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変わり行く韓国のローカル線を行く
6日目
すがすがしく迎えた新年

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韓国で迎えた初日の出

 寝たんだか、寝てないんだかよく分からないまま、朝6時に起床。新年といえば初日の出! 内陸の清州では、山に登って見るのが王道だ。登山が趣味のご両親から、登山服やら靴やらを一式借りて、完全防備。今日は出勤というお父さんに見送られ、まずは麓まで車で向かった。

 お母さんの所属する、山岳会の皆さんと合流。まともな登山なんてここ何年もやっておらず、去年の10月にキャンプ道具一式を背負って、大分・玖珠の伐り株山を登ったくらい。完全装備の山岳会メンバーについていけるか不安だが、ともかく出発だ。

 山の名前は牛岩山(ウアムサン)という。日韓とも丑年の今年にぴったりの名前だ、と思ったのは帰って調べてからのことで、現地の案内にはハングルしかなく、この時はカタカナで「ウアムサン」という意識しかなかった。標高は338mと大したことはなく、朝の散歩代わりに登るような山とのことだ。

 雪が止んだのは幸いで、多くの人がすでに山頂を目指しているらしく、道は歩きやすい。ところどころで凍っているのを、気をつければいいだけだ。日の出まで間があり、まだ足元は真っ暗だが、山岳会メンバーが照らしてくれるので助かった。ぐんぐん下になっていく、清州の街明かりもきれいだ。

 途中1回休憩を挟んだだけで、40分ほどで山頂に到着。楽勝だったのも、しっかりした防寒着が揃っていたことと、山岳会のサポートのお陰だ。感謝、感謝。

 山頂はすでに大勢の市民で埋まっていて、昨夜のカウントダウン会場といい勝負だ。新年の供え物の飾りつけもあり、異国の正月の雰囲気を盛り上げる。ステージも設けられ大騒ぎになっており、何のイベントかと思えば、首都圏の規制緩和に反対する市民団体のシュプレヒコールだった。大不況の中、中央の規制緩和をすすめ国力を取り戻そうという動きに、地方が黙っていられないのは分かるが、なにもこんな場所で…と、昨日と同じ思いが去来する。

 一般市民の反応は冷ややかだったが、新年を祝う気持ちは誰しも同じ。「あけまして、おめでとうございます!」「新年のご多幸をお祈りします!」のコールには皆が呼応し、やがて愛国歌の大合唱になった。いい雰囲気だ。

 やがて東の空が明るくなってきて、少しずつ、しかし強烈な光を持って、新年の太陽が上がってきた。昨夜の雪が嘘のような、雲ひとつない快晴の中での初日の出。オレンジの光が差し、体中の血が巡ってくるような感覚に包まれた。あけましておめでとう、今年も最高の1年になりそうだ。

 韓国らしいな、と思うのが、太陽がまだ登りきってもいないのに、そそくさと帰る人たち。「余韻」を楽しむ感覚は、かなり違う。

 山岳会の皆さんは、昨日訪れた山城に向かい、さらに縦走を続けるとのこと。新年からお元気なことだ。僕は建東と二人で、明るい朝の日差しを浴びながら、余裕の下山。途中、木の上を駆ける愛らしいリスも見かけた。自然が身近にあるのも、こんな中都市の魅力の一つだ。

 


▲凍てついた山の麓


▲大勢の清州市民とともに夜明けを待つ


▲2009年が明けた

新年の清州でのんびり過ごす

 家に戻り着替えて、再び出発。新年最初のご飯は、地元で大人気という「豚骨クッパ」の店に連れて行ってもらった。なるほど行列ができる大盛況で、同じように初日の出を終え下山してきた人が、暖を兼ねて集まっているようだ。感心したのは、これだけ大勢のお客を集めながら、店員さん一同、笑顔で余裕の応対をしていたこと。人気店の秘訣は、決して味だけじゃない。もちろん辛めの豚骨クッパの味は、言うことなかった。

 さらに凍えた体を温めようと、近くの銭湯へ。暖かいお湯につかれば、山頂での凍えも疲れも、完全に癒えていくようだ。休憩室の床に横たわれば、さすがに眠気が襲ってきた。ぐっすり眠り、気付けば午後1時前だった。

 家に帰ると、山から降りたお母さんがトックッ…もちスープ…つまり韓国式の「お雑煮」を準備して、待っていてくれた。餅はうるち米で作る韓国式なので、だいぶ日本のお雑煮とは異なるが、長く伸びる餅のように長生きできるようにという、似たような意味が込められているとのことだ。

 午後は、清原郡の「ハーブランド」へ足を向けた。祝日で博物館や資料館は軒並み休業で、ここくらいしか行く場所がなかったというのが理由だったけど、思いの他 楽しかった。

 まずは屋外を巡ったのだが、冬場のハーブ園にハーブが咲き誇っているわけもなく、冬枯れの草花が寂しいばかり。回ってくる人もほとんどなく、冬にくる場所ではないなと思ったものだ。しかし人工の滝が、完全に凍結し、これが見事。常時零下の場所にいることを、視覚的にも実感したのだった。

 屋内の温室は思ったほど暖かくはないものの、咲き乱れるハーブに春気分。お土産屋にはハーブ茶やアロマキャンドルが並び、風変わりな韓国土産としてごっそり買い込んだ。単なる観光地ではなく、韓国におけるハーブ研究の第一人者らしく、ハーブ製品は各種揃っているようだ。

 併設のレストランもハーブ三昧。物は試しと、「花ご飯」を頼んでみた。丼にきれいに盛られたハーブと花。ただし花は見るためのもので、食べる時は取り除く。ビビンバよろしくぐちゃぐちゃに混ぜて、パクッ。うまいまずいというよりは、体に良さそうな味だった。何事も経験だ。

 そろそろ列車の時間も近付いてきたので、駅へ向かうため市内方面へ向かう。市内では大規模な道路の立体交差化工事が行われていたが、工事が行われている気配がない。実は夏頃に着工したものの、工事途中で施工業者が倒産、以後そのまま放置されているのだという。管理者もおらず、危険な状態。未曾有宇の大不況の影響は、市民生活の安全すら脅かしていた。

 市街地を抜け、清州名物の並木道へ。延長6kmにも及ぶプラタナスの並木はシンボルで、道路の拡幅工事も並木を避けるように行われている。郊外にも街路樹がよく植えられている韓国だが、ここの木の大きさは別格だ。夏場には、涼しげなドライブが楽しめそうである。

 立派な韓国様式の清州駅は、街はずれも街はずれにあった。駅前には、商店一つない有様だ。とても60万の人口を有する街の玄関口とは思えないが、首都たるソウル方面の列車が1日1本しかなくては仕方ないか。KTX京釜線と湖南線の分岐駅として、郊外に五松(オソン)駅の設置が決まったが、重心はそちらに移っていくのかもしれない。

 


▲大人気の豚骨クッパ


▲盛大に凍りついたハーブランドの滝


▲見た目にはきれいな「花ごはん」

1日早く帰国した気分に

 建東に見送られて、午後6時52分、清州を離れた。五松駅では、交差する高速鉄道の線路を、ちょうどKTXが駆け抜けていくところだった。時代は高速鉄道へ向かう。

 地下鉄も開通し、立派になった大田駅でKTXに乗り継ぐ。釜山までは2時間近い乗車になるので、ちょっと奮発して特室を利用してみた。奮発といってもKRパスの威力で特室料金は半額になり、大田~釜山間では5,300ウォン。400円にもならない。

 さすが特室だけに、座席はゆったり。リクライニングの角度は浅く、乗り心地はセマウル普通車の方が上と思うが、狭苦しいKTX普通車に比べれば天地の差だ。女性乗務員がスト問題で解雇された後、セルフ式になった特室の各種サービスは継続。ただお菓子はキャンディーだけで、飲み物もミネラルウォーターのみに縮小されたのは残念だ。

 隣の普通車車両は「KTXシネマ」で、こちらも気になる存在。日本でも昔、九州の「有明」「にちりん」や、山陽新幹線の「ウエストひかり」で行われていた、車内で映画が見られるサービスだ。こちらは映画館並み7,000ウォンと結構な料金がかかるが、映画館と同じ封切作品が見られるのが特徴。車掌に断りちょっと中を見せてもらったがガラガラで、景色の見えない夜の列車でこの程度とは、先行きが不安になった。いつか利用してみたいと思っているのだが。

 手に汗にぎる300kmの高速線区間、景色のいい在来線区間もすべて闇の中。モニタのYTN連合ニュースを見ながら、2時間で釜山に到着した。夜に清州を出て、同じ夜といえる時間に釜山に行けるのも、高速鉄道の威力だ。

 ロッテリアで夜食を、セブンイレブンで寝酒を買い込み、中央洞まで歩いて東横インにチェックイン。一体どこの国にいるのか分からなくなるが、現代の釜山では可能だ。東横インは中央洞店が4月にオープン、さらに12月には釜山駅前にもオープンし、中央洞店は駅前店オープン協賛割引セール実施中で、なんと3万ウォン。邦貨に直せば2千円ちょっとで、目下世界一安く泊まれる東横インだろう。

 フロントには一応韓国語で声を掛けてみたものの、すぐ日本語で返され、ばかばかしくなって後は日本語で会話した。日本の東横インに泊まったことはないけど、いかにもホテルチェーンといった雰囲気で、日本と同じコンセプトで作られているそうだ。

 客室は日本のビジネスホテルサイズで、これが韓国人には狭く感じるらしい。確かに韓国の宿泊施設は、無駄とも落ち着かないともいえるほど広いのが通例で、韓国人に受け入れられるか今後に注目だ。

 室内の各種案内は韓国語と英語がメインで、日本語はないものが多い。テレビの操作法が本気で分からず、困ったほどだ。決して日本人観光客だけがターゲットというわけではなく、韓国に日本で培ったホテル経営のノウハウが通用するのか、世界進出に向けた試金石とお見受けした。

 無難に快適なのは間違いなく、1日早く日本に帰ったような気分で、眠りに就いた。

 


▲封切映画が楽しめる「KTXシネマ」


セブンイレブンと東横イン


▲部屋も純日本式ビジネスホテル
▼7日目に続く

旅のご参考に…旅の支出一覧(6日目/この日もかなりおごってもらっています)

支出 購入場所 金 額(ウォン) 金 額(円) 金額(以前のレート)
サウナ入浴料(2人分) 8,000 580 1,000
アロマキャンドル+ハーブティー ハーブランド 21,500 1,558 2,688
自販機コーヒー+ココア 清州駅 700 51 88
おにぎり+ビール 大田駅内セブンイレブン 3,200 232 400
韓牛プルコギバーガー+チーズバーガー ロッテリア釜山駅店 6,700 486 838
缶ビール(Max)500ml セブンイレブン中央洞 2,350 170 294
宿泊料(2号店オープン記念割引) 東横イン釜山中央洞 30,000 2,174 3,750
本日計 72,450 5,250 9,056
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