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変わり行く韓国のローカル線を行く
3日目
広がる首都圏

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こちらも大改良と大変革の長項線

 3日目の朝。モーテルのフロントに鍵を返し、7時半に出発した。ほどなくして市内方面のバスがやってきて、市内までいくらですかと問えば、1,800ウォンとのこと。昨夜より高いが、どうやら座席の多い、急行タイプの「座席バス」らしい。しかしこの運転士、乗り込んでくる乗客らにいちいち運賃を聞いており、もしかすると自社のバス運賃を把握していないのではないか。そう思うと、僕の1,800ウォンも正規の値段なのか、怪しくなってきた。

 市内に入ると見覚えのある風景が現れたので、梧木台(オモクテ)バス停で下車。2年半前に訪れた、「全州韓屋マウル」の裏手にあたる場所だ。寒いものの、朝もやに包まれた伝統的な街並みもいいものだ。一昨年よりも観光地化は進んでいるようで、水路が整備されていた。

 駅までバスで戻り、益山まで全羅線を上る。この区間は非電化単線のままで、線路改良前のようだ。もっとも1981年に1次の線路改良を済ませており、線形はいいため複線化もいわゆる「張り付け線増」方式で行われている区間がほとんどである。

 益山駅は、KTX開業に合わせて改築されたターミナル駅。ところがKTX開通の時点で、駅前バスターミナルはおろか、タクシー乗り場も業者間の利害関係で開設できなかったと、マスコミで散々叩かれた駅でもある。その後なんとか整備にはこぎつけたようで、小さいながらも市外バスの乗り場ができていて、なによりだ。

 益山駅からは、長項(チャンハン)線経由のセマウル号で、温陽(オニャン)温泉方面へと向かう。長項線はソウル方面と長項を結ぶ路線で、錦江(クムガン)という川を挟んで群山(クンサン)と対峙。群山~益山間は群山線と呼ばれていた。そこに2008年、錦江に掛かる橋ができて長項~群山間が結ばれ、群山線は長項線に編入されたという次第。

 もっとも益山からソウルへは湖南線経由がはるかに早いとあって、長項線経由のセマウル号はがらがら。シートにゆったりと収まった。さすがはセマウル号、シート周りの余裕は日本のグリーン車を上回る。ただローカル線転出は「都落ち」ということなのか、全盛期にはあったオーディオ装置やビデオモニタが撤去されたのは残念だ。787系「つばめ」登場後の783系「ハイパーサルーン」を見ているようで、心痛む。

 旧群山線区間は純粋なローカル線で、スピードも上がらず田園風景の中を坦々と走る。長項線編入とともに各駅停車の「通勤列車」は廃止になったため、閉鎖になった小駅が痛々しい。おじちゃん2人がガンガンにかけているトロット(韓国演歌)のテープがうるさくて敵わないが、国違えば文化も違い、じっと我慢だ。

 群山に近付くと新線区間に入った。旧群山線とはまったく違う場所になってしまったようで、群山駅も立派だが、だいぶ町外れになったようだ。自動車道路と平行し、広大な錦江を渡る。引き潮の時間なのか、広大な干潟が広がり、その広さには圧倒される。数分間かかって橋を渡り終えれば、ほどなく長項駅。こちらも農村の真ん中で、便は悪そうだ。

 長項線も線路の大改良が行われ、一部区間では旧線を放棄し真っ直ぐな新線ルートに変わっている。やはり列車のスピードはもどかしい走りで、日本の鉄道関係者が見たら、「こんなにいい施設を貰っておきながら…」と歯軋りがでるかもしれない。ある程度のスピードアップはなされたものの、大幅なものではないし、増発もなされていないようだ。

 KORAILは韓国でも急速に高まりつつある環境意識を背景に、各駅で「鉄道の輸送分担率が1%上がれば、鉄道に対する投資が10%増えれば、緑の韓国はもっと早く実現できます。エコレール、KORAIL!」なんて宣伝を盛んに流しているが、地道なローカル線輸送を改善して、乗客増へつなげる努力が見られないのは遺憾だ。せっかく作った施設を存分に活かし、攻めの経営を行って欲しいと思う。

 このセマウル号も列車カフェの連結列車なので、さっそく訪問してみることに。入り口には、旧食堂車の愛称だった「自由空間」のステッカーが残っているのが愛嬌だ。セマウル号とはいえ内装はムグンファ用とほとんど同じで、個性がないのは残念。お昼ご飯にお弁当(7,000ウォン)を食べたものの、あまり美味しくなかった。レトルトのカレーやビビンバもあるので、お昼ご飯程度ならこちらがお勧めかも。コーヒーは、食事をしたサービスからかエスプレッソを倍量にしてくれて、クッキーも2個付いてきた。

 11時半というお昼前ではあるものの、カフェの利用客は僕一人。他線に比べれば地味な長項線での列車カフェ利用率が気になり、若い売り子に聞いてみたところ、全羅線や湖南線方面にも乗務するが、相対的にはやはり長項線の方が少なめではあるとか。
 「でも、儲けるとか儲けないとかではなくて、サービス施設として運営致しておりますので」
 と、至極優等生的な答えも返ってきた。

 この調子で、いつまで続くかな…と思っていたが、12時を回ったら大挙乗客が押し寄せ、てんてこまいの忙しさになった。実は、列車カフェの元祖はこの長項線で、今年の2月から、すでに10ヶ月も営業している。ものめずらしげな人が多かった他線と比べ、かなり定着しているようだ。

 新線区間の新昌(シンチャン)からはつい先ごろ、12月15日に地下鉄直通の通勤電車が乗り入れる「広域電鉄」が走り始めており、まだ見慣れないのか、あちこちから「あ、地下鉄だ」の声が上がった。韓国では地上を走っていても、通勤電車を「地下鉄」と呼ぶ傾向があるが、かなりの地方とあって違和感がある。ここには後刻、訪れる予定だ。

 高架に改築された大駅、温陽温泉駅に到着した。

 


▲整備が進む全州の韓屋マウル


▲BGMはなくなってもゆったり快適なセマウル号


▲錦江にかかった橋を渡る

地方へ延びる「広域電鉄」の新たな潮流

 温陽温泉駅は2年前に訪れたことがあるが、すっかり様変わり。地方のターミナル駅といった趣だった旧駅舎はすっかり取り払われ、最近の流行に則って、ガラス張りの軽快な高架駅に生まれ変わった。駅前には、2週間前の電化開業式典の飾りつけも残されている。駅には「2008年 牙山市人口2万人増加」なる垂れ幕も掲げられ、広域電鉄乗り入れで更なる飛躍を願うムードに包まれていた。

 一方で、ソウル市内から2時間以上かかる広域電鉄。ソウルまでの移動手段というよりは、天安(チョナン)など周辺都市への足という面が強いとも思われる。天安~温陽温泉~新昌間は1時間に1~2本という「汽車ダイヤ」でもあり、劇的な変化をもたらすものかどうか。その断片を見るべく、まずは温陽温泉から新昌へ乗ってみることにした。

 「列車」と「電車」双方が乗り入れる温陽温泉駅だが、それぞれの改札が同じ場所にあり、ラッチ内でつながっているのが、これまでの駅にない特徴。日本なら当たり前のように見えるが、列車と電車の運賃体系が厳密に分かれている(その代わり地下鉄と電車は通算運賃)韓国では、改札から分けるのが当然だった。便利なのはいいけど、電車から列車に乗り換えるとき、カードのタッチを忘れたら、次に乗るときにトラブルを招きそうだ。

 改札を見ていて、はたと気付いた。列車の方には発車時刻の案内があるのに、電車にはない。前述の通り、電車も汽車並みのダイヤなのだから、時刻の案内くらいすべきでは? なんせ1本乗り遅れれば、次の電車は40分後なんてこともあるのだから…

 この程度の電車なので、乗客の数もどんなものだろう…と思っていたら、天安方面からの電車からは大挙して乗客が降りてきたものだから、驚いた。まるで首都圏の駅を見ているようで、広域電鉄化の効果まざまざといった所だ。開業わずか2週間でこれだけの利用があるのだから、待ち望まれた電車だったのだろう。さすがにまだ農村の新昌まで乗る人は少ないようだが、それでも10両編成の各車両3~10人の乗客は残っている。延々2時間40分走ってきた車内の汚れには、閉口した。

 新昌までは、先ほども乗った区間だが、地下鉄の電車に乗って広大な田んぼやトンネルを見るのも、なんだか妙な気分だ。5分ほど走って、広域電鉄の南の果て、新昌に着いた。

 構内は2面4線を有しているが、当面は折り返し運行のため、1面のホームは使われていなかった。とすると、更に延伸する計画があるのかもしれない。いよいよ、日本の地方を走る「普通電車」のイメージに近付いてきた。

 駅はコンパクトなつくりで、機能は必要最小限。有人窓口もなく、お年寄り向けの敬老無料乗車券は自動券売機で発行している。駅前には大学一つあるだけで、それ以外にはなにもない。フィーダーバスは一応あるものの、本数は限られている模様。駅前の広場やタクシープール、バス乗り場などは一部工事中…というか、間に合わなかったらしい。韓国ではよくあることだ。

 駅前にはそれ以外、数軒の家があるのみ。では、あれだけ乗っていた乗客の目的はというと、ずばり「初乗り」「乗り試し」のようだ。お年寄りは無料で乗れることもあって、「新しく『地下鉄』ができた新昌ってのは、どんな所かの?」という感じで乗りに来たのだろう。鉄道公社関係者かどうか、視察らしき一行もいた。

 折り返し電車の発車までは40分。車内のLEDは「間もなく発車します」の字幕を繰り返すばかりだ。扉は1車両のうち1箇所だけを開け、車内保温に努めるという、韓国らしからぬ気配りを見せていた。

 折り返しの電車にも、やはり温陽温泉から大挙して乗客が乗り込んできた。僕の乗っていた先頭車両では余裕もあったが、改札に近い後部車両では、立ち客も出たようだ。これだけの利用があると、現行の汽車並みダイヤでいいのかという気もしてくる。10両編成というのも、地下鉄直通のためとはいえ地方には合わず、もっと短い編成にして増発する代わりに、水原あたりで系統分割してはと思うが。

 3駅目、牙山駅(アサンヨク)で下車。この駅、正式名称に「駅」が入っており、このような例は地下鉄1号線の「ソウル駅」や、釜山地下鉄の「釜山駅」にも見られる。つまり主となる駅があるということで、牙山の場合はKTXの天安牙山(チョナン・アサン)駅がそれだ。以前の長項線はもう少し南側を走っていて連絡機能はなかったが、KTXに遅れること3年、長項線の移設とともに2007年に開業し、今回さらに、電鉄乗り入れとなったもの。

 牙山駅も独特で、改札はもちろん、ホームも段差を付けて列車・電車共用になっている。いよいよ両者の区別も再考…つまりは日本のような、運賃+料金制への移行が必要なのではと思わせるのだが、そのような計画はなさそうだ。

 もう一つの特徴は、電車ホームから直結したKTX乗継改札口があること。無人のため、KTXの乗車券をあらかじめ持っていること(クレジットカードがあれば自動券売機も利用可能)が条件にはなるが、乗換えのための上下・水平移動はかなり短縮でき、きめ細かな配慮だ。牙山駅そのものの利用者がほとんど見られず、活用されているのかは確認できなかったが…

 牙山駅そのものは発展途上で、駅の裏口は開発が進んだら開くことができるよう、準備だけはなされていた。有人窓口は売店も兼ねており、広域電鉄のさらなる地方延伸がなされた時には、こんな駅が増えそうな気がする。

 


▲「人口2万人増加」の祝賀幕踊る温陽温泉駅


▲ひろびろした田んぼを見ながら走る通勤電車


▲立派な終点、新昌駅。ただし駅前にはなにもない


▲牙山駅の「駅」まで含めて正式名称


無人の新在乗り換え改札
定着したKTXと、短くなった光明シャトル

 牙山駅から150mの連絡通路をゴロゴロ歩き、天安牙山駅へたどり着いて驚いた。2年前には確かにあった、2階から地上に降りる大階段が消え失せていたのだ。どうやらペデストリアンデッキを作るために撤去されたようだが、開業わずか3年で取り壊しとは…

 牙山駅には人が少なかったが、天安牙山駅はKTXを待つ人で、そこそこ賑わっている。2年前には空きスペースの目立ったコンコースにも、かなりのテナントが入っていた。既存駅と大きく離れた「KTX独立駅」だが、周辺からの利用を集め定着したようだ。

 そして驚いたのは、ソウル方面の列車を待つ人の多さ。ソウルまでは前述の広域電鉄や、在来線の列車も多数走っているのだが、ソウルまで37分という「時間を買う」人が大きく増えたことが分かる。以前に比べ、途中駅停車のKTXもだいぶ増えた。

 僕は、同じくKTX独立駅である光明(クヮンミョン)駅までの乗車。この間は全線、高速専用線なので、74kmをわずか24分で走り抜け、すこぶる早い。KTXの公称最高速度は300kmのはずだが、車内のスピードメーターは310kmを記録し「大丈夫か!?」と背筋が凍る。

 さすがに天安牙山で乗って光明で降りるのは僕だけだろうと思っていたら、天安牙山から乗った隣のサラリーマンも降りる準備を始めたものだからビックリ。京釜間のKTX、以前は両駅を千鳥停車というパターンが多かったが、近年では両駅停車のものも多い。こんな利用も増えてきたのだろう。

 僕は「ガラスの城」と呼ぶ光明駅。元はKTXのソウル側ターミナル「南ソウル駅」として計画された駅だけあり、そのスケールは壮大だ。3度目の訪問だが、さすがは乗客増加率全国一の駅だけあり、来るたびに賑わいを増している印象である。駅前にはバスターミナルまで完成、首都圏南部の利用を集める駅として成長した。韓国版新横浜駅と呼ばれる日も近いかもしれない。

 今回、3度目になるこの駅に降りたのは、光明駅活性化策として2006年末に登場した、中心部の地下鉄駅を結ぶシャトル電車「光明シャトル」に乗るためだ。当初は利用不振に悩んだ光明駅の活性化を図るべく、ソウル南部の各駅から地下鉄を乗り継いで光明駅にアクセスできるよう、地下鉄電車を高速線に乗り入れさせるという「ウルトラC」を使って実現した電車である。一方でこの12月1日には編成、区間とも短縮されており、どんな様子なのか興味を持ったというわけだ。

 近代的で長いKTXホームの横に、ちょこんと止まった4両編成の電車が、件の光明シャトル。もともとKTX用に用意されていた低いホームに高床の通勤電車を乗り入れさせるため、ホームがかさ上げされている。エスカレーターは低床ホームが終点になるため、一旦降りて数段の階段を登るのが少々煩わしいが、まあその程度だ。

 短いとはいえ、「マティズ」と呼ばれる丸っこい顔の新型電車は、デザインされた光明駅の雰囲気にもよく合い、ヨーロッパのどこかの駅を見ているかのような錯覚に陥る。車内の広告は、あまり乗客が多くないと判断されスポンサーが付かないのかどうか、まったく見当たらない。山手線のように、扉上に2台のテレビモニタがあるが、広告用のものと思われる右のモニタは真っ暗、左は「光明行き」という誤った表示を、ずっと流し続けていた。

 1両当たりの乗客は数人、しかし大荷物であることから、しっかり「KTXシャトル」の役割を果たしていることが分かる。高速線とはいえ通勤電車が闇雲に飛ばせるわけもなく、ゆっくりと流して始興(シフン)駅着。この駅からは、他の電車と同じ線路を走って永登浦(ヨンドンポ)まで行くので、普通のお客さんも乗ってくる。しかし短い電車にまだ慣れないのか、駅に案内も出ていないのか、停止位置より前で待っていた乗客も多かったようだ。僕の乗っていた先頭車には、かなりの人数が駆け込んできた。

 とはいえ大混雑になるわけでもなく、余裕ある乗車率。4両編成でも充分、適正な輸送力なようだ。この電車、地上線の電車では初めてのワンマン運行も行われていて、地方での電鉄運行におけるモデルケースかもしれない…と、牙山から来たばかりの僕は思った。

 地下鉄2号線に乗り継ぐため、終点・永登浦の一つ手前の新道林(シンドリム)で下車。降りると、駅では4両ワンマン運転用のバックミラーを調整している真っ最中だった。今日まで、どうしていたのだろう。

 


▲不要駅と呼ばれながらも、すっかり定着した光明駅


▲KTXと並んだ4両のシャトル電車


▲「4両」のプレートも見える光明シャトル
5年ぶりの再会で青春時代へ

 地下鉄2号線に乗り換え、30分ほど三成(サムソン)まで乗る。韓国でも初期の地下鉄である2号線だが、新車導入、ホームドアの設置と矢継ぎ早に改良が進んでいて、最新の地下鉄に生まれ変わる日も近い。

 三成駅で降りたのは、コエックスに行くため。巨大コンベンションホールやショッピングモールを備えた、一大複合施設だ。あまり買い物なんかしない僕でも、さすがにこのウォン安とあっては、買い物心もうずこうというものだ。とりあえず今回は、キーボードに張るハングルステッカーや、買いたいと思っていたCD数枚を買うに留めたが、iPodの値段がかなり安いことが分かったので、日本での値段とよく比較して、次回の購入を考えておこう。なんせ、知人の結婚式のため、2週間後にまた訪韓する予定なのだ。

 食堂街も韓国料理から和洋中華まで充実しており、特に日本式のトンカツ屋や寿司屋の人気が高かった。カフェも含めて一人で入りづらい雰囲気はあるが、書店の中のカフェは一人でくつろいでいる人ばかりで、一人旅には向いているかもしれない。

 2号線を1駅、宣陵(ソンヌン)まで行き、KORAILの盆唐(プンダン)線に乗り換え。KORAILとはいえ全線地下の地下鉄で、ソウル市外の区間が長いため地下鉄公社の運営とはならなかったようだ。ソウル市内を貫通(あるいは循環)する路線がほとんどのソウル地下鉄にあって、市内に始発駅がある盆唐線は珍しい存在。始発駅の特権である着席乗車をもくろみ、次の電車を待つ乗客の姿も見られた。

 宣陵から11駅、野塔(ヤダプ)駅下車。あまり馴染みのない場所ではあるが、高層の雑居ビルが立ち並ぶ、ソウル郊外の典型的風景が広がっていた。デパートやホームセンターもあり、南ソウルバスターミナルからは全国各地へのバス便が充実していて、ソウル南部の中核地でもあるようだ。

 ホームプラスで安売りのCDを探していたら、携帯が鳴った。留学後半戦、2003年に寄宿舎のルームメイトだった聖満からだ。レジに出て再会した彼は、一目で分かるほど変わりがなかった。変わったのはお互い、社会的な立場を持ったことだけだ。

 帰国以来、何度も訪れていた韓国だったけど、ルームメイトというかなり身近な存在だった彼とは、あの時以来5年半ぶりの再会だ。この旅の数ヶ月前、久しぶりにMSNメッセンジャーに飛び込んできた彼を捕捉し、今回の再会と相成った。
 「帰ってからも、何度か韓国には来てたんだけどね」
 「なんだよ、連絡くらいくれればよかったのに」
 「だってお前、メッセンジャーにあんまり来なかったじゃん」
 「おいおい、来てなかったのはお前だろ!ちょっとちょっと、この5年の誤解を解こうぜ」

 というわけでゆっくり話そうと入ったのは、チキンのお店。韓国にまで来てチキンかよ!と思うことなかれ、チキンを肴に一杯というのは、韓国ではよくあるシチュエーション。韓国ナイズに味付けされたヤンニョムチキンは、韓国らしさを感じられる逸品だ。ルームメイト時代には一杯も酒を口にしたことがなかった聖満だが、今日は「一杯だけな」といってジョッキを空けた。

 「お前、キリスト教だから酒を飲めないんじゃなかったの?」
 「そういうわけじゃないよ。今は、最初の一杯だけなら気分を盛り上げるため飲んでる」
 「あの頃は、お前まじめだったもんな。一回だけ、ほんの1時間くらいゲーセンのカラオケ行ったじゃんか。それだけで、『今日は遊びすぎた』って後悔してたもんね」
 「そうだったっけ!?いやー、あの頃はそういうの、特にひどかった時期だから」
 5年という歳月。変わったようで、芯は変わっていないようで。お互いを再確認するひと時にもなった。

 ほろ酔い気分で店を出て、盆唐線から8号線に乗り換え、漢江(ハンガン)を北へ。建国大学のおひざもと、建国大前の街へ出た。韓国の学生街の賑わい方は日本と比較にならず、今夜も不夜城のネオンが灯り始めた。日本式の居酒屋が輪を掛けて増えた印象で、どこの国にいるのか分からなくなる。

 ぐるりと一回りして、入ったのはロッテ百貨店。上層部には高級マンションも備えた複合施設で、まだできたばかりだとか。日本ではまだまだ希少価値のある「クリスピークリームドーナツ」もあり、名前は不本意ながら「カップルセット」をパクついた。
 「日本じゃまだ東京くらいにしかなくて、何時間も行列して食べるような店だぜ」
 「そりゃ日本に帰ってから自慢になるね。すぐに食えたって」
 「でもこれ、そんなに何時間も待って食べるような…」
 「それほどのものではない、ね」

 甘ったるいドーナツを肴にコーヒーを飲み干し、緑色のマウルバス(狭い範囲を循環する、コミュニティバス的な乗り物)に乗る。以前は乗り切り制だったソウルのバスも、カードの普及とともに地下鉄・幹線バスとの通算運賃制に移行、マウルバスの乗客数はうなぎのぼりと聞く。このバスもぎっしり満員だった。

 聖満の家は2Kのアパートで、お兄さんとの2人暮らし。もう夜も遅く、聖満も明日は仕事なので、シャワーを浴びて眠りについた。

 


▲今のレートなら何でも安いCOEX


▲冬休み期間でも賑やかな建国大学界隈


▲行列なしで即食べたクリスピークリームドーナッツ

▼4日目に続く

旅のご参考に…旅の支出一覧(3日目)

支出 購入場所 金 額(ウォン) 金 額(円) 金額(以前のレート)
座席バス(竹林温泉~梧木台) 1,800 130 225
スタバコーヒー ミニストップ 1,900 138 238
バス(殿洞聖堂~全州駅) 1,000 72 125
Dr.ユのライスチップ Story Way 全州駅 1,500 109 188
公衆インターネット15分 益山駅 500 36 63
弁当 列車カフェ 7,000 507 875
ドリップコーヒー 列車カフェ 3,000 217 375
Tマネーカードチャージ 温陽温泉駅 10,000 725 1,250
CD(イ・スヨン ミニアルバム「Ones」) コエックスモール「EVAN」 9,000 652 1,125
CD(YUI 「MY SHORT STORIES」) コエックスモール「EVAN」 15,300 1,109 1,913
キーボードステッカー コエックスモール 3,000 217 375
カフェラテ コエックスフードコート 3,800 275 475
CD(ソン・シギョン「この、僕の心の中に」) ホームプラス野塔店 12,400 899 1,550
CD(Brown Eyed Girls 「My Style」) ホームプラス野塔店 9,800 710 1,225
チキン&ビール(2人分) 野塔駅前のチキン店 20,000 1,449 2,500
ドーナッツカップルセット クリスピークリームドーナッツ 6,200 449 775
ゲーセンカラオケ(1曲) 500 36 63
本日計 106,700 7,732 13,338
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