▲TOP ▲鉄道ジャーニー

10年目の韓国を旅する
1日目
映画でつなぐ福岡~牙山

1日目2日目3日目4日目5日目6~7日目

初のシルバーウイークは韓国へ

 今年2度目の5連休。シルバーウイークとも呼ばれた秋の休暇は、韓国を目指すことにした。前回訪韓から9ヶ月で、少し短い間隔になる気はしたが、ちょうど妹が半年間の短期留学中なので、このタイミングは逃したくなかったのだ。

 そしてこの間にも、話題が豊富な韓国の鉄道。日立製の新型特急電車が走り始めたり、急行運転を行う民営の地下鉄が開業したりと、都市鉄道の変化が激しく、そんな様子を眺めてみたかった。もちろん旅だから、楽しみも欠かせない。

 というわけで例の如く、ビートル&KRパスを利用しての、まる一週間の長旅に出る計画を立てた。5連休に前後2日間の「夏季休暇」をくっつけての7連休。お盆は休まなかったのだから、これだけの休みも文句はないだろう。

 前日はボランティア関係の集まりが夜中まで続いたので、旅行準備は深夜まで及んだ。眠い頭を抱えながら、久留米駅への道をとぼとぼ歩き、今回の長旅が始まる。


2つの映画を鑑賞しながら

 まずは久留米から、博多へ。鳥栖までは快速電車に乗ったが、ちょうど博多までの4枚きっぷ(JR九州の特急回数券)が1枚手元にあったので、鳥栖からは885系の特急「白いかもめ」に乗ってみた。平日ではあったが、博多着7時8分では通勤には早すぎるのか、通勤特急の割には空いている。革張りシートにゆったり身をゆだね、まずは快適に博多へ。

 西鉄バスで博多港まで移動し、大行列のカウンターで乗船手続きを終えて、出国した。繁忙期の午前中は都市間特急並みのダイヤで頻発する、釜山行きビートル。いまや九州と釜山を結ぶ、切っても切れない大動脈だ。早朝にも関わらず、ほぼ満席の盛況。大きくリクライニングを倒し、まずは眠りの体制に入った。

 目を開ければ、穏やかな玄界灘。悪天候時と凪いでいる時の、乗り心地の差が激しいビートルだが、今日はまず平穏な航海だ。船内のテレビでは、「ローマの休日」を上映中で、思わず見入ってしまう。大学生以来、8年ぶりくらいに見た映画だったが、そんな短い時間で色あせるような作品ではなかった。

 3時間余りの船旅を終え、釜山港到着。レンタル携帯を借りて、釜山銀行で両替して、韓国市民になる準備を整えた。なお博多港の新韓銀行でのレートは100円=1,260ウォン、釜山港は1,280円と、さほどの差はないようだ。

 釜山駅までは、シャトルバスを利用した。2007年から運行が始まったシャトルバスだが、以前は使えなかった交通カードが使えるようになっており、地下鉄との乗り継ぎ割引も始まっていた。特に後者は嬉しく、中央洞駅で地下鉄に乗り換えるときも、気兼ねなく利用できる。ただ港の中で交通カードを買える場所はなく、リピーター限定の利便性ともいえそうだ。

 おなじみ、ガラスの城の釜山駅へ。釜山駅で、手持ちのバウチャー券を「KRパス」本券に引き換えた。もう何度目になるか分からないKRパスの利用だが、来る度に駅員の扱いが慣れてきている感じで、助かる。

 今回はまず、KTXでソウル方面へと向うのだが、もう何度も乗っている列車なので、少し変わった席を予約してみた。300kmで走る映画館、その名も「KTXシネマ」だ。日本でもかつての「有明」や「ウエストひかり」で見られたサービスだが、こちらは映画館と同じ最新映画が見られるのが自慢。料金も7,000ウォンと、市中の映画館並みである。

 釜山発車時点ですでに、車内のカーテンが降り薄暗い車内。ドア上にはスピーカーも備えられ、ちょっと違う車両であることを伝えている。ただ車内中央のスクリーンは上がっていて、すぐ上映が始まるわけではないようだ。

 釜山の第2ターミナル・亀浦(クポ)を出発してもそのままで、カーテンも開けられず、退屈な時間が過ぎていく。3番目の停車駅、密陽(ミリャン)を発車してようやく、映画上映の準備が始まった。釜山側の停車駅にすべて停まってからの上映になるようで、釜山~東大邱(トンデグ)ノンストップの列車であれば、釜山発車直後に始まるのではないだろうか。

 できれば韓国映画を見たかったのだが、今月は上下列車とも洋画となっており、上り列車の作品は「Harsh Times」。2006年の作品で、日本では未公開作のようだ。映画レビューではないので、映画の感想についてはここでは記さない。英語よりも韓国語の方が分かるので必死に字幕を追ったが、揺れる車内での字幕解読はなかなか辛かった。

 韓国らしいなと思うのは、上映中でも所構わず携帯の着信音が鳴り、会話が始まるところ。車内放送も切られておらず、集中力を乱す騒音は思いの他多い。映画館ではないので、窓側からだとスクリーンが見えにくい席もある。それでもKTXの旅に通い飽きてしまっているのなら、退屈しのぎにおすすめしたい。


 


▲明るいビートルの船内


▲KTXシネマに乗り北上


▲車内真ん中に現れた大画面



▲立派なドーム状の天安・牙山


日本生まれの電車特急「ヌリロ」に乗る

 映画も終わりかけたところで、天安牙山(チョナン・アサン)駅着。釜山方面、首都圏方面いずれからでも全編を見られるよう、配慮された上映時間になっているようだ。反面、途中駅の大田(テジョン)・大邱で下車する場合にはどうあがいても全編を見られず、ソウル~大邱間の区間列車では、全編上映できない可能性もありという注釈もあった。

 僕は天安牙山で下車。KTXの中間駅であるこの駅への下車も、もう3度目になるのだから、我ながら物好きだと思う。駅前の開発は着実に進行中だが、併設されている在来線の牙山(アサン)駅の裏口は、まだ閉鎖されたままだった。

 牙山からソウルへは、この6月に登場したばかりの特急電車「ヌリロ」に乗る。料金体系は「ムグンファ」と共通とはいえ、新しい列車種別の登場はKTX以来。そして機関車牽引の客車列車が主役の韓国にあって、電車方式の優等列車は2001年に廃止された9900系統一号以来だ。しかも9900系と同じく日本製と、異例づくめの列車である。日韓両国の鉄道を愛するファンとしては見逃せず、今回の旅行プランに組み込んだ。

 電化開業から約10ヶ月がたった長項(チャンハン)線だが、一般通勤電車の利用客は多く、すっかり定着したと見ていいようだ。今のところ1時間に1~2本というローカルダイヤだが、早々に改善されるかもしれない。後続の、ソウル行きヌリロを待つ人も多数。旅行者といったスタイルではなく、ちょっとそこまでといった風情の人ばかりで、通勤電車の乗客層と大差ない。

 スルスルとホームに入ってきたヌリロの先頭は、サンダーバードの色を変えて、少し横に伸ばしたようなスタイルだった。側面は、JR東日本の特急電車に近い。日本製だけに、身近な電車との比較を楽しめる。

 低いホームから階段を上がって乗り込むのは韓国スタイルだが、電車用の高いホームにも対応して、デッキが上下するのが特徴の一つ。車内は大学生らで混雑しており、よく直前で席が取れたものと思う。僕の席にも若い女性がおり、切符をみせる素振りをする間もなく、席を立った。今日は金曜日。韓国では下宿する学生でも、週末を実家で過ごす傾向にあり、この列車の始発駅・新昌(シンチャン)駅付近の大学の学生が、大挙首都圏の実家に向っているようである。

 車内の様子も、いたって日本風。座席のインアームテーブルまわりは「白いかもめ」を連想させるし、デッキを仕切るガラス戸は「フレッシュひたち」風。その上のステンレス鏡面仕上げの欄間は、真ん中のテレビモニターの配置まで福岡市営地下鉄七隈線にそっくり。丸くカーブした荷棚は九州横断特急を連想させるし、2列分の窓にロールカーテンのレールを真ん中に通した窓周りは、JR東日本の特急のようだ。

 そして走行音も、日本のあちこちで聞く、お馴染みのモーターが響く。流れる田園風景を見ていると、鹿児島本線を走る特急にでも乗っている錯覚に陥りそうだ。特に今朝、親戚関係ともいえる「白いかもめ」に乗ってきていることもあって、余計にその感を強くした。


 


▲丸みを帯びたヌリロ号


▲デッキはガラス張り


▲どこか日本の電車風な欄間まわり


ダイヤも概念も新しい「ヌリロ」

 ヌリロは電車の高加減速性能を活かして、かなりの停車駅を設けている。駅ごとに乗り降りが多く、狙いは当たっているようだ。通勤電車の運行区間内で完結する優等列車は史上初で、従来の長距離列車と通勤電車の間を埋める役割とも言え、新たな需要も生んでいるのではないか。11往復(平日)を、一挙に純増というのも韓国鉄道では異例中の異例で、意気込みが伝わってくる。

 逆に言えば混みすぎの感もあり、首都圏で4両というのは力不足にも感じる。2編成併結の8両では過剰かもしれず、5~6両への増結が望まれるところだ。

 スピードはというと、停車駅が多い上に、あくまで「ムグンファ」クラスの列車ということで、速いという印象はない。西井里(ソジョンニ)駅ではセマウル号を退避するため数分停車し、追い抜いたはずの緩行線の通勤電車に再度、追い抜かれてしまった。前後の客車列車に挟まれているのか、頻繁に減速を繰り返すのも残念な点。もう一歩、ダイヤ上の工夫が必要だろう。

 残念といえば、設計思想が活かされていないことも挙げられる。先頭部はパノラマカーよろしく、運転席がガラス越しで見えるようになっているのだが、常に曇りガラスの状態になっていた。機関車方式の列車が多く、運転士にとっては「見られ慣れていない」のかもしれない。車内にいくつも掲げられた情報提供モニターも「KORAIL」のロゴを表示したままで、こちらも活用が望まれるところだ。

 ソウル近郊でも永登浦(ヨンドンポ)、龍山(ヨンサン)、ソウルと連続で停車し、手前の駅でかなりの下車があるのも通勤電車と同じで、ラストスパートはガラガラ。ソウル駅でも一番右側の「電車用ホーム」に入るため、上下線を横断せねばならず、かなりの時間を信号待機に費やして、ソウル駅に到着した。長項線の他の列車は龍山までしか走らないのだが、余裕のある電車用ホームを活用できるからか、ソウル駅まで直行してくれるのはありがたい。

 ソウル駅の電車用ホームは元々、1日3本運行されている、列車線を走る急行通勤電車のために設けられているものだった。ヌリロは高低両ホーム対応のため、昼間は遊んでいる電車用ホームを有効利用できる。ただホームには通勤電車の扉位置に合わせて転落防止柵があり、ヌリロの扉は合わず、一部の扉では、開けば目の前に柵がある。まあいいやとそのまま運用しているあたり、やはり大らかな国だなと思う。

 ヨーロッパの駅のような大ドームのソウル駅、同じくヨーロッパスタイルのKTXに並ぶ日本式の「ヌリロ」は、しかしすっかり馴染んだ姿になっていた。


 


▲白が基調で明るい車内


▲ソウル駅では、ホームの柵とところどころ合わない


▲ソウル駅到着

学生街で学生気分に

 ソウル駅から地下鉄を2本乗り継ぎ、安岩(アナム)駅へ。延世大学の寄宿舎最寄り駅で、今まさに留学中の妹に会いに来た。坂の上にある留学席寄宿舎の住み心地は、まずまずとのこと。まだ留学がスタートして1ヶ月。僕の経験では、なにかと日本が恋しくなる時期だったが、さてどうなのか。あまり表に現さない奴なので、よく分からない。

 まあご飯でもと連れ出してもらったのは、寄宿舎の下の学生街にあるブデチゲの店。もとは駐韓アメリカ軍横流しのハムやスパムをベースにしていた鍋で、ジャンキーさが好きな料理である。内装はお洒落で、いかにも若者向きの店だが、メニューはブデチゲのみというのがこだわり。お酒すら置いてなく、韓国の食堂でよく見られるような、食堂と居酒屋がごちゃ混ぜになった雰囲気でもない。純粋に鍋だけを食べさせるスタイルで、その分客の回転が良く、値段も格安にできるようだ。味も、文句なしのうまさだった。

 妹の寄宿舎の友人と、僕の留学時代の友人も呼び出し、評判という学生街の飲み屋に。アメリカンでなかなかいい雰囲気じゃんと思っていたのだが、どうも様子がおかしい。この内輪で盛り上がっている雰囲気…学生サークルが店を貸し切り、店として営業する一日飲み屋だったのだ。

 僕も留学生時代には、友達らが「営業」する店に行ったことがあり、なかなか楽しかった。ただ楽しいのは仲間内だからで、部外者になると、メニューはいつもと違うし、なんだかんだ言っても素人仕事だしで、あまり歓迎はできない。学生の明るい雰囲気は楽しかったものの、また機会を改めて来たいと思う。

 寄宿舎にお邪魔するわけにもいかないので、僕は妹と一旦別れて、月渓(ウォルゲ)の友人の家へ。もう12時前だが、近所のサウナへ行こうと相成り、友人の家の自転車を借りて漕ぎ出した。よく考えてみたら、韓国で自転車に乗るのは初めてのこと。長らく韓国では、自転車は卑しい乗り物という考え方があり、留学していた2002年当時もほとんど自転車を見ることはなかった。それが一時期のガソリン高騰に加え、急速に高まりつつあるエコ意識も相まって、自転車の普及が進んでいる。

 しかし実際に乗ってみれば、あちこちにある地下道に行く手を阻まれる。歩道用の階段に一応斜路は付いているものの、歩行が前提なのでとても急で辛い。かといって車道は危険でとても通れないし、まだまだ街乗り自転車の普及を阻む要素は多い。

 久々に韓国サウナの開放感に浸り、戻って寝たのは午前2時。旅は、まだまだ長い。


 


▲お洒落なブデチゲの店


▲街中には有料オートトイレも登場


▲キューブだ!

▼2日目に続く








inserted by FC2 system