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6日目【1月3日】
自由な1日も、歩いてみれば

→札幌市内



北国の初詣、北国のレジャー

 函館で進行方向が変わったことにも気付かず、熟睡から目覚めたのは南千歳到着前だった。夜汽車初体験だったというザキは、あまり眠れなかったと浮かない顔だ。僕も夜汽車に慣れるまではだいぶ時間がかかったが、最近よく眠れるのは、酒の力によるところが大きい気がする。

 札幌までは時間があるので、車内をひとめぐり。三両を連ねた寝台車は満席で、閉じられたカーテンがずらりと並ぶ様は、なかなか見ることができない光景だ。指定席は、かつて釧路行き夜行急行「まりも」に連結されていた「ドリームカー」で、夜行バスに対抗すべく整えらたリクライニングシートは、見るからに寝心地が良さそう。寝付けない時のために、サロンコーナーがあるのも親切だ。すべての指定席がドリームカーならこちらでもよかったが、増結指定席は普通の座席で、寝心地には天地の差がありそうである。寝台に逃げておいてよかった。

 のびのびカーペット車は、船の桟敷席よろしくカーペット敷きの広間になっていて、枕、毛布も付いて五一〇円はお値打ちだ。ロフト状の上段もあり、壁に囲まれていて限りなく寝台車に近い。ぜひ乗りたくて一ヶ月前から狙っていたのだが、上段はおろか下段すら取れなかった。シーズンオフに、いずれ乗ってみたい。新幹線函館開業を控え、いつまで走ってくれるのか心もとないが。

 まだ眠りの中にある、北の百万都市・札幌着。ホームに降り立つと、青森からさらに一段階、厳しい寒さに襲われた。充分な厚着をしてきたつもりだが、まだ足りないらしい。街歩きは大丈夫だろうか。

 今回の旅行で確たる目的があったのは関東〜青森までで、札幌へ来たのは貴重な夜汽車の「はなます」「北斗星」に乗りたかったのが大きな目的だ。わずか二日の滞在になる北海道では、特に予定を決めていない。ここまできっちりスケジュールを組んでの旅だったので、二日間は自由きままに過ごしてみようと、あえて予定を組まなかった。

 朝六時台では行先も限られるが、市場なら開いているだろうと、地下鉄を二駅下って豊水すすきの駅へ向かう。電力需要のピークが冬になる北海道は、全原発停止の影響を受け、節電期間の真っただ中。暑苦しいほど暖房を効かせるイメージのある北海道だが、地下鉄の駅も車内も、寒いといえるほど控えめの暖房だった。照明の間引きも多い。



▲ユニークな2段式カーペット車


▲自由席車は昔ながらの夜行列車


▲力強いディーゼル機関車にひかれ札幌着

▲質実剛健な札幌地下鉄


▲海鮮丼を食らう!


▲雪を踏みしめ初詣



▲ソリ持参が北海道スタイル

 札幌の地下鉄では最も新しい東豊線だが、他線で車両の置き換えが進む中、開業当時の車両が健在で、ごつい内装に懐かしさを感じる。駅リニューアルを行うにもまだ時期が早く、実用一点張りの質素な駅の内装や看板に、高度経済成長期の名残りがある。温もりとは無縁、なのに親しみを感じる。現代的な札幌駅を見た直後だと、特にだ。

 凍てつく空気にそびえるテレビ塔を見上げつつ、西山市場へ。ほとんどの店が開いてなかったのは想定外だが、一軒だけ開いていた店で、今年初のお客さんになった。初めてのお客さんだからと値札から三割、四割引きの値段ですすめてくれるが、本当に定価で売っているのだろうか? 奮発して、カニとイクラを実家に送った。正月というのに挨拶にも行かないことへの、せめてもの罪滅ぼしだ。

 早朝営業の食堂もあったので、まずは北の海の幸を味わおうと、奮発して海鮮丼を朝食にする。いい値段で、観光地価格なのかもしれないけど、九州で食べるよりは格安である。イクラ、エビ、ホタテ、カズノコその他もろもろ、てんこ盛りになった贅沢品をかきこんだ。

 今日、特に行先を決めていないことを食堂の兄さんに告げると、北海道神宮への初詣と西山動物園を勧められた。動物園の開園は十時。時間を持て余し、すすきののドトールで雪景色を眺めつつ、暖を取る。気候さえよければ大通公園でも散策したのだろうが、雪と寒さは活動力を奪う。こんな雪景色、北海道に来なくちゃ見れない、冬こそできる観光があるとは思うが、現実は厳しい。

 地下鉄を乗り継ぎ、円山公園駅へ。初詣に詰めかける人で沿道は混んでおり、凍結している横断歩道に細心の注意を払いながら一歩一歩、踏みしめる。多賀城で買った靴のスパイクが、大活躍だ。地元の人もこける中で一回もこけなかったのは、この靴の威力である。

 参道は森の中。雪原を踏みしめる。手水舎の水は凍り、清めるのにも気合いを要する。北国の初詣、雰囲気も気分も違うものだ。本殿は立派な神明造。近年再建されたものらしいが、北海道を代表する神社にふさわしい威厳を感じる。そもそも地方名+神宮というストレートなネーミングは、他の地方ではあまり見られないものである。戦前には朝鮮神宮や台湾神宮があったというし、開拓地特有のものなのかもしれない。

 隣り合う西山動物園は、年始ということで無料開放されていた。市営なのに素晴らしいサービスで、大阪市の橋下市長が見ればかくあるべきと絶賛することだろう。オオカミやシロクマ、ゴマフアザラシなど、北国らしい動物の表情を愉しむ。道産子の引く雪ぞりは、札幌ならではの「乗り物アトラクション」といえそうだ。

 北の動物園といえば、旭川の旭山動物園が好調な集客を続けているが、円山動物園も公営ながら「経営」に頑張っているのが印象的だった。旭山で見られるような、生態を間近に見られるような仕掛けが増えているし、企業とのタイアップ企画も盛んなようだ。マルヤマンなる、飼育員をモチーフにしたゆるキャラ(合言葉は「シーク・イン」らしい)もユニーク。動物の解説文は、マルヤマンが登場する手書きの模造紙が多く、飼育員さんたちの力作なのだろう。伝わり方が違う。

 ファミリー来園者の多くがソリを手にしていたのは、九州人から見れば思いもつかない習慣である。歩き疲れた子どもを、ソリに乗せてひっぱるのだ。親は抱っこよりラクだろうし、子どもも楽しい。どこに行っても、発見があるものである。


今年初の大吉に歓喜

 JRバスで、円山公園駅へと戻る。札幌の共通一日乗車券は、JRバス、じょうてつバス、中央バスでも使うことができて、すこぶる便利だ。千円分も使うかなと思いつつ、とりあえず買ってみたのだが、充分にモトを取れた。

 すすきので降りて、朝は閉まっていた地下街のHTBコーナーへ。北海道の地方局ながら、「水曜どうでしょう」のヒットで全国区の放送局になっており、水どうファンのザキとしては、ぜひとも行きたい場所だったらしい。レアものというグッズやHTBのキャラに、ザキは大喜び。僕は水どうを見たことがないけど、旅好きとしては興味をそそられる内容でもあるし、機会を作って見てみよう。

 北海道大学キャンパスをのぞこうと、案内所で聞けば、北12条駅が最寄りとのこと。ところがいざ地下鉄に乗ってみると、路線図には北18条、北24条、北34条と駅が続いており、よく分からなくなった。固有名詞なら間違えようもないのだが、方角と数字を組み合わせた駅名や交差点名が多い北海道の街歩きには、他の地域と違うカンどころが必要だ。慣れれば、むしろ分かりやすいのだろうが。

 北大は二度目だが、雪に覆われたキャンパスの雰囲気は、どことも違う風格をたたえていて好きだ。クラーク博士像の前でポーズを取り(といっても北大にあるものは胸像だが)、ポプラ並木を歩けば気分は北大生。高校二年生の時に札幌へ来たことがあるが、北大まで歩いて来ていれば、このキャンパスで学びたいがためもっと努力していたかもしれない。

 街までの近さも北大のいいところで、札幌駅に戻って今度は中央バスに乗る。揺られること十分、やって来たのはサッポロビール園。もう三度目にもなるが、札幌に来たからにはレンガ造のビアホールで、できたて生を味わいたくなるのである。夜に来ればとめどなく食べて飲んでしまいそうだったので、少しでも倹約する意味も込めて、あえて昼に来てみた。

 新春ということで「新春初売りおみくじセット」なるメニューがあり、ジンギスカンとアラカルト二品(ビール含む)で二〇一三円。これが中吉をひくと三品、大吉をひけば四品になるという運試しメニューである。これしかなかろうとクジを引いてみれば、見事大吉。めったに出ないんですよと、店員さんが驚いていた。ここまで今一歩のおみくじが続いていたが、一番うれしく実利のあるおみくじだ。ザキは小吉で「合わせて六品ですね!」。コイツ、オレの分にたかる気か、なんて細かいことは言わず、生ラムジンギスカンとアラカルト二品を食らい、生を二杯ずつ飲み干したのだった。


▲北大のクラーク博士


▲サッポロビール園は歴史ある赤れんが建物


▲おいしそうな匂いが充満する


デザインされた夜景スポット


▲札幌市電は丸みを帯びたデザイン


▲ゴンドラもデザインされている



▲北国の夜景

 バス通りが混んでいたので、酔い覚ましを兼ねて東区役所前駅まで歩き、東豊線で大通へ。初売りでにぎわう街を歩いて、電停から路面電車に乗り込んだ。中心市街地と住宅街を結ぶ路面電車は、廃止の動きも見られたというが、今は終点同士を結んで環状線にする構想が進んでいる。新たに導入する低床電車のイメージ図も見られ、新時代の交通機関に生まれ変わる日も近い。丸みを帯びた、どことなく北欧の路面電車のようなムードを感じる古い電車も、一線を引く日も遠くないのかもしれない。

 ロープウェイ入口電停で下車。時間はまだ三時半、藻岩山の夜景には早いなと思いながら駅まで歩いていると、洒落た雰囲気の喫茶店を見つけた。北の街には、なんとなく喫茶店が多い印象を受けているのだが、寒い中を歩いているとついつい引き込まれてしまう。「宮越屋珈琲」は札幌を中心にチェーン展開している喫茶店のようだが、使い込まれた風の調度、グランドピアノ、決して安くはない珈琲は、チェーンらしくない。地元にあれば文庫本を片手に、週一で通ってしまいそうである。

 温まった体が冷めないうちにと駅に登っていると、絶品生チョコで有名なロイズの「ろいず珈琲館」があり、こっちもよかったなと思う。ロープウェイの もいわ山麓駅もまた、洒落たカフェのような駅舎で目を引いた。山麓一帯が、雰囲気づくりに気を配っている印象である。

 もいわ山ロープウェイは二〇一一年に改修を終えたばかりで、駅舎だけでなく、ゴンドラやサインのデザインに至るまで、一貫してトータルでデザインされているのが印象的だ。ガラス張りの大きなゴンドラは、モノトーンでまとめられており、ガラスの外に広がる風景こそが主役であると、控えめに主張しているよう。薄暗く、街灯がポツポツと点り始めた街が、ぐんぐんと遠ざかってゆく。

 中腹駅でも充分景色は広がりそうだが、山頂へはモーリスカーなるケーブルカーに乗り換え。モーリスとはもいわ山の「ゆるキャラ」で、オリジナルグッズも取り揃えていて抜かりない。山頂駅の屋上に出れば、札幌の街が平野にどこまでも広がっていた。海で果てる福岡の景色とはまた違うダイナミックさがあるし、都市としての規模も段違いに見えた。空が灰色から藍色に変わりゆくのと呼応して、街のまたたきが増えていく。隣にいるのがコイツじゃなければ、どんなにロマンチックだろうかと思う気持ちは、たぶんザキと共有できたと思う。旅の恥はかきすてとばかり、写真屋さんにシャッターを頼んで、思い出のネタを作った。

 登る時は良好な接続でロープウェイとモーリスカーを乗り継げるのだが、下る時には待ち時間があり、ついついお土産に手が伸びてしまう。仕事始めに空ける職場への罪滅ぼしにお土産を買ったら、キャラメルやキャンディなど、かなりの「おまけ」が付いてきた。

 電停に戻り、往路と同じ電停から、今度はすすきの方面へ向かう。ラケット状の札幌市電を全線走破する形になるが、ザキに水を向けても、特に「乗り潰し」に関心はなさそう。まだまだ教育が足りないようだ。路面電車の終点は、サッポロの繁華街ど真ん中。ビル街に巨大なネオン看板が輝き、乏しくなってきた旅の資金を忘れて、フラフラ街へ繰り出したくなってしまう。ただ「弱暖房」で我慢している札幌の人は、輝くネオンをどんな気持ちで眺めているのだろうという疑問は残った。

 札幌駅のロッカーへ荷物を取りに戻り、すすきのに戻って某有名ラーメン店で夕食にしてみたものの、味は今一歩。好みもあるのかもしれないが、本場の札幌ラーメンがこの味なのか、再度検証する必要がありそうだ。

 昼はまだ外で過ごせる気温だったが、夜七時をまわると急速にしばれてきた。カチカチに凍結した道に気を付けつつ、今夜の宿になるゲストハウス「タイムピースアパートメント」へ。外観はまるっきり民家なのだが、中はしゃれた雰囲気。この雰囲気にマサキさんは似合わないと、ザキから余計な発言を受ける。

 シャワーを浴びてロビーでくつろいでいると、出かけていたゲストたちが三々五々戻ってきた。旭川の「森の幼稚園」の先生は、旭川方面のJRが不通で帰れなくなったため泊まるというが、この状況を楽しんでいるようである。僕らはほとんど影響を受けなかった大雪だが、雪に強いJRを不通にしてしまうほどとは知らなかった。明日乗る夜行列車も無事に出るのか心配だが、先生のようになるようになれの精神も大切だ。もう一人の幼稚園の先生は、韓国・釜山からの一人旅。ひときわ若い三人組は、オーストラリアからニセコにスキーを楽しみに来たという大学生で、国際色豊かだ。韓国語はできるが、英語にはコンプレックスに近いものを感じてしまう僕としては、たどたどしいコミュニケーションにはなった。

 会話の中で明日の行き先のヒントももらい、行程を組んでみれば、明朝も早起きしなければならないようだ。語らいの時間を持ちたい気持ちもあったが、明日に備え早寝にしよう。布団に入れば、パタリと意識を失った。


▲あかり灯る街行く市電


▲すすきののネオンは節電期間なのにきらびやか


▲寒い中たどり着いたゲストハウス

▽7日目に続く
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