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160円で福岡一周!

思い出の160円旅行

 東京・大阪・新潟・福岡の各都市圏には、JRの「大都市近郊区間」という制度がある。この区域内の相互を発着する乗車券ならば、どんな経路を通ってもよいという規則だ。
 たとえば新宿〜東京間を中央線で行っても山手線で行ってもOK、大阪〜天王寺間を鶴橋まわりでも弁天町まわりでもOK。これを応用したのが「160円旅行」で、初乗り区間の乗車券を使って、ぐるりと遠回りして乗る旅のことを言う。

 もちろんその間、改札の外に出ることは許されないので実用性はなく、「お遊び」の域は出ない。でも安く鉄道を「楽しむ」にはおあつらえむきの遊びで、カネのなかった中高生の時には二度も楽しんだ思い出がある。
 今は社会人、多少のお金は持ってるけど、ふと懐かしくなり、この旅をおさらいしてみることにした。12月、突然冷え込んだある週末のお話。


幻か?西鉄路面電車

 近所の竹下駅で、初乗り160円のきっぷを購入。朝9時前の鹿児島本線下り電車に乗り込んだ。笹原を過ぎれば早くも160円区間を越え、キセルしてるような気分にならなくもないが、目的地は正反対の博多駅。ルールに則った乗り方だ。
 今回のコースは、福岡近郊区間の中でも最も遠回りになる、以下のような一筆書きルート。時刻表の地図で追ってみて下さい。

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竹下
↓鹿児島本線
原田
↓原田線
桂川
↓福北ゆたか線
新飯塚
↓後藤寺線
田川後藤寺
↓日田彦山線・日豊本線
南小倉
↓鹿児島本線
香椎
↓香椎線
長者原
↓福北ゆたか線
博多
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 二日市で快速に乗り換え、原田着。1番ホームには、筑豊本線(愛称:原田線)の単行気動車が待っていた。実はこの区間が、福岡での「最遠距離160円旅行」のネックで、1日の運転本数はわずか6本。せっかくの休日に早起きしたのも、この列車の時間に合わせるためなのだ。

 中学生の頃まで4両の客車列車が往復していたこの区間も、今では単行のディーゼルカーが行き交うのみ。しかし1日6本ながら、さらりと埋まるだけの乗客があり、途中で降りたおじさんは定期券を持っていた。「赤字線」とは切り捨てられない、大切な生活の足なのだ。

 筑前内野駅前には、なぜか廃止された西鉄北九州線の電車が置かれていた!なつかしの北九州線カラーも鮮やかで、飛び降りて確認したい衝動にかられるが、160円旅行では途中下車できない。第一、運賃を払って降りたとしても、次の列車は7時間後だ。

 長い長い冷水トンネルを超え、桂川に到着。立派な電化路線に生まれ変わった「福北ゆたか線」で新飯塚へ。筑豊本線といえば、かつての石炭輸送の名残で、廃線跡や、やたら広い駅構内が寂しさを感じたものだが、新飯塚駅はきれいな橋上駅舎。都会的な姿は「筑豊本線」ではない、間違いなく「福北ゆたか線」の駅である。


▲いつもの通勤電車で逆方向へ下る


▲完璧な状態で保管?されていた北九州線の電車


▲新飯塚駅は都市圏の雰囲気。だいぶ冷え込んできた。
筑豊の山々を眺めて

 新飯塚と田川後藤寺を結ぶ後藤寺線は、1時間に1本。40分も寒いホームで待たされ辛かったが、暖房の効いた列車は、かなりの席が埋まった。多くは福北ゆたか線からの乗り継ぎ客で、ローカル線ながらまだまだ福岡都市圏の続きといった雰囲気だ。

 8年前に乗ったとき、この路線はツーマン運行で、途中車内改札があり、わざわざ地図を持ち出して、行程を説明したことを思い出す。その後ワンマン列車は増え続け、今やJR九州ではワンマン列車が走らない路線の方が少ない。
 こんなマニアックな旅について、いちいち説明しなくていいのはありがたいけど、車掌との「旅客営業規則の解釈論議」ができなくなったのも、寂しいといえば寂しい気がする。

 後藤寺線沿線の目玉といえば、トンネルを開けて突如現れるセメント工場。大きく切り立った山と、物骨な機械群は迫力モノだけど、さすがにこの辺りの駅で乗り降りする人は少ない。乗り通す乗客がほとんどで、朝には線内ノンストップの快速があるのも頷ける。

 田川後藤寺で、小倉方面の日田彦山線普通に乗り換え。こちらも1時間に1本の路線だが、二両編成はなかなかの混雑。こちらも、削られてきた荒々しい山の景観が見所だ。ズバリ「採銅所」なんて駅もあり(地名そのものが「採銅所」らしい)、風情ある木造駅舎ではネコが遊んでいた。

 志井を過ぎれば北九州市で、ちょっとお出かけ風の“市民”が大勢乗り込んできた。一時期、日田彦山線の列車は日豊本線と出合う城野止まりにされており、だいぶ不評を買っていたものだが、再び小倉直通に戻っており、なにより。実際この列車でも城野で降りた人なんて僅かで、ずいぶん利用者に冷たいダイヤを引いてたんだなと思う。


▲後藤寺線の車窓はセメント工場。駅周辺まで白っぽい。


▲日田彦山線の車窓は山々。削られた山肌が荒々しい。
最後まで迂回乗車

 さて、今乗っている日豊本線と鹿児島本線がぶつかるのは、西小倉駅。一筆書きルートが原則の「160円旅行」では乗換駅となるが、前回は小倉まで行けた。西小倉に止まらない列車では、小倉まで行って相互の列車を乗り継いでよいという特例があり、以前は西小倉を鹿児島線快速が通過していたので、飛び出して乗れたのだ。小倉駅は改札内の店舗が充実していて、昼ごはんにはちょうど良かったのだけど…
 仕方ないので、西小倉駅で乗り換え、折尾駅で降りて立ち食いうどんをすすった。寒いだけに、芯から温まった気分だ。

 鹿児島線の快速電車で、香椎まで下る。このまま乗ればすぐに博多なのだが、最長ルートにこだわりたい160円旅行では、長者原経由で香椎線〜福北ゆたか線へと回ることになる。

 香椎線は、国鉄型気動車が紫煙を上げる都市圏ローカル線。博多直通やアクアエクスプレスなる観光列車の導入、赤い新型気動車など一時はずいぶんテコ入れされていた路線だが、すっかり元通りになってしまった。どことなく間延びした時間が流れた列車だった。

 2路線が十字に交わる長者原駅で、福北ゆたか線に乗り換え。こちらは最新型の電車がひっきりなしに走るようになり、以前は似たようなものだった香椎線との差がずいぶん際立った。単線なのは相変わらずで、長者原では対抗の普通を待たせていたのに、次の原町でもさっそく快速の通過待ち。よく組まれたダイヤと感心する。

 吉塚で三度鹿児島本線と合流すれば、出発6時間目にして博多駅到着。まっすぐ来れば3分の距離だった。

 さて、まだ時間の残っている休日、どこに行こうかな…と思いながら改札にきっぷを入れてみれば、扉が閉まり「時間経過」と出た。入場券には時間制限があるけど、短距離の乗車券にそんなものないはずだぞ!と思いつつ、出てきた駅員さんに「趣味で大回り乗車してきました」と包み隠さず申告した。車掌に説明する機会は減ったけど、最後の最後にその必要があったわけね。

▲レトロな雰囲気の折尾駅。駅弁、駅うどんが充実、1階筑豊本線ホームにはミニコンビニもあり、160円旅行中は便利


▲電車行きかう香椎駅に現れる、香椎線の気動車


▲駅舎が変わり、交換設備も新設された長者原。これでもJR化後まで駅はなかった場所だ
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