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ゲキ★ヤス1万円きっぷの旅 ~観光列車のりつぎ宮崎・日南海岸へ~
1日目
冬晴れの山を越えて

1日目2日目

「高速千円」の余得で・その2

 不況と高速1000円のダブルパンチで、苦境に喘ぐ交通業界。3島JRとしては健闘してきたJR九州とて例外ではなく、輸送量の落ち込みは目を覆うばかりの惨状だ。

 この状況を打開すべく、夏に続いてこの冬も、「ゲキ★ヤス土日乗り放題きっぷ」が再登板となった。もともとは2007年に、梅雨時期の需要喚起実験として、3週間限定で売り出されたきっぷ。土日の2日間、九州新幹線まで含めて特急自由席乗り放題で、1万円という破格値である。

 今年度は設定意図が意図だけに、夏バージョンは5月9日~7月12日、冬バージョンも1月16日~3月7日と、長期に渡る設定となった。子供用は1,000円、レンタカーも免責込1日4千円というオプションも付いており、売れ行きは上々のようだ。

 そして昨年10月には、日南線に新しい観光特急「海幸山幸」が走り始めた。ぜひ乗りに行きたいと思っていたので、ゲキヤスきっぷの発売は渡りに船。せっかくなので、海幸山幸に合わせて走り始めた観光バス「にちなん号」にも乗ろうと、欲張りなプランが完成した。

 当初は、鉄っちゃんでもある職場の同期を誘っていたが、僕の旅行にしては観光色の強いコースになったので、ひょっとしたら一般ウケするかも…と思い募集をかけたところ、相棒の努力の甲斐あり、総勢7人の大所帯に。いつになく、賑やかな旅行になりそうだ。



いきなりのアクシデント

 「今JRが人身事故で運休らしいです」
 準備万端済ませて、家で朝ごはんを食べていたところ、メンバーの一人から穏やかじゃないメールが入ってきた。すぐさまJRのホームページで確認すると、1時間少し前に鹿児島本線で人身事故が発生し、現場検証のため現在運休中らしい。突発事態とあらば仕方ないが、万一予約していた列車が運休になったら自由席覚悟、走っても乗り継ぎ列車に間に合わなかったら鹿児島市内観光か…という仮定の元に代案を描きつつ、ひとまず駅に向かった。

 久留米駅に着いてみれば、鹿児島本線はすでに運転を再開しており、予定の1本前の特急から、ほぼ定刻通り運行しているようだ。運休になっては、苦労して取った指定席券も霧散するところだったので幸い。ただし予定の列車は、運休になった列車の代役を務めるべく臨時停車を繰り返すそうで、乗り継ぎ列車への接続は取ってくれるのだろうか。

 まあ、心配してもしょうがないので、とりあえず乗ってしまおう。今回不参加の同期がわざわざ見送りに来てくれて、ごっそり差し入れを貰いつつ見送りを受け、第一走者の「リレーつばめ」が走り始めた。

 せっかくの滅多にないグループ旅行なので、4人用のボックスシートを押さえておいた。指定席料金とはいっても閑散期なので、一人当たり300円とさしたる出費ではない。先行列車運休の影響で自由席は修羅場になっているようで、その意味でも指定を押さえておいてよかった。

 まずは折りたたみ式のテーブルを広げ、先ほど受けた差し入れを載せてカンパーイ! ボックスシートとはいえ、妻側には天井まで壁が通っていて、プライベート感は高い。午前中からのアルコールで、会話も弾む。

 本来は速達タイプの列車だが、運休になった先行列車の代役を務めるべく、瀬高、羽犬塚と有明並みに臨時停車。じりじりと遅れていくが、接続列車は待ってくれるとのことで一安心だ。県南組は瀬高から有明で下り、大牟田で合流してもらったが、これなら瀬高から乗ってもらってもよかった。ともあれ7人無事に集まれたということで、改めて乾杯。

 熊本までの小一時間はあっという間。階段を上り下りせずに乗り換えられる、0Aホームで待っていた九州横断特急に乗り継いだ。2両編成で、こちらはまずまずの乗り。一人旅なら自由席を選んでいただろうが、全員固まって座るのは厳しく、やはり楽しいグループ旅行には指定席の確保が肝要だ。

 九州横断特急は2両編成のワンマン特急とはいえ、客室乗務員が乗り込み、車内もウッディに改装されていて、個人的には好きな列車の一つ。九州では少なくなった車内販売もあり、ワゴンが回ってくるのを待たずに、デッキで駅弁を買い込んだ。遠く別府から走ってくる列車なので、大分から熊本沿線の駅弁を各種取り揃えていて、みんなで食べ比べてみた。

 ラフプランの段階ではこの区間、SL人吉に乗るつもりだったのだが、冬季運休でかなわなかったのは残念。しかし球磨川のグリーンの水面は美しく、旅気分が盛り上がる。高速千円は安くていいけど、八代から人吉まではトンネルばかりで、こんな景色には出会えない。

 人吉到着。SL人吉ならば小一時間、観光する時間があったのだが、乗り継ぎ列車はすぐの発車。階段を上がり、古代漆色の列車に乗り込んだ。

 


▲客室乗務員の待つ横断特急


▲大分と熊本の駅弁を食べ比べ


▲列車で球磨川上り


2つの観光列車で歴史遺産を走る

 吉松まで乗るのは、肥薩線の観光列車「いさぶろう」。普通列車ながら、沿線各駅で見学時間を取りながら肥薩線の歴史を学べる、正真正銘の観光列車である。3年ぶりの乗車だが、列車の好評を受けて車両の増備が行われており、暖簾がけの身障者対応トイレがお目見えしていた。今日は2両編成だが、最大で3両編成にまでなるようだ。1両でもガラガラだった時代を知る者には、隔世の感がある。

 普通列車らしくボックスシートであるが、木で仕上げられた車内はどこか居酒屋風。展望スペースで同期とビールを傾けていると、久留米市内の角打ち(立ち飲み屋)にでもいる気分だ。ただ窓の外に展開する風景は角打ちのそれではなく、山々に囲まれた自然一杯の風景。明治の技術で作られた古い鉄道施設で、次第に高度を稼いでいく。

 最初の停車駅は、大畑(おこば)。ホームに降り立てば素晴らしい冬晴れで、空気がうまい。駅舎の中は訪問者が貼っていった、おびただしい数の名刺でいっぱいである。列車本数の少ない人吉~吉松間の各駅は、列車での訪問が難しかったが、「いさぶろう・しんぺい」のお陰で手軽に訪ねられるようになったのが嬉しい。

 スイッチバックして出発した列車は、トンネルを抜けループ線で高度を上げ、はるか眼下の大畑駅を見下ろす。乗務員のガイドに加えて、一旦停車した場所には案内看板も掲げられているので、どんな線形なのかよく分かる。新幹線に乗ってしまっては分からない、昔ながらの鉄道技術だ。

 矢岳駅でも一旦停車し、駅前のSL資料館を見学できる。客室乗務員からは交代でシャッターを押してもらえて、観光バスで観光しているような気分になった。ただバス並みに柔軟にはいかない列車ダイヤゆえ、客室乗務員も少し焦り気味。SLの見物も駆け足で、もう少し時間が欲しいところではある。早く行きたい地元の乗客には、迷惑な話かもしれないけれど…

 矢岳を発車して程なく、日本3大車窓と謳われた、霧島連山から桜島を望める大眺望へ。冬晴れの今日、うっすらと桜島の陰を望むことができて、一同、おおっと歓声。前回は晴れていたのに望めなかったから、今回はラッキーといえそうだ。1度などは大雨のため、列車そのものが運休になったほどだから、いつでも出会える風景ではない。

 次の駅は、真幸(まさき)。文字は違えど僕の姓と同じ読みの駅で、なんだか照れくさい。肥薩線では唯一、宮崎県に属する駅で、例の東国原知事の立て看板もお出迎えしてくれた。地元の歓迎ぶりはここが一番で、いつも地元のおばちゃん達が所狭しと土産物を並べ、歓待してくれるものだから、ミニ洗濯板を衝動買いしてしまった。幸せの鐘を合図に、終点吉松駅に向かう。

 吉松駅では、観光特急「はやとの風」に乗り継ぎ。こちらは指定席券を確保できなかったので自由席に並んだが、運よく2ボックスを確保できた。いさぶろうと同じキハ40代の気動車とはいえ、特急らしくリクライニングシートで快適である。

 2駅目の大隅横川駅では、5分間の見学停車。「はやとの風」運転開始と共に話題になった嘉例川駅と同じ、100年を経た木造駅舎だ。同じくらい古い駅舎にも関わらず、以前のダイヤだとこちらはすぐの発車だったのだが、一昨年から停車時間が伸びた。柱には機銃掃射の跡が残り、戦争の記憶も語ってくれる。はるか前方には高速道路の立派な高架が渡り、ゆっくリズムの旅と好対照を見せてもいる。

 霧島温泉駅では、以前の上り列車では特産品やそばの販売があったものだが、今回は素通り。すっかり観光名所になった嘉例川駅では例によって5分停車し、駅舎を見物できる。元駅務室にはタブレット閉塞機が残されており、男メンバーは興味津々。気を取られていると、停車時間はあっという間に過ぎてしまう。

 新幹線経由では80分の距離を、4時間かけてようやく隼人へ。僕にとっては長いようで短い、充実した山越えの旅だったけど、女性陣には少し間延びした感もあったようで、ウツラウツラ… さあ起きて、隼人で乗り換えばい!

 


▲「いさぶろう」停車各駅では下車観光タイム(大畑)


▲眼下に大畑駅を望む


▲日本一の車窓にカメラを


▲つややかな黒が映える「はやとの風」

煙る桜島と鶏づくし

 特急「きりしま」に2駅だけ乗り、霧島神宮駅へ。この先宮崎へ向かおうにも、1時間列車がない。せかせかと霧島神宮まで足を伸ばすより、駅前の茶店でぜんざいでも食べて、足湯に浸かってのんびり列車を待つのもいいかなと思っていたが、メンバーの一人が、
 「ぜひ神宮、行きましょう」
 というので、そうかとタクシーを飛ばして神宮参拝へ出発した。後から知ったが彼、寺社仏閣が大好きなのだそうだ。片道2千円ほどかかったが、割り勘にすれば大した額にならないのは、グループ旅のメリット。しかもタクシー、メーターを倒さず待っていてくれるというので有難かったが、
 「駅でいつ来るか分からないお客さんを待っているより、ずっといい稼ぎになる」
 とのことだ。高速1000円の打撃を受けているのは、駅からのフィーダー交通も同様らしい。

 大枚を叩いてたどり着いた霧島神宮は、なるほど昔日から称えられてきただけあり、境内の燐としたたずまいが良かった。展望台からは、錦江湾越しに桜島の雄姿も。噴煙を上げる様子が手に取るように分かり、活発な活動が続いているようだ。

 充実した1時間の途中下車でリフレッシュして、再び「きりしま」の人に。古豪485系の活躍が続く都市間特急だが、来春の九州新幹線全通で、リレーつばめを追われた787系が転属してくることが内定している。ファンとしては、幼い頃から親しんだ485系の撤退も寂しい気がするが、「このドアは自動ではありません。手で開けてください」と書かれたデッキのドアが、九州北部との格差を物語っているのも事実。体質改善に期待したい。

 車内販売がなく、飲み物食べ物を手に入れられないのは、グループ旅行には辛いところ。車販廃止と前後して、洗面所に無理矢理自販機が押し込められて設置されたが、やはり人手を介したサービスがないのは寂しい。車両改善とともに、車販復活もなされればと思う。

 夕方6時半、ようやく宮崎到着。日豊本線の高架沿いにある、「列車の見えるホテル」に入った。視線の高さに「きりしま」や「サンシャイン」が行きかい、僕にとってはいい意味で落ち着かない部屋だ。メンバーの強い要望を受け、今回は和室を選んでいる。風呂に入って、布団を敷けば、気分は修学旅行。

 ちなみにもう一つの要望だった「温泉」も、宮崎ならば大淀川沿いに「たまゆら温泉」があるのだが、こちらは手ごろな部屋を押さえることができなかった。というのも、宮崎は今、プロ野球のキャンプシーズン真っ只中。市内のいい宿は、早くから満室状態だった。思わぬ時期に宿泊難になったものだが、キャンプ特需の威力は翌日も感じるところとなる。

 市内の人気店も予約が取り辛くなっており、お目当ての鶏料理屋「ぐんけい」も9時からしか予約が取れなかった。というわけで、部屋でゆっくりしてから、8時半に宿を出る。県庁や並木通りがライトアップされていて、夜は夜なりに観光できるものだ。ただ、もうお腹はペコペコ。

 お待ちかねの宮崎地鶏コースは、お通しからサラダまで鶏尽くし。一同大満足で、宮崎の夜は更けていった。

 


▲噴煙を上げる桜島


▲県庁はライトアップも美しい


▲鶏づくしの遅い夕食

▼2日目に続く








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