後続のバスは旧道経由で、乗客は数人だった。幅の狭い旧道を、60km近くで飛ばす。対向車とのすれ違いもお互い慣れた感じで、クラクションだけでなくパッシングを交わすのがこのあたりの「流儀」らしい。
川の向こう側には、がけに張り付くように高千穂鉄道の廃線跡が続くが、もともとが細い鉄路だけに、自然に還ろうとしている。いつしかこちら側に廃線跡が移ってきていたが、鉄橋跡はなかった。水害で、完全に流出してしまったのだろう。
30分で日の影駅着。旧駅名は日之影温泉駅で、温泉のある駅として有名だった。駅舎はそのまま残り、温泉センターの施設もそのまま営業中である。ホームの跡には、2編成の気動車が止まる。ここ車両が今夜の宿、簡易宿泊施設の「TR列車の宿」だ。
チェックインは17時半頃までに済ませてほしいとのことだが、バスの時刻まで待ってもらった。水曜日に予約が取れたくらいなので、ガラガラなのかなと案じていたが、1部屋を残し満室とのこと。3連休とはいえ、人気なのは喜ばしいことだ。
僕の部屋は1人用の「影待駅」で、トイレと玄関は増築されたプレハブにあり、部屋は車両の部分に当たる。車内はすっかり改装されているが、窓や照明は列車時代のまま。畳敷きなので、和風個室寝台といった風情だ。
タオルや洗面用具の備え付けはないが、液晶テレビや冷蔵庫、ポットなんかは置いてあって、「簡易宿泊施設」としては充実している。これで3,500円は、なかなかのお値打ちだ。2人用の部屋だとトイレが運転台にあったり、4人用の部屋だと運転台や運賃箱が残されていたりするらしく、グループ旅行で再訪してみたい。
風呂とご飯は「駅」が便利。食堂では、宮崎らしくチキン南蛮を夕ご飯にした。売店はご近所向けの商店を兼ねているらしく、日用品も扱っているが、酒類だけは高い。ささやかながら鉄道資料室もあって、高千穂鉄道時代の資料は懐かしかった。
温泉は循環湯。お湯自体にさしたる特徴はないけど、小さな露天風呂から渓谷とホームを眺めるロケーションがよかった。夜とあって渓谷は音から感じられる程度だけど、ホームには照明が灯り列車も止まっているから、駅の雰囲気は満点。夜は長いので、ゆったりと温まった。
9時に温泉が閉まってしまえば、谷間の集落は深夜の装い。日頃なかなか取れない読書を、ゆったりと楽しんだ。
|
▲急カーブ続く隘路を行く
▲闇夜に明りを投げかける列車の宿
▲日之影温泉駅1階には資料室も
|