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旅名人きっぷで九州再発見
その4
パワーアップした島原鉄道北目線に乗る[前]

再登板の旅名人きっぷは「完全版」

今回の旅のルート(Map作成ソフト:白地図 KenMap


 3月の「旅名人きっぷ」で、熊本を旅した途上のこと。150円を別払いして熊本市電に乗った時、僕はこう記した。

 …熊本をはじめ、長崎、鹿児島の路面電車は、旅名人きっぷの効力外だ。その他に、熊本電鉄、筑豊電鉄も参加しておらず、全九州乗り放題とならなかったのは残念。ちなみに春から売り出されたJR四国の「四国まるごとパス」は、島内全線乗り放題を実現した。ぜひパワーアップした「次」を期待したい…

 まさか、その「次」がこんなにも早く実現しようとは。2008年4月12日、前回版の「旅名人の九州満喫きっぷ」が4,400枚を売る好評だったことを受け、今年の再発売がリリースされた。しかも前回版では乗れなかった筑豊電鉄、熊本電鉄、そして3都市の路面電車も加わり、JR西日本を除く全九州乗り放題が実現したのだ。値段は据え置きの、3日(3回)1万円。

 これはすごい。各地の私鉄の多くが苦境にあえぐ中、ローカル私鉄の旅にスポットが当たったのは嬉しいことだし、僕自身「再発見」したい路線は、まだあちこちに残っていたのだ。さっそく発売初日の4月18日に購入、翌日の19日には1回目を使って旅に出ることにした。

 今回の行き先は、島原鉄道にした。島原外港以南の通称「南目線」は3月限りで廃止になったが、残された北目線のダイヤが4月1日、大きく改善され、その様子を見たかったのだ。新生・島鉄にエールを贈るべく、まずはいつもの始発駅、西鉄井尻に向かった。
有明フェリーはカモメと渡る

 4月以降、毎日通勤でお世話になっている井尻駅だが、今日は上りではなく下り線の駅舎へ。まっさらの「旅名人きっぷ」に1回目の検印を受ける。前回バージョンのスタンプは、JRの丸型検印と同じサイズだったが、今回はなぜか少し小さめになった。

 休日とあって部活の高校生がメインの普通電車に揺られ十数分、二日市で特急に乗り継ぎ。高速船を介した島原連絡の時間とあって大荷物の人が多いが、同時間の電車に昨秋に乗った時より混んでいる印象だ。

 大牟田からバス、高速船とつながる島原連絡ルートに乗れば9時40分には島原に着いてしまうが、今回は余裕ある行程なので、長洲〜多比良の有明フェリーを使うことにしている。JR鹿児島本線下り普通への乗り換え時間は2分で、かなりタイトだった。西鉄のダイヤ改定で特急の所要時間が短縮されるまでは、逆立ちしても間に合わないダイヤだったので、これも新ダイヤの恩恵ではある。

 南荒尾で下車。駅前広場には葉桜が揺れ、きっと昔は立派な木造駅舎があったのだろうが、今は簡素な無人駅だ。国道に出れば自転車預かり所が2軒あり、通学にはよく使われているようである。

 二十数分待って、産交バスに乗り継ぎ。長洲港行きバスの本数は少なく、南荒尾から長洲港を経由し長洲駅に向かうので、時間帯によって南荒尾と長洲をうまく使い分けたい。長洲駅から歩いても30分少々だけど、今日もかなり歩きそうだから、ここではラクをしておきたかった。乗客は僕以外なしだ。

 「お客さん、いつも乗られるんですか?」
 若い客も珍しいのか、運転士さんから問いかけられた。この路線はいつもこんな調子とかで、最小限も最小限のダイヤで運行しているとのこと。通勤客も減ったし、学生も少子化で減る一方と景気のいい話はない。学校の統合やら学区の廃止で学生が増えることもあるんじゃ? と聞いてみれば、
 「あんまり増えると、スクールバスになっちゃうんですよ」

 苦境という点ではローカル線もバスも同じ。あらゆる手を打っても、それ以上の勢いで乗客は減ってしまう趨勢だ。全九州のバス乗り放題「SUN Qパス」を使ってローカルバスを乗り歩けば、今の日本が見える旅になりそうだけど、旅名人きっぷと違って3日間連続で使わなければならず、なかなか機会に恵まれない。

 タクシーのように運転士と話を交わしながら十数分、長洲港着。島原半島の多比良へ結ぶ、有明フェリーの発着点だ。熊本方面から島原半島への航路は数あれど、料金の安さと就航率の高さから安定した乗客を獲得。熊本方面から長崎方面への近道として、定着している。

 今日もフェリーに向かって車が連なっており、ゲートで料金を支払って次々乗り込んでいく。徒歩客も、斬新なデザインのフェリーターミナルの中にある食券販売機のような機械で切符を買い、下船時に渡す仕組みで、乗船名簿とは無縁。渡し舟の感覚だ。

 船内は椅子席のほか、有料のマッサージチェアーやファミレスのようなソファ席もあり、売店で買った軽食をつまみながらくつろげば、ドライブの間のほどよい休息時間になりそうだ。天気が良ければデッキで過ごすのもいい。島原半島の街並みと平成新山が刻々と近付く、迫力ある風景を楽しめる。

 名物になっているのが、デッキに群がるカモメたち。もちろん目当ては乗客がくれる「カモメパン」で、投げられたエサを器用にキャッチ! 一羽のカモメが掴めなくても、その後ろに続くカモメが拾っていく。ここに渡るカモメたちの遺伝子には、パンの投げ落ちるスピードが刷り込まれているのだろうか。たまたまこの日の毎日新聞長崎版にこのカモメが記事になっていたが、連休明けには渡っていってしまうとか。今の時期の楽しみなのだ。

 わずか40分の青空の船旅を追え、島原半島側の多比良港着。今の住所では雲仙市国見町になる。国見といえばサッカーでも有名な国見高校で、フェリーターミナルでは選手たちの大写真が迎えてくれた。

 


▲「アートポリス」の遺産 長洲港ターミナル


▲フェリーに群がるカモメ


▲青空の船旅


▲長洲行きフェリーと平成新山


便利な島鉄急行&島原で和む

 駅から近いといわれる多比良港だが、駅までの道のりは思いの他分かりにくく、迷いながらたどり着いた。多比良駅は有人駅で意外。ローカル線のローカル駅に駅員がいること自体が珍しく、驚く時代になってきた。

 10時34分発の下り急行列車に乗る。この急行列車こそ島鉄新ダイヤのポイントで、3月までは1日1.5往復に過ぎなかったものが、一挙に7往復増発され8.5往復になった。普通列車は1往復減に留まっており、ほぼ昼間時間帯の急行が上乗せされた形だ。

 てっきりワンマン列車だろうと思って、後ろのワンマン乗車口に向かおうとした所、地元のおばあちゃんが、
 「急行は前でもいいのよ」
 と教えてくれた。ワンマン列車が増えていた島鉄だが、急行列車は全便ツーマンらしい。座席はほどほどに埋まり、適度な乗車率だ。

 車両は黄色い新型の2500形。南目線廃止後は旧国鉄のキハ20が運用を離れており、もれなくこの車両が来ることになった。ファン的な面白みは減ってしまったし、1両くらい残しておいた方がファンも訪れ、経営にもプラスになるのでは…と思うが、日常の利用者にとっては歓迎だろう。

 島原までは左側に有明海、右側には平成新山が近付いてくる車窓が楽しめる。南目線の車窓もよかったが、島鉄の車窓すべてが失われたわけじゃない。島原で大半の乗客を降ろし、南島原へ。船たまりの傍を走る名撮影地も残った。南島原駅の、開業以来の駅舎もそのままだ。車両基地には運用を離脱したキハ20系やトロッコ列車も色あせることなく留置されており、活躍場所はどこかないのかなと思う。トロッコはめでたく、門司港での再就職が決まったようであるが。

 南島原から島原外港までの1駅は、本来廃止予定だったものが、市からの要望で存続した区間。フェリーへ乗り継ぐのか乗客も数人残り、今日この時間だけ見る限りは、正しい選択ではなかったかと思う。船との接続がどの便へもベストというわけではなく、願わくは船に乗り継げる島原までのシャトル列車があれば便利なのだが。

 外港駅は南目線廃止を期に無人化され、それだけで駅舎から生気が失せたように見える。その先の線路は錆が浮き始めているものの、廃止から20日も経っていないとあって、その姿は現役のようだ。これから夏にかけて、夏草の中へと埋もれていくのだろう。災害復旧区間は真新しいだけに再活用が図られないのかと思うが、そのようなニュースは今のところ聞こえてこない。駅名板の隣駅は消されたが、ホームの柱には「加津佐方面」の文字が残っていた。

 折り返し列車は、乗り過ごしたのか先ほども乗っていたおばあさんと、僕の2人。ゆらゆらと走り、島原駅に到着した。毎度感心するが、ローカル私鉄の駅とは思えぬ、立派な駅舎だ。櫓門を模した姿は堂々としており、100年後あたりには歴史的価値を持つに至るのではなかろうか。

 3度目の島鉄だが、島原市内をゆっくり歩いてはいなかったので、まずは駅から北西側の武家屋敷界隈に足を向けた。小中高が並ぶ文教地区でもあるのだが、小学校と高校は歴史ある校舎を持つ。特に高校はきれいに改修されており、うまく再生されたどこかの県庁舎のようだ。小学校の方は建替えか存続かで賛否が分かれていると手元の本には書かれているが、校舎が手入れもされずそのままなのを見ると、結論は出ていないのだろうか。

 武家屋敷の街並みは、島原らしく中央にきれいな水路が通り、舗装せず砂利敷きのままの道が好ましい。生活道路が別に通っているからこそ成せる業だ。見学できる武家屋敷は3軒ほどで、後は普通の民家に建て替わってしまっているのは惜しいが、立派な生垣があるおかげで風格ある街路が保たれていた。

 島原城から文化会館を回った後は、ほど近い場所にある通称「青い理髪店」へ。朽ちかけていた理髪店の建物が地元商店街の熱意で修復され、喫茶&ギャラリーとして愛されているという幸せな建物。内部、外部の改修は最小限なのも好ましく、理髪店時代の立派な鏡台もインテリアとして生きていた。

 建物だけでなく、カフェの値段も良心的で、パスタのボリュームもなかなか。なるほど、店のノートには近所の女子高生の書き込みも多く、お金のない学生でも「たまの贅沢」で来れるレベルのようだ。日ごろは10分少々で昼ごはんをかき込む僕も、すっかりなごんで、ゆっくりした。

 次の急行まで時間があるので、「青い理髪店」にあったパンフレットで知った「しまばら水屋敷」にも足を向けてみた。アーケード街にミスマッチな門をくぐれば、別世界。木々が生い茂る庭園と屋敷、そして透き通る水をたたえた池が待っていた。この池そのものが、毎秒50リットルもの水を生み続ける湧水で、アーケードに流れる川のような水路の源流となっている。

 池に向かって開かれた座敷に座り、島原名物の「かんざらし」をつまむ。小さな団子にシロップをかけた素朴なデザートだが、ひんやりしておいしい。真夏に来ても、気持ち良さそうだ。思いの他、なごむことができた島原の街を、諫早方面の急行列車で後にした。

 


▲もうこの先には進めない


▲武家屋敷の街並み


▲鏡台もマッチした「青い理髪店」のカフェ「モモ」


▲池が湧水!水屋敷

▼後編に続く

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