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旅名人きっぷで九州再発見
その3
西鉄新ダイヤと初春の南阿蘇鉄道[前]

大牟田まで1時間切った!

今回の旅のルート(Map 作成ソフト:白地図 KenMap

 21年春、JRのダイヤ改定は寝台特急の廃止や新線開業などで話題豊富だったが、遅れること1週間、西鉄でもエポックメーキングなダイヤ改定が実施された。特急、急行の最高時速が100kmから110kmにアップ、福岡〜大牟田間の所要時間が1時間の大台を切ったのである。

 かつて天神にそびえる福岡駅ビルには、久留米まで30分、大牟田まで60分という看板が堂々と掲げられていたが、薬院、大善寺、花畑と停車駅の追加を繰り返すうちに、いつしか最速でも62分運転になっていた。それを一挙に4分も縮め、歴代最短となったのだから、西鉄ファンとして感慨深い。

 手元にはちょうど西鉄にも乗れる、「旅名人きっぷ」が1枚残っている。どうせならダイヤ改定初日に乗ってみよう、せっかく南に行くならその先の南阿蘇まで行ってみよう。ということ、3月22日、「旅名人きっぷ」を手に西鉄井尻駅へと歩いた。
110km特急を体感

 井尻駅東口で、「旅名人きっぷ」の3回目の欄に、ペタリと丸印を押してもらう。なんやかんやで3回とも井尻駅を利用しており、並んだスタンプが壮観だ。

 下り電車で十数分、西鉄二日市へ。ここで8時12分発の特急に乗り換える。残念ながらやってきた電車は、通勤型ロングシートの5000形電車だった。土日ダイヤはクロスシートの8000系が基本のはずで、検査の関係で代走になったのかなと思っていたが、ダイヤグラム(西鉄では一般向けの時刻表として駅で配布している)を見ると、大牟田から天神に戻り車庫に入る運用。昼間車庫で休むということは通勤型であると推定され、これが正規の運用のようだ。次の特急も同様で、折り返しの上りが天神への買い物客で混雑するため、こんな運用になっているのだろう。

 出発間際には、特急の運転士と、ホーム監視のため降りている普通の運転士が会話するのを耳にしたが、特急の運転士いわく、
 「1分遅れてしまった」
 とのこと。時間が変わるだけのダイヤ変更ならまだしも、最高速度のアップでは加速やブレーキのタイミングまで変わってしまうはずで、ほぼぶっつけ本番の新ダイヤなのだから、苦労は多そうだ。

 車両は通勤型だが、この列車も大牟田まで59分の下り最速パターン。二日市駅を出ると、直線区間を猛然と飛ばし始めた。速い! 110kmというスピードは、平行するJR快速の120kmに対して見劣りするものの、線路と家並みが近い西鉄だとスピード感が違う。すれ違い時の窓の「バタつき」も大きくなり、これはJRの感覚に近付いた。

 早くなった電車に対する、乗客の反応は…?と思ったが、
 「ちょっと早いんじゃないの?」
 という反応をしている乗客はゼロ。気にしていなければ10kmの差など分からないだろうし、習熟運転で2月から既に110kmの運転は始まっていたので、すでに慣れているのかもしれない。一人、壮年夫婦のおじさんがじっと前を見ていたが、鉄道好きに見えるのはこの人くらいだった。ダイヤ改定自体に対するアピールも、白木原駅でアナウンスされていた程度で、いたって控えめ。西鉄らしいといえば、らしい。

 筑後川を渡れば久留米で、発車時刻は8時29分。これまで00分、30分という分かりやすいダイヤだったものが、ちょっと繰り上がった。最新の特急停車駅、花畑での乗降は相変わらずさほど多くないが、街の発展によってはどうなるか分からない。

 試験場前からの単線区間では、さすがに速度が落ちるかと思ったが、家々の庭先をかすめるようにマックスに近い速度で走り抜けるものだから、ジェットコースターのような迫力。筑紫平野の一本道では常時トップスピードを維持するが、スピード感でいえばこの区間が一番のようだ。

 8時59分、下り最速のスピードで大牟田着。改定前の時刻ならば9時3分着だったので、確かに4分早くなった。たかが4分とはいえ、乗り継ぐJRの熊本行き普通電車は9時4分発なので、それだけ乗り換えにゆとりができたことになる。改定前には絶対に間に合わなかった、9時発のリレーつばめに駆け足で乗り換えた「猛者」もいた。数分の短縮でも、思わぬ効果を生むこともあるわけだ。

 


▲大牟田に着いた5000形特急


人気健在のホンモノレトロ

 その9時4分発普通電車は、4両編成。鳥栖以南では2両ワンマンが主役の鹿児島本線の普通電車だが、この時間帯の需要は多いようだ。大分でもラッシュ後の4両普通があり、これも結構乗っており、通勤ラッシュ後にも一山ピークがあるらしい。

 早起きがたたり船を漕いでいれば、あっという間に熊本着。改札を出てみどりの窓口に並び、観光快速「あそ1962」の指定券を手に入れた。昨年のJR20周年記念スタンプラリー以来の乗車だが、今回もあてがわれたのは、車端の二人用座席。発車直前には客室乗務員手持ちの指定席が飛ぶように売れていき、空きボックスなしの盛況で熊本駅を離れた。暖かくなり人の動きも活発になってきたようで、列車自体の人気が衰えていないのも嬉しい限りだ。

 「あそ1962」は、老朽化で命運尽きたSL「あそBOY」の後を受け継ぎ誕生した、ホンモノの古さを大切にしたレトロ列車。JR九州お得意の大リニューアルを施しつつも、昔ながらのボックスシートやレバー式の洗面台、扇風機、そして鉄道唱歌のチャイムなどポイントを押さえて残しており、好感を持っている列車の一つだ。

 さらに特徴として、「九州横断特急」や「はやとの風」と同様、運転士+客室乗務員の変則ワンマン2人乗務であることが挙げられる。人件費を抑えつつサービスを行う一つの考え方だが、車内改札と販売を一手に引き受ける客室乗務員は忙しそう。前回は乗客の一人一人に語りかけるような車内改札が印象的だったが、今日ほどの乗りになれば、さすがにそんな余裕もないようだ。飛び込み客への指定券販売も多いようで、車内改札は光の森あたりまでかかった。

 変化といえば、ワゴンだった車内販売が、サイクルスペースでの固定営業に変わったことはその一つ。客室乗務員が車内を回る余裕はなかったようで、自転車固定用のバーにきれいに載る、特製ボックスがしつらえてあった。サイクルスペースの床が傷ついていないのを見るに、自転車での利用はわずかなようで、いっそカウンターを設けビュッフェにしてしまった方がいいのでは。同じこと、前回も書いた気がするが…

 ようやく車内販売の営業開始がアナウンスされれば、サイクルスペースにはずらりと列が伸びた。本当の満席状態だったら、下車観光がある立野までに、さばけない事態だってあるかもしれない。この状況でも笑顔を絶やさず、落ち着いて接客できる乗務員は大したものだと思う。手作りソーセージをつまみに地ビールを傾ければ、すっかり旅気分。年度末で詰まり気味の仕事の記憶から、少しずつ開放されていく。

 山深くなれば立野。3段スイッチバックを超え、阿蘇までのどこかの駅で降りて普通列車で引き返してくるというのが今回の旅の青写真だったが、思いのほか暖かい天気に、もっと南阿蘇鉄道沿線に乗り降りしてみようという気分に変わった。
 「宮地までのきっぷですけど、ここで降りますね」
 「あ、そうですか。ありがとうございました、お気をつけて!」
 自由きままな旅こそ、フリーきっぷの魅力。客室乗務員に見送られ、南阿蘇鉄道の旅の幕開けだ。

 


▲客室乗務員が出迎え


▲サイクルスペースはビュッフェコーナー


▲「のれん」もよいアクセント
蕎麦と桜で春に出会う

 接続の普通列車は、南阿蘇鉄道の最新車両であるレトロ調気動車。1ボックスに1〜2人と、ほどよく埋まっている。「あそ1962」から降りたほとんどの乗客は、後続のトロッコに乗り継ぐことを考えれば、なかなかの盛況だ。

 立野駅を出れば、いきなり南阿蘇鉄道のハイライト。白川の渓谷を、目もくらむような高さの2つの鉄橋で渡り越す。トロッコではないが列車は“観光徐行”し、子供たちから「コワーイ!」の声が上がった。この鉄橋が昭和3年建造と知ればもっと「コワーイ」だろうが、今でも鉄橋としての勤めを果たしているのだから、土木構造物とは立派なものだ。

 長陽を過ぎれば、カルデラの底の平野に抜け出し、穏やかな山々を望むのどかな風景に。初めて南阿蘇鉄道に乗った中学1年の時には、
 「この鉄道の見所は立野から長陽だけだな」
 と思ったものだが、今乗ってみれば長陽から先も、癒される魅力的なローカル線だ。そう思うようになったのは、大人になったのか、おっさんになったのか。

 日本一長い駅名として有名な「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅では、添乗員に連れられたじい様ばあ様の団体さんが乗り込んできた。トロッコ列車でなくても、こんな観光利用があるのだ。いつもは車であろう皆さんも、めったにないローカル線の旅を楽しんでいるご様子だ。

 僕は中松駅で下車。一心行の大桜でも見に行こうか、まだ咲いていないだろうけど…と、特に考えもなく降りたのだが、駅舎内に蕎麦屋があるのを見つけ、気付けば扉を押していた。時は12時前、ちょうどお腹が空いてきたところだ。

 2人前を頼んだが、阿蘇の手打ち蕎麦にしてはさほど高くない。茹で上がるまでにと、店主がわさび漬けを出してくれた。漬物がめっぽう苦手な僕だが、漬けて4時間の浅漬けなら大丈夫かなと思い口にしてみると、「ツーン」とした香りが口いっぱいに広がった。店主が今朝山に入ってとって来たというわさびには、南阿蘇の自然に育まれた春が詰まっていた。

 蕎麦も期待を裏切らず、ほどよい歯ごたえとコシでおいしかった。下調べをして来れば迷わずここに降りたのだろうけれど、気まぐれ途中下車で見つけられたのだから感動も倍増。「あそ1962」を降りてよかった。

 改めて一心行の大桜へ。阿蘇は寒いだろうとセーターを持ってきていたが、着なくても歩いていればほんのり汗ばむ陽気。蕎麦屋の中で聞いたラジオは熊本市内での桜開花を伝えており、いよいよ春本番のようだ。草を食む牛と阿蘇の山々を見ながら、ぶらぶら歩く。これだけでも、日常に汚れた心が澄み渡っていく。

 一心行の大桜周辺はきれいに整備されており、青々とした芝生が広がっていた。何もここまで気合いを入れずとも、牧草地なら都会人の心は癒されそうだけど…桜はやはり、膨らんだつぼみが重そうに垂れていた、までの段階だった。数日後には咲き始め、多くの人を集めるに違いない。田舎の観光地にしては、駅から近い大桜。周辺は大渋滞になるというので、ぜひ南阿蘇鉄道に揺られ訪れたい。



▲目もくらむ鉄橋を渡る


▲中松駅に到着


▲まだつぼみだった大桜

▼後編に続く

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