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変わり行く韓国のローカル線を行く
2日目
韓国版「嵯峨野観光鉄道」に響く歓声

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万博を待つ街

 いくらでも寝ていたかったが、旅先の朝を寝て過ごしてはもったいないので、7時半に起床。街歩きにでかけた。

 とその前に、荷物をロッカーに預けに行こうと駅へ。ところがいくらさがしてもロッカーはなく、駅員に聞いても、そのような施設はないという。かといって窓口で預かってももらえず、7日分の荷物を詰め込んだ重い鞄を手に、麗水市内を歩くハメになった。

 まずは駅前から市内方面のバスに乗り込む。運賃は分かりやすく、キリのいい1000ウォン。市内は目抜き通りに亜熱帯の木が立ち並び、南国ムードをかもし出していた。反対車線の、梧桐島(オドンド)方面バスに乗り換え、港町を走ること10分、梧桐島の入り口に着いた。かようなルートをとったものの、実は麗水駅から反対方面へのバスに乗ればあっという間だったことを、後ほど知ることになる。駅に観光案内所があれば、迷わずに済んだのだが。

 梧桐島入り口の観光案内所に荷物を預かってもらい、砂洲の道を延々梧桐島へ歩いた。自然景勝の観光地は朝早くても楽しめるのがいいけれど、韓国のこのテの観光地は近年、バスやマイカーの乗り入れを規制していることが多い。公園内の循環列車(という名のロードトレイン)でまわれるようになっているのだが、9時前では営業時間外だ。あまり朝早すぎると、思いの他歩くことになるので、時間がない場合はご用心。

 時間に余裕のある僕は、ゆっくりと朝の散歩を楽しむ。島内にはぐるりと巡る散策路があり、平行して靴を脱ぎ足ツボを刺激しながら歩ける健康歩道もあって、なかなかよくできている。健康歩道の清掃は完璧ではないし、大木で行く手がふさがれている箇所もあり、靴を脱いで歩こうとは思わなかったが…作ることより、維持することの方が大変だけど、大切だ。

 遊歩道を登った先にあるのが、白く輝く梧桐島灯台。近年、展望台として使えるよう再整備されたようで、入り口にはセンスあるデザインロゴが掲げられていた。エレベーターで上がれば海へ連なる島々や大型タンカーなどを見下ろす、360°の展望が広がる。入場無料というのも嬉しい。

 遊歩道からわき道を降りていった所に、「龍門」なる洞窟があるらしく、海岸へ降りていく道へ入ってみた。もともとあった遊歩道の上に木製デッキをしつらえてあり、ここも再整備された模様。エキスポを迎える前に、観光地の整備を着々と進めているのかもしれない。

 龍門見物を終え上ってくる夫婦とすれ違い、
 「行ったって何にもないですよ!」
 「え、そうなんですか!?せっかくだから、とりあえず行ってみます」
 と言葉を交わした。降りてみれば、なるほど、洞窟の存在は確認できたけど、人の行ける範囲からは角度が悪く、全容が掴めない遊覧船から見るのが良さそうだ。

 観光案内所で荷物を引き取り、ゴロゴロ引っ張って「エキスポ広報館」へ入ってみた。2012年の万博誘致に成功した麗水。完成予想模型を見てみれば、麗水駅は頭端式に大改良、KTXも乗り入れ予定のようだ。その新駅前から梧桐島までの一帯が会場になるとのことだから、なかなか大規模だ。万博のためわざわざ来ることもないだろうが、大きく変わった街の姿は、また見に来たい。

 


▲灯台展望台からの眺め


▲おしゃれにデザインされた灯台広報館のロゴ


▲エキスポ広報館

タクシー、タクシー

 バスに乗り、次に目指すは亀甲船。文禄・慶長の役で日本海軍を撃破したと「される」軍艦の復元模型だ。現在のレートだと、タクシーに乗ってもたかだか数百円なのだが、バスを攻略してこそ、その街を制したことになる!とばかりに、まずは市内までバスで戻った。

 亀甲船の上にある突山大橋まで一番近いというバス停で降ろしてもらうと、目の前は水産市場だった。商人はもちろん、市民も買い物できる市場のようで、古い建物も庶民的な雰囲気。記念撮影する観光客の姿も見られたので、観光地でもあるようだ。

 10分ほど歩いて、ようやく斜張橋が見えてきたが、ため息が出るほど遠い。あっさり歩いて行く事を諦め、反対車線でタクシーを捕まえた。乗ってしまえば、あっという間である。

 亀甲船は、背が低くアーチ型の「甲羅」に包まれていて、その名の通りのスタイルだ。船内には当時の海軍兵の姿が再現されていて、妙にリアル。亀甲船そのものは、史書だけで伝わっているもので、実際このような船だったのかどうかは分からないらしいが、昔の海軍の雰囲気を見るだけでも楽しめた。

 帰路のバスもよく分からず、あっさりタクシーを捕まえ、市内の「鎮南館」(チンナムグァン)へ。その名の通り、南方から攻め来る日本から防衛するために作られた拠点だ。木造の巨大な平屋の建築物で、目下韓国最大であるとのこと。現在の建物は18世紀に再建されたものだが、それとて充分に文化財としての価値を持つ。

 日本の建築基準法なら「構造物」になるであろう、中まで吹きさらしの建物だが、少し傾いているのが気になった。今年、大切な「国宝1号」を放火で失った韓国。その教訓からか、かなり目立つ位置に真新しい消火器がいくつも備えてあったが、建物そのもののメンテも抜かりなく。景観を壊さないようにか、目立たない位置に無料の資料館もあった。

 鎮南館のたもとからは、若者向けのショッピング街が連なっている。ここも近年整備されたようだが、人っ子一人いない。韓国の繁華街は午後から夜にかけてが本番で、午前中でその街のイメージを決められないことは分かっているが、ついつい寂しい街というイメージを持ってしまう。

 一人での昼食は店選びが難しく、無難にロッテリアへ。韓国ファーストフード業界の代表ともいえるロッテリア、日本にないメニューも多く、少し高いものの「韓牛ステーキバーガーセット」(5,900ウォン)を頼んでみた。これが、噛むと肉汁がじわっと口の中に広がり、ブロッコリー入りのホワイトソースともよく馴染む絶品。ぜひ日本でも「和牛プルコギバーガー」として売ってほしい。

 時間もあるので、沿岸旅客船ターミナルまで歩いてみた。日本の古いフェリーターミナルも、こんな雰囲気だな…と思えるビルから、名もない小島へ旅立ってみたい衝動にかられる。ただしここも、万博景気に乗り新築予定とのこと。数年後この街を訪れれば、どこがどこか分からなくなっているかもしれぬ。

 今度こそと思いバスで駅に戻ることを試みて、それと思うバスに乗ってみたが、まったくあさっての方向に曲がってしまい、バスを降りた。駅と信ずる方向に歩いてみたが、出てきた場所はなんと先ほどのエキスポ広報館。またも諦めタクシーに乗った。

 もっとも、物価水準を考えれば相対的に安い韓国のタクシー。韓国人も日本より気軽にタクシーを使う傾向にあり、何も無理してバスに乗ることが「街を極めた」ことにはならないのかも。適宜乗り分けよう。

 


▲亀甲船の異様ながら合理的な姿


▲オレンジがアクセントの突山大橋


▲老朽化が心配な鎮南館

KTX並みの線路をスルスルと

 麗水駅からは、全羅(チョルラ)線に乗って、谷城(コクソン)へ向かう。13時ジャストのムグンファ号を予約していたので、12時45分ごろホームへ降りた。改札は列車発車の10分前と決まっている韓国鉄道だが、電算化とともに合理化のため最近改札が省略されるようになり、いつ入ってもお咎めがなくなったのはありがたい。早くホームに入り、駅の雰囲気を味わいたいというのもファン心理なのだ。

 しかしソウルから下ってくるムグンファ号が遅れているとのことで、折り返し上りのムグンファも15分ほど遅れるとのこと。公社化を経ても、いや公社化したからこそか、労使関係はかつての国鉄並みに不安定な韓国鉄道。11月には車両整備を丁寧に行い遅れを生じさせる「順法闘争」も繰り広げられており、まさかそれが続いているのではと思ったが、単なる機関車故障のようだ。

 13時ごろ列車が入ってきて、やおら折り返し整備を終え、13時20分頃、麗水を離れた。ほとんどの車両が新型車両だ。この車両、広い車体断面を生かし空調を壁面吹き上げとしたことで、高い天井を確保している。間接照明の雰囲気や、座席のすわり心地がよく、KTXよりよほど快適だ。ただし座席にテーブルの類がないのは相変わらずで、かゆいところに手が届かないのは、列車に限らず韓国のさまざまなシーンで遭遇する。

 麗水を出た列車は、万博のため造成された広々とした埋立地をしばらく走ると、海岸線へ飛び出した。その区間はきわめて短いものの、韓国では海岸沿いの鉄路が日本に比べ極めて少なく、貴重な区間の一つに挙げられる。海沿いにはカフェやペンションが並び、いい雰囲気だ。

 内陸に入ったのを潮に、列車カフェに出向いて「マッサージチェア」を試してみた。カフェの店員に1,000ウォンを渡すと部屋に案内され、10分間のマッサージが受けられるという按配だ。このマッサージチェアがなんと日本製で、リモコンにも日本語が踊る。操作は「全身メディカルコース」しか選択できないようになっていた。コースの時間は12分だが、終了を前に10分で電源が落ちる仕組み。

 温泉地で使い慣れた日本製のマッサージチェアだけに、気持ちいい。ちゃんと窓があり車窓を眺められるのもよく、夢見心地でついうとうとしてしまう。まだ登場から日が浅い列車カフェだけあり、乗客も珍しいものを見るような目で利用しているが、知られれば「出張はマッサージされながら」なんてビジネスマンも生まれるかも。

 順天を出ると、全羅線の線路改良区間に入った。順天~全州間110kmに渡る大規模な改良、それも慶全線で見たような、線路そのものを付け替える新線建設に等しい改良である。韓国鉄道の関係者から見れば、カーブ区間のみ軌道強化して、振り子列車を走らせているような日本の線路改良は、みみちくてしょうがなく見えるかもしれない。

 もちろん事実上の「新線」だけあり、乗り心地がいい。すべるように走り、揺れも感じない。トンネルの割合が増えたため、車窓の楽しみが減ったのは残念なところではある。KTX並みの線路なのに、スピードがさっぱり上がらず、電化設備もあるのにディーゼル機関車ばかりというのも解せないところだ。KTX乗り入れの暁には、時速300kmとは言わずとも200km程度の運行を行わないと、宝の持ち腐れになりそうである。

 もったいないといえば、休止となってしまった小駅の数々もその一つ。ムグンファ化されてしまった各駅停車だが、ダイヤ改定の度に停車駅の整理が行われており、駅の休廃止が相次いでいる。真新しい駅舎の出入り口に板が打ち付けてあるのは、心痛む光景だ。数少ない乗客とはいえ、地域輸送をそう簡単に放棄していいのか、それならそれで、新線への駅設置も慎重であるべきなのでは? と、自分が税金を出すわけでもないヨソ者ながらに思う。

 


▲一目で分かる列車カフェの外観


ほんのわずかだが車窓の友になる海


▲カフェのマッサージチェアは日本製
鉄道レジャーの新境地!汽車ペンション

 遅れはサッパリ回復せず、14時40分、谷城着。この街にあるのが、「蟾津江(ソムジンガン)汽車マウル」だ。マウルとは「村」や「集落」を意味する韓国語で、鉄道趣味が存在しない韓国では珍しい「鉄道テーマパーク」ともいえるもの。そして目玉が、線路改良で不要になった廃線跡を利用して、昔ながらの「汽車」を再現した列車を走らせていることで、ぜひこの観光列車に乗りたくて谷城駅にやってきた。

 この列車の谷城側の発車時間が14時45分だったので、ムグンファの遅れは致命的だったのだが、仕方がない。折り返し終点側を発車する列車を捕まえようと、タクシーを飛ばして先回りすることにした。
 「あの汽車は30分もかけて走るけどね、車なら10分さ」
 と豪語したタクシー運転士、たしかに10分で着いた。途中数々の車を追い抜き、100kmで飛ばした結果ではあったが…料金9,600ウォン。メーターの上がり方が少々激しい気はしたが、営業区域外に出ると料金が上がるなど複雑なシステムがある韓国のタクシー。一概にボラれたとは断言できないし、細かいことは気にしたくなくなってきた。

 40分に出発した汽車を「追いかけて」きたつもりだったのに、一度も追い抜かなかったのをいぶかしげに思っていたが、終着駅の時刻表を見て愕然とした。始発駅と終着駅の時刻を、完全に取り違えていたのだ。さらに「汽車マウル」そのものもこの終点にあると思っていたのだが、実際は谷城側だった。ああ勘違い、僕は幻の列車と追いかけっこをしていたのか。

 さいわい14時45分発が終列車ではなく、次の16時15分発を予約した。この列車の存在も(始終着駅を取り違えていたとはいえ)知っていたが、ネットで確認しても1ヶ月前から「満席」のままで、さては運休のコマンドを入力するのが面倒で満席扱いにしているのかと思っていたが、正真正銘の満席なのだとか。幸い立席券の販売があり、わずか2,000ウォンだった。

 さて時間は1時間以上あるが、蟾津江汽車の終着・旧柯亭(カジョン)駅周辺はレジャースポットで散策にはもってこい。その中でもぜひ見ておきたかったのが、「汽車ペンション」だ。

 近年、鉄道レジャーが注目されている韓国。一時、日本でも「SLホテル」として有名になった列車利用の宿泊施設が全国に3ヶ所生まれており、ここ柯亭もその一つだ。旧柯亭駅に直結したペンション村の一角に、懐かしい統一号の旧型客車が留め置かれていた。ぜひ中を見学したくて、管理事務所に、
 「日本から来た鉄道ファンです、今日は一人だから泊まらないけど、次に誰か来た時にはぜひと思い見学を…」
 と申し出ると、管理のおじさん、快諾してくれた。

 KTXの開業まで、庶民の足として活躍した統一号の旧型客車。僕も現役時代に乗ったことがあり、日本では絶滅した昔ながらの「汽車」の趣に酔いしれたものである。現役時代そのままの塗装と車体に、懐かしさがこみ上げてくる。

 しかし車内は、ペンションとして大改装。元が列車とは思えないほどきれいに改装されており、ペンションというよりはコンドミニアムの雰囲気だ。もちろんキッチン完備で、自炊も可能。蟾津江側にはデッキもあって、快適なリゾートライフを満喫できそうだ。車内に列車らしい趣がないのは残念だけど、日本のSLホテルも寝台設備そのままのものは一般受けせず、大改装していた小岩井農場のみ最近まで残っていたことを考えると、やっぱり快適性を追求するのが正解と思う。

 管理のおじさん曰く、普通のコテージ棟とならんで汽車ペンションも人気とのこと。日本人の宿泊者はと問えば、
 「そういえばお一人、予約だけはされた方がいらっしゃいましたけど、結局来ていただけませんでした」
 ということだ。日本人第1号の宿泊者は、これを見ているあなたになるかも!?

 つり橋を対岸に渡れば、キャンプ場があり、寒い季節ながらオートキャンプに来ている車も1台。さらに天文台もあり、山深いだけあって、天候に恵まれればきれいな星空を楽しめることだろう。17時25分の最終の汽車に乗って汽車ペンションに泊まり、夕方はレストランで美味しい「韓定食」を食べ、夜は天体観測。翌朝一番10時15分の汽車で帰るなんてデートコース、鉄ちゃんでなくとも楽しめるのでは??

 


▲懐かしい統一カラーに身をまとった汽車ペンション


▲室内はいたって現代風で快適に過ごせそう


▲自然ゆたかな環境にある
大歓声響く汽車に乗って

 谷城から汽車がやってくる時間になったので、旧柯亭駅に戻った。売店でラーメンを買いながら、おばさんに、
 「ここまで日本人もよく来るんですか?」
 と問うてみたところ、
 「あら、日本の方なんですね。秋までは、1週間に1人は日本人も来ていましたよ、最近はあまり来ませんけど。これ日本語で『クリ』でしょ? これだけは覚えちゃったのよ」
 とのこと。韓国の鉄道情報に目を配っているはずの僕でも、この旅の下調べをするまで知らなかった蟾津江汽車だが、はるばる訪れる日本のファンは多いようだ。

 谷城からの汽車を、踏切で待ち受けた。ボオと汽笛の音を上げ、白煙を上げるミカ型蒸気機関車。そして腕木式信号機。まるで何十年も前の韓国鉄道を見ているようだ。ただし、これらはすべてレプリカ。黒い客車は新製だし、蒸気機関車に至っては保線用モーターカーの改造だとか。リアルを求める向きにはガッカリかもしれないが、承知の上で来れば、楽しめること請け合いである。

 満席の理由はすぐに分かり、小学生の遠足で満員ぎっしりだった。静かだった旧柯亭駅もにわかに大賑わいとなり、みな短い時間の散策を楽しんでいる。

 列車は機関車2両+客車3両の5両編成。始終着駅とも機回し線がないため、両端に機関車をつないだ「プッシュ・プル」編成になっている。客車はセミクロスシート2両+オールロング1両。こんな観光列車に、なにもロングシートを設けなくてもと思うが、立客対応のためだろうか。近代的な車内に昔の雰囲気はなく、
 「昔はみんなこんな汽車だったの?」
 「そうだよ、本物だよ」
 と語り合う親子にツッコミを入れたくもなったが、まあいいか、細かいことを気にしなくても。

 小学生らに囲まれ車両の片隅に立ち、発車。廃線跡利用の観光鉄道ということから「韓国版嵯峨野観光鉄道」とも言われる蟾津江汽車。確かに川沿いは走るものの、国道も平行していて絶景が広がるというわけではない。ゴトゴトとゆっくりした走り、汽笛の音を楽しむのが正しい。国道を走る観光バスは、走りながらの汽車見物というわけか、ゆっくりと併走していた。

 やおら2号車から現れたのは、わずか30分の汽車には驚きの車内販売。それも民族衣装に身を包み、口上も独特な販売員だった。歌うような売り文句に、小学生君、思わず、
 「おじさん、ホントうまいですね!」
 と合いの手。
 「おいおい、おじさん相手にうまいねはないだろ」
 と先生から突っ込まれ、終始なごやかな雰囲気だった。

 吹きさらしのオープンデッキに出れば、寒い風に乗って汽笛の音とジョイント音が響いてきて、これは新鮮な体験。一応「デッキに出ないで下さい」の表示はあるものの、車内販売のおじさんも黙認状態で、子供が落っこちないか心配ではある。

 現全羅線の高架をくぐれば、旧谷城駅に到着。ここが「汽車マウル」で、旧鉄道庁カラーのままの統一号客車や、映画撮影用の蒸機、旧型客車が並んでいる。ムグンファ型客車はレストランに改造されていて、食堂車気分での食事も楽しめるようだ。どれも車体の塗装がハゲハゲだったのは遺憾だが…

 見ものはKTXの実物大モックアップで、ありえない姿をしているのが面白い。写真を見れば一目瞭然なのだが、機関車方式のKTXなのに、客室がある先頭車になっているのだ。将来的な、電車方式のKTX導入を目論んでのことか!?

 旧谷城駅そのものも登録文化財で、他の登録文化財駅舎と同じくやや整備されすぎの感があるものの、昔の駅の雰囲気はよく出ている。なぜか京城(日本統治下でのソウルの都市名)の駅名版も見えるが、映画撮影地として使われているようだ。駅前にはセット村もある。

 駅前広場にはいくつかの店があり、田舎の駅前らしい風景だ。谷城こそ汽車マウルとして生き残ることができたが、他の廃駅と化してしまった駅の駅前はどうなってしまったのだろう。賑わいが逆に、複雑な気持ちを呼び起こす。

 現谷城駅までの間は、数百メートルあり、田舎道をカートをごろごろ転がして歩いた。新旧駅間は「レールバイク」なる軌道自転車もあって、他地域のレールバイクより距離は短いものの、風変わりな体験を楽しむことができる。鉄道ファンは少ないと言われる韓国だが、レジャーの一つとしては定着しつつあるようで嬉しい限り。やがて本格的な鉄道趣味文化として花開いてほしいものだ。

 


▲完全レプリカながら雰囲気はあるSL


▲車内はどことなく通勤電車風


▲始発駅・谷城は昔風に


▲明らかにおかしいKTX実物大模型
竹林温泉にふられる

 来たときは大急ぎでよく見ていなかったが、谷城駅はその名の通り、城を模した立派な駅舎。街からはかなり離れているようだが乗客は集まっており、全列車停車と相まって、地域の中核駅として機能しているようだ。

 谷城駅17時21分発のムグンファ号は、ソウルまで直通しない益山までの区間列車。カフェ車とも無縁のローカル列車で、普通列車的な雰囲気が漂う。景色も見えず1時間弱の乗車で、全州駅に到着した。

 今夜の宿泊地は全州。それも郊外の竹林(チュンニム)温泉が目的地なのだが、最寄りの全羅線・竹林温泉駅は休止状態ため、バスで行く他なし。観光案内所はすでに店じまい後で、駅前コンビニに聞いてみても要領を得ず、駅内の売店のおばちゃんに聞いてみたところ、すごく丁寧に説明してくれた。まずは市内までバスで出て、市役所の前で郊外方面のバスに乗り換えるとのこと。

 市役所前で待っていた人に聞いても親切に答えてくれて、全州の女性って親切だなと思う。幸い、乗り換えのバスは程なくやってきた。郊外へ向かって、全羅線できた道をぐんぐん戻る。前乗り・後ろ降り方式のバスだったが、橋を渡ったところで何やら放送が入り、その後は前乗り・前降り方式に変わった。市内区間で基本料金を払って乗り、市外に出ると追加分を払って降りるという方式らしい。

 放送で「竹林マウル」バス停の告知が入り、「竹林温泉とは別のバス停かな」と思い通過直後に運転士に聞いてみれば、「さっきのが竹林温泉だよ」とのこと。乗る時に「竹林温泉行きます?」と聞いたんだから、教えてくれても良さそうなものを!

 寒い国道を一バス停分とぼとぼ戻って、ようやく竹林温泉に到着した。ドライブイン一つにモーテル一つ、そして目指す竹林温泉の建物があるだけの温泉地だが、温泉館がなんだか暗い。苦労してたどり着いたというのに、どうやら閉まっているようだ。がっくりである。真偽を確かめるべく、隣の「ミラノモーテル」に入って、おばちゃんに聞いてみた。

 「隣の温泉って、店じまいしちゃったんですか」
 「そうなんですよ。」
 「ええ! 別府温泉よりいい湯だって聞いて、わざわざ確認しに日本から来たのに…」
 そう、この竹林温泉に興味を持ったのは、竹林温泉駅の存在もさることながら、別府よりいいという比較形容詞に興味を持ったからなのだ。温泉に入れなければ何もない場所とはいえ、これから街に戻るのも億劫だ。

 「ところで、こちらのモーテルも温泉なんですか?」
 「ええ、部屋のお風呂は温泉です。いいお湯ですよ。私の知人なんかも、アトピー治すためによく来ます」
 宿泊料金はダブルで平日35,000ウォンだが、一人だから30,000ウォンに負けてくれるとのこと。昨日の駅前旅館と同額で即決。入ってみれば広々とした洋室で、なかなかのお値打ちだった。

 温泉も気になるが、時間ももう8時。とにかく腹を満たしたくて、隣のドライブイン風のお店に入った。かなり大きなお店だが、おばさん一人で切り盛りしている模様。他の客はなく、
 「おすすめ料理はなんですか?」
 と聞いてみれば、
 「なんでもおいしいですよ!」
 とのこと。では食の都・全州らしく、全州ビビンバを食べようとしてみれば、
 「あんまりいい材料を使っていないんですよ」
 と、やたら正直で親切だ。安いもやしクッパを勧めてもらい、韓国らしくずらりと並んだおかずでお腹一杯に食べた。焼酎をぐいぐい飲みながら、いい気分に。

 竹林温泉のことを聞いてみれば、今年の5月に休業してしまったとのこと。施設は老朽化していて、決して快適ではなかったそうだが、それでも多くのお客を集めていたのは、お湯の良さ故だったとか。そんな話を聞くと、なおのこと残念である。

 残った焼酎を持って帰っていいかと聞けば、
 「どうぞどうぞ。おつまみもないといけないでしょ」
 とノリを持たせてくれて、なかなか気持ちのいいお店だった。

 部屋に入って温泉をためてみたが、かすかな硫黄臭こそするものの、ほとんど温泉らしさを感じられない。一旦タンクにため湯をしている間に、お湯の個性が失われてしまったような印象だ。別府とは比較にならないし、忠州市文江温泉の硫黄臭にも完敗である。ただ温泉館の湯は違ったかもしれず、復活の報が届いたら、また来てみよう。

 一人には大きすぎるベッドに倒れこみ、2日目が終了。

 


▲すっかり陽の落ちた全州駅


▲やっとのことでたどり着いた竹林温泉は廃業!


▲さっぱり温泉らしくなかったモーテルの湯
▼3日目に続く

旅のご参考に…旅の支出一覧(2日目)

支出 購入場所 金 額(ウォン) 金 額(円) 金額(以前のレート)
バス(駅前~市内) 1,000 72 125
バス(市内~梧桐島) 1,000 72 125
バス(エキスポ広報館~市内) 1,000 72 125
タクシー(市内~亀甲船) 1,800 130 225
亀甲船入場料 1,200 87 150
タクシー(突山大橋~鎮南館) 1,900 138 238
韓牛ステーキバーガーセット ロッテリア 5,900 428 738
バス(市内~警察署) 1,000 72 125
タクシー(エキスポ広報館~駅) 1,800 130 225
マッサージ器 列車カフェ 1,000 72 125
ドリップコーヒー 列車カフェ 3,000 217 375
タクシー(谷城駅~旧柯亭駅) 9,600 696 1,200
蟾津江汽車旅行(立席券) 蟾津江汽車マウル 2,000 145 250
カップめん 旧柯亭駅売店 1,500 109 188
缶コーヒー 谷城駅 600 43 75
ロッテのど飴 全州駅前のコンビに 500 36 63
バス(全州駅前~市庁前) 1,000 72 125
バス(市庁前~竹林温泉) 1,560 113 195
竹林温泉モーテル 30,000 2,174 3,750
モヤシヘジャンクク 竹林温泉 5,000 362 625
焼酎 竹林温泉 4,000 290 500
本日計 76,360 5,533 9,545
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