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ゲキ★ヤス 梅雨の晴れ間旅行
1日目[後] 伝統の温泉から、南国へ

海辺の歴史ある温泉へ

 おれんじ鉄道の気まぐれ途中下車の旅。次なる下車駅は、新幹線に素通りされた、「新」のつかない水俣駅に降りてみようと思っていたが、武家屋敷に予定以上の時間を取ったので、パス。列車に揺られ続けた。新水俣では新幹線への乗り換え案内が流れたものの、乗り継ぎ利用らしき乗客はいない。
 津奈木、湯浦といった湯どころに丹念に寄り道し、次なる下車駅は「たのうら御立岬公園」。ホーム1本きりの小さな駅は、かつての鹿児島本線の駅とは思えない、のも道理、おれんじ鉄道転換後の唯一の新駅である。交流電化区間の新駅設置は、高圧電流からの安全確保のため数億円規模になると聞いたことがあるが、ここもそうなのだろうか。
 駅の施設は小規模だが、スロープや身障者便所、駅前広場など最小限のものは揃っている。ホームには転落防止の柵があり、安全にも配慮。しかしこの柵があるということは、おれんじ鉄道の軽快気動車しか発着できないということでもあり、JR電車の団体乗り入れなどは考慮されていないようだ。

 さっそく、駅名にもなっている公園へ行ってみようと歩き出してみたが、行けども行けどもたどり着かない。きれいな磯で潮の香りを吸い込んで帰ってきたが、あらためて駅前の立て看板を見てみれば、公園までは徒歩30分。とても1時間たらずの途中下車でたどり着ける場所ではなかった。駅からはバスの便はおろか、客待ちのタクシーもおらず、利用者を惑わす駅名のような気もする。
 次の列車でさらに上る。一線スルーになった駅は多いのだが、スルーの線路を外れてポイントを徐行しながら進入する駅も多い。ナゼわざわざ? これは、おれんじ鉄道独特の方針である、「極力、駅舎側のホームに列車をつける」という原則のためだ。高齢化社会の進行する地域を走る鉄道だけに、施設面だけでないバリアフリーを実践したわけだ。
 ただ列車交換時には、決まり通り左側通行で進入することになり、方面別にホームを固定できないとうジレンマも持つ。実際交換駅では、到着する列車を見るや踏線橋を小走りに渡ってくる人もいて、ベストといえるかは難しい手法だ。列車本数も減ったのだから、構内踏切の復活も一つの方法ではないかと思う。

 列車は、ぴたりと海に寄り添って走る。すぐそばにまで生活道路が迫る、カーブだらけの線路は、つい数年前まで「つばめ」が走っていた線路とは信じられな気もする。この線路を9両の「つばめ」が走り、ビュッフェでコーヒーを味わいながらこの海を眺められたのだから、今になって思えばなんて贅沢なことだったんだろう、と思う。懐かしんでも戻らない、新幹線より豊かな旅がここには存在していた。

 次なる下車駅は、日奈久温泉駅。おれんじ鉄道転換と共に、温泉に名を改めた駅だ。観光駅長が勤めていて、よく手入れされた駅舎ともども、やはり人の匂いを感じる駅はいいものだ。ただお目当ての日奈久温泉街へは、歩道もない国道を歩かなければならない。せっかくいい雰囲気の駅舎でも、ここで旅気分が萎えてしまいそうだ。
 しかし温泉街に入れば、古い建物が並び、カーブした狭い路地が続く風情ある街並みになった。特に木造3階建ての旅館が多く残るのが、この日奈久温泉の特徴の一つ。その中でも「金波楼」は、立派な風格を持つ3階建旅館で、日奈久のシンボルだ。敷居が高そうで、これじゃあ日帰り入浴も無理だろうと思っていたら、500円でOKとのこと。喜び勇んで、入れてもらった。
 年季の入った廊下をミシミシと歩けば、緑豊かでよく手入れされた中庭が広がった。おそらく、建てられて100年近く、ずっと変わらないたたずまいなのだろう。
 ただ温泉は若干、塩素の匂いがして、お湯の特徴も薄い。100%循環というわけではなくて、半分くらいは新鮮な湯を注いでいるようだが、ちょっと物足りない。後で調べて見ると、日奈久温泉は1軒を除いて掛け流しとのことで、その1軒がここということらしい。湯量が足りないのだろうか。雰囲気は抜群だけに、惜しいことだ

 ともかく、いつかは泊まってみたいと思える旅館だが、温泉は物足りなかったので、いくつかある共同湯を見て「東湯」に入ってみた。夕方の時間とあって、ご近所の方々が洗面器片手に集まってきていて、別府温泉のような日常の温泉風景だ。
 お湯はたっぷり注がれていて、すべすべする。地元の人とも、
 「ここのお湯はいいよ」
 と語らえて、湯の温度だけでない温かさもある。金波楼に泊まって、外湯も巡れば日奈久通だ。



▲たのうら御立岬公園駅


▲1線スルーながら、ポイントはカーブ側


▲海にぴったり寄り添いながら


▲風格ある金波楼

再び南下、そし宮崎へ

 夕暮れ迫る日奈久温泉駅から、八代へ。新幹線開通で、博多行きの特急は新八代に移ってしまった八代だが、こちらも熊本都市圏電車の駅として立派に賑わっていた。新幹線博多開通後の鳥栖や大牟田も、こんな雰囲気になることだろう。
 普段着スタイルの乗客で賑わう2両ワンマンの電車に揺られ、新八代へ。駅前は「東横イン」が完成したくらいで、4ヶ月前とは特に変わっていない。この先も開発が進まなければ、全通後は速達列車の通過駅になっちゃうかもしれない。

 今日3回目の「つばめ」に乗り込んだ。同じようにトンネルをつき抜け、時々見える海を愛でつつ川内へ。先ほどは駆け足であまり見れなかった川内駅を見ようと、下車してみた。
 駅裏は昔からの住宅街で、裏口もデザインされているが、こじんまりした雰囲気。一方の表口は、立派に整備された駅前通りがまっすぐに伸びていて、一見すると大都会だ。だがよく見れば駅前を歩く人は少なく、店がぎっしり立ち並んでいるわけでもない。一歩裏に入ればやはり住宅街も見られ、ありふれた地方の駅前であることが分かる。ちゃんとしつらえてやれば、立派な駅前風景になる好例だろう。
 駅の利用は実際好調なようで、駅付近には大きなマンションも建った。列車が出る頃には、鹿児島中央までの短区間利用者が次々に集まってくる。すっかり一つの都市圏になった、薩摩川内と鹿児島。博多全通時には、沿線の地図をどのように塗り替えていくのだろう。

 鹿児島中央に到着、宮崎行き特急の発車までは30分ほどある。車内販売がないことは分かっているので、駅弁を探してみたが、見事に売り切れ。これはいかんと、地下道を通って駅前のダイエーに行って見れば、見切り品をちょっと値引いて売っていた。これが今夜の晩御飯になりそうだ。
 宮崎行き「きりしま」は、485系電車の5両編成。「きりしま」にしては長い編成の割りによく乗っていて、日常の足になっている。そんな乗客も、国分あたりまでにはかなり降りてしまい、席を向かい合わせにしてくつろいだ。ご飯を食べ終えてしまえば、なにもすることがなく、ぼけっと音楽を聴いて過ごすほかない。
 2時間かけて宮崎駅着。夜10時を過ぎて、駅は帰宅の人でそこそこの賑わいだが、駅前は深夜の装いだ。繁華街まで出ればまだまだ明るいのだろうけど、その気力もなく、コンビニでつまみを買って大人しく部屋に引きこもった。
 
 
 


▲なにやら都会の川内駅前


▲輝く中央駅広場


▲長旅を終え宮崎駅へ

◆泊まり処:宮崎オリエンタルホテル
1泊3,900円とお手ごろながら、部屋はまずまずきれい。楽天トラベル経由で予約すれば、土日には同価格で朝食つきプランもあり。JR利用者なら利便性はバツグン。

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