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10年目の韓国を旅する
6日目
どんどん伸びる首都圏の電車網

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未来へつなぐ、生まれ変わった京義線

 研修施設で目覚めた6日目の朝。山の中の、気持ちのいい景色が広がっていた。ホテルライクな施設だが、朝食は純粋な韓国式。韓国でアメリカンブレックファーストを見るのって、よほどの高級ホテルに限られる気がする。そして若者であっても、韓国式の方が受け入れられるようだ。

 忠州への帰路、最近新築したという、サークルメンバーの家に立ち寄る。大学の友達の9割はマンション住まいなので、韓国で戸建ての家、それも新築を見る機会なんてそうそうない。家も庭も作りこまれており、母上のこだわりが見えるようだった。

 11時のバスに乗り、ソウルへ戻る。忠州~ソウル間の直通列車は、1日わずか1本。一方のバスは1時間に最低4本は出ていて、パスを持っていてもバスの世話になってしまう。1時間半と少しで、新世界百貨店がそびえるソウル江南(カンナム)の玄関口、高速ターミナルに到着した。

 今日のお目当ては、ソウルの伸び行く都市鉄道網の観察で、まずは7月に開業したばかりの地下鉄9号線ホームへ下った。新しくてきれいなのはもちろんだが、ドーム状の巨大なコンコースには圧倒。サイン類の文字も洒落たフォントになっているし、電車も画期的な急行運転を行っていて、これまでとはまったく概念の異なる地下鉄だ。後刻、改めて全線に乗っているので、詳しくは後段に譲る。

 堂山(タンサン)駅では、メトロの2号線に乗り換え。地下の9号線ホームから、高架の2号線ホームまで、どれだけ階段を登らされるのだろうと思ったが、1本のエスカレーターで一気に登れてしまったのだから、驚いた。エスカレーターホールはガラス張りで、地下から上がってくると眩しい。

 2号線で合井(ハプチョン)へ、さらに6号線でデジタルメディアシティ駅へ。この駅を「主に」始発駅として伸びているのが、京義(キョンウィ)線だ。こちらは以前から、長距離列車として「通勤列車」という列車種別の各駅停車が走っていたが、途中駅のムンサンまで電化、複線化、さらには駅舎の改築と、ほぼ新線並みの改良を受けて、7月に開業。首都圏の地下鉄・電車ネットワークの一員に組み込まれた。

 走る電車も、真新しい通勤型電車。車内はピカピカで、ドア間は大きな1枚窓になっている。ただ車内の広告枠にはほとんど広告が入っておらず、広告代理店からは宣伝効果が薄いと判断されているのかどうか。ロングシート上に靴を脱いで足を投げ出す乗客も見られ、少し「汽車」の匂いも残っているようだった。

 1両あたり数人の乗客を載せ、ガラガラで発車。真新しい線路上を、もどかしい早さで走っていく。せっかくの立派な設備なんだから、もっと早く走ろうよと思うのだが、韓国の電車は一般的に、日本の私鉄のような韋駄天走りはしない。突貫工事の結果、路盤がまだ不安定との報道もあり、徐行運転を行っているのかもしれない。

 駅舎やホームも未だ工事が続いている所があり、これも韓国流といえば韓国流。せっかく作ったインフラをいち早く活かすという視点では、資産の有効活用ともいえる。その駅はどれも立派で、駅という駅が待避線を備えた2面4線の作りなのは驚きだ。追い抜きのある急行電車なんて、平日の1本だけなのに…

 ホームといえば、長距離列車用の低いホームがある駅もある。今のダイヤでは高床の電車だけだが、いずれ長距離列車が走ることを見越してのことだろうか。というのも、京義線の「義」は、北朝鮮の新義州。南北統一の暁には、ソウル~平壌間の2大都市間輸送を受け持つ大動脈である。過大な施設も低いホームも、来るべき時に備えた先行投資であると解釈したい。


 


▲可愛い姿の友人宅


▲江南ターミナルに進入


▲デジタルメディアシティ駅で発車を待つ京義線



だんだん、きれいになっていく

 都心から離れるに従って空いてくるのが盲腸線の宿命だが、京義線はそうではない。地元の人を中心に入れ替わりがありつつ、少しずつ乗客が増えてきた。3号線と接続する大谷(テグク)では、大挙して乗り込んできた。これは汽車時代からの傾向で、京義線沿線も独自の駅勢圏を持っている。

 一山(イルサン)駅で下車。都会にありながら文化財に登録された木造駅舎が頑張っており、2007年に来てみた駅だ。電化後の様子を見に来ようと、新生京義線の試乗はこの駅までと考えていたのだが、丁度反対側のホームには、ソウル行き電車が滑り込んできた。デジタルメディアシティ駅を越え、都心に直通する電車は1時間に1本のみ。これを逃すと後が大変!というわけで、そのまま乗り込む。駅舎観察は、またの機会ということになった。

 ちなみにデジタルメディアシティ駅だが、正式名称に加え、略称の「DMC」、さらにはDMCのハングル表記まで3種類の表記が混在しており、なんとも分かりにくい。統一の要ありに感じるが、そのあたりの大らかさはお国柄なので、今後も改まらないだろう。

 来た道を戻り、DMCからソウルまで、1時間に1本の貴重な電車に揺られる。京義線の改良はまだ終わりではなく、DMCから龍山(ヨンサン)までの通称・龍山線が建設中。中央線とつながり、直通運転を行う予定になっている。DMCでの乗り換えはそれまでの仮の姿というわけだが、都心直通の利便性を残すため、汽車時代の運転本数に相当する1時間に1本だけは、ソウル駅乗り入れを残しているというわけ。

 というわけで、加佐(クァジャ)や新村(シンチョン)といった途中駅は、高床ホームを仮設でしつらえており、いかにも仮の姿といった雰囲気だ。加佐駅では、地下に建設中の龍山線が崩落し、その数分前に列車が通過するという、あわや大惨事も起きており、少し手に汗握った。

 汽車駅らしい雰囲気も残す、ソウルの裏道といった線路を抜けて、ソウル駅でもどん詰まりの端っこに設けられた京義線ホームに到着。ここも、あくまで仮駅。他の地下鉄路線との乗り換えには、一度人工地盤の上に上がり、ロッテマートの駐車場出入り口前を通り、更に階段を下るという数分がかりの道のりとなる。各所に案内は出ているものの、予備知識なしに訪れれば、惑うこと受け合いだろう。

 少し時間に余裕ができたので、久々に鐘路(チョンノ)の街に出てみた。きれいに整備された江南の街なんかとは違い、雑然としていて歩道も狭く、でもそれがどこかアジアらしい雰囲気を醸し出していて、初訪韓以来好きな街だ。

 ところが、街の雰囲気は大きく変わりつつあった。裏路地に、焼き魚屋などの無数の飲食店が並び、サラリーマンで賑わっていたピマッコルが、ほとんど再開発で姿を消していたのだ。片側のビルは姿を消し、仮囲いを立てて辛うじて路地裏の風情を残していたが、文字通り風前の灯だ。

 思えば、始めての訪韓から10年。韓国という国は、どんどん姿を変えている。街も列車もきれいになり、便利になり、無用な辛い思いや、不愉快さを感じることは随分減った。それはきっと発展であり、進歩なんだろうけど、今後僕は、何を求めてこの国に来るのだろうか。再開発ビルに掲げられた「ピマッコル」の看板に釈然としない思いを抱きつつ、僕と韓国を結ぶものは何なのか、改めて考えをめぐらせた。


 


▲ソウル駅の京義線仮設ホーム


▲まさに風前の灯のピマッコル


▲再開発ビルに取り込まれたピマッコル


急行も走る最先端の地下鉄

 地下鉄3号線で高速ターミナル駅に戻り、改めて、新しい地下鉄・9号線に乗ってみよう。

 9号線で独特なのは、他線との乗り継ぎの際には「乗り換え改札」を通過すること。これまでのソウルの地下鉄4事業者間は共通運賃制を採っており、会社間の境界を意識することなく乗ることができた。ところが9号線は、民間資本を誘致しできた民鉄。どれだけの乗客が利用したのか、収支を明確にする必要から、乗り換え改札が設けられているのである。

 もちろん、このような改札は韓国初登場。「乗り換え改札では、運賃を頂きません」と大書きしてあり、利用客も慣れたのか、戸惑うことなく通過していた。なお当初は他線より割高な運賃が想定されていたが、しばらくは既存の電車網と共通運賃を採ることで決着している。

 まずは一旦、都心側の始発駅、新ノニョン駅へ。地下鉄路線図上で見ると、中途半端な位置にも見える新ノニョンだが、地上に上がると、そこは教保生命ビルなどが立ち並ぶ、江南の高層ビル街。道路は中央バスレーン(名古屋風に言えば基幹バス)が走り、乗り継ぎも便利だ。

 9号線の特徴の一つとして、エスカレーター、エレベーターが、比較にならないほど充実していることが挙げられる。時代の要請もあると思うが、民鉄だけに、バスや既存地下鉄からの誘客も狙っているのではと察する。

 駅内もデパートやホテルと見紛うほど、艶やかでセンスあり。壁は壁面アートで彩られている。きれいなだけじゃなく、男子トイレにもベビーチェアを設けてあるのを見たのは、韓国では初めてじゃないかと思う。日本の最新鋭の地下鉄に勝るとも劣らず、ソウル市民は誇りに思っていい路線だ。

 一方で、ダイヤも画期的。地下鉄区間では珍しい、急行運転が行われているのだ。韓国の一般的な電車での急行運転は、複々線の京仁線では終日行われているが、複線区間で途中駅での追い抜きを伴った急行の終日運転は、おそらく韓国初。せっかくなので、画期的な急行電車に乗ってみよう。一般10分間隔、急行20分間隔のラウンドダイヤである。

 開業から2ヶ月、急行運転はさすがに利用者にも浸透しているようで、ホームで待つ人も電車を選んでいる。やがてゴールドラインのきれいな電車が到着。夕刻とあって、新ノニョン駅発車時点で満員といっていい乗りになった。高速ターミナルで他線からの乗り換え客を受け入れれば、大混雑に。かなりの乗客を集めている様子が伺えた。

 もっとも、10両編成は当たり前のソウルの地下鉄網にあって、9号線は4両と、かなり短め。駅施設を大きく作った割には、慎重なスタートであるのも、収支にシビアな民鉄ならではといったところか。早晩、増結を迫られそうではある。

 電車内は、近年の他社車両で見られるような車椅子スペースや、低い吊り手などをもちろん踏襲。ドア上のモニタは2画面でこそないものの、視認性に優れた大型ディスプレイになっている。乗り換え時は、案内放送と連動したアニメーションになっており、土地に不案内な人でも分かりやすい。


 


▲整然と並ぶ改札機


▲壁面にはアートが華を添える


▲上下移動の基本はエスカレーター


新しい電車、古い電車

 金浦空港までの24駅のうち9駅のみ停車とあって、かなり早い。空港客らしい乗客は少なく、途中駅で降ろす一方で、車内はだんだんと空いてきた。急行運転をもってしてもリムジンに勝てないのかと思うが、時間帯にもよるのだろう。30分少々で、金浦空港駅に到着した。9号線はあと一駅、開花(ケファ)まで続くが、急行は当駅止まりなので、後続電車を待たねばならない。

 この駅で接続するのは、仁川空港行きの空港鉄道。9号線ともども、既存鉄道網との乗り換え改札のある路線だが、逆に9号線と空港鉄道の間には、乗り換え改札がない。民鉄同士、仲良くということか。ホームも隣り合っている。

 ただ地下3階ホームは、空港鉄道の一般列車と、9号線の市内方面。地下4階ホームは、空港鉄道の急行と、9号線の開花方面という分け方のため、市内から空港へ、本数の多い一般列車で行こうとすると、上下移動が生じる。一般、急行という使い分けは止めて、空港鉄道も方面別にしてはと思うが、そんな配線にはなっていないのだろうか。

 ちなみにホームが同一ながら改札が別れており、改札を間違えると、相手会社の初乗り運賃がさらに引かれてしまうので、ご用心。

 後続の一般電車に乗り、開花駅へ。9号線唯一の地上駅で、ホームドアもないため、車両の写真を撮りたい向きにはオススメだ。駅前の開発はまだまだといった風情だが、バスは頻繁に乗り入れているようで、近隣の人にとっては便利かも。急行が乗り入れれば、もっと便利だろう。

 金浦空港駅に戻り、ホームタッチで空港鉄道に乗り換え。金浦空港から仁川空港までの部分開業のため、極端な不振の伝えられる空港鉄道だが、一般列車には思いの他(といっても余裕で座れる程度だが)乗っていてほっとした。極めて安定した路盤の線路を、快調に飛ばす。

 ところが、1駅目(といっても駅間距離は相当に長い)の桂陽(ケヤン)で、乗客のほとんどが下車。どうやら空港の足というよりは、単なる通勤客がほとんどだったようだ。来年末のソウル駅延伸までは、こんな状況が続きそうである。

 桂陽駅では、仁川地下鉄に乗り換え。丸っこいデザインの先鞭を告げた、優れたデザインの車両が走る仁川の地下鉄も、開業からはや10年。記念して、商号を「仁川メトロ」に変更するとの告知が出ていた。ソウル地下鉄公社転じて「ソウルメトロ」も、なんやかんやで定着したし、流行のようだ。

 富平(プピョン)駅で、京仁線(1号線)に乗り換え。近代的な電車を乗り継いできたが、どこか古びた地上区間の駅に来ると、なぜだかほっとする。駅のベンチで酒盛りをする、二人組のおっちゃん。日本の首都圏のような、ホーム上のコンビニ。複々線を、急行と緩行が駆ける。アジアの都会の光景である。

 地上駅で、駅ビルにショッピングセンターを併設した、日本の大都市の駅を思い出させる富川(プチョン)駅で下車。留学時代の先輩や友人らと再会して、まずはタッカルビ屋で乾杯!と飲みはじめた。大好きな料理の一つで、焼酎も進む。

 いい気分で、2軒続けてお洒落なバーに入り、きれいなバーテンのお姉さんと楽しくトーク。首都圏の女性の発音は明瞭で聞き取りやすく、会話の練習にはもってこい!? バーながら、韓国内産の各種ビールも取り揃えており、以前は代表的ブランドだったOBラガーが置いてあって、「懐かしい」と大盛り上がり。かわいいバーテンさんは、
 「おすすめはしませんけど」
 と言いつつ出してくれて、ここにも時代の流れを感じたのだった。


 


▲角ばったスタイルが逆に新鮮な9号線


▲どの駅も壮大な空港鉄道(桂陽駅)


▲韓国にも登場、通勤電車ホーム上のコンビニ



7日目
グリーンでつなぐ、ソウル~福岡

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 最終日、7日目。早起きして大邱(テグ)まで下り、最期の活躍を見せる旧型ディーゼル動車に乗ろうかと思っていたのだが、2時に寝たとあっては早く起きられるはずもない。結局、先輩の家を9時に出ることになった。

 地下鉄を乗り継ぎ、光明(クァンミョン)駅からKTXに乗ったのは11時。こんな時間にソウルを出ても、陸海路で九州へ日着できるのだから、すごい時代になったと思う。

 KTXシネマでは、下り列車も洋画の上映だったため、特室を選んでみた。グリーン車に相当し、特にKTXの特室は割高なのだが、パスを持っていると半額になり、光明からなら9,200ウォンの追加料金で利用できる。ゆったりしたシートに身を委ね、高速走行から在来線へと移り変わる、車窓の妙を楽しむ。

 九州でも新幹線の全通を控えているが、九州と同じ時期に部分開業を果たしたKTXが、時期を同じくして全通を迎えようとしているのは、偶然とはいえできすぎ。いずれの開業も待ち遠しいものだが、今の在来線特急「リレーつばめ」との別れが名残惜しいのと同様、在来線区間を、その俊足性能を落として走るKTXの姿も、記憶に留めておきたいワンシーンの一つである。

 釜山駅から接続するいい時間のシャトルバスがなく、今までどおり地下鉄で中央洞へ出て、徒歩で旅客船ターミナルへ。帰路は、グリーン席をおごってみた。日本発では3,000円、韓国発では30,000ウォンなので、今みたく100円=1,000ウォンを上回っているような状況であれば、韓国発の方がお得だ。

 サービスのビールを呑みつつ、ウトウトしていたら、1週間ぶりの日本に戻っていた。明日からの日常を、勝ちに行けるだけの英気は養った。シルバーウイーク、毎年あってほしいなあ…。


 


▲ゆったり3列のKTX特室


▲レガロのシートが並ぶビートルグリーン車




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