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浪漫の季節の韓国へ
1日目 蔚山を歩く

静かな玄界灘を超え

 9月24日、二級建築士試験を終えた。出来はどうあれ、ひとまず心は解き放たれ、明日からは遅い夏休みだ。試験準備で手一杯だったから旅の準備など済んでおらず、夜は荷造りと旅程作りに勤しんだ。月曜日から日曜日まで7日間の夏休み。まるまる1週間、ベストシーズンの韓国を満喫する予定だ。

 明けて25日。9時半のビートルを予約していたのだが、平日朝ということで余裕を持ってターミナルへ向かったら、8時半前には到着。これなら1便前の8時45分発に乗れるのではないかとカウンターに突進してみれば、大成功。乗船手続き、出国手続きを流れるように済ませ、あっという間に海上の人となった。こんな芸当ができるようになったのも、JRと未来高速の業務提携による、共同運航化の効能かも知れない。

 個人的には、2回に1回は荒天に当たってしまう日韓航路だが、今回の海は極めて穏やか。3時間という所要時間といい、ゴツゴツした揺れといい、高速バスで旅している気分になる。

 日韓航路では春先、くじららしき海洋生物との衝突事故が相次ぎ、ビートルのみ減速運航を余儀なくされていたのだが、いつの間にか2時間55分の定時運航に戻っていた。シートベルト着用の徹底は相変わらずだ。この船では1階コーヒーショップの営業が行われていたけど、これも船内ではなるべく立たないで貰おうとの配慮から、ワゴン販売に切り替わる模様だ。

 うとうとしているうちに、窓辺には釜山の街並みが写ってきた。もう見慣れた風景になったけど、窓一杯に広がる高層アパートと港湾クレーンの林は、躍動感を感じて好きだ。ごろごろとキャリー鞄を転がし、釜山の地面を踏んだ。

 まずは釜山港ターミナルで、1週間の韓国生活を送る準備にかかった。リニューアルを経てぐっと大きくなった釜山銀行のカウンターで、まずは旅行資金を両替。円安ウォン高は更に進み、8万円出してかえってきたのは55万ウォン。100円=1,000ウォンのレートに慣れていた身には、15万ウォンを騙し取られたような気分だ。

 続いてSKテレコムのカウンターで、今回初めて「レンタル携帯」を借りてみた。海外で携帯を使うには、ローミングサービスを利用したり、日本でレンタルしたりしてくる方法があるが、韓国では現地で借りるのが便利でお得。レンタル料は1日わずか3,000ウォン、さらに韓国旅行サイト「ソウルナビ」のクーポン利用で、なんと無料で済んだ。通話料は10秒100ウォンとちょっと割高で、携帯は着信専用、発信は公衆電話にしようと思ってはいたが、結局はもっぱら携帯の世話になった。



▲ウッディな船内


▲釜山の街並みが見えてきた
KRパスを持ったままバスの旅

 今回の旅も、おなじみ「ビートル&KRパス」を利用。さっそく釜山駅に行き、バウチャーをKRパス本券に引き換えてもらった。7日間で32,000円という価格は、以前なら元を取るにはかなり乗らなくてはならなかったが、ウォン高の煽りでハードルはかなり下がった。

 せっかくのKRパスだが、次の目的地・蔚山へは1日2本しか列車がないので、市外バスターミナル最寄りの、地下鉄1号線終点・老圃洞(ノポドン)へと向かった。途中の蓮山洞(ヨンサンドン)で一旦降りて、2005年末に開通した3号線を見学。ホームドア完備の最新鋭の地下鉄で、今度来たときにはぜひ乗ってみたい。

 老圃洞駅から直結したバスターミナルで、蔚山まで3,500ウォン也の切符を購入。1時間の距離でこの料金は、韓国でもなかなか安い方だ。釜山と蔚山はいずれも隣接した広域市(日本なら政令市に相当)で、日本なら快速列車が1時間に4本くらい走っていそうな位置関係だが、なにせ鉄道に対する考え方が違う。10分間隔で走るこの市外バスが、動脈だ。

 平日昼下がりということで、バスはガラガラ。郊外の広い国道を、猛スピードで飛ばし始めた。高速道路の発達した韓国で、2大広域市間に高速道路がないのも妙な話。一方の鉄道は、高速鉄道の2期工事が進行中だ。
 いくつかの田舎町を経由し、ワールドカップ競技場が出迎えれば蔚山到着だ。バスターミナルはロッテ百貨店に隣接、屋上には観覧車が回っていた。



▲建設中の高速鉄道
空振りくじら博物館

 蔚山市は人口107万人、現代自動車の企業城下町として発展してきた町で、観光都市の印象は薄い。それでも韓国全土の広域市には足を記しておきたくて、こうして足を運んできてみた。最初の目的地は、倭城跡である鶴城公園だ。

 公園までは、ターミナルからバスで10分ほど。なにをするでもなく、日がな一日を過ごすお年寄り達で賑わっていて、これは韓国の公園や駅ではよく見られる風景だ。

 この公園、確かに高台にはなっているものの、石垣の跡は分かりにくく、言われてもここが日本のつくった城だとはにわかに信じられない。郊外にある西生浦倭城(ソセンポウェソン)では城郭がほぼ完全な状態で残っているとかで、いずれ時間をつくって訪ねてみたい。

 さて、バスターミナルに戻ってみたものの、列車の時間までは1時間半ほどある。こんな時こそ活用したいのが観光案内所だ。
 「あの、1時間半くらいなんですが、ワールドカップ競技場まで行って来られますか?」
 「少し距離がありますから、難しいかもしれませんね」
 「じゃあ、何かその時間で行ける見所はありますか」
 「そうですね…くじら博物館ってご存知ですか?タクシーで片道8,000ウォンくらいですが。バスは遠回りしちゃいますので、タクシーで行くのをお勧めします」

 蔚山は有名なくじらの街。往復二千円近くになるタクシー代にたじろなくもなかったが、今はお金より時間が大切な社会人。すぐさまタクシー乗り場へと向かった。

 くじら博物館までは、工場群から海辺の港町へと抜けていく。高校の地理で学んだ、教科書の中の蔚山そのままの風景だ。15分飛ばして到着したくじら博物館は、現代的な建物で内容にも期待が持てそう。ところが入口へ行ってみれば、「本日休館日」。おいおい観光案内所、それくらい把握しておこうよ!

 気を取り直して海辺に出てみれば、無数の人が釣竿を垂らしていた。しかし目の前には「つり禁止」のたて看板。皆で垂らせば怖くない、のかな。

 さて、博物館を見学できなかったので、時間の余裕はある。遠回りでもいいからローカルバスで戻ってみるかと思って、地元の人にターミナル行きのバスを聞いて待ってみたが、これがまったく来ない。それどころか、タクシーすら滅多に通らないのだ。こりゃ列車の時間までに戻れないかも、とヒヤヒヤだったが、タイムリミットぎりぎりタクシーがやって来た。結局、往復のタクシー代9800ウォンを払ってドライブしただけになったけど、蔚山らしい風景を見られたから、よしとしよう。

 ターミナルに預けていた荷物を取り出し、市内バスで駅へと向かってみたら、これが正反対の方向。結局またタクシーを捕まえた。蔚山のタクシーに、ずいぶん落とした。



▲くじら博物館はお休み


▲捕鯨船も展示
セマウルで大邱へ抜ける

 蔚山からは、大邱線経由で東大邱へと抜ける。KTX登場以来、ローカル線の優等列車として活躍するセマウル号だが、その居住性は相変わらず素晴らしい。普通車でも、日本のグリーン車並みの居住性を誇る。機関故障とやらで発車がじりじり遅れるが、今日はもう寝るだけだしと、どんと構える。

 慶州では、浦項(ポハン)からの編成を併結、堂々の16両編成でソウルを目指す。浦項も工業都市として有名で、蔚山が長崎なら浦項は佐世保といったところか。ここ慶州でも点検のため停車し、東大邱到着はやや遅れそう。そんな時に通り過ぎた車内販売の一声。

 「暖かいコーヒー、爽やかなアイスコーヒー、食堂車も営業しております」

 迂闊にも気付いていなかったが、今や貴重な食堂営業列車だったか。東大邱に着いたらどちみち飯にありつかなくちゃいけないし、ここで済ませておこうと2号車へ行った。プルコギ定食はうまくもまずくもなかったが、夕暮れの風景を見ながらの暖かい食事は格別。8,000ウォンという値段も、妥当な線だろう。

 大邱線は単線とはいえ、ソウルから慶州を結ぶ重要な路線。駅ごとに列車交換を繰り返し、普通列車にあたる「通勤列車」の姿を多く見かけるのも、韓国では珍しい。日本のローカル線を旅している気分になる。

 列車はこの先、ソウルまで走っていくが、僕は明日の予定を考え東大邱で下車。京釜線と連絡する歴史ある乗換駅で、しかも高速バスターミナルも隣接しているのは韓国では珍しく、便利。当然ながら、周辺には旅館も多いのだが…

 「もしもし、宿をお探しですか?私はそこのモーテルの社長です。1週間前にオープンしたばかりで、まだ知名度がないもので、いつもは5万のところを3万でサービスします。どこよりもきれいですよ」

 怪しげな気はしたが、ものは試しと部屋を見せてもらうことにした。部屋はラブホに近い雰囲気だが、ビジネスホテルとラブホの境界が曖昧な韓国。冷水機が置いてあるのは便利だし、テレビもでかい。一人で泊まるのもおかしくはないでしょうと、三万ウォンを払った。
 「きれいな姉ちゃんも呼べますよ」
 ありゃりゃ、そういう商売もやっている宿なのか。
 「今日は疲れているからいいです」
 「ちょっと休んでから呼べばいいでしょ」
 なかなかしつこい。TVを付けてみればいきなり「無修正」だし、旅館の前のおばちゃんからも「かわいい娘いるよ」とアタックされるし、少々げんなりしてきた。

 市街地は大邱駅側に広がっていると聞いていたが、歩いてみればこちら東大邱駅側もなかなかの賑わい。ただ、さっぱりしたいのに近辺に風呂屋はないらしく、思うところあって地下鉄の駅へと向かった。

 2003年の大惨事から3年、復旧した大邱地下鉄は市民の足として活躍中。最新鋭の地下鉄ということで当初からICカード乗車券があり、普通乗車券に相当する「普通券」もIC式なのがユニークだ。丸いトークンのようなチップで、入場時はカードリーダーにタッチ。出場時は改札機に投入して返却というシステムだ。ICカードは「非接触式」なので故障が少ないという利点があり、普通券もICにしたことは相当な省力化になったのでは?日本も見習ってよい。

 電車はステンレスに赤帯を巻いていて、つい先週東京に行ってきたばかりとあって、丸の内線を思い出す。車内はさすがに防災対策、すなわち非常ドアコックの位置を示す表示や、消火器の設備などがしっかりしている。

 大邱駅もデパートを併設した立派な駅舎だが、もう閉まっていて賑わいは少ない。駅正面から左手に行くと、以前に行ったチムチルバン付きサウナがあり、料金は変わらず3,500ウォンと安かった。9時を過ぎての入場は5,000ウォンになるが、24時間営業で朝まで過ごすことができるので、怪しげなモーテルよりここに泊まればよかったかなと思う。韓国の夜の風呂屋はガラガラで、のんびり浸かる。お目当てだったアカスリはもう終わったようで残念。またどこかで行き直そう。

 宿に帰ればグッタリ。増量キャンペーン中のOBラガーを空け、ぐっすり眠った。「そういう」旅館のわりに防音がしっかりしておらず安眠妨害がないか心配だったが、隣からはテレビの音しか聞こえず、一人の客もいるんだと妙に安心した。



▲プルコギ定食


▲ここも立派な東大邱

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