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10年目の韓国を旅する
4日目
鉄道リゾート体験

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韓国版廃線跡巡り

 今日は月曜日。日本では連休真っ只中だが、韓国では新しい、普通の一週間が始まった。近所の餅店(ピョンジョム)駅まで車で送ってもらい、上り電車を待つ間に、通勤ライナー的存在ともいえる上りヌリロ号が通過していった。8両編成なのに、立つ人もいる混雑。この好調を見ていると、先々もヌリロは増発されそうな気がする。

 一旦、水原(スウォン)まで上って、下りのムグンファで南下する。こちらも、大学へ行く学生さんで大混雑だ。カフェ車も、ゲームの椅子や床にまで座り込む学生だらけで、本来の憩いの場という役割を果たしていない。ただ自由席のない韓国の優等列車だけに、立席利用者を収容するというのも、カフェ車に隠された本来の目的なのかも。

 乗り継ぎターミナルの鳥致院(チョチウォン)で、忠北(チュンブク)線の列車に乗り換え。こちらは相変わらず、カフェ車とも特室車とも無縁の、地味な列車である。

 KTXの交差点・五松(オソン)駅では、KTXの駅舎工事が急ピッチで進められていた。湖南方面への分岐駅としての大役を担うことになっており、清州(チョンジュ)市の新しい玄関としての役割も期待されている。韓国の建設現場の名物ともいえる、か細いタワークレーンが稼動していたが、転倒事故が後を絶たないシロモノだけに、KTXの線路に倒れ掛かったらと思うと、身の毛がよだった。

 忠州駅で下車して、鉄っちゃん仲間の鋼男君と合流。今日、明日はコイツと「鉄い」日程を楽しむことにしている。駅から徒歩10分程度のレンタカー屋に行き、日本でも一時期売られていた現代の「ソナタ」をレンタル。24時間で8万ウォン也。男二人だから軽かコンパクトカーでも充分なのだが、韓国のレンタカーでは稀有な存在のようだ。

 とはいえ高級車だけに乗り心地は良くて、快適なドライブ。水安保(スアンボ)温泉から峠を超え、聞慶(ムンギョン)市へ。かつては産炭地として活況を呈したが、エネルギー革命とともに斜陽を迎え、鉄道も廃線に追い込まれたという、北海道や筑豊を連想させる地域である。

 鋼男の記憶では、国道からわずかにわき道にそれた所に、まるごと聞慶線の廃駅の跡が残っているというので、車を降りて探検。残念ながら最近になって駅舎が取り壊されたようで、ネットが張られ即席のゴルフ練習場になっていた。それでもよく探せばホーム跡やレールはそのまま。なんだか、日本の廃線跡探訪をしているのと同じ気分になってきた。

 道路と廃線跡は時折交差しており、まだまだ新しいPC製の橋脚なんか見ていると、もったいないなと思えてくる。ところが支線の加恩(カウン)線は、レールが輝き雑草も取り払われ、とても廃線跡には見えない。PC枕木に取り替えられ、使われなくなった木の枕木が積み上げられている所もある。そしてなんと、レールを整備する車両が走っているではないか。これはどういうことだろうか。

 加恩駅跡に行くと、緑色の木造駅舎には、韓国の祝い事には付きものの垂れ幕が掛かっていた。そこには「聞慶廃線路及び駅舎復元事業」の字が躍り、駅の向かい側には事務所も開設されていた。どうやら観光路線化を目指して、線路復元作業の真っ最中のようだ。近年、聞慶市は鉄道レジャーに力を入れており、その一貫としての鉄道復元らしい。かつてのようなローカル輸送までは担わないのかもしれないが、喜ばしい事例だろう。復活の折には、必ずや乗りに来ねばと思う。

 いずれ「駅前」の称号が復活するであろう、駅跡近くの食堂で、聞慶名物のテジクッパ(豚のクッパ)を昼食に。鋼男の地元釜山もテジクッパで有名なので、忠州から近いここまで来たら、食べたくなるのだそうだ。地元贔屓はどの国でも同じ、やはり釜山のテジクッパの方がうまいそうだが。


 


▲短いながらも最新の機関車が牽く忠北線


▲ホームと線路の残る駅跡


▲休止中なのにモーターカーを発見!


▲復活の日を待つ加恩駅


韓国版たま駅長に会いに

 車を走らせ、聞慶市の中心、店村(チョムチョン)へ。慶北線が経由する町だが、定期列車は1日3本という超閑散路線である。駅舎も駅前広場も立派すぎるほどだが、しばらく列車のない駅の中は、がらんと静まり返っていた。

 しかし、寂しい駅ではない。「ワクワクするおとぎばなしの世界」と銘打ち、駅構内を一つのテーマパーク…というと大げさだが、楽しめる公園にしているのだ。

 改札口を抜けると出迎えてくれるのが、名誉駅長。といっても2匹のワン公が、小さな2つの犬小屋、もとい駅長室で勤務している。たま駅長のパクリ?と言ってしまえばそれまでだけど、こんなソフト面からの話題作りを仕掛けるなんて、それだけ鉄道がレジャー的側面を持ってきたともいえそうだ。

 そしてもっとも目を引くのが、巨大な大陸型のSLだろう。標準軌だけに日本のものより一回り大きく、低床ホームのレベルから見上げることになるから、尚その感を強くする。銘板には長春の文字が見え、中国製のようだ。なるほど、大陸的な香りがするはずである。

 注目なのは製造年で、なんと1994年。SLの新車なのだ。もともとソウル郊外線で観光列車として活躍したSLだが、KTXの工事に伴い廃止され、以後他線区に転用されることなく廃車。この田舎街で展示物としての余生を送っているというわけ。

 せっかくお金をかけて新造しておきながら、なんとももったいない話だが、1994年といえば韓国ではまだまだ鉄道趣味という言葉が聞かれなかった時代である。ネットコミュニティの普及とともに、ようやく鉄道趣味が浸透しつつある今なら、まだ注目を浴びたのかもしれないと思う。せめて時が熟せば復活できるように、もう少しいい状態で保存をしてほしい。

 市内のショッピングセンターで、「バーモントカレー」が置いてあるのに驚きつつ、今日の晩飯を買出し。再び聞慶方面に車を走らせた。4車線の高速道路のような国道から、旧道へとわき道にそれ、聞慶線の佛井(プルジョン)駅跡へ。韓国では珍しい石造りの駅舎で、登録文化財にもなっている。ややきれいにしすぎた感があるものの、古きよき物を保存・活用していく姿勢は素晴らしい。

 そしてこの駅に留め置かれているのが、名物・列車ペンションだ。さっそくチェックインしてみよう。


 


▲1日6本しか停まらない駅とは思えない店村駅


▲2匹の名誉駅長


▲コスモスに囲まれ余生を過ごすSL


列車ペンションの一夜

 鉄道車両の宿泊施設は韓国に3ヶ所あるが、佛井駅のものは先頭車が地下鉄用の電車というのが、何といってもユニーク。ソウルで見慣れた新1000系電車が突如山の中に現れるだけでも驚きなのに、塗装がムグンファ型客車に準じているというのも傑作だ。僕ら鉄道ファンにとっては「まるでウソ電」(現実にはありえない塗装をCG技術で塗った電車)だ!と大喜びなのだが、日常生活に根付いた電車を選定した理由は、よく分からない。

 2両目以降はムグンファ型客車の改造で、まっとうな姿といえる。各部屋には「佛井→蔚山」といった具合にサボが付いていて、それが部屋の名前になっている。僕らの部屋は「大田」。事務室でチェックインして、さっそく中へ。

 室内は元が列車だとは信じられないほど、きれいに改装されていた。キッチンにリビング、ベッドルームと、列車だけに幅は狭いながらも、広さは充分。ペンションというかコンドミニアム的な施設のようで、食器から鍋、皿、調理器具まで、一通り揃っていた。宿泊料は1室10万ウォンと、2人で来れば決して安くはないが、4人くらい集まって自炊すれば、経済的にもなりそうだ。

 佛井駅からは、韓国の鉄道レジャーではお馴染みとなった軌道自転車の「レールバイク」も楽しめる。同じ文慶線でも、2006年に訪れた鎮南(チンナム)駅発とは全くの別コース。さっそく走ってみよう。

 軌道自転車とは言っても、コースは単線なので自由に走ってよいわけではなく、時間が定められ一斉に片道を走り、終点で方向転換して戻ってくるというシステム。チケットにも、発時刻が明記される。周囲に観光客は見当たらなかったが、僕らの前にはカップルが走り出すことになり、オフの平日でもそれなりに集客できる観光地のようだ。

 鎮南コースと同様、佛井コースも全般的に平坦。とはいえレールバイクそのものの重さのせいか、レールの上を軽やかにとはいえず、少々体力は使う。文慶市のキャッチフレーズは「Running 文慶」で、健康づくりをテーマにした町おこしに取り組んでいる。きつくないわけが、ないのである。

 民家の軒先をかすめたり、コスモスを愛でたり、トンネルをくぐったりと、短いながらも変化に富んだ景色を楽しみつつ、終点へ。ミニ転車台で2台の自転車を方向転換させて、来た道を戻る。風変わりな楽しい体験で、ユニークな廃線跡の活用だ。

 部屋に戻り、買い込んだ食糧を調理し、杯を合わせる。周りは静かな、何もない山間。韓国焼酎を傾けつつ、鉄道談義「など」に花を咲かせる。こういう夜も、なかなかいいものだ。

 それはいいのだが、それなりの酒豪という自覚はある二人なのに酒を買う量を誤り、8時頃には食糧も底を付き始めた。駅前の食堂もつぶれているようだし、周囲は店どころか、人家すらない田舎だ。管理のおじさんに一番近くの商店を聞いてみたが、歩いて30分はかかるとのこと。うーん、歩くか?と顔を見合わせたが、酔った勢いで二人して、おじさんに車で連れて行ってくれないかと頼み込んでみた。

 我ながらずうずうしいが、そこは「甘え」がきく韓国のこと。他に宿泊客もいないということで、特別に車を出してくれた。おじさん、感謝!車で連れて行ってもらったのは、コンビニではない、小さな集落の一般商店。まず日本ならこんな店が開いていない時間と思うが、韓国では個人商店でも24時間営業なんてところが少なくない。おじさんへの差し入れと共に菓子、酒をごっそり買い込み、2次会スタート。
 「おい、いつもみたいに飲んでいるけど、ここが列車の中だってことを忘れてないか!?」
 などと自分たちの居場所を再確認しつつ、酒宴は深夜まで続いた。



 


▲ウソ電のような前面スタイルの列車ペンション


▲室内はこぎれいでコンド風


▲佛井駅は、珍しい石造りの駅舎


▲ぐるり方向転換するレールバイク


▼5日目に続く








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