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ゲキ★ヤス 梅雨の晴れ間旅行
1日目[前] きまぐれおれんじ鉄道

思いつきで気ままに

 2007年初夏、JR九州から驚きの企画きっぷが発売された。それは6月第3・4・5週の土日限定で発売された、「ゲキ★ヤス土日乗り放題きっぷ」だ。
 期間中の土日2日間、九州新幹線を含む、特急自由席乗り放題。指定席も300円の追加で乗れ、さらにドリンククーポン、JR九州ホテルの割引、レンタカー半額などの特典が満載だ。これで1万円ポッキリというから、最初に告知を見たときには、正直声をあげて驚いたものだ。

 JR九州は、九州新幹線の開業を前に「豪遊券」や「お年玉フリー」などの乗り放題系切符を全廃してしまい、ガッカリしていた。今年の2月には、20周年記念で「九州特急フリーきっぷ」を期間限定発売したが、3日間で2万5千円と、値ごろ感は今ひとつ。そこに現れた「ゲキ★ヤス」は、僕にとっては「復活」と受け止められた事件だ。これはぜひ、旅立ちたい。
 虎視眈々とチャンスを狙っていたが、発売1週目は飲み会、2週目は休日出勤で旅立てず。ようやく最終週の6月30日朝、博多駅に立つことができた。

 まず最初に乗るのは、「リレーつばめ1号」&「つばめ1号」、福岡〜鹿児島2時間12分の最速コンビだ。この早さで両都市を結ぶのは、1日1往復のみ。前回のスタンプラリーでは、新幹線に乗ったのだか乗っていないのだが分からない感じだったので、その速さを実感するためにもと、この列車を選んだ。
 しかし発車10分前に博多駅に着いてみれば、6番乗り場は既に喧騒に満ちていた。5〜7号車の自由席車は長蛇の列で、隣の車両からの乗り移りを狙い、4号車にも列ができている。僕は7号車の列についたが、つばめ1号は博多始発ではなく、門司港から乗客を集めてやってくる。
 案の定、博多駅に進入してきたリレーつばめは、すでに混雑。乗り込んでもすでに席はなく、袋小路の7号車の奥に立った。ああ、新八代まで立ちん棒かと思っていたが、目の前の席を多く取りすぎてしまっていた家族連れが詰めたおかげで、座ることができた。ラッキー!

 立っている人には気の毒だが、座ってしまえば至極快適な高級車・787系。工事の進む新幹線の高架が車窓に映る。博多〜新八代間は地上区間が多くなりそうで、近年の新幹線としては珍しく、車窓を楽しる新幹線になりそうだ。
 車内販売は混雑のため、自由席までは回ってこないとか。代わりに、4号車のミニショップで営業しているとのこと。4号車といえば、つばめ名物だったビュッフェを普通車に改造した車両だが、その際ミニショップというささやかな売店スペースが設けられている。営業している姿を見たことがなかったので、熊本でやや空いたのをきっかけに、ビュッフェの記憶を求めて席を立ってみた。
 なるほどショップのカーテンは開かれていたが、横の廊下にワゴンが留め置かれていて、コーヒーはそこから供された。ビュッフェのイメージからは、程遠いものだ。もう在来線「つばめ」の幻想を、断ち切る時なのかもしれない。空いていたボックスシートを拝借し、暖かいコーヒーを味わった。

 間もなく新八代。新幹線「つばめ」は、「リレーつばめ」よりも席が多いので焦ることはないが、窓側に座りたいのでデッキに立った。同じように立つ人は多く、デッキに向かって列が伸びる。いくらホームタッチの乗り換えとはいえ、座っていればいい直通とはまったく違う手間であり、ストレスだ。全線開通は待ち遠しい。
 並んだおかげで窓側に座れ、自由席が満席に近い状態で発車。八代の工業地帯の煙突が車窓をよぎれば、あっという間にトンネルに突入した。ぐんぐん加速していき、新水俣、出水も一瞬で彼方へ飛んでいった。そして、川内駅も… 1日1往復のみの「ノンストップつばめ」ならではの車窓、釘付けになった。かつて存在した、1日1本の名古屋通過「のぞみ」は、かなり減速して通過していたというが、こちらはほとんど減速しない。安全柵が完備されているからだろうが、全線開業後は川内通過列車も増えるのかも。

 あっという間に、鹿児島中央着。この後は日本最南端の駅・西大山へ向かうので、指宿枕崎線の乗り場へ向かった。2両の快速は、ゲキ★ヤス効果なのか、やはり大混雑。
 実は新幹線から一瞬見える海に、かつての旧鹿児島本線から見る東シナ海が思い浮かんでいた。在来線「つばめ」から見ていた、あの海をまた見てみたい。まして満員のつばめと満員の快速を見ていたら、せっかくの休日、もっとのんびり旅したいと気分が変わった。よし、戻ろう! こんな気ままに旅ができるのも、フリーきっぷの良さだ。
 上り「つばめ」も、福岡へ向かう人でなかなかの賑わいだ。トンネルを抜ければ、あっという間に川内。ここで降りる人も多く、身近な足になった新幹線を実感した。




▲階段まで続く「1号」の列


▲ミニショップで買ったコーヒー


▲満員快速「なのはな」を見送る


▲「つばめ」で川内へバック
シックな色合いの2・6号車が好み


素通りの街と、武家屋敷の街

 肥薩おれんじ鉄道の川内駅は、川内〜鹿児島間に残った鹿児島本線ホームの、端も端のプレハブにある。1日乗車券を求めたいのに、休日無人だったら目も当てられんなと思っていたが、さいわいおばさん駅員が詰めていて、フリーきっぷを買うことができた。
 乗り込んだ休日のみ運行の観光快速「潮騒」だが、乗客はわずか3人!大賑わいの新幹線を見た後だけに、その落差には愕然とした。せっかく、新幹線に接続して運転されている観光列車なのに、観光客らしき乗客は僕だけだ。
 ただ、のんびりした旅を求めてやってきた僕には、快適そのもの。車両は軽快気動車にしてはゆったりしたつくりで、ボックスの向かいの席にまで、足が届かないほどだ。元が、特急つばめの行きかう高規格路線だっただけあり、乗り心地もきわめてよい。通過駅も1線スルーになっており、すべるように通過していく。
 快速とはいえ早さを志向したものでなく、景勝地では停止してじっくり車窓を見せてくれる。ここまでやっているだけに、観光客の少なさは尚のこと残念だ。ワンマンのテープも観光案内を行っているようだが、エンジン音にかき消されて、ほとんど聞こえない。

 阿久根駅に到着、降りてみた。平行在来線問題を語られるときに、引き合いに出されることの多い、新幹線に素通りされた特急停車駅のひとつだ。とりあえず降りてみれば観光案内マップくらいあるだろうと思っていたが、なんと休日無人。駅前にはタクシーも待っているが、客には恵まれないようだ。
 駅前商店街の惨状は、テレビで見たとおり悲惨なもの。シャッター通りというか、歯抜けがとめどなく進行している。車通りだけは多く、いずれ普通の「郊外」になってしまうかもしれない。地方の駅前の衰退は全国共通で、新幹線が追い討ちをかけたというのが真実だろう。それにしても…
 九州新幹線の開業効果はすさまじかったと思うが、一方で目を背けられない現実だ。駅前の立て看板は、「西廻り高速自動車道の早期実現」とあった。もはや、関心はそちらということらしい。

 出水方面の列車を待っていると、反対側に貨物列車が入ってきた。三セク移管後も引き続きJR貨物で運行されており、旅客はディーゼルになったが、貨物は電気運転を続けている。何やら妙なことではあるが、物流の大動脈を守りつつも経費節減をすべく、取られた方法だ。
 そして、次の普通列車からは、大勢のお年寄りが降りてきて数人の乗客が乗り込み、ちょっとほっとした。地元向け列車と週末の観光快速では、やはり利用状況も異なるようだ。
 次なる下車駅は、出水駅。おれんじ鉄道側の駅舎が表玄関のはずだが、旧在来線駅舎は閉鎖になり、ここもプレハブの駅舎になっていた。裏口の新幹線駅舎は、武家屋敷を模した駅前広場が整備されていて市の玄関として恥じない姿だが、この落差はいかがなものだろう。

 観光案内所にレンタルサイクルがあったのは幸い、300円を払って武家屋敷群へとペダルを漕いだ。徒歩15分とあったので歩きでもよいかなと思っていたが、なんのなんの、自転車でも15分近くかかった。
 出水の武家屋敷群は重要伝統的建造物群保存地区に指定された、由緒ある街並み。建物すべてが武家屋敷というわけではないが、整然と区分けされた街区に、よく手入れされた生垣がすばらしい。内部の見学ができる武家屋敷は、竹添邸と武宮邸の2軒のみ。いずれも明治年代の建築だが、無料で見られるとは太っ腹だ。
 竹添邸は家の中で蚕の飼育を行っていたという屋敷で、その痕跡を床に見ることができる。表庭と中庭の間に居間があり、座れば両側に庭の緑を愛でることができる。風通しもよさそうだ。一方の武宮邸は、明治の建築とはいえ風格充分。家の真ん中の敷居には、つまづきそうなわずかな段差があるが、
 「ここが、子供は入っちゃいかんという印なんです」
 封建制度はこの時代に下っても、まだまだ健在だったようだ。
 期待以上だった出水の武家屋敷群だったが、つばめの混雑の割には押し寄せる人もなく、静か。竹添邸のおばちゃんも列車で来た僕に、
 「それは優雅ね」
 と言っていたくらいで、鉄道利用の観光客はちょっと珍しい存在のようだ。
 JRの鹿児島キャンペーンは、第2段の「鹿児島スイッチ」がスタートしたものの、相変わらずターゲットは指宿や霧島だ。肥薩おれんじへ鉄道の経営支援の意味も込めて、そろそろ出水、水俣方面にターゲットを移しても…と思うが、新幹線の乗車距離が縮まるので、あまり勧めたくないのだろうか?
 
 
 


▲西廻り高速道を待つ阿久根駅


▲もう一つの主役は貨物列車


▲武家屋敷の意匠を取り入れた出水駅


▲静かな武家屋敷の街並み

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