」に、新たなる観光列車が走り始めた。その名は、「おれんじ食堂」。

 工業デザイナー・水戸岡鋭治氏のデザインによる観光列車、といえばJRの観光列車ですでにお馴染みだが、おれんじ食堂のコンセプトは大きく異なる。調理室こそないものの、沿線とタイアップして本格的な食事を提供する、限りなく「食堂車」に近い列車だ。このような列車が生まれた背景を探ると、おれんじ鉄道の挑戦と覚悟も垣間見えてくる。

 話題性充分の列車ながら、運行開始当初はマスコミへの露出は少なく、前例もない列車だけに成功するかはなんとも未知数。ぜひ実際に乗って、「体験」したい列車の一つだった。

 そこでGW前半戦の中日。職場の仲間5人とともに、満を持して走り出した西海岸のグルメ列車を「体験」しに行くことにした。


▲ホークスラッピングの特急電車で旅をスタート

▲新幹線なら20分の熊本へ1時間半かけて到着


▲SLは今日も大人気!

 今回利用したのは、仲間うちの旅行でよく使う「旅名人の九州満喫きっぷ」。九州全線の普通列車乗り放題が、1日乗り放題×3回分で10,500円というきっぷだが、私鉄も全線乗り放題になるのがミソである。肥薩おれんじ鉄道ももちろんエリア内だし、おれんじ食堂にも指定券別払いで乗ることができる。

 乗る駅は久留米市内各所から熊本まで、各人それぞれなのだが、JR、西鉄に関係なくすべてに対応できてしまうのが、満喫きっぷのすごい所だ。まずは甘木線大堰駅から乗ってきた同僚と花畑駅で合流、西鉄特急で大牟田へと下った。

 いつもの8000系特急電車なのだが、久留米・花畑以南に下るのは旅行の時くらいなもの。クロスシートに座り、のびやかな田園風景を眺めれば旅気分も盛り上がる。GWなど多客期にはロングシート車が代走することも多いのだが、今回は運が良かった。発表されたばかりの人事異動など、無粋な話題で盛り上がっていれば大牟田までの30分なぞあっという間である。

 大牟田駅で、隣接するJR駅へ跨線橋を渡り乗り換え。JRで下ってきた別の同僚と合流して、普通電車で熊本へと下る。こちらは415系1500番台4両編成…つまりはロングシートで残念。昼間の時間帯は817系の革張りシートに座れることが多い区間なのだが、朝はラッシュ対応の車両になっている。実際、2両ワンマンでは運びきれない人数が乗ってきた。

 熊本駅では30分のインターバルがあり、帰路に備えてフレスタでお土産の「下見」。ホームに上がればちょうどSL人吉号の出発準備中で、乗るわけでもないのに客室乗務員へ記念撮影をお願いしたら、快く引き受けてくれた。ありがとう、今度はこちらに乗りに来ます。

 熊本からは817系の快適なシートに揺られれば、「おれんじ食堂」の北の始発駅である、新八代駅に到着。ここまで約3時間の道のりだった。


華やぎを取り戻した旧鹿児島本線

 新八代駅に到着したのは、「おれんじ食堂」の発車9分前。新幹線との乗り換えに便利なように、新八代駅に乗り入れる おれんじ鉄道の列車は多いが、広範囲から観光客を集めたい おれんじ食堂も1駅乗り入れを踏襲している。狭いホームには、期待に胸膨らませた団体客であふれていた。

 熊本方の引き上げ線に待機していた「おれんじ食堂」が入線。本線上のホームではあるが、最大限の停車時間を確保してくれているのは、嬉しい配慮だ。始発駅からの乗車たるもの、席に落ち着いてから発車時間を迎えたいのが旅人の人情というものである。

 「水戸岡デザイン」の列車では、ドアが開き車内に入った瞬間、乗客らから わあというと歓声を聞くことが珍しくない。それはこの列車でも同じだった。今回の旅の友の5人は、特に鉄道好きというわけではないけど、30代前半(独身)の感性に充分響く列車のようである。

 JRを通して予約した2号車の「座席」は、海側の向い合せテーブル席が2つずつと、山側の半個室風のソファ席が1つ。乗車時間は約3時間なので、1時間交代で回そうということになり、ひとまず進行方向逆向きの席に座ったところで発車と相成った。

 まずはレストランよろしく、おしぼりのサービスがまわってきた。ありがちな安っぽい紙製のものではなく、温かい布製なのが嬉しい。続いて巡ってきたクルーは「お願い」の姿勢。なんでも今日は、TBSの朝の情報番組の取材クルーが乗ってくるとかで、取材への協力依頼と、顔出しOKの確認だった。みのさんにいじられては かなわないけど、素人相手に毒舌は吐かないだろうと承諾した。

 改めてTBSの取材陣が、挨拶に回ってきた。翌日に放送されたオンエアでは2分程度の特集だったのだが、実際には3時間、ほぼ休む間もなく取材に勤しんでおられたのだから、大変なお仕事である。ちなみに僕もインタビューを受けたのだが、ディレクター氏の「誘導」に忠実に答えたら、見事全国デビューと相成ってしまった。

 鹿児島本線を走ること数分、落ち着く間もなく、八代駅到着。おれんじ鉄道の旅は、この駅から始まる。6分間の停車時間は、記念撮影タイム。ここから乗ってくる地元の方もおり、1、2号車ともざっと7〜8割の乗車率となった。GWはほぼ満席との情報を得ていたが、ちらほらと空席も残った。


▲それでは乗り込みます!


▲「お願い」にまわる朝ズバ取材陣


▲ペットボトルの水もサービス


▲八代駅で出発を待つ食堂車。展望席にはデコポンが。


▲山側の座席は、個室感覚に



▲佐敷駅の駅マルシェ

 八代を発つとJR肥薩線と分岐し、球磨川を渡る。トンネルに入ると、海側のテーブルにしつらえられたランプシェードが輝き、いいムードに。ディナータイムに運行される3号はコース後半、この雰囲気で走るのだろう。

 日奈久温泉を出ると、さっそく東シナ海が車窓の友となる。在来線特急「つばめ」の頃は、海でも眺めながらコーヒーでもとビュッフェに立った頃だが、おれんじ食堂ではコーヒーとフレッシュジュースがフリードリンクになっていて、ウエイターさんに頼めば持ってきてくれる。ごく普通のレギュラーコーヒーではあるのだが、走る車内できちんとした陶器のカップで供してくれるのが嬉しい。

 さてこの「おれんじ食堂」は、2号車と1号車では内装もサービスも、そして料金も大きく異なる。

 1号車はダイニングカーと称し、1つの空間にダイニングテーブルが置かれたレストランスタイル。大人数での利用も楽しそうである。新八代から川内までの全区間乗車が基本で、食事の他、沿線各駅でのお土産も付いてくる。料金は、昼の列車で12,800円、夜の列車では14,600円とかなりのお値段。ツアーでの利用も、この1号車となるようだ。

 一方の2号車は前述のような内装で、少人数での利用はこちらが良さそう。区間利用もOKで、乗車券プラス指定券1,400円で利用できる。指定券としては高値だが、ゆったりした座席やフリードリンクのサービスを考慮すれば、お値打ちとも言える。食事は4,500円で追加もできるので「食堂車」的な利用もOKだし、駅弁を持ち込むのもテである。

 乗車して約1時間で佐敷着。1駅目の「おもてなしマルシェ」の開催駅である。1号車の乗客は、用意されたお土産品を券と引き換えにもらえるが、僕ら2号車への販売分も準備してくれている。揚げたての馬肉コロッケは美味だし、から揚げは後から食べたが、時間が経っているにも関わらずジューシーさが残っていた。ただここで飛ばしすぎると、あとあとお腹が辛くなってくる。

 佐敷駅といえば特急「つばめ」が停車していたのに、新幹線には通過されてしまい、寂しくなってしまった駅の一つ。観光列車の登場は、駅に華やぎを添えてくれたようだ。


沿線の期待を受けつつ走る

 1時間経ったので、約束通り「席替え」。今度は山側のソファ席におさまった。海の車窓は遠い代わりに、プライベート感を重視したつくり。一部の席には、隣席との可動パーテションがあり、通路との間にあるレースのカーテンを引けばレストランの個室の雰囲気になる。ゆうに3人は座れそうな幅があり、ゆとりは充分。カップルや夫婦での利用にも良さそうだ。

 忙しそうなウエイターさんに恐縮しつつも、今度はフレッシュジュースを頼んでみた。デコポンを車内のジューサーで絞ったそれは、市販のジュースとはまったく違うもの。つぶつぶが残り、果物感そのままの美味しさが残っていた。これを飲むだけでも、価値がある。

 さて再び車内に目を向けると、水戸岡デザイン列車らしく、楽しい仕掛けがあちこちにある。列車の前後には、運転士気分を楽しめる展望席があるのだが、小さな椅子とかさ上げされた床から分かる通り、子ども専用。無理に大人が座ろうとしても、前を向けない寸法である。全体的には大人の雰囲気の列車だが、将来のお客様への配慮も忘れてはいない。実際に子どもの乗客も何人かおり、展望席はお気に入りの様子。客室乗務員に相手してもらいながら、終始ゴキゲンだった。

 1号車には、食事の盛り付け舞台でもあるバーカウンターがある。有料のアルコール類も各種取り揃えてあり、沿線の焼酎は300円と良心的なお値段だ。夜の列車であれば、ぜひワインでも開けたい雰囲気である。列車グッズはメモ帳や入場券セット程度のものだが、今後充実していくことだろう。

 トイレは2号車にあるが、その壁面はショーケースになっていて、きじ車や薩摩切子など沿線の特産が並ぶ。定員外のソファやスタンディングカウンターなど、フリースペースが多いのも観光列車らしいところ。長旅も飽きない工夫が施されている。

 11:40、新水俣着。新幹線との接続駅とはいえ、おれんじ鉄道側は狭いホームが1本あるだけの無人駅である。新幹線からの乗り継ぎなのか、この駅から乗り込んでくる乗客の姿もあった。前半の海の眺めや佐敷駅は楽しめないけど、時間のない向きには、2号車ならこういう乗り方も可能である。

 水俣駅で、2度めのマルシェ。停車時間は14分とってあり、改札の外にもどうぞど乗務員さんに勧められ、駅前を軽く散策する余裕もあった。我らが一行、駅前の巨大な木製ドームに目を奪われているのかとおもいきや、その下にあるゴミ置き場のゴミ出しルールへ、いろいろと突っ込みを入れていた。ところ変わればルールも変わるけど…。


▲コーヒーとフレッシュジュースはフリードリンク


▲子どもには特等席!


▲トンネルに入ればムード満点


▲出水駅では慌ただしく積み込み作業が行われる


▲待ちに待った本日の料理。これにご飯が付く



▲列車を見送る阿久根市の西平市長

 水俣駅を出たところで、いよいよ食事の準備が始まった。食事の積み込みは次の出水なのだが、セッティングはそれまでに済ませてしまうようだ。厨房のない食堂車、何かと段取りに工夫を要するようである。

 出発時から敷かれているオレンジ色のランチョンマット…これはゴム製で、揺れる車内でのすべり防止にもなっているようだ。箸、スプーン、フォークは、いずれも使い捨てではない木製又は金属製。オレンジ色のタレのようなもの、これは何に使うのだろう?ご飯のお供には3品…豚味噌、じゃこの佃煮、有明海苔と、地元の味の数々だ。

 そして阿久根産豚、長島産鯛、出水産元気鶏などなど、お品書きに並ぶ特産食材のオンパレード。どんな料理が出てくるのだろうと、ワクワクする。が、出水までは少々時間がある。お預け、の状態がしばし続く。

 お預けの間に、列車は熊本県と鹿児島県の県境を越える。その境界は小さな川で、その名も境川。石橋がかかり、古来からの主要幹線だったことが分かる。列車は一旦停止。ただいま1号車は鹿児島、2号車は熊本ですとのアナウンスに、車内が沸く。おれんじ鉄道には何度か乗ったが、初めての車窓だった。

 出水駅着。5分停車ではあるのだが、中央の業務用扉にはワゴン、ジャー、スープ用の保温サーバーなどなど、大量の食事が一気に積み込まれる。クルーのほとんどが作業に当たり、これは大変だ。見物しようとカメラを構えていたのだが、邪魔になりそうで早々に退散した。

 発車して間もなく、配膳の時間となった。まずはお重。お品書きに書かれた多彩な料理が、ぎっしり詰まっている。写真で見て、仕出し弁当のようなイメージも抱いていたのだが、コース料理にすれば3〜4皿にはなるのではないかというボリュームだ。季節を映した「さくらご飯」とスープは別皿で、暖かいまま出てくるのが嬉しい。

 何から手を付けていいものやらと迷いつつ、地元の味を愉しむ。一品一品がおいしい。温かいご飯とスープが、おかずを引き立てる。スープはお代わり自由とのことだが、ご飯もおいしくて、リクエストしたら持ってきてくれた。遠慮しなければ4杯は食べられたかもしれない。

 出水から20分で、阿久根着。3駅目の駅マルシェ開催駅だが、2号車の乗客は食事に夢中で動かない。阿久根のことも忘れないで!とばかりに、黄色のハッピを着た市の方が車内を回り始めた。ウニ丼祭りのパンフに加えて、絵葉書やボンタン漬けまで付けてくれる心遣いが嬉しい。1号車に渡ろうとしたところで、車内から「市長、こっち向いて!」との声が聞こえびっくり仰天。なんと阿久根市の西平市長、その人だったのである。

 阿久根といえば、佐敷と同様新幹線に素通りされてしまった街。沈滞する街の勢いを背景に市政は大混乱に陥り、前回の市長選も市を二分する争いになったことでも知られている。接戦を制した市長の飾らない、誠実な仕事ぶりには好感を持ったし、おれんじ食堂に賭ける期待も大きいのだろう。帰路には沿線で一駅途中下車することにしていたのだが、阿久根市内にすることに決めた。


苦境3セクの起死回生に向けて

 食事のボリュームはかなりのもので、すっかり満たされたところで おれんじ鉄道随一の絶景区間へ。牛ノ浜の岩場が続き、海の透明度も増したように感じる。デザートは、シフォンケーキにイチゴにムース。こちらも、一つ一つがおいしい。列車の速度は20〜30km程度に落とされ、デザートタイムをゆったりと堪能できた。

 3時間以上に渡る行程はかように充実していて、時間の長さはさほど感じずに過ごすことができた。TBSへのインタビューで答えた言葉を引用すれば、満足度120%だ。新幹線で数十分で通過してしまうよりも、何倍も充実した時間を過ごせること請け合いである。

 課題と思えるところも、なかったわけではない。クルーの接客は総じて行き届いていたものの、JR九州の「かゆい所に手が届く」接客には まだまだかなわない。鉄道業界トップクラスの会社と比べるのは酷かもしれないけど、同じ地域を走る鉄道だけに、乗客は否応なしに比較していることだろう。長く走るうちに、磨きをかけて行ってほしい。

 サービスは多彩で楽しいのだが、分かりにくさはあった。ドリンクは乗務員さんに頼んでよいものか分からなかったし、別料金の食事代もいつ払えばいいか分からず、こちらから声を掛けて支払った。車内放送による案内は適宜行っているのだろうけど、ディーゼルカーのためなかなか声が通りづらい面もあるようだ。乗客への直接の声掛けによる案内、例えばフリードリンクは、最初の1杯をウェルカムドリンクとして全員に注文を取るのも方法だろう。

 料金は、高いのか安いのか。かかる手間と人手を考えれば、少なくとも2号車においては妥当な額だろうと感じた。車内の雰囲気も2号車の方が好みだ。実際に1号車に3時間乗ってみれば、どんな気分になるのだろう。夜の列車だと生演奏のサービスもあるらしく、いずれは一度体験してみたい。


▲デザートも一品一品がおいしい


▲南に下るにつれて透明度を増していく海

▲折り返し時間は記念撮影場に


▲かたわらでは給水作業が進む

 JR九州の観光列車は、「特急」と言いながらも特定料金で安く乗れるものが多く、豪華な内装と相まってお得感がある。ただこれは、アクセスに新幹線を使ってもらうことで、全体でペイすればよいという考えあってこそ実現できるもの。おれんじ鉄道の場合、単体で利益を出さねばならず、その答えの一つが高付加価値・高運賃である。

 車両デザインという形こそ水戸岡氏の労作ではあるけど、列車を企画し、沿線レストランとのタイアップや、乗務員の人材育成、広報等々、ここまでに超えてきたハードルは数えきれぬほどあったろう。食事は月替わりになるそうだが、それ以外にも飽きない工夫を重ねて、何度でも乗りたくなる列車を目指してほしいものと思う。

 たとえば夜の下り3号の予約が比較的少ないとのことだが、夏の名物の夕焼けビール列車を「おれんじ食堂」で仕立てても面白いではないか。八代〜川内の通し運行にこだわらず、日によっては途中折り返しの熊本発着列車があると、利用しやすいという人もいるだろう。ここまでのアイデアを形にできた会社である。まだまだ楽しませてくれるだろうし、僕自身も応援していきたい。

 地元紙の報道によれば、おれんじ食堂の当初1ヶ月の乗客は1,700人と、運行日数を増やした効果もあって好調だったとのこと。食事やグッズ収入の除いた純粋な運賃増収分は、1万人以上の乗客が増えたのと同等という記述は、大きな意味を持つ。弱小3セクが1ヶ月に1万人以上の乗客を獲得するのは、至難の業である。

 下り1号は、出水〜川内間に食のイベントが凝縮された感じで、デザートを食べ終えたところで川内着。朝ズハチームの取材を受ける横では、折り返しの準備が進む。大量の使用済み食器を降ろす傍ら、2号の食事もフルセットで積み込まれていた。水道ホースをつないでの飲料水の給水も、この時間内に行わなくてはならない。苦労は多い列車だけど、多くの人に愛されていきますように。



帰路は沿線を乗り降りしながら

 川内では折り返しに40分ほどの時間があったが、朝ズバ取材陣との雑談やお土産選びを楽しんでいたら、あっという間に過ぎてしまった。帰路は飾らない、おれんじ鉄道の普通列車で一駅一駅、丹念に戻っていく。不振が伝えられるおれんじ鉄道ではあるが、帰路の列車は概ね、6割程度の乗車率はキープしていた。ほとんどは、地元の日常の利用客である。

 帰路の途中下車は阿久根市内と決めていたが、海の景観に惹かれて、牛ノ浜に決めた。駅は標高14m。階段を下れば、牛ノ浜の岩場である。初夏の陽気だったこの日、海を渡ってきた風が気持ちいい。近付いても透き通って見える海は宝箱である。岩をひっくり返して、磯の生き物の観察に熱中。ウニ漁にまわるおばちゃんもいて、恵みを感じられる海だった。

 駅前の食堂は阿久根の「ウニ丼祭り」の協賛店で、祭り期間中は各店均一、2千円で新鮮なウニ丼を食べられるそうだ。お腹いっぱいでなければ、間違いなく手を出していたことだろう。この時期、おれんじ食堂の昼食にウニ丼というのも、絶好の阿久根PRになるのでは?生ものの提供は難しいだろうか。

 ちなみに牛ノ浜駅の標高を知ったのは、津波の警戒看板があったから。同時に、川内原発から20km圏内の場所であることも知る。福島の広野町や南相馬市の様子がふと頭に浮かび、「万一」のことに想像が及んだ。

 牛ノ浜から八代までは、2時間乗り放し。メンバー一同、後ろの席の人なつこい少女と遊びながら、なごやかな時間を過ごす。普通列車はその名の通り、すっかりローカルな雰囲気だった。

 日奈久付近で再び東シナ海に出会う頃には、陽が陰り始め、車内はほんのりオレンジ色に染まる。先頭から線路を眺めてみれば、カーブの続く隘路。特急「つばめ」が走っていたとは、信じられないような線路である。九州新幹線が南部から開業したのも、こうして見ると頷ける。

 日奈久温泉駅で、おれんじ食堂の下り3号とすれちがった。車内に乗客の姿があまりなかったのは残念だが、夕陽に照らされいい雰囲気だ。夕暮れの海は素敵な風景に違いなく、次回はぜひ3号に乗ってみたいと思う。


▲海の恵み多き牛ノ浜の海岸


▲日奈久温泉駅で再会した おれんじ食堂



▲海岸の細道を行く

▲夕暮れの市電はぎっしり満員

 八代でJRに乗り継ぎ、熊本へ。ここからは幹事をバトンタッチ。熊本市の現地人の案内で、まずは市電に乗った。LRT型の低床電車が走る近未来イメージの熊本市電だが、重いモーター音の旧型電車もまだまだ現役。土曜とあって夕方から繁華街に向かう乗客で、ぎっしり満員である。この電車も「満喫きっぷ」の適用範囲。均一運賃はたかだか150円ではあるのだが、トクした気分だ。

 案内してもらったのは、新町の「ひもの居酒屋」。肉厚のふっくらした干物が絶品で、ついついお酒も進む。そして熊本で1杯やってもその日のうちに帰られるというのは、ドライブ旅行にない愉しみだ。干物以外のコース料理もおいしかった。エンゲル係数が高い1日ではある。

 2時間のおいしい時間を過ごし、市電で上熊本に上って815系の普通電車で大牟田へ、3000形の急行電車で久留米へと向かって、無事に久留米に帰着。「乗りっぱなし」ではあったが、おいしいもので満たされた、満足の1日だった


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