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3日目【2013年2月11日】
島原鉄道南目線

久留米→島原→口之津→天草→熊本→久留米



乗り継ぎで広がる高速バスネットワーク

 九州の高速バス網は、天神中心。各都市から福岡に出るのには便利だが、福岡以外の各都市間のバスは少なかったり、そもそも便がなかったりして、あまり便利とは言えなかった。バス同士を乗り換えようにも、分岐点である鳥栖から福岡まで戻らねばならず、時間的なロスが大きかった。

 そこで、鳥栖に近い基山PAにほとんどの高速バスを停車させ、相互に乗り継ぎできるようにすることでネットワークの強化を図る社会実験が、2007年から始まった。割引運賃やバスロケシステムなど、乗り継ぎを支援するシステム構築も進んだ。実験終了後も、バス事業者による取組みが続いている。

 主要都市間や空港までのアクセス改善が主眼の取組みだったが、久留米からも便利になった。今まで大分や長崎方面のバスに乗ろうと思えば、天神まで出るか、高速道路上のバス停まで誰かに送ってもらうほかなかったのだが、空港バスで基山に出れば、どこでも行けるようになったのである。基山PAに駐車場が整備され、パーク&バスライドの利用も盛んだ。

 というわけで3日目の目的地、島原を目指すため、JR久留米駅前から福岡空港行きバスに乗り込んだ。朝7時、飲み会翌朝の頭は重い。

 高速基山着。高速民営化後、サービスエリアにはいろんな業態が参入しているけど、基山PAの上り線には以前からロッテリアが入っていてた。朝ご飯はロッテリアでモーニングと思い行ってみたら、モーニングメニューはないとのこと。朝から重いハンバーガーではぞっとせず、下り線に移動することにする。

 基山バス停で上下線を乗り継ぐには、いったん敷地外の道路に出なくてはならない。社会実験で案内看板が整備され、迷うことはないのだが、なんせ郊外の山の中。昼間はまあいいとして、夜の女性の一人歩きには不安があるだろう。本格運用に移ったのだし、バス停同士を直結するような地下道の整備が必要と思う。

 島原行きの出発までは30分あったので、ドトールでモーニング。バス同士の乗り継ぎには時間の余裕が肝要。いきおい、定時で着けば基山での待ち時間は長くなるのだが、時間をつぶす場所には事欠かない。

 バス停にはバスロケシステムがあり、バスの現在地や空席情報がリアルタイムで表示されている。それはいいのだが、僕の乗る島原号は、影も形もない。昨日の朝に続き、下手な不安感をあおられる。結果的には10分遅れてやって来ただけだったのだが、メンテナンスは細心に。

 島原行きバスは4列シートだが、「県内タイプ」とは異なりシートピッチが広く、背ずりも高い。隣の乗客さえいなければ、3列シートよりもくつろげる。

 諫早インターまではあっという間。ほとんどの乗客は諫早市内で降りてしまい、その他の乗客も愛野まででいなくなった。やはり福岡〜島原間は、電車と高速船の乗り継ぎがメインルートなのだろう。高速バスは1日3往復で所要時間は3時間、高速船乗り継ぎは5往復で2時間10分。運賃の差は200円だ。

 島原鉄道の車窓と同じく、有明海の凪いだ海を眺めつつ島原市へ。渋滞のあおりで、20分遅れで島鉄バスターミナルに着いた。


▲基山PAはカフェやコンビニが充実


▲バスロケシステムも、不備だと惑わせられることに


▲有明海を眺めながら

11年で撤退した鉄路の今


▲半島のバスが集う島鉄バスセンター


▲安徳駅の高架橋は新しく、未成線のよう


▲特に活用されていない安新大橋


▲新興住宅地のような安中三角地帯

 島鉄バスターミナルでは、島鉄バスの加津佐行きに乗り継ぐ予定だったが、遅れのためタッチの差で乗り損ねた。加津佐行きは1時間毎だが、別系統のバスが途中まで並行することが分かったので、安徳まで先行することにする。地方のバスの系統や時刻は分かりにくいが、九州では路線バスも含めほとんどの路線を「九州のバス時刻表」で検索できて便利。行程づくりはもちろん、突然の変更にもケータイで対応できる。

 とはいえ安徳方面のバスも40分後で、島鉄BT周辺をぶらぶら。水が豊かな島原市。ざあざあと流れる水の音があちこちから聞こえ、側溝には鯉が泳ぐ。街中の「どぶ川」になりそうな川も、水底が見えるのだから驚きだ。商店街には水飲み場があちこちにあり、ミネラルウォーターを買うのが馬鹿らしくなる街である。

 須川港行きのノンステップバスに乗り、島原半島を南へ。島原外港ではフェリーからの乗り換え客を受ける。島原鉄道もフェリー乗り継ぎの便を図るため、島原外港駅まで存続しているが、この先加津佐まで「南目線」と呼ばれた区間は2008年に過去帳入りした。この旅4番目のターゲットである、島鉄南目線の廃線跡めぐりのスタートだ。

 南目線に初めて乗ったのは、高校生の頃だからもう15年ほど前のこと。国鉄では「準急型」と呼ばれていたデッキ付車両が健在で、本家のJRでは味わえなくなった数十年前の汽車旅を楽しんだ。廃止1年前のGWには、観光トロッコ列車にも乗っている。

 安徳で下車。導流堤を渡り越すための、橋のたもとにある。山側へ歩いて5分、島原鉄道の廃線跡はそのまま残っていた。廃線跡と言うには、あまりにも立派な高架橋、駅、そしてトラス橋。雲仙・普賢岳の噴火後、たび重なる土石流から守るため、万全の施設で復旧された鉄路である。97年の復旧から、わずか11年での廃止。あまりにも短い命だった。

 まだまだ新しい施設ではあるのだが、線路がめくられた以外に変化はない。これといって活用されているわけでもなく、かといって保存されているわけでもないようだ。現役時代の島原〜深江間では観光トロッコ列車が走っており、この区間だけでも観光鉄道として残せなかったのかと思うが、先刻検討済みのアイデアだろう。

 復旧からの11年間。噴火災害から立ち上がる島原半島のシンボルであっただろうし、観光客も集め、意義のある復活劇ではあったのだろう。ただ、でも…立派な廃線跡を見ながら、釈然としない思いが残る。東日本大震災で被災したローカル線の復旧に対し、JR東日本がかなり慎重な姿勢を見せているが、島鉄の例を見ると、一定の理解もできるのである。

 大きな被害を受けた安徳周辺には、災害記念館や、災害遺構を保存した道の駅もあるのだが、バスの遅れのためすべてパス。後続の加津佐行きに乗り込んだ。導流堤と水無川と有明海に囲まれた「安中三角地帯」は、土石流に備えかさ上げされた。新興住宅地のような街並みには住宅の再建が進んでおり、規模は違えど三陸沿岸の復興のモデルになるだろう。

 眉山はよく見えているが、普賢岳と平成新山はもやの中。天気は良いのだが、いわゆる「PM2・5」の仕業だろうか。中国からの有害物質説を採るのなら、日本の美しい景観を中国に奪われていることになるのだから、なんともやるせない気分だ。

 祝日の昼下がり、バスは数人の乗客を乗せ、渋滞もない道路を坦々と走る。時間調整で数分止まったバス停もあり、かなり余裕のあるダイヤのようだ。乗客は多いとは言えないが、中高生の比率が高いのは、ローカルバスとしては珍しい。

 島鉄の路盤や駅の跡は多く残っているが、やはり「壊すでも、残すでもない」といった状態。バス専用道にするほど国道の渋滞はひどくないし、サイクリングロードにするにもお金がかかるといったところか。今でも島鉄の持ち物なのだろうか。

 終点・加津佐海水浴場前バス停が、旧島鉄加津佐駅前。加津佐駅の建物も、そのまま残っていた。歴史あるローカル線にしては素っ気ない駅舎は、特に現役時代から変わった感じはない。構内も、線路がない以外はそのままだ。草ぼうぼうではないのを見ると、定期的に手入れが行われているのだろう。ガラスもいたずらの餌食になっておらず、荒れていないのはよいことだ。ただ、「保存」されているわけではなさそう。

 駅前は海水浴場。海岸線の美しさは、鉄道があろうがなかろうが変化はない。バンガロー村があり、夏にはそれなりに賑わうのだろう。日之影のように、駅跡に列車バンガローなんてあったら楽しかったろうなとも思うが、海岸ではメンテも大変だろう。コンビニで買ったパスタを、潮風に吹かれながらすすった。

 反対方向のバスで口之津へ戻る。口之津駅前からは天草方面の島鉄フェリーが出ており、私鉄では珍しく、自社内での海陸連携輸送が行われていた駅である。駅跡は島鉄バスの車庫になっており、駅だった名残は薄い。しかし裏にまわれば、線路の路盤やホームが残っていた。ホーム上の「ワンマン乗り場」の字や、乗客向けの広告看板もそのままである。

 島鉄南目線の廃線跡に荒れた雰囲気がなかったのはよかったが、積極的に鉄道の記憶を継承していこうという場が見られなかったのは残念だった。鉄道を半島を2/3周していたことなど、数十年後は忘れ去られてしまいそうである。


▲レールがはがされた廃線跡


▲線路がない以外はそのままの加津佐駅跡


▲口之津駅はバスの背後に名残が残る


船も島のバスも乗り放題


▲島原半島から天草へひとっとび


▲島の路地裏を行く



▲祇園橋周辺に展開する「石の世界」

 島鉄の廃線跡探訪という目的も達したので、このまま久留米へ帰ってもいいのだが、SUN Q PASSは島鉄フェリーでも使える。せっかくなので天草へ渡り、熊本経由で帰ることにした。

 島鉄フェリーは渡し船といった風情で、乗船名簿の記入はない。PASSを船員さんに提示すれば、そのままパスである徒歩乗船者用の桟橋はなく、車の桟橋にある狭い歩道を歩いて乗り込んだ。

 口之津と鬼池の間はわずか30分。目と鼻の先という感覚である。海域はイルカウオッチングの名所としても有名で、天草側には職場の仲間を連れ立ってドライブに来たことがある。フェリーからイルカウオッチングできればお値打ちで、親子連れは海をずっと観察していたのだが、残念ながら遊び相手にはなってもらえなかった。

 2月とはいえさほど寒くなく、ずっと潮風に吹かれた30分の航海ですっきりリフレッシュ。鬼池港は、南欧風の真新しい建物になっていた。天草市内行きのバスは九州産交。長崎から熊本へ一気に飛んできたとこを、否応なく実感する。

 11人乗りの小型バスは、ドライブの時に通った海岸ではなく、内陸側の集落を巡る。小型バスでなくては離合もままならないような道で、生活に密着したバス路線である。市内に入ればドラッグストアからユニクロまで、なんでも揃うありふれたロードサイド型市街地に。「島」という感じではない。

 大浜バス停で降りて、殉教公園へ。隠れキリシタンの慰霊地であり、資料館もある。小高い丘の上にあるので、天草の市街地も一望。ビルの並ぶ市街地に、「島」であることを忘れる。

 歩いて、祇園橋へ。細い橋脚に支えられたアーチ橋で、一般的な石橋とは違う造形である。橋を渡った祇園神社の境内まで、石の道が続く。川の護岸の石垣も合わてみると、石の存在感と統一感で一つの世界ができ上がっていた。

 市街地に入るとアーケード商店街まであり、スーパーをのぞいてみれば地の魚が安い。パックに入った安売り商品まで天草産で、持ち帰りたい衝動に駆られた。暖房の効いたバスを乗り継いで帰るので、見合わせておいたが…

 本渡バスセンターと熊本を結ぶ、産交バスの「超快速あまくさ号」に乗る。超快速とはすごみのあるネーミングで、特急じゃダメなのかとも思う。熊本からのバスは買い物帰りの島の人で満席近かったが、熊本行きも天草観光から帰る人でほとんどの席が埋まった。

 干潮で岩場ののぞく海岸線を望みながら、快調に走る。山に折れ、立派な松島有明道路の無料区間を走って松島着。トイレ休憩の間に、地元の方が数人乗ってきた。

 夕暮れに染まり始めた東シナ海を見ながら、天草五橋を渡っていく。松島まではほとんど停留所がなかったが、天草の島々ではこまめに停車。松島で乗ってきたおばちゃん方も、大矢野島で降りて行った。特急ではなく超快速なのは、この運行形態ゆえかもしれない。

 天門橋を渡れば、三角へ。三角西港の海は、オレンジに染まっていた。九州近代化遺産に名を連ねる西港は風情満点で、海を臨むカフェがあったのを思いだし、降りたい衝動に駆られた。JR三角線と並行するように、半島の北側を東へ。数時間前までいた島原半島が、もやの先にかげっていた。

 熊本駅前を経由し、熊本交通センターへ。熊本駅より市街地に近く、新幹線開業後に福岡〜熊本間のバス利用がむしろ増えたのも、この地の利によるものだろう。基山乗り換えで帰ろうかと、福岡行きのスーパーノンストップ便に乗ろうとしたところ、基山は通過と聞いてビックリ。鹿児島行きや宮崎行きですら全便停車なのだから、当然熊本便もすべて停まるものと思っていた。

 次のノンストップ便で基山まで行くより、さらに次の各停便で久留米インター下車にした方が早そうなので、空いた時間を使って地下のラーメン屋へ。熊本ラーメンを味わい、この地に来た証とした。

 空港行きの「ひのくに号」は西鉄担当で、nimocaも使える。これが熊本の会社担当だと熊本共通バスカード「To熊カード」が使えて、便利なような、アテにできないような。4列座席でトイレ付だが、座席周りの作りは島原号より簡素で、「県内高速バス」と「長距離高速バス」の中間的な位置付けのようだ。

 交通センター発車時の乗客は、なんと僕一人。なんとも寂しいことになったなと思っていたが、熊本市内で小まめに止まる間に何人かの乗客を拾う。熊本インターは市街地から遠く、高速に入るまで37分を要した。この間の需要も逃さないわけだ。

 かと思えば高速に乗ってすぐのバス停で降りる人もおり、都市間高速バスながら気軽に利用されているようだ。途中のバス停では、後続の福岡行きを待つ列ができていたし、高速バスで帰ってくる家人の迎えか、バス停前で待つ車も多い。それにしては各バス停は素っ気ない作りで、出迎えスペースも充分ではない。駅だと、気合いを入れて整備されることが多いのだが、地域によっては遠来の人が高速バスで訪れることも多いはず。高速バス停も街の玄関口して、もっと整備されてもよいと思う。

 ほぼ渋滞もなく、久留米インターでは例によって「東合川商工団地」まで歩いて空港バスを捕まえた。西鉄久留米駅でも、家に近いバス停経由のバスがすぐにやってきて、絶妙なタイミングで帰宅できた。たまには、バス中心の旅も面白いものである。

 ところで毎度無意味な計算だとは思うのだが、今回の行程でまともにバスの運賃を払ったらどうなるか?nimocaの乗り継ぎ割引も考慮に入れて計算してみたところ、なんと24,630円にもなった。額面の2.5倍、かなり使い出のあるきっぷである。また、鉄道で行けないどこかに行ってみよう。

▲本渡バスセンターに入る「超快速」


▲天草の島々を渡る


▲空港行き「ひのくに」で帰路へ

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