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ゲキ★ヤス1万円きっぷの旅 ~観光列車のりつぎ宮崎・日南海岸へ~
2日目
白バスと特急で日南探訪

1日目2日目

純白のバスで旅立つ

 まだ寝ていていたい気分を奮い立たせ、7時半起床。朝ごはんをしっかり食べて、今日も長い1日のスタートだ。

 宮崎駅からは、観光バス「にちなん号」に乗り込み、日南海岸の旅へ出発。「海幸山幸←→にちなん号」のロゴが入っていることからも分かる通り、観光特急「海幸山幸」とのタイアップで走っている観光バスである。レトロ調で真っ白な車体は、道路上でも目立つ存在だ。沿線へのアピール度も抜群で、当初の利用者はほとんどが地元の方だったそうである。乗った方にとっては地元を再発見する、いい機会にもなったのではないだろうか。

 「にちなん号」の利用は、バスと海幸山幸を片道ずつ利用できる「海幸山幸観光きっぷ」が便利で、これが2,800円と激安。僕らはゲキヤス土日きっぷを持っているので、ガイドさんから「バスだけプラン」を買ったが、これも2,000円と割安感がある。レンタカーを借りれば一人千円? 余計な事を言ってはいけない。

 南郷方面と飫肥方面の2コースのバスが同時発車するが、南郷コースは僕らのグループだけ。バス1台を貸し切りにして、専属ガイドまで付いている格好になり、これは贅沢なことになった。「にちなん号」、席の事前予約はできず、当日の先着順となっているので気を揉んでいたが、杞憂だったことになる。ただ不安に思う声は多かったのか、3月6日からは予約制になるようだ。

 今回のメンバーはほとんどが20代前半ということもあり、昨日のタクシーに続いてガイドさんから、
 「皆さん卒業旅行ですか?」
 と聞かれ、恐縮しきり。明らかに学生の風体ではない僕は、さてポスドクかなにかとでも思われているのかな。

 橘通りから大淀川を渡り、ワシントニアパームが並ぶ南国的雰囲気の道を、南に下っていく。サンマリンスタジアムには、まさに今、巨人軍のバスが到着するところで、鈴なりのファンからの出迎えを受けている様子を見ることができた。キャンプ効果、おそるべし。

 30分弱で青島着。まずはガイドさんに連れられて、海岸へ。お土産屋の連なる通りが海岸まで伸びていて、江ノ島を思い出す。奇勝・鬼の洗濯岩の、不思議な景観の成り立ちの説明を受け、最後は金運を呼び込むという、亀の形の貝がらのお話しで終了。あとは時間を見ながら、ご自由に見学を…ということになったのだが、こんなお話を聞くと、ついつい探したくなるのが人情。貝がら探しに夢中になり、いつしか時間は過ぎていた。

 いかんいかんと、島の真ん中にある青島神社へ。境内には亜熱帯植物が並び、冬ながらにも南国ムードがあった。かの巨人軍の選手たちもここで必勝祈願をしたとかで、絵馬がアクリル箱に収められ、大切に「展示」されている。貝がらのせいで、参拝は駆け足になり、時間配分の大切さも教えられた。

 次なるスポットは、日南海岸の風景が素晴らしいという堀切峠。
 「最近、みなさん感動しましたか? 大歓声を上げる感動が、間もなくやってきます」
 と、ガイドさんが自らハードルを上げる。カーブを切って現れた水平線は、なるほど、言うだけのものはあった。視界いっぱいに広がる太平洋と、眼下に並ぶ「鬼の洗濯岩」は、文句なしの絶景である。

 堀切峠の道の駅で、しばしの休憩。絶景の後は、何か名物を食べたいというわけで、昨日宿に置いてあったフリーペーパーで知った「えびソフト」を試してみた。味は…想像にお任せします。一口もらったマンゴーソフトが、おいしかった。

 


▲遠くからも目をひく「にちなん号」


▲南国ムードのバイパスを行く


▲鬼の洗濯岩を散策


▲堀切峠から


海の幸に旨い酒

 道の駅を出発した白い2台のバスは、日南海岸とつかず離れずのコースを辿る。日南線からの車窓もよいけれど、丹念に海岸線をトレースするバスもいいものだ。

 ガイドさんの民謡に耳を傾けつつ、次の見学地は鵜戸神宮。階段を登り、人道トンネルをくぐって海岸線を出ると、剣道の防具を付けた小中学生でいっぱいだった。なんでも境内で剣道大会が開かれているらしく、参道もお弁当を広げる学生や父兄で埋まっている。
 「私もこんな状況は初めてです」
 と、ガイドさんも目を白黒させていた。

 気を取り直して、本殿へ。岩窟の中にあるという、世にも珍しい社だ。本殿の天井は、どこから見ても目が合うという龍が描かれており、みなガイドさんの説明に従い覗き込む。その様子をハタから見るのも、面白かった。

 岩壁にそそり立つ「亀石」のくぼみに、運玉を投げ入れられれば願いが叶うという、独特の慣わしも。男性は左手でというゲーム性もあり、さっそく僕ともう一人でチャレンジしてみたが、球技の苦手な僕が入れられるわけもない。もう一人は2投目で見事成功しており、さてこの先どんないいことがあるのか、見ものである。ちなみにこの運玉は近くの小学生が作っており、収益で教材を買っているのだと、後刻ガイドさんからの説明を聞いた。

 「みなさん、入らなくても、とってもいいことをなさっているんですよ」
 という善行感も、観光バスに乗ったからこそ得られたものの一つだ。

 神宮を出発したバスは、ここまで続行で走ってきた飫肥方面行きと別れ、それぞれの目的地へと走り始めた。3月6日からは、南郷ルートも飫肥経由になる予定で、やはり城下町飫肥の人気は高いようだ。その代わり青島と鵜戸の見学時間が削られるようで、少し駆け足になってしまいそう。我らが南郷ルートは日南線とからみつつ国道を下り、南郷町へ。ここまでガイド頂いたガイドさんを拍手でねぎらい、贅沢な貸切バス観光は南郷駅でフィナーレとなった。

 この旅のハイライト・海幸山幸の出発までは2時間半あり、地元南郷町が運行している周遊バスに乗ることにした。好みの観光地を2箇所巡れるダイヤとなっており、500円の観光地割引券+絵馬のセットを購入すると乗れるシステム。さっそく駅の特設販売場で買い込み、小さなマイクロバスに乗り込んだ。ちょうど下りの海幸山幸号が到着し、バスに乗り継ぐ人も多く、満員に。シーズンには運びきれなくなりそうで、この間遊んでいる「にちなん号」をバイトさせてもよい気がする。いずれにせよ、自動車天国の九州で、公共交通機関の旅が好評なのは喜ばしいことだ。

 僕らは、5分とかからない港の駅・めいつで下車。ここで昼食後、次のバスで海中観光船乗り場に行き、海中散歩を楽しんで駅に戻るというプランだ。ところが、めいつのレストランは大行列。昨日の宿では、5周年を迎えイベント開催中というニュースを見ており、どっと人が集まったようだ。好評なのはいいけど、こちらは時間も限られているので、海幸山幸のパンフレットに紹介されていた「鈴之家旅館」に転進。しかしこちらも混んでいて、水中観光船に乗れるかは微妙になってきた。

 腹ペコのまま40分ほど待ち、ようやく席へ。もう観光船は無理で、こうなったらゆっくり海の幸を堪能しようと気分を入れ替えた。1,100円なりの鈴之家定食は、ヅケにアラの味噌汁、刺身と魚尽くし。最近(年齢のせいか)肉より魚の僕にとっては、たまらないメニューだ。観光船は残念だったけど、宮崎の南にまで来て出会えたおいしさに満足、満足。

 JR利用者にはソフトドリンクか焼酎のサービスがあり、男性陣は焼酎のお湯割を頼んだところ、とっくりに並々と入れられて出てきてびっくり。飫肥杉という地元南郷の芋焼酎で、サラリとして飲みやすい。ぐいぐいいけて、昼間からかなり酔ってしまった。

 周回バスなので駅に戻るバスはなく、途中スーパーで買出しをしながらトボトボと、15分ほどの道のりを戻る。思えばこの歩ける距離片道だけのバスに500円を投じたことになるわけで、高い買い物だった。

 


▲日南海岸を行く「にちなん号」


▲剣道の関係者でごった返す境内


▲断崖絶壁に立つ本殿


▲魚づくしの鈴之屋定食

またまた新境地を開いた木の特急

 南郷駅に着くと、宮崎行き特急「海幸山幸」号が待っていた。純白の車体だが、窓周りが県産材でデコレーションされた外観が画期的だ。車内に入っても、床や座席、壁まで、白木がこれでもかと主張してくる。昔の列車も内装は木が基本だったが、それとはテイストの違う、モダンな和のデザインだ。女性陣も、
 「わあ、すごい」
 と歓声を上げており、20代前半の女性の感性にも響く列車のようである。

 座席は3列と、グリーン車並みのゆったりした配置。列車が走り始めた当初は1号車指定席、2号車自由席になっていたが、指定券が取りづらいとの声が相次ぎ、その後自由席は2号車後部のわずか9席になっている。ちなみに今回のきっぷも、1ヶ月前の12時に電話をかけたのだが、その時点で残りはすでにバラバラの6席のみ。キャンセルも出ず、僕はどうせ動き回るからと自由席にした。にちなん号のガイドさんも、
 「よく指定席取れましたね!」
 と驚いており、大人気の列車なのだ。

 独特の発車メロディを奏で、南郷駅を出発。新幹線つばめの車内メロディでもおなじみ、向谷実氏作曲の作品とのことで、爽やかな中にも旅立ちの高揚感がある。客室乗務員は1人乗務で、改札から車内販売までこなすのだから、大変そうだ。

 さっそく列車は、日南海岸沿いへ飛び出した。窓は上下にワイドで、「にちなん号」よりも迫力ある車窓だ。景勝地では徐行運転もあり、またバスとは違った景色を楽しめる。ただ海幸山幸号、「いさぶろう」のように下車観光の時間はなく、乗ってしまえば下車駅まで乗り通すことになってしまう。バスとのセットでこそ楽しめる列車だと断言しておこう。

 落ち着いたところで、車内をひとめぐり。基本的には新幹線「つばめ」以降のデザイン路線に則っており、白をベースに、随所に素材の色を生かした、明るいながらも落ち着くインテリアになっている。照明に高照度ライトを使っているのは目新しい。暖簾で間仕切る手法や、ギャラリーコーナーなども、近年の「水戸岡デザイン」によく見られる路線である。それでも一味違うと感じさせる所以は、やはり宮崎杉の存在感だろう。デザイナーによって新たな命を吹き込まれた宮崎県産材の、「動くショールーム」とも言えるかもしれない。

 車両の形式はキハ125系で、九州各地のローカル線で走っている「イエローワンマン」と同じ系列の車両だが、元々は高千穂鉄道のトロッコ列車として親しまれていた車両だ。高千穂鉄道は台風災害という不遇で廃線に追い込まれ、以後は純民間の観光鉄道としての再生を模索していたが、今はどうなっているのか。車両そのものが召し上げられてしまっては、かなり苦しい状況であると察するが…

 飫肥から北郷にかけて一旦内陸に入った後は、再び海岸線へ出た。日南線の車窓からも楽しめる「鬼の洗濯岩」では、観光停車。ちなみに3月からは、下り列車並みに観光停車と徐行運転を拡大して、よりじっくりと車窓の旅を楽しめるようになるそうだ。もはや「特急」とは名ばかりの肩書きだが、まあ設備料金のようなものと考えれば、細かいことにこだわらなくても良いか。

 宮崎市内に入り、田吉駅では宮崎空港行きと交換。大きなキャリーバックを持った旅行者も降り立ち、飛行機との連携もスムーズなようだ。南宮崎から大淀川を渡り、5時20分、宮崎駅に舞い戻った。

 


▲木目の外観が目新しい「海幸山幸」


▲車内も「木」が主張する


▲ゆったりシート・ワイドな車窓


▲景勝地では徐行運転

九州新幹線全通へつなぐ道

 こんな時間から、列車で福岡へ帰れるのも新幹線の威力。まずは帰路の第一走者、鹿児島中央行き「きりしま13号」は、深緑色の編成だった。一旦は消滅しながら、九州新幹線の開業ダイヤ改定でカムバックを果たした、奇蹟の列車…なのはいいが、3両編成なのは想定外。僕が先に乗り込み、なんとか2ボックスを確保したが、あぶないところだった。やはりグループ旅行には、多少お金がかかっても指定席を確保すべし。

 鹿児島中央までは、2時間の道のり。車窓も見えず、車内販売もなく、手持ちのお菓子をつまみながら、だらだら。787系転属時に、グリーン車やボックスシートが残るかは分からないけど、ふとあの楽しい車両だったら、2時間の感じ方もずいぶん変わっただろうなと思う。

 国分を過ぎて鹿児島都市圏に入ると、普通列車が少ないこともあって、すっかり都市近郊電車の趣になった。一旦は夜なりに郊外の街らしくなった車窓が、竜ヶ水駅前後では再び寂しくなるのは、日豊本線鹿児島口の面白さ。昼間なら錦江湾越しの桜島を望める区間でもあるのだが、鹿児島のシンボルは闇の中。再び賑やかになり、列車は鹿児島中央駅にすべりこんだ。

 7分接続のはずだったが、少し遅れていたのか、バタバタと新幹線に乗り継ぎ。九州新幹線に関しては席の心配をしておらず、案の定、6号車の席を確保できた。

 ラッキーなことにこの日の「つばめ64号」は、新幹線全通に備え昨年8月から運行開始した、ニューバージョンの800系新幹線だった。車内で目を引くのは、なんといっても金箔を貼った妻壁だろう。塗料ではない、本物の金の輝きを放った車内は、豪華というよりは品格を感じさせる。洗面所の簾にはイグサ、電話室の暖簾には我らが久留米の久留米絣も採用されていて、九州を貫く新幹線を材料から体言している。日本人としても珍しいけれど、和を感じる800系は、外国からの賓客に「のぞみ」よりも乗せたい新幹線だ。

 夕方以降の「つばめ」は全列車が各駅停車タイプで、新八代までは46分を要した。新八代では隣のホームに「リレーつばめ」が待ち、便利な乗り換えではあるが、来春にはこのまま新幹線に乗って、久留米まで行けることになる。その日が、今から待ち遠しい。

 「リレーつばめ」は旅の最後の列車ということで、グリーン車をおごってみた。夜間の列車にも関わらず客室乗務員が乗り、ドリンクのサービスも受けられる。最近の九州の列車は半室グリーン車がほとんどだが、リレーつばめは1両まるごとグリーン車。来春の他線転用時に個室やDXグリーンが残るとは思えず、「特別急行」の呼び名に相応しい、九州最後の豪華列車の記憶も留めておきたい。

 大牟田下車組の3人を降ろし、久留米へ向ってラストスパート。7人、ケガもなくケンカもなく、無事に帰れてなによりだ。今まで一人旅ばかりだったけど、一緒に感動を共有できる仲間に出会えたのは喜び。また面白そうなコースができたら誘うので、今回に懲りてなければ、またヨロシク!

 夜9時42分、久留米着。楽しい思い出と共に眠るまではよかったが、翌朝はさすがにキツかった。

 


▲色とりどりの列車が並ぶ宮崎駅


▲金箔の妻壁がゴージャスな新800系


▲車内のロゴは最後まで「TSUBAME」だった


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