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私鉄電車で巡る関西+元日グリーン豪遊の旅
4日目
元日JR西日本乗り放題きっぷで3倍乗る

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国鉄特急の風格残す夜行急行

 12時を前に、ホームに入る。鉄道趣味を何十年も続けてきた僕だが、列車なり駅なり、鉄道関係の施設内で年越しを迎えるのは初めてのことだ。京阪神のJRでも終夜運転を行っており、列車の発車案内が途切れないこと以外は、いつもの夜と変わらない風情だ。

 大阪方から、きたぐにのライトが近づいてきた。大柄な寝台座席兼用電車・583系が活躍する、最後の定期列車である。塗装こそJR西日本カラーだけど、風格は国鉄車両ならではだと思いつつ入線を見守っていたら、ちょうどドアを開けたタイミングくらいで年越しを迎えたようだ。カウントダウンがあるわけでなし、放送で新年の幕開けを告知するわけでもなし、淡々と迎えた鉄道の現場の年明けだった。

 583系電車は、言わずと知れた国鉄型の寝台電車。もう40年も走り続けている車両である。なにより圧巻は3段寝台がずらりと並ぶB寝台。下段こそ幅広のベッドで快適そうだけど、穴蔵のような中上段も、一度乗っておきたいものだと思う。

 寝台料金を別払いしてでも乗りたいと思っていたが、お客様センターに聞いたところ運賃から別途必要とのことで、泣く泣く諦めた。空いたベッドが目立つのは、気になるところだ。

 A寝台の他、座席車もつなげており、選べる幅が広いのも特徴の列車。自由席車は、昼間状態のボックスシートである。乗車率は1ボックス当たり2人といったところで、眠りはぐれることはなさそう。

 そして僕の今夜の根城となるグリーン車は、寝台車に合わせた高い天井が特徴。JRになってから新しい座席に交換されており、窓もブラインドからカーテンに変わっている。特にカーテンの上には、外からの明かりがもれてこないように ひだも付いており、細かい心配りだ。

 だが座席そのものは4列で、居住性は今一歩。網棚や無機質な壁、天井の材質はそのままで、リニューアルされたとはいっても「抜本的」と呼べるレベルではない。そのリニューアルからも、はや十数年。ダイヤ改定の度に、廃止の噂が囁かれる列車でもある。

 雪で遅れていた湖西線からの接続を受け、10分遅れで発車。発車時の放送がお休み放送となり、車内も減光された。今や貴重となった夜行列車の夜だけど、歩きまわって疲れてもいるし、リクライニングを倒して眠りの体制に入った。
 


▲大柄な車体が存在感を示す583系


▲方向幕も珍しくなってきた


▲一度は乗ってみたい3段寝台


夜行列車行き交う北陸路

 夜半、天井を叩く雨音で目覚めた。外を見てみれば白銀の世界で、かぎりなくみぞれに近い雪だったようである。寝台の上段だったら、うるさくてかなわないだろうな、しかし雪に埋もれて止まってしまわないかと思ったが、案じても仕方ないので再び目を閉じた。

 次に目を開けたのは、金沢。ずっと止まりっぱなしで、今度こそ大雪停車かとも思ったが、「緊急時を除き休ませていただく」車内放送がないのだから、異常はないのだろう。後から時刻表を見たら、金沢は36分停車になっていた。

 今度こそ5時に目覚め、雪がしんしんと積もる入善駅で下車。一応の目的地である富山で降りてもよかったのだが、4時半前に降り立っても行き場を失いそうだったので、折り返しの普通列車までの時間が短いこの駅に降りた。それでも40分待ちである。

 ちなみに折り返し、金沢方面の臨時急行「能登」はすぐに来る予定で、明らかに能登狙いの鉄っちゃんも3人が降り立っていた。うち一人が電話で問い合わせたところ、30分遅れで運行中だとか。臨時化とともに全席指定になった能登。貴重な1回分の「指定権」は行使したくないので見送る僕には、いずれにせよ関係ないことである。

 暖房が効いてテレビもある待合室が開いているのは幸いだが、深夜の駅の営業費用は、夜行列車の運行に計上される経費=赤字の一部によく挙げられる項目ではある。携帯ゲームをしながら興奮気味に騒ぐ輩がいて居心地は悪いが、他に居場所もないのでじっと待つ。富山で降りて、近場のネットカフェにでも入っていた方が得策だったかなと、少し後悔。

 国鉄色も艶やかな能登を見送り、後続の普通電車へ。懐かしの急行型電車が来てくれることを願ったが、デッキなしの近郊型電車だった。平行する富山地方鉄道(以下、地鉄)と抜きつ抜かれつを繰り返し、深い雪の中、快調に富山へと走った。
 


▲天井の高さが特徴的なグリーン車


▲能登を見送る
中心市街地をぐるり!スマートな電車

 北陸新幹線を見据え、橋上駅舎への改築が進む富山駅。金沢方にできた仮駅舎に移転していたが、地鉄や市内電車への乗換えには、少し距離ができた。おかげで、乗る予定だった路面電車を見送る羽目に。

 雪に見舞われている市内だが、路面には融雪用のスプリンクラーが設けてあり、積もってはいない。ただ、もちろん路上は水でびしょ濡れだし、気をつけていないと足に水の直撃を受ける。僕のように、普通の靴をはいている地元の人はいなかった。

 20分待って、次の環状線・セントラムに乗り込む。中心市街地に乗客を運ぶのが役割の環状線なので、データイムは10分間隔と高頻度なのだが、朝の本数は意外と疎である。電車は富山ライトレール・ポートラムと同型の電車だが、7編成が虹色に塗られているポートラムに対して、こちらの3編成はモノトーン。白ベースの車両だった。率直にかっこいい。写真で見る、ヨーロッパの電車のようだ。

 すべるように市街地を走り、丸の内電停へ。ポートラムと同様の、しっかりした上屋付きの電停に生まれ変わっていた。右折すれば既存の富山大学方面、そして左折すると、昨年12月に開業したばかりの環状線(富山都心線)へ入線である。距離にすればわずか0.9kmだが、ライトレールに続く路面電車の新路線ということで、俄然全国から注目を集めている。2009年の秋に訪れた際は工事中で、路面電車の新線工事というのも珍しいと盛んにシャッターを向けたものだが、やはり乗ってみたくて、今回わざわざ富山の地を踏んだのである。

 富山城を望み、右折して大手モールへ。幹線道路ではない裏通りだが、石畳で仕上げられていてお洒落だ。元旦の朝のモーニングを楽しむ、全日空ホテルの宿泊客からも、白い路面電車は熱い視線を浴びていた。願わくは、窓から見た素敵な電車が「街に出よう」という動機付けになればと思う。

 さらに右折し、大通に出てデパートの前を走る。鹿児島や熊本を見ているようで、路面電車が走る風景としてしっくりくる。早朝からLEDのライトアップが美しいフェリオの前にある、グランドプラザ前で下車。出店が出ており、何事かと思い歩いていると、地元では大きな神社であろう日枝神社に行き当たって、思わぬところで初詣を果たした。

 雪道を歩いて、環状線沿いを丸の内まで歩く。すでに靴は水を吸って寒く、歩きづらいことこの上ないが、この路線を見るために遠路はるばる夜行列車に乗って富山まで来たのだから、黙って黙々と歩いた。

 上屋が付き、暴風壁や跳ね上げ式の椅子まで付いた電停は、ポートラムと同じ地元企業からの寄贈品。ちなみに線路などの施設のみならず、車両も富山市の持ち物で、運行のみ地鉄に任せる上下分離方式である。たま電車も素敵でさすが民間活力と思ったものだが、官の力でも、力量次第では「乗りたい」と思わせる電車はできるのだ。

 石畳の大手モールは、全日空ホテルや国際会議場はもちろん、背景の富山城にも馴染み、さらにスマートなセントラムが景観上にもいいアクセントになっている。

 さらにヨーロッパの環境先進都市のような景観の一つになっているのが、自転車のシェアシステム・シクロシティ。ICカードを利用して全自動で貸し出し・返却が可能で、市内中心部15ヶ所にこのようなステーションがあるのだとか。自転車で駅から中心部へ、雨が降ったら路面電車で駅へ戻るなんて自由自在な使い方ができそうで、これは我が久留米にもあったら便利だろうなと思う。

 丸の内まで戻り、再度、セントラムに乗る。グランドプラザ前で左折して、既存の市内電車線へ。電停も古く、すれ違う電車もほとんどが旧態然とした「路面電車」スタイルで、環状線とはかなり違う。既存の市内線にも順次、低床電車が導入されるようだが、抜本的な施設の改修にも踏み出して欲しいものだ。

 というわけで、0.9kmの路線に乗り、日本の路面電車完全乗車のタイトルを奪還。しかし富山駅の高架完成時には、北口を走るライトレールと、南口のセントラムの相互乗り入れが計画されているということで、今は狭い範囲をグルグル回っている環状線も、本領発揮の時を迎える。数年先のことになりそうだが、また再訪することになるだろう。
 


▲大手モールを滑るように走るセントラム


▲車内に掲示された所属は「富山市」


▲見た目もお洒落なシクロシティ


▲北口のポートラムは門松でお出迎え
グリーンから眺める雪見旅

 北陸本線を走る特急の2大スターといえば、大阪行きのサンダーバードと、名古屋行きのしらさぎ。サンダーバードには何度か乗ったが、しらさぎのグリーン車は未体験だったので、9時9分のしらさぎを予約していた。敦賀で後続のサンダーバードに乗換え、京都へ向かうという予定である。

 しかし昨日の様子を見ていると、湖西線が強風で遅れる可能性も充分にある。その後に乗り継ぐ列車も乗りたいものばかりだし、時間に余裕を持って行動した方が良さそうだ。環状線の乗り歩きもスムーズに終わったので、1時間早い8時18分発のサンダーバードに変更した。グリーン車が取れて、一安心である。

 お土産と、自分のブランチ用に大小1つずつの鱒の寿司を買い込み、サンダーバードのグリーン車に、意気揚々と乗り込む。体全体を包み込むような、どっしりとしたサンダーバードのグリーン車はお気に入りで、正月早々ご機嫌である。雪道を歩いた身としては、スリッパがあると靴を乾かせて幸いだったのだが、残念ながら準備はなかった。

 発車早々、女性車掌が車内改札に回る。ういういしい挨拶は客室乗務員のようで、しかも「あけましておめでとうございます」から始まったものだから、驚いた。たとえ元日ではあっても、乗客それぞれが事情を抱えて乗る列車。客室乗務員ならともかく、車掌が「おめでとう」でいいのかな…と、少し疑問も湧いた。

 車窓は一面の雪景色。今回の雪は、この時期としては多い方のようだが、もともと雪の多い地方だけに、簡単に運休にはならないようだ。暖かい車内から鱒の寿司をつまみつつ、ゆったりと眺める雪景色も乙なものである。時々、床下から「ゴトッ」と異音がして驚くが、こびりついた雪が落下し、跳ね返っているのだろうか。気味が悪い音ではある。

 6両で出発した列車に、金沢で和倉温泉からやってきた6両をつなぎ、12両の長大編成になって北陸路を下る。さすがは正月真っ只中で、グリーン車以外は混んでなく、自由席の方がむしろ空いている模様。ここまでは記憶があるのだが、夜行明けでゆったりシートに座り、ポカポカの暖房に温まれば、まぶたがくっ付かないはずもなく、眠りに落ちた。

 再び目を開ければ、敦賀到着直前。本来は通過となる駅だが、車体検査のため一旦停止するとのこと。やはり定時運行というわけにはいかないようで、余裕を持って行動しておいてよかった。

 新疋田のループ線に差し掛かれば、正月というのに、雪景色を走る北陸特急を収めようと、カメラの砲列がひかれていた。湖西線に入っても深い雪景色で、回復運転に勤めるべく、スピードを上げて湖西路を駆けた。東海道線に合流し、トンネルを抜ければ、12時間ぶりの京都である。
 


▲683系流線型バージョンの「サンダーバード」


▲背が高くプライベート感が高いグリーン車


▲湖西線沿線もすっかり雪化粧


今も大人気のイルカ顔特急

 京都駅には、予定より1時間半早く着いた。みどりの窓口で時刻表を繰ってみると、183系「きのさき」で山陰本線を亀岡まで乗れば、すぐに「タンゴディスカバリー」で京都へ戻って来られる。183系は引退間近、タンゴディスカバリーも乗ったことがない特急で、寄り道にはちょうどいい。それ急げ!と山陰本線乗り場に向かったが、大雪でダイヤが乱れていた。

 乗り放題を活かした時間つぶしにあえなく失敗し、巨大な吹き抜けを見下ろす駅ビルのカフェで早めのランチを食べることにした。オープンなので吹く風は冷たいが、人の流れを見ながらのコーヒーは格別の味である。博多駅にも、こんなカフェができないものだろうか。

 雪も収まってきて各線のダイヤも平常に戻りつつあるようだが、北陸系統は踏切事故に見舞われたとかで、乱れが拡大していた。結果的には、当初予定していたサンダーバードは20分遅れに留まったが、乗っていれば、まあヒヤヒヤしていたことだろう。

 次なるグリーン車体験は、南紀行きリゾート特急・オーシャンアローである。イルカのような愛嬌ある顔立ちに、オーシャングリーンの塗装がイカしている。古さを感じさせないスマートな車両だが、これでも15年選手である。

 今日は多客期ということで、付属編成を連ねた堂々の9両編成だが、それでも指定席は満席だとか。グリーン車を前後の先頭に2両をつなげた豪華版。僕の席は、最後尾の1人用座席である。JR西日本の予約センターでなるべく先頭に近い席をとリクエストしたところ、
 「前から○列目なら空いてますけれども…あ、最後尾9号車の席が空いています!流れる景色を楽しんで頂けると思いますよ」
 とお勧めされた席だ。

 車内も15年の歳月をまったく感じさせず、よく手入れされていて気持ちいい。座席は3列で、ふんわりした枕も付いた豪華版。床のじゅうたんには「OCEANARROW」の爽やかなロゴも入り、リゾート気分を掻き立ててくれる。

 京都駅を離れ、複々線区間を快走。山崎付近では、内側線を行く快速を追い越した。オーシャンアローは行く手を新快速に阻まれているのか思うように速度が伸びず、快速に追いつかれそうになる。手に汗握るデットヒートだ。

 新大阪手前で陸橋を渡り、梅田貨物線へ。東海道本線とはうってかわって、単線や踏切も介在する、都心の裏道的ルートである。本来の主役である、貨物駅を行き交う貨物列車も眺められ楽しいルートではあるが、1時間おきの「くろしお」や30分おきの「はるか」が行き交う幹線ルートとしては、貧弱すぎる印象も受ける。新大阪から難波へ抜ける「なにわ筋線」の構想はあるが、最近はとんと進展したという話を聞かない。なんば線や中之島線が実現したのだから、なにわ筋線も決して夢ではないと思うのだが…

 和歌山からは大挙乗り込み、自由席は立客までぎっしりの混雑になったようだ。この状況、1998年に「JR10周年謝恩フリーきっぷ」で同じ時間のこの列車に乗った時も同じだった。自由席はわずか2両だが、長距離客の多い列車だけに安易に増やせないだろうし、難しいところ。快速の一層の充実が必要かもしれない。せっかくの展望ラウンジも自由席車にあるため事実上の自由席代用になっているが、混雑時の避難場所も兼ねた設備であると察する。

 和歌山を過ぎれば、海岸線をトレースするカーブの区間へ。振り子車両の本領発揮で、特に最後尾から見ていると、線路のカントよりも車体が大きく傾いているのがよく分かり、面白い。

 沿線にはみかん畑が広がり、雪もまったく見えず、比較的温暖な太平洋側に出てきたことが分かる。この列車の(恐らく)多くの乗客と一緒に、このまま白浜まで乗って温泉でも楽しみたいと思うが、元日限定フリーきっぷの旅人は、御坊で下車した。
 


▲かわいいイルカ顔のオーシャンアロー


▲グリーン車は通路が途中でクランクする


▲内側線快速の追撃を受ける


▲振り子式電車の傾きが分かる」

見るほど楽しいミニ私鉄の旅

 御坊ではフリーきっぷの旅から脱線し、紀州鉄道の乗車体験へ。紀州鉄道は地元の足らしく普通電車と接続を取っているので、しばし駅前をぶらぶらしてから駅に戻った。

 紀州鉄道といえば、芝浦鉄道の開業までは日本一のミニ私鉄として知られていた鉄道会社。信頼ある「鉄道」の商号を得るため、不動産屋が買収して運行しているというのも、よく語られるエピソードである。

 大分交通で活躍したという木の床の旧型気動車・キテツ600形の活躍でも知られたが、今は樽見鉄道から譲渡を受けたレールバス・キテツ1形の運行に変わっている。ただ2軸車のレールバスというのも、これはこれで貴重な存在である。

 JRの列車とは比べ物にならないほど小さなレールバスは、ホームの片隅でちょこんと発車を待っていた。実用重視のそっけない外観と内装ではあるが、車内にはミニ門松が飾られていて、心和む。

 僕を含め4人の乗客、しかもうち3人は鉄っちゃんを乗せて御坊駅を発車した列車は、田園地帯を30kmそこそこののんびりしたスピードで御坊市内へ向かう。入試シーズンに話題になる学駅での乗り降りはなく、路地裏といった風情のか細い線路敷を走り紀伊御坊。短い路線ながら、中心駅の威厳を示すような立派な駅舎である。

 運賃箱から運賃を降ろす作業で2分停車し、発車したと思えば市役所前。片面ホームの無人駅で、これでは市役所の近くであっても「市の代表駅」は名乗れまい。さらに300m走って、終点・西御坊。2.7km、車窓の変化はあるが、やはりあっけない道中だった。

 西御坊駅は住宅地に埋もれていて、終着駅らしい風情とは無縁。線路は先まで伸びており、1989年まで営業していた日高川までの線路の跡である。これとて0.7kmに過ぎず、現存していたとしてもミニ私鉄には変わりない。西御坊は終点として中途半端な気はするが、駅前には商店街が続いており、人口の張り付きもそこそこにあるのだろう。

 ただ現状は厳しそう。紀州鉄道の主たる役割は、御坊駅と市街地を結ぶ足だが、目的地としての市街地に勢いがあるわけではないし、逆の流れにしてもマイカーの送迎に食われやすいような役割でもある。昨年には日中の列車の減便も行われた。それでも廃止の話題に上らないのは、やはり目的が「鉄道」の名前を得ることだから…かもしれない。

 木造の西御坊駅舎は傾きかけていて、ちょっと心配になる。駅には「駅ノート」もあり、遠方からの来訪者の思い思いの感想が綴られていた。車両は変わっても、全国の旅人からの注目を集める鉄道である。

 来た道を、同じ乗務員、ほぼ同じ乗客を乗せて御坊駅へと戻った。
 


▲御坊駅でアイドル車を奏でるレールバス


▲ささやかな新年の飾りつけ


▲路地のような線路を走る


▲住宅地に埋もれたような終点・西御坊
老い先短い381系に乗る

 御坊からの帰路は、特急「くろしお」。今でこそ全国で走り回る振り子式特急電車だが、国鉄時代では唯一の形式だった381系が活躍する列車である。短区間の乗車でグリーン券を使ってしまってはもったいないので、自由席に乗った。

 外観こそオーシャンアローに揃えた塗装が爽やかだったが、内装はさすがに寄る年波には勝てず、国鉄の色を濃く残す。ドアや壁は交換されているし、座席も改造でフリーストップのリクライニングにはなっているのだが、窓枠や照明などから、古い列車の印象は拭い去れない。

 そして、車内を歩いた時の揺れ具合といったら、JR世代の振り子列車の比ではない。カーブにかかった時に「ぐっ」と体を持っていかれる感覚は強く、20代の僕でもふら付くほど。座席に付いている取っ手はダテじゃない。車内販売も大変だろうと同情する。

 ただ「くろしお」限定のユニークな席があり、その名もパンダシート。1編成に4席のみ、記念撮影用に設けられており、どんなものかは写真を見ていただければ説明不要だろう。とにかく見た目のインパクトに訴える席である。ただ本物のパンダがいる白浜のアドベンチャーワールドは年末年始のお休み中で、肝心の子どもの乗客は見当たらなかった。

 パンダシートを見るために車内を歩いていたら、気分が悪くなってきた。乗り物酔いには強い方だと思っているが、381系の「自然振り子方式」でしばし問題とされてきた、揺れのタイミングがずれることで起こる電車酔いである。

 しかし、くろしおでの381系の活躍は、この春までである。後継車は新型車両の287系に決まっているが、なんとこの車両には振り子なし。当然、所要時間は伸びることになるらしい。本来はオーシャンアローへの取替えを進めていくべきだと思うが、台所事情の厳しいJR西日本に余裕はないのだろう。遅くなるが快適性は増すに違いないくろしおに、さてどんな反応が返ってくるのだろうか。

 和歌山からもさほど乗客は増えず、天王寺着。登場22年を経てなおスマートな221系「大和路快速」に乗換えて、大阪へと回る。

 大阪駅は、5月の新駅ビルのグランドオープンに向けて、工事の真っ最中。日本では例の少ない、ヨーロッパ式の線路を覆う大屋根も姿を現した。ホームの上屋はまだ残っているが、将来的には撤去されるとのことで、のびのび爽快な駅になりそうである。

 橋上駅舎の一部も、乗換え通路として先行オープン。ただ案内の類がほとんど見当たらず、一見の旅行者としては右往左往してしまった。
 


▲インパクト充分のパンダシート


▲振り子電車に取っ手は必需品


▲大屋根が姿を現した大阪駅


待望の新型「はまかぜ」

 この年末年始、寒波の本体は山陰地方を襲った。JRもほとんど麻痺状態に陥り、34時間に渡り足止めを食う特急も発生するなど、大混乱に陥った。だが日常のニュースからは疎くなる旅行者。ダイヤの乱れは知っていたが、ここまでの混乱とはつゆ知らずに、鳥取行き特急「はまかぜ」を待った。

 上り列車が遅れ車庫で整備中とのことで、折り返し下りはまかぜも10分遅れになるとのこと。10分程度の遅れならば後にも影響はなく、寒い寒いとブツブツ言いながら、寒風吹くホームでじっと待った。行き先も鳥取から浜坂へ短縮になるとのことだが、後から山陰の大混乱のニュースを見返すに、走るだけ奇跡といった状態だったようである。

 向日町側から入ってきた「はまかぜ」は、ステンレス製の気動車・キハ189系。11月に運行を始めたばかりの、ピカピカの新型気動車である。

 ただ丸みを帯びた前面ガラスに、おでこに乗せたヘッドライト、そして貫通扉と、先代の特急気動車・181系の流れを汲んだスタイルのようにも思える。JR西日本は、電車特急もどことなく485系に近付いており、どこでも使える汎用性を求めていくと、自然に行き着く形態なのかもしれない。

 自由席はざっと3割程度の乗客を乗せ、すぐさま大阪駅を発車。加速は鋭く、エンジン音も「うなる」という感覚ではない。さすがはJR世代の高出力気動車で、これなら新快速から邪魔者扱いされることもあるまい。11月以前とダイヤは変わっていないそうで、性能にはまだまだ余裕があるようだ。

 車内はJR西日本の新型特急に共通したぬくもりのある内装で、座席のすわり心地も快適。車端部の座席は大型テーブルとコンセントも設けられている。観光列車としての役割もあるはまかぜだが、兵庫県北部と県庁所在地を結ぶ唯一の足であることからビジネス利用も多いそうで、重宝されそうな設備である。

 車内改札では鳥取までのきっぷを持った乗客に、浜坂止まりであることと、鳥取への普通列車が「あるかもしれない」旨の案内がされており、乗客も冷静に聞いていた。もし浜坂まで行き着いても、接続する列車が出なければ、どうなるのだろうか。他人事ながら、案じる。ちなみに車掌、僕のきっぷを見るや、
 「姫路までですね」
 と行き先を言い当てた。同じような初乗り体験が多かったのだろう。
 


▲国鉄車両の要素要素を受け継ぐ「はまかぜ」


▲車内は温かみあるJR西日本スタイル


▲ビジネス利用にも対応
健在500系

 姫路では新幹線乗り場に急ぎ、「こだま」へ乗換え。「のぞみ」を追われ、8両に短縮されて活躍する500系が運用に入る列車である。

 短くなっただけで、車内外は「のぞみ」時代と大きく変わったところはない。独特のスミレ色をまとった座席や、砲弾型の車体そのままにせばまった1号車の独特な車内も、そのままである。新幹線の中では際立っていたスマートさは、今もってピカイチだと思う。

 全席禁煙化で、新たに設けられていたのは喫煙室。N700系と同様の、デッキにしつらえられた立派な「部屋」である。柱はきちんとスミレ色に塗られており、違和感なく仕上がっていたのが嬉しい。

 この列車では5・6号車が指定席になっており、6号車はもともとグリーン車だった車両。枕やオーディオ、足置きがなくなった以外はグリーン車のままである。山陽新幹線には4列シートの車両は多いが、シートピッチまでグリーン車並みという車両は、500系が唯一。この列車では5列シートの指定席車の方が乗客が多く、500系こだまに乗る機会があれば、ぜひ6号車を指名買いしたい。

 かつてのスーパースター・500系とはいえ、こだまはこだま。相生では、ひかりに道を譲るために長い時間止まる。「のぞみ」「ひかり」との所要時間差は顕著で、いくら快適な車両になろうとも、おいそれと乗れないのが残念なところだ。

 2駅目の岡山で、早くも下車。在来線の乗換え口には、伯備線について「12月31日から山陰方面の運行ができない状況」であり「国道等も通行止めで代行輸送も行えない」という、ただならぬ告知が掲げられていた。この異常気象の中、大した障害もなく予定通り旅できたのは、やはり神のご加護だろうか。

 


▲こだまになっても、理屈抜きのかっこよさは健在


▲これは乗り得、元グリーン車の指定席


▲あらたにお目見えした喫煙室
旅の最後は「つばめ型」

 「元日フリー」のラストランナーは、N700系のぞみ。もちろん、最後の1回を温存しておいたグリーン車に乗り込む。「西日本パス」でも堪能したN700系のグリーン車だが、やはり居住性は抜群。靴を脱いで、ゆったりとくつろげる。

 1時間45分の快適な旅を満喫し、博多駅に到着。毎度無駄とは思うが、元日パスを使わずに同じ旅行をした場合の運賃・料金は、51,560円と試算された。3.2倍もの金額になり、倍率では「スルKAN3day」を上回った。毎度、おごちそうさまである。

 博多駅からは、手持ちの久留米行き4枚きっぷ(800円相当)を手に、787系の有明に乗り込む。ボックス席や、ビュッフェ跡の「ゆったりシート」も自由席となっている列車で、空いていたのでボックス席へ。

 鹿児島本線も、春の新幹線開業で大きな変化を迎える。787系の特急も限られたものになるはずで、惜しむように30分の時間をくつろいだ。
 今年は新幹線イヤー。鉄道趣味人として、忙しい1年になりそうだ。「在来線のりば」と書かれた久留米駅の改札口を抜けて、昨年の旅納め、そして今年の旅初めが終わった。

 


▲300kmランナーN700系のぞみ


▲久留米駅の門松でフィナーレ
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