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九州新幹線1周年大追跡
3月12日
「僕の1番列車」に乗る

3月12日/3月17日


 2012年3月12日、九州新幹線は全線開業1周年を迎えた。東日本大震災という、今を生きる日本人にとって生涯忘れることのない日の翌日に走り始めた新幹線は、ニュースにもならなければ、祝いの言葉を掛けられることもなかった。しかし当初は低迷した利用者も着実に伸びており、名実共に九州島民の足として育ちつつある。
 そして迎えた1周年という節目も、お祝いムードとは皆無。これも1つの時代の記録と思いながら、1年前を思い出しつつ新規開業区間の各駅を乗り降りしてみた。

1年目の「つばめ320号」

 1年前の九州新幹線開業日、僕は筑後船小屋発博多行きの一番列車「つばめ320号」の切符を取っていた。この列車を選んだのは、博多発の一番列車争奪戦に負けたことも理由の一つだったけど、筑後平野に住む者として、筑後船小屋、久留米、新鳥栖にとっての一番列車こそ、待ちに待った開業を迎えるに相応しいと考えたからだ。

 開業前日、地震発生から数時間後には開業記念行事の中止が決まり、それも当然のことと受け止めていたが、「祝いの言葉がない開業」も一つの時代の記録と思い、つばめ320号には予定通り乗りに行った。

 12日早朝の時点で、震災発生から15時間。被害の全容は見えず、原発も制御不能、さらには新潟県でも大地震が発生という、先の見えない不安を感じていた中での一番列車だった。数十年間待ちに待った気持ちなどどこへやら、高揚感も期待も感じない、ただの新幹線だった。

 あれから1年。節目のはずの今日だけど、震災から1年目の翌日ということを配慮してか、記念行事は一切計画されていない。あの日と同じ「普段着」のまま走る新幹線の1年目を見届けようと、やはりあの日と同じ「つばめ320号」に乗りに出かけた。

 早朝5時20分、マイカーに乗って久留米の自宅を出発。1年前と同じように、NHKラジオ第1を聞きながら、早朝の209号線を下る。1年前は、冷静なNHK口調ながら混乱の最中にあったラジオだったけど、今日は落ち着いたトーン。それでも震災1年の話題が続き、「震収まり災収まらず」の今を伝えていた。

 筑後船小屋駅の駐車場に車を止めると、知った顔が現れてびっくりする。1年前の1番列車にも一緒に乗った職場の先輩で、僕に触発されてやってきたらしい。

 昨年は、記念行事は中止されながらも、コンコースには大勢のスタッフが予定通り配置され、見物人もちらほらいたものだが、今日はさすがにガランとしている。普段通りの、早朝の筑後船小屋駅の姿だろう。駅の中にも1周年の飾りつけは一切なく、雛人形だけが華やかな空気を作っていた。

 自動券売機で、予約していた指定券を発券する。指定とはいえ、ネット経由で予約すれば自由席用の「2枚きっぷ」1枚分と同額の2,000円で、おトクである。筑後船小屋駅から乗り込んだのは、僕たちを合わせて4名。僕と同じような思いで記念に乗りに来る人がいるかなと思っていたけど、普段どおりの姿に終始しそうだ。

 午前6時、筑後船小屋を出発。何一つお祝いの言葉がなかった開業日と同じく、今日も特別な内容は一切なかったが、当然だし、仕方のないことだと思う。闇の中を走り、少しずつ白み始めたと思えば久留米の市街地。当たり前だが、1年前と同じだ。

 開業日には記念乗車の家族連れが乗り込んできた久留米だけど、今日も指定席には家族連れや出張サラリーマンが乗り込んできて、意表を突かれた。博多で大阪や東京方面に乗り継ぐ人たちだろう。新鳥栖でも若干の乗り込みがあり、乗客の総数は25人ほどとなった。早朝6時台前半の列車とあっては、こんなものか。開業日の列車も、空席の方が目立っていた。

 筑紫トンネルを抜ければすっかり朝で、基地に並ぶ新幹線の編隊が出迎えてくれた。博多到着の車内アナウンスも、津波警報の影響によるダイヤの乱れを伝えていた1年前とは変わって、平穏な内容。しかしこの1年、平穏な日々というものがどれだけ大切で、どれだけの奇跡に支えられているものなのかも思い知らされた。

 30分もかからずに博多駅着。同じホームからは東京行きが接続していて、便利なダイヤになっている。JR西日本の新幹線ホームに停まる800系新幹線に相当な違和感があったのも今は昔、1年も経てば、すっかりホームグラウンドとして定着した。

 


▲人影のない早朝の筑後船小屋駅


▲あの日と同じく、静かに発車を待つ1番列車


▲白み始めた久留米の街を走る


▲1年前は違和感のあった風景も、日常のものに

お祝いムードも見られた博多駅

 しばらくして、隣のホームにやってきたのは「さくら401号」。下りの始発列車は「つばめ」なので、この列車が「さくら」としての1番列車だったが、1年前は空席を残して発車して行った。今日は通勤客に加え、受験に行く高校生も乗せて3~4割程度の乗車率。新幹線のある日常は、だんだんと定着しつつある。

 折りしも反対側のホームには700系レールスターもやってきて、3種類の新幹線がそろい踏みになった。100系、300系からN700系まで、博多駅で見られる新幹線車両にはバラエティがあり、在来線的な楽しさがある。

 ただレールスターは「こだま」としての運用で、17日のダイヤ改定では「さくら」増発の陰で「ひかり」の運用がぐっと数を減らすことが決まっている。100系、300系も引退が決まっていて、コンコースでは記念のパネル展が開かれていた。この3月改定は、山陽新幹線2番目の世代交代として、大きな節目になる。

 一方のJR博多シティ側では、吹き抜けのホールに1周年を記念した巨大な垂れ幕が登場していた。今日、1周年を記念した飾りつけが見られたのはここが唯一。そういえば1年前、放送自粛になった「祝!九州」のCMを唯一見られる場所もここだった。

 1周年記念CM製作のため公募されていた、新幹線と一緒に写った笑顔の写真をいっぱいに乗せた、人が主役の九州新幹線らしい広告だ。震災1年という世相を反映してか「祝!九州」のような華やぎはない広告だったけど、TVコマーシャルも素敵なものに仕上がってくれることを期待している。

 駅前は早朝とはいえ平日なので、通勤や出張で行き交う人は多い。1年前、使われないままイベント会場は片付けられ、見物人の姿もほとんどなかった様子よりは活気があった。

 さて、1番列車の乗車は終わったけれども、せっかくの1周年という節目でもあるし、開業日以来訪ねていない各駅の「日常」を眺めてみたい。とはいえ厳しい懐事情、新幹線で各駅を訪ね歩くのもお金がかかるし、平行する在来線やアクセスバスも見てみたい。そこで1回分を余していた「旅名人の九州乗り放題きっぷ」をフル活用することにした。

 「旅名人」は普通列車限定ながら、1万円で3回(3日間または3人)、私鉄、路面電車を含む九州の全鉄道に乗れる便利でお得な切符。早朝、鹿児島本線の下り快速電車は動いていないため、特急の走る西鉄に乗るべく、まずは地下鉄で天神へと出た。このあたりの自由さが、「旅名人」の身の上だ。

 西鉄福岡からの大牟田行き特急は、クロスシートの8000形を期待していたのだが、4つ扉の6000形だった。JR在来線の特急が廃止になり、福岡~大牟田間ではJRより西鉄が便利になったシーンも多いと思うのだが、新幹線開業が西鉄大牟田線の利用動向に影響したというような報道は、今のところない。4つ扉から吹き込む寒風に震えつつ舟を漕ぎ1時間、大牟田に到着。

 


▲さくら1番列車は、サクラ咲くを祈りつつ受験生を運ぶ


▲100系・300系の引退記念パネル展


▲笑顔でいっぱいの1周年記念垂れ幕


▲早朝の駅前は行き交う人も多い

がらんとした新大牟田駅

 大牟田駅から新大牟田駅へのアクセスは、西鉄バス大牟田の55系統が担う。新幹線開業以前から走っていたバスで、新大牟田駅付近を通ることからアクセスバスになるのは既定事実だったのに、廃止申請が出されて物議を醸した路線である。

 大牟田駅前バス乗り場は、なぜか遊園地のグリーンランド行きのバスを待つ学生で大混雑。必死に時刻表を探しても、経由地に「新大牟田駅」の字は見当たらず、往生した。グリーンランド行きの案内に当たっていた係員さんに聞いて事なきを得たが、遠方からの来訪者にはサインが少なく分かりにくい。

 55系統の主たる役割は駅から吉野周辺の住宅地、南関を結ぶことであり、新駅アクセスは副次的なものだ。このバスの乗客は乗り降りを繰り返しつつ、5~6人程度。すれちがった市内方面バスは満席に近かった。ローカルバスでは欠損補助の「カード」として廃止申請が出されることも多く、最近まで黒字基調で走っていたバスだけに、閑散路線というわけではないのだ。

 新大牟田駅で降りたのは、僕と赤ちゃん連れの母親の3人だった。1年前は新駅見物客で賑わっていたバスだけど、これが普段の姿だろう。1時間に1本のダイヤではあるが、新駅行きバスは新幹線出発10前、新駅発バスは新幹線到着後10分後に発車するダイヤを組んでおり、利便性には最大限配慮されている。

 1年ぶりの新大牟田駅前に、大きな変化はなかった。もともと駅周辺は住宅地で、街外れというよりは大手私鉄本線の末端付近のような雰囲気が漂う駅である。しかし定住促進を狙って新たに造成された宅地は、空き地のままの区画がほとんど。一等地ではあると思うのだが…住宅以外だと住宅展示場やコンビニがあるだけで、店と呼べるものも増えていない。

 新大牟田駅は東口に民間駐車場、西口に市営駐車場があるのだが、どちらも1日料金が値下げされていた。駐車可能な台数は双方ともさほど多くなく、休日には満車になっていないか心配でもある。

 コンコースにもほとんど人影は見当たらず、熊本方面の「つばめ341号」に乗り込んだのも、10人ほど。グループ客がいたにも関わらず、である。筑後船小屋とともに苦戦が伝えられる駅だが、厳しさがひしひしと伝わってくるようだった。



▲新駅アクセスを担う55番バス


▲駅前一等地は未だに売れない


▲人影の見当たらないコンコース

無料駐車場が奏功?新玉名駅

 1駅だけを新幹線に揺られ、新玉名へ。20人近くが降り立ち、新大牟田駅よりも多かった。駅舎もキオスクが1つあるだけだった新大牟田に比べ、こちらには土産屋やカフェもあり、常に誰かが滞留している状態。基本的に「つばめ」しか停車しない駅であることは同じなのに、筑後船小屋や新大牟田とはずいぶん様相が異なる。実際の利用客も、当初から予測通りの数を確保している。

 博多からの距離があり速達効果が高いことが理由に挙げられるけど、駅前の広大な駐車場も好調の要因と思われた。240台分があり、新大牟田の137台、筑後船小屋の157台より一回り大きく、しかも無料。満車になることが多いのか、空き地への拡幅が行われていた。

 駐車場を確保した分、新大牟田のような開発用地は確保できなかったようで、駅のまわりには全くといっていいほど、何もない。乗り継ぎ拠点と割り切ったことが、功を奏したようである。開業日やイベント開催日にはなかなか見えてこない現状で、「普段の日」に来てみてよかった。

 開業日には人気で入れなかった、駅内の薬草ダイニング「たんぽぽ」でランチにしてみた。薬草パスタは、ほのかな苦味がアクセントになっていて、ちょっと大人の味。たんぽぽコーヒーは、名前だけ見ていると謎なメニューだったが、たんぽぽの根を煮詰めたものだとか。色がコーヒーっぽいだけじゃない?と思って飲んでみたら、なかなかの再現度。カフェインも入っていないとかで、体にも良さそう。

 さてマイカーは便利ながら、バスのアクセスではちょっと不便な新玉名。本数は1時間に1本以上あるのだが、既存路線の乗り入れのため、新幹線との接続が必ずしも良くない。開業当時もそうだったが、ダイヤの手直しはなされていないようだ。

 前後が短いノンステップのミニバスに乗ったのは、僕一人。玉名の温泉街まではものの数分で、在来線の玉名駅よりも近くなったが、観光客の増加に結びついたのだろうか。

 途中で信号渋滞にはまりつつ、十数分で玉名着。開業日には、旅行センターが閉鎖され、駅前にも空き店舗が多く寂しい印象を受けた駅だったが、1年を経てさらに空き店舗が増えたようである。新玉名駅こそまずまずの成功を収めているのだが、「2つの拠点」の併存は、地方都市こそ厳しい面があるようである。

 


▲春空を映すガラス張りの駅舎


▲広大な無料駐車場はほぼ満車状態


▲大人の味がした薬草パスタ

より分かりやすく生まれ変わった市電

 熊本へは、快速「くまもとライナー」で。新幹線開業と共に生まれた平行在来線の快速電車で、開業日に乗り試すはずだったのだが、津波警報の影響によるダイヤの乱れで走らなかった。

 1年目にしてようやく初乗りがかなうニューフェイスは、普通電車と変わらない815系電車の2両編成。「くまもとライナー」の名前は、駅の案内でこそ無視されていたが、車内放送のワンマンテープにはしっかりと入っていた。快速とはいっても4駅を通過するだけで、さして普通より早いわけでもない。快速と同数の普通が間引かれていて、通過の各駅ではだいぶ不便になったろうと思う。

 熊本駅で、同じく815系2両編成の豊肥本線に乗換え。新水前寺で下車した。以前は盛り土上に簡単なホームを載せた、民営化直後に設けられた新駅らしい形だったが、昨年新しい駅舎がオープンした。しっかりした上屋に風防壁が設けられ、電車の待ち時間もだいぶ快適になっただろうと思う。

 しかし今回のリニューアルの目玉は、何と言っても市電の電停との直結化。もともと新水前寺駅自体が、市電とのアクセス向上を目的に設けられた駅だったが、今回歩道橋を介して直接結ばれて、雨の日も傘要らずで乗り換えられるようになり、ぐっと便利になった。

 インバータ制御電車、低床電車、路面電車の冷房車、これらはいずれも全国で初めて熊本で導入されており、新進気鋭の経営戦略は熊本市電の伝統でもある。そこに昨年春、新幹線から市内へのリレーという新たな役割を与えられた市電は、新水前寺駅のアクセス改善を始め、矢継ぎ早に新たな施策を打ち出している。その様子をウオッチングしてみる。

 健軍方面の電車は、昔ながらの木の床の電車。モーター音も重く、ほのかに漂うニスの香りが懐かしい。先進的な電車に並んで、こんなレトロ電車も現役なのだ。しかし全面には「B」の見慣れない標識を掲げている。従来の「2・3系統」を一新し、「A・B系統」という、珍しいアルファベットの系統表示に変わったのだ。

 ちなみにA系統はレッド、B系統はブルーのラインカラーになっており、停留所の駅名板にも各系統のカラーが引かれていて、視覚的に分かりやすくなった。駅ナンバリングや4ヶ国語表記も入り、アジアからの観光客も強く意識されている。KCTというロゴも見られ、なにかと思えば「Kumamoto City Tram」の略称。ここまでくると、何だか民鉄のようである。

 終点・健軍まで来たのも、20年ぶりくらいになる。自衛隊基地からもほど近い健軍町は独自の中心街があり、アーケードの商店やスーパーも充実している。中心街からの距離もほど良く、熊本で住むならこのあたりがいいなと思った。

 


▲奥の横断歩道でJR駅と直結した電停


▲B系統という珍しい系統名称を掲げる


▲駅名版も分かりやすくデザインされたものに

変わるもの、変わらないもの

 今度は熊本県警が広告主になった「パト電車」で折り返し。車椅子やベビーカーでもらくらく乗り降りできる低床電車も、当地ではすっかりお馴染みのもになった。座席に座れば車と同じ視線になり、在来の電車と並べばロングシートに座る人がはるか頭上をかすめていく光景も、デビュー当初はずいぶん新鮮に映ったものだだ。

 街の匂いをかぎたくなり、通町筋で下車。路面電車が行き交う通りの先に熊本城を望むカットは、熊本を代表する絵の一つと言っていい。さらに最近、軌道が芝生化され、より魅力的な景観に生まれ変わった。「緑のじゅうたん」と呼ばれる基金で、多くのサポーターの協賛によって整備されているのがユニークだ。電停には、協賛者の名前が掲げてあった。

 当地でも郊外型ショッピングセンターが台頭してきているとはいえ、平日昼間でも人で溢れ返る中心商店街の活気が失われていないのは、さすが熊本。4月の政令市移行を間近に控え、さらなる飛躍を目指す、元気な地方都市の一つである。

 アーケードを歩き、熊本交通センターへ。高速バスだけではなく市内バスも多く発着する、熊本の一大交通拠点である。JRの駅よりもずっと市内へ近く、「新幹線が早くても、駅からが遠いからね…」とはよく聞く感想の一つだ。平日昼間だからか福岡行き高速バスは「空気輸送」と言っていいほどガラガラだったが、新幹線開業後、むしろ安さを武器に堅調に利用を伸ばしている。

 交通センター最寄りの辛島町から、B系統に乗り上熊本へ。A系統に比べ、どこか「裏道」的な風情漂う車窓に好感が持てる路線である。

 終点・上熊本は、市電、JRだけではなく、熊本電鉄も乗り入れるターミナル駅の一つで、在来線時代は特急有明も停車していた。だが新幹線になり、当然特急は廃止の憂き目に。特に熊本電鉄は、乗り継ぎ客減少の影響を受けていないか、少し心配でもある。

 JR上熊本駅は歴史ある木造駅舎の駅だったが、新幹線建設に伴い建替えの過程にある。ホームは新幹線高架の下にすっぽりと収まり、駅全体の印象が変わった。今度の上り「くまもとライナー」は革張りクロスシートが自慢の817系。早起きもたたり、快適な座席におさまればあっという間に夢の中へ…

 


▲熊本城を望む景観は、熊本市の象徴


▲アーケードの賑わいは相変わらず


▲閑散時間帯ではあったが、好調をキープする高速バス

筑後船小屋駅の1年目

 荒尾駅では、同一ホームの乗り継ぎで博多方面の快速電車が待っていた。在来線特急がなくなり、不便になったと辛辣な意見を述べる向きもあるけれど、他の「平行在来線」に比べればかなり利便性に配慮されたダイヤになっていると思う。1時間に3本も走り、割引きっぷのお陰で快速並みの気軽さで使えたこれまでの在来線特急が、恵まれすぎていたということでもあるだろう。

 スタート駅の筑後船小屋駅へ舞い戻った。久留米駅にも近く、周囲に何もない当駅は、某政治家の力による政治駅としての悪評もしばしば耳にする。利用客も当初予測を大幅に割り込んでおり、世間の目は厳しい。

 ただ駅前駐車場は満車のことが多く、平日の今日もほとんど空きがない。周囲に民間駐車場もなく、個人的には利用者増を阻んでいる主因が「当てにできない駐車場」だと睨んできていた。それだけに数ヶ月前、駅裏に市が駐車場整備に乗り出しているのを見て、「ようやくやったか」との思いである。今年度末に供用開始予定とのことで、工事の進み具合を見に行ってみた。

 びっくり。せっかくの広大な土地なのに、駐車できる範囲は全体から見ればわずかで、100台分程度しかないのではないだろうか。現状の157台に比べればだいぶ増え、新玉名を上回る規模になるとはいえ、こちらは在来線併設駅。潜在的需要を満たすボリュームとは思えず、また満車事態を引き起こしては目も当てられない。満車⇒当てにされなくなる⇒他の駅へ逸走、というサイクルから、抜け出さなければならないのに。

 駅の回りは筑後広域公園で、駅前に建設中の芸術文化施設も次第に全貌が見えてきた。そして新幹線観光客を増やす「起爆剤」と期待されてきた温泉施設「恋ぼたる温泉館」も、ついに10日前にオープン。建物の施工不良の影響を受け半年遅れとなり、つくづく環境に恵まれない駅である。

 船小屋温泉は泉質に定評があるものの、掛け流しのお湯を楽しめる施設は少なかった。しかしホンモノ温泉が見直されてきている昨今、「恋ぼたる温泉館」も純粋な船小屋の湯が注がれている。少し褐色を帯びた炭酸泉は、低い温度でじっくりと温まるタイプの湯。オープン間もないのに湯船や洗い場は早くも温泉成分の「造形物」が出来上がりつつあり、数年後の姿が楽しみだ。

 だが、筑後船小屋駅の利用客を伸ばすほどの施設かというと、何とも未知数。何より駅から遠く、公園の中の気持ちがいい道とはいえ、歩けば20~30分の場所である。駅前に、あるいは駅内にでも作れば、話題性も抜群だったと思うのだけど…

 というわけで、まったく節目らしい感じのなかった1年目の九州新幹線乗り歩きは終了。お祝いの記念日は、今週末である。今日は大人しく帰って、5日後にはお祝い気分に浸りたいと思う。

 


▲整備中の駐車場は、広大な土地のごく一部


▲芸術文化施設も姿を現し始めた


▲温泉そのものは素晴らしい「恋ほたる温泉館」

▼3月17日








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