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10年目の韓国を旅する
3日目
韓国の田舎の結婚式

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列車バスを乗り継ぎ、普通の田舎街へ

  3日目はちょっと早起き。今日はたまたま友人の結婚式の日で、こんな日にめぐり合わせたのも何かの縁と、歴史遺産で有名な町・公州(コンジュ)市の維鳩(ユグ)へと向うことになった。結婚式にそんな軽い気持ちで行っていいものかと思われるかもしれないが、韓国の結婚式は大らかで、招待状をわんさと出し、食事もビュッフェスタイルで、だいたいの量で準備するといったやり方だ。

 韓国の結婚式は2度目だけど、式によって雰囲気も違うだろうし、楽しみ。スーツ一式を持ってくることはできなかったが、礼服用のズボンとシャツとネクタイで決めて、いざ出発。

 まずは地下鉄を乗り継ぎ、湖南方面への始発駅・龍山(ヨンサン)へ向った。2段窓が日本の103系を連想させる、ソウルメトロ1000系電車は、モーター音もどこか懐かしい。ただし車内は全面リフレッシュされており、「老弱者席」の前のつり革が低くなっていたのも変化。市民団体から「東京の電車を見習って」と要望され実現した、細やかな配慮だ。

 龍山からは8時10分発の、長項線ムグンファ号に乗り込んだ。一昨日、「ヌリロ」で上ってきた道を、逆に温陽温泉に向って下る。おなじみムグンファ号のリミット型新型客車は、快適ながら懐かしい客車列車の乗り心地も楽しめる。1両まるごとサービスコーナーになっている「列車カフェ」もあり、「ヌリロ」より旅気分が盛り上がる列車であることは間違いない。

 さっそく、モーニングコーヒーを味わいに列車カフェへ。マシン抽出ながら、その場で豆を挽く本格コーヒーで、濃さの好みも聞いてくれる、なかなか本格的なカフェだ。しかし「濃い目で」とオーダーすると、スタッフさん、分かったような分からないような表情を浮かべ、マシンに向い始めた。そして出てきたコーヒーの味は…韓国式コーヒー!薄めで独特のフレーバーを感じる、韓国の昔ながらの喫茶店で出されるコーヒーの味になっていた。これは個人的に残念。在来線列車を利用するような乗客には、都会的なドリップコーヒーより、昔ながらの「茶房コーヒー」の方が嗜好に合ったのかもしれない。

 コーヒーの味には不満だったが、パソコンゲームやカラオケなどは健在。日本製のマッサージチェアも、変わらず1000ウォンで安楽なひと時を過ごせた。

 高架駅の温陽温泉(オニャンオンチョン)で下車。タクシーに乗り、牙山(アサン)温陽バスターミナルへ降り立った。駅に対してバスターミナルはオンボロで、中のテナントもガラガラになっていた。移転の計画があるようだ。

 施設では見劣りするものの、通勤電車よりまだまだバスが主力の地域で、隣町の天安へは2社が競合。「次はこちらのバスですよ!」と、両社の乗客誘致合戦は激しい。

 それはいいのだが、維鳩方面のバスは定時の10時を過ぎても、ちっとも来ない。秋夕(チュソク、韓国のお盆的な名節)を来週に控え、お墓の掃除のため地方へ下る人が多いらしく、各地で渋滞しているという話しは聞いていた。しかし、いつ来るか分からないバスが来るのを待つのは不安なもの。バスの呼び込みのおじちゃんに聞いても「そのうち来るさ」と、つれない返事しか返ってこない。間に合うかな…と気を揉みつつ、バスがやって来たのは40分遅れた時間だった。

 列車の旅も楽しいが、田舎道を走るバスの旅も旅情があってオツなもの。コスモスが咲き乱れる沿道の風景に心和みつつ50分、これまたローカル線の終着駅のような維鳩バス停留所に到着した。


 


▲コーヒーの味は残念なカフェ車


▲近代的な高架駅の温陽温泉駅


▲道端にはコスモスが咲き乱れる



▲のどかな雰囲気の終点


より、あっさりした結婚式

 公州自体は観光地だが、市でも外れに位置する維鳩は、ありふれた田舎街。十数年前の韓国映画に出てきそうな、時代が止まったような街並みに、ファミリーマートが浮いている。

 田舎道をゴロゴロとカートを転がし、式場の「グランド会館」に到着。外観や玄関ホールは「公民館?」と思わせるような質素なものだが、2階に上がると華やいだ雰囲気になった。見慣れた友人も、びしっとしたタキシードに身を包み、晴れの姿に。

 式場はホテルのようで、晴れの日を祝うには充分な格式だった。韓国の結婚式はあっさりしたもので、30分くらいで終わるのが通例。それでも、一度首都圏で参列した式では、短いながらに友人代表の賛辞歌やケーキ入刀があり、「日本の結婚式から披露宴まで、一連の流れをぎゅっと縮めたようなものだな」と解釈したものだ。

 しかしこちらは、新郎新婦入場の後、代表(仲人?)からの結婚の心得を説いた挨拶が10分ほど続き…終了。え、もう終わりなの!?その後は、参列者一同での記念撮影。この時間が参列者一同にとって、一番和気藹々と楽しめた時間のような気がする。

 写真撮影が終わると、例によって皆での食事会。地下の食堂に降りると、雰囲気は通いなれた学食のようだった。料理はオーダー形式で、韓国式の祝いの料理が中心。大多数の韓国の人にとっては洋食のビュッフェよりこちらが舌に合うようで、学生の仲間たちも嬉しそうだった。

 飲み屋での「飲み放題」がない韓国にあって、結婚式場の食堂は数少ない飲み放題形式。それも祝いの席とあらば、さぞかし大盛り上がりだろうと想像するのだが、これが思いの他、皆、飲まない。さっさと切り上げる人が多く、そんな不文律があるのだろうか。

 幸せそうな二人と別れ、友人の車で温陽温泉駅に戻る。彼らとは明日、また会う約束をしているので、今日のところは一旦お別れ。列車まで時間もあるので、温陽温泉で一浴びすることにした。

 以前入った温陽観光ホテルの半露天風呂は気持ちよかったが、新しい湯にチャレンジしたくて、向かい側にできていた新しい温陽パレスホテルへ。韓国の温泉ホテルは、いわゆる日帰り入浴を受けてくれるところがほとんど。逆に宿泊客でも入浴料が必要なことが多く、入り口も別々で、ホテルとサウナが併設されているような感覚だ。

 立派なホテルではあったが、地下の温泉浴場は、普通の街中のサウナのようで残念。湯は名湯と謳われるだけあり、すべすべした気持ちのいい泉質だった。アカスリも受けて、スッキリした。



 


▲外観は質素なグランド会館だけど…


▲館内はゴージャス


▲酸素3倍で1時間早く覚める焼酎…って、ホント?


8両の週末ヌリロは大混雑

 ソウルへの帰路は、この旅2度目のヌリロの乗ることにした。まずはお隣の始発駅・新昌(シンチャン)へと出迎えに行くため、下りのヌリロに乗り込む。

 大方の乗客が降りてしまい、ガラガラの車内だが、それでも学生を中心に、ほどほどに乗っている。金曜上りとは逆に、寄宿舎に戻る学生で混雑しているようだ。新昌駅のヌリロ専用改札口には、駅員が立って改札に当たっていた。ほぼ信用乗車方式に移行した韓国の長距離列車だが、学生が多いからか、しっかり改札を行っているようだ。

 昨年末、電鉄延伸を機会に訪れてみて以来の新昌だが、駅前広場が完成した以外、特に変化はない。大学があるだけで、これといって何もない駅前だ。それでもヌリロという優等列車が登場したからか、拠点駅としての機能は高まっているようで、駅内の人の多さはぐっと増えた印象である。

 さて、ヌリロ号に戻ってみよう。2面2線の新昌駅だが、開業当初は使用されていなかった駅舎側のホームが、ヌリロ専用ホームとして活かされた。このホームも電車用の高床ホームで、高低ホーム対応のヌリロの本領は、遺憾なく発揮されている。

 この時間のヌリロ号は、2編成を併結した8両編成。連結面には、特徴ある顔が向き合っている。隣のホームの通勤電車も丸っこい顔立ちで、近年の韓国鉄道の流行ともいえるスタイルだ。

 ガラガラで新昌駅を離れ、スルスルと高架線を駆けて温陽温泉駅へ。大勢の乗客が待ち受けていて、ここでほぼ満席となった。金曜のように普段着の乗客が多かったが、ハイカースタイルの乗客もいて、行楽列車の役割も果たしているようである。新車に対する乗客の反応は好評で、
 「ほとんどKTXみたい!」
 とは子供は大喜び。それに対しおばちゃんは、
 「KTXはもっと窮屈よ」
 と答えており、まあ正確、ごもっともな感想だと思う。

 その後も駅ごとに乗客は増え、8両編成にも関わらず立客大勢の盛況となった。もともと人の動きが多い時間だけに、ヌリロ増発以前は、他の列車が混雑を極めていたのではないかと思う。この混雑になると、デッキが上下する構造はアダとなり、どうしても上下に稼動する範囲に乗客が立ち入ってしまう。
 「黄色い線の内側に入ると、乗降口が開きません」
 と放送はしつこく繰り返すものの、当事者はまさか自分のことだとは思わないようで、車掌が飛んできていた。平澤(ピョンテク)駅に至っては、5・6・7号車でトラブルが発生。こんな状況を目の当たりにすると、多少安全性に難があっても、車外ステップがよかったのではと思う。乗客のおばちゃんは、
 「欠陥車両ね」
 と、断罪していた。

 平澤駅ではこのトラブルの間に貨物列車が先行していき、優等列車らしい雰囲気にも欠ける。ただ停車駅が多いのは便利で、僕もヌリロしか止まらない烏山(オサン)駅で下車。この駅でもトラブルが発生し、ついに20分遅れで発車していった。大丈夫かな?

 この駅近くには、留学時代の日本人仲間2人とその家族が住んでいて、一緒に食卓を囲んだ。うち一家族は韓国に来てまだ1年経たない。姉妹2人の子供がおり、しかも生まれて数年は日本で育ったものだから、来た当初は大変だったようだ。しかも教育熱心な韓国のことだけあり、今後も否応なしに教育熱の洗礼を浴びていくことになるのだろう。

 それでも、渡韓間もないのに、年齢相応レベルの日本語と韓国語を使いこなす彼女たちには、率直に感服。日本語で話せば日本語で、韓国語で話せば韓国語で反応が返ってくるのだ。日本と韓国の、確固たる架け橋になってくれそうで、頼もしい気持ちでその成長も見守りたくなった。

 もう一人の同級生宅にお邪魔して、おやすみなさい。


 


▲テーブルの形状は885系のよう


▲独特の「顔」が向き合う連結面


▲ようやく駅前広場が完成した新昌駅


▲似たり寄ったりのアパートも、若者向きは明るめな内装


▼4日目に続く








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