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四国四県、晴れ・雨・雪
2日目 春の海岸から、雪の渓谷へ

オリジナルキャラクタートレインに揺られ

 旅の朝は早起き。いや、予定では8時前まで寝るつもりでいたのだけど、今日日曜日は、高知名物「日曜市」の日というわけで、それをのぞいて行くために6時台に起きたのだ。そんな早朝でも、旅の朝ごはんはうまい。日頃はパン1枚とフレークという朝食の僕も、ユンさんと一緒に2杯目のご飯に手が伸びた。

 朝のバスに乗り込み、市内へ。降り立ち道を戻れば、ずらりと露店が並んでいた。ところどころに土産物も扱っているし、カバンを抱えた旅行客もいるのだが、あくまで地元人が主役。とびきり安い野菜や、名産の刃物が並ぶ、活気ある市場だ。
 ユンさんの感想は、
 「『五日市』みたい。日本って、知れば知るほど韓国みたいに思えてきます」。
 確かにこの雰囲気は、韓国の「五日市」のような臨時市場にそっくり。日本だって、探せばまだまだアジアなのだ。

 改めて朝の高知城や、はりまや橋交差点を行きかう土電を眺め高知駅へ。2日目の第一走者は、派手な広告に身を包んだ、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線のワンマン気動車だ。
 前半分が転換クロスシート、後ろ半分がロングシートという変わった構成で、クロスシート部は中村・宿毛線車両と同様、大きな窓が備えられ旅気分が盛り上がる。ただワンマンのテープ放送の声が、九州のワンマン車と同じで、突然現実に戻された気分になった。

 御免まではJR土讃線を、特急、普通と交換を繰り返しながら走る。立つ人も出た車内は一向に空かず、多くの人がごめん・なはり線まで乗り通すようだ。御免を出発すれば、真新しい新線の「ごめん・なはり線」。ワンマンテープの案内も、「次は御免町、ごめんまちこさんの、御免町です」と、駅キャラクターを付けたものに変わった。

 この「全駅にキャラクター」は、ごめん・なはり線のウリの一つ。たかがローカルキャラクターと侮ることなかれ、アンパンマンのやなせたかしさんの手によるもので、なかなかかわいい。駅名版にはもちろん、駅前には像まで立っており、一駅一駅巡ってみるのも楽しそうだ。
 最初このことを鉄道誌で見て、「キャラクターつくったからってどうなるの?」と少し冷めた見方をしてしまっていたが、実際見てみるのとでは大違い。JR四国のアンパンマン列車の成功もしかりで、厳しい鉄道にこそこんなソフトな取り組みが大事なのだ。

 急カーブを切って、高架上の後免町着。土電との乗り継ぎ駅で、早くも降りていった人もいた。線路は昨日の宿毛線と同様、気持ちいいほどの直線高架が続く。そのまま太平洋岸まで出てしまうのだから、景観に関しては最高だ。沿線が一大観光地というわけでもないのに、観光客の利用が多いというのもうなずける爽快感である。

 ただ、田園地帯になぜこんな立派な高架橋を?との思いは残る。もちろん、踏切はほとんどないので安全には違いないが、仮に支払っているのなら、固定資産税の負担は相当なものだろう。特に海沿いでは、高架橋より陸側の人たちから海の景観を奪う結果にもなるわけで、潜在的不満になっていないのだろうか。大学時代、別府の海の景観についていろいろ考えていた僕にとっては、心配事だ。
 鉄道建設は国の事業。標準仕様に準ずる他なく、杓子定規になるのは仕方ないと言ってしまえば、それまでなのだが…。

 そしてこの高架橋も宿毛線と同様、開業3年余りにしてはずいぶん古びていることも、難産の歴史を物語る。延々と続く高架橋は万里の長城とも揶揄されたそうが、確かに景観を防ぐ壁以外の何者でもなかっただろう。乗り越えた壁は多かったろうけど、開業にこぎつけた「最後のローカル線」の未来にエールを送りたい。

 難しいことを考えずとも、海がきれいで何かと楽しいごめん・なはり線。乗客が多いのは結構なことで、御免からは女性車掌も乗務して、改札・発券に精を出している。ほとんどの乗客と車掌は、あかおかで下車。地元の人と、美術系の大学生らしき女の子2人組みを乗せ、海岸の松林を高架で快走してゆく。



▲朝日浴びる高知城
▲朝から賑わう日曜市
▲海岸を高架で走る
太平洋の街で

 このまま列車は終点の奈半利まで行くけど、沿線最大の都市・あきうたこちゃんの安芸駅で降りてみた。みどりの窓口も備えた立派な駅で、大きな観光物産館もある。これがまた繁盛していて、素晴らしいことに無料のレンタルサイクルまであった。
 さっそく、レジで鍵と地図を借りて散策にGo!無料とあってかなりボロボロの自転車だが、500円も取られた上にチェーンが外れた、北海道・某町のレンタルサイクルよりは上等だ。

 地図を見れば、周辺には野良時計や武家屋敷跡などいろいろあるようで、建築好きとしては惹かれるものがあるが、あれだけ太平洋を見せ付けられたら、ぜひとも海岸に行ってみたい。いかにも漁師町といった風情の市街地を抜け、石ころの広がる海岸にでた。天気は良好、波音響く海岸は爽快!

 駅に戻り、物産館でお土産を物色。友達と上司への土産に土佐の酒を買い込み、ずっしりと重くなった鞄を肩に、終着駅・奈半利に向かう。この列車は、ごめん・なはり線のユニーク車両、オープンデッキ車での運行だ。海側にデッキを設けた特別仕様車だが、各地のトロッコ列車と違い、乗車券だけで乗れる手軽さがいい。この車両目当てで乗ったらしい親子連れで、車内は賑やかだ。

 デッキに出てみれば、晴れの天気ということで、なんとか耐えられる寒さ。オープンデッキ車で走る列車は「ゆっくりダイヤ」にしてあるそうで、のんびり海岸を見ながら、同じ空気を味わえる楽しい列車だ。しかしトンネルに入れば、さすがに耐えられない寒さ。早々に、暖かい車内へ引き返した。

 車内はオールクロスシートで、車内灯はちょっとレトロ調。前後の窓が大きく取られて、他の車両よりも前面展望がきくのも魅力で、親子連れが陣取っていた。おいおい少年、ちょっと運転席に近寄りすぎではないかい?

 奈半利は、どんづまりの終着駅。折り返し時間はわずか数分で、外に出ることも叶わないが、駅舎のデッキから遠く太平洋を眺め満足。もう一度、1日かけてゆっくり楽しんでみたい、ごめん・なはり線だった。

 帰路は、同じ列車で安芸までゆっくり戻り、接続の快速に乗り継ぐ。ローカル線ながら、1時間に1本の快速を設定しているのは立派。安芸〜御免間は、31分だ。



▲安芸の海岸
▲オープンデッキで潮風を受けながら
▲レール果てる所
雪の渓谷

 御免からは、土讃線特急「南風」で大歩危駅まで上る。わずか45分の乗車にグリーン車を奢れるのも、バースデイきっぷあればこそだ。

 峠にかかった南風は、俊足こそ衰えるものの、スイッチバックの駅をまたたく間に通過。鈍行列車の旅では一駅一駅丹念に立ち寄り、特急通過待ちの時には駅前まで歩けたものだが、特急の窓から山間の駅の空気を感じることは難しい。
 沿線は、ふたたび雪景色になってきた。雪→雨→春の陽気、そして雪。四国の冬の旅はめまぐるしい。

 さらにトンネルを抜ければ、土讃線きっての景勝地、大歩危へと差し掛かる。眼下に広がる渓谷美に見とれていれば、秘境観光への拠点駅・大歩危に到着。1時間に1本の特急が止まる大歩危駅だが、やはり時間によっては無人。かけよってきた車掌に、バースデイきっぷを差し出した。

 ホームの雪をサクサクと踏みしめ、駅前へ。平地らしい平地もなく、すぐ坂道が待ち構える駅前界隈だが、マートが2軒も構えていて、人の気配は意外なほど多い。四国きっての観光名所・かずら橋までは、この駅からバスに乗ってゆくのだが、今は残念ながら改修工事中。それならば、今まで列車から眺めるだけだった大歩危峡を真下から眺めようと、遊覧船乗り場へと足を進めた。

 駅からは徒歩で約15分。しかし雪に足を取られ、歩道もない道を歩くのは、かなり難儀だ。捕まえるようなタクシーもなく、黙々と雪中行進。鉄道を利用して来る人なんて僅かということだろうが、こんな経験もなかなかできない。
 ユンさんはというと、
 「こんなの雪じゃありません。1m以上積もれば、雪ですよ」
 それほど、年末年始に過ごした山形の雪はすさまじかったということらしい。

 狭い橋をヒヤヒヤしながら渡って、ようやくドライブインの船着場に到着。聞いてみればまもなく出航とのことで、船着場までの急な階段を急いで、しかしすべらぬように慎重に下りた。にぎやかな女子大生グループとともに、渓谷遊覧へ出航だ。

 雪こそ降っていないが、曇り空に灰色の岩、白い雪とあってモノトーンの世界が広がる。地層の傾きを見ては公務員試験の地学を思い出し、渓谷のはるか上を走る国道や鉄道に「どうやって施工したんだろう」と思う僕は俗世間の人間かもしれないけど、大地のエネルギーには素直に圧倒された。「こたつ船」でなかったのは少し残念。船着場にはこたつが積まれており、もう少しで始まるようだ。

 いったい、水面から何mの位置にあるんだろう?というドライブインで「祖谷そば」をすすり、再び悪路にアタック。数時間前まで、春の海辺を歩いていたのが信じられない。四国って、狭くて広い。



▲ごめんえきお君に見送られ
▲船着場までは急傾斜
▲感嘆の渓谷と国道
アンパンマンと一緒

 躍進する高速道路に、予讃線以上の苦戦を強いられている土讃線。特急列車は岡山での新幹線連絡に活路を見出す「南風」がメインで、高松行きの「しまんと」は、「南風」との併結列車を含めても5往復に過ぎない。しかも昼間の時間に走るのは、この「しまんと4号」のみ。南風と合わせて計6両の車内は、3連休と思えないほどがら空きだ。
 新型の「N2000系」の乗り心地はよく、大きな窓から眺める大歩危・小歩危は絶景なのに…そんなに高速道路っていいものなのか、一度、四国一周高速バスの旅ってのも、体験すべきなのかも。

 乗り継ぎターミナルの阿波池田で下車。駅ホームは昔ながらの雰囲気で、さらに国鉄色に戻された急行型気動車が入ってきたものだから、それこそもう何十年前かの風景のようだ。

 そんな阿波池田駅の向かい側ホームに待っていたのは、ドライな現代特急の「剣山」。通常、2両編成にグリーン車はおろか、指定席すら4列×3列の12席しかないという、快速のような特急だが、この列車は3両編成。真ん中の車両を飾るのは、やはりアンパンマンだ。

 しかも、車内はいたって普通でドライだった南風と違って、こちらはバッチリ車内にまで手が入れられている。クッションが敷かれ、アンパンマンのビデオが流されていて、子供たちが無邪気に遊ぶ。この中の何組かの親子連れは、この車両がなければ、おそらくこの列車には乗っていなかったであろう。おそるべし、僕らのアンパンマン。

 徳島線を走る「剣山」は、とうとうと流れる吉野川を横目に坦々と走る。このキハ185系気動車は十数両がJR九州に中古で売却されており、「ゆふ」で何度も乗っているおなじみの車両だ。久大本線の玖珠(豊後森付近)の車窓とオーバーラップする。

 車窓の楽しみも、後半は日没になりおしまい。高架線上で高徳線と合流し、休日なりの夕方ラッシュを迎えた徳島駅に到着した。人口では四国3番手の徳島だが、駅ビルは新しく立派で、そごうが構える駅前も賑わいがあり、JR駅前だけで比較すれば四国一の賑わいだ。「そごう」に対する予備知識のないユンさん、
 「そごうって、パチンコ屋なのかと思いました。そごうパチンコ…」。
 以前は小倉伊勢丹もそごうだったんですよと、そごう信者ではないのだが力説した。徳島「市」を見る時間は、この乗り換え時間13分のみ。板野方面の普通列車に乗り継いだ。

 この列車は1000系気動車。クロスシートとロングシートを千鳥配置した車内は独特で賛否が分かれるが、僕が気になったのはまったく別の部分、扉の重さだ。
 車内保温のため、冷暖房の時期はドアを半自動扱いにしている(冬だけでないのが四国らしい)のだが、1000系の中ドアは両開きで、両側の扉が連動しているものだから、開けるのがとにかく重い。24歳の僕でも難儀するのだがら、お年寄りはなお然り、子供ならまず開かないのではないか?
 以前はなかった身障者対応トイレが設置されたのは改善だけど、この扉は、バリアフリーを阻んでいる。

 終点の板野で下車。決して小さな街ではなく、この駅を終着とする普通列車も多いのに、夕方から無人とは驚きだ。迎えの車で、今夜の宿へ向かう。北海道に多い男女別相部屋形式の「とほ宿」と呼ばれる民宿で、四国では唯一、ここだけの存在。まずそこに関心を持ったし、いずれ北海道を旅したいというユンさんへ、こうした宿があることを伝えたいと思い、この宿を選んだ。

 ところがここの宿主さん、元はユース協会の職員さんだったというから驚き。民営ユースならば個人経営の民宿のような所も多くあるのに、
 「なぜユースとして開業しなかったんですか?」
 「お遍路さんって、ユースだと泊まってくれないんですよ」
 なるほど、確かにお遍路さんにユースのイメージは湧かないものだ。「とほ」してこそのお遍路さん、とほ宿ならば泊まってくれそうだ。

 とほ宿といっても個室に入れば、普通の民宿に近い。それでも夕食後に食堂兼談話室に残っていれば、宿主さん夫婦とも自然に話しが弾む。明日は鳴門海峡大橋に行って、うず潮でも見れればいいですねと話していたら、
 「見ごろの時間ってご存知ですか?その前後1時間くらいに行くのがいいですよ」
 調べてもらえば、明日の干潮時刻は8時40分。予定では9時42分のバスで鳴門公園に着くことにしていたが、これじゃ見ごろに間に合わない。さっそく時刻表を借りて、旅程の修正にかかったところ、導き出された出発時刻は、板野駅発7時半前。

 「あのお、明日7時15分頃送ってもらったり…」
 「よろしいですよ、7時に朝食をお出ししますので、準備万端にしてから食べに来てください」
 というわけで、やはり今夜も早寝と相成った。



▲国鉄急行と並ぶ剣山
▲アンパンマンカー
▲立派な徳島駅ビル

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