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2004年3月・新幹線「つばめ」ダイヤ改定

キハ183系3度目の転進 ゆふDX


4度目の塗色は、鮮やかなワインレッドに

180度の展望を楽しめるパノラマシート

盛況の新ダイヤ

 「次の『ゆふDX』の、1号車パノラマシート、空いてます?」
 「申しわけありません、満席です」
 久留米駅の女性窓口係は、機械を叩きもせずにそう告げた。ゆふDXという列車も、パノラマシートという座席種別も1週間前に登場したばかりの新顔だが、係員は熟知しており、切符の売れ行きも上々のようだ。パノラマシートがないならば自由席でも充分で、大分までの自由席特急券を購入した。ナイスゴーイングカードで4割引となり、3000円弱。安い。

 「ゆふDX」は、九州新幹線開業の2004年3月13日で登場した新しい特急で、従来3往復運転されてきた特急「ゆふ」のうち、1.5往復を置き換えたものである。ちょうど帰省から大学のある大分へ戻らねばならず、時間に狙いをつけてこの新特急に試乗することにしたのだ。

 久留米駅は、日本一の特急街道、鹿児島本線の駅。今ダイヤ改定で、20分おきに走る1時間に3本の特急のうち、2本が鹿児島中央行き特急「リレーつばめ」になった。いや、正確にいえば新八代が終点で、そこから新幹線「つばめ」に接続して鹿児島へ行くのだが、駅の案内は「鹿児島中央」行きで徹底されていた。少々違和感を感じるものの、新幹線との一体輸送が強調されている。
 新しいエンブレムを付けた下り「リレーつばめ」7両編成はほぼ満員。普通車ボックスシートもグループ客ですべて埋まっていて、平日とは思えない盛況ぶりである。上りの11両もかなりの席を埋めており、新幹線効果は上々の滑り出しのようだ。

 続いて、これから乗る「ゆふDX」が入線してきた。これまで何度か見てきた、ちょっとごつごつした車体だが、鮮やかながらも落ち着いたワインレッドに身を包み、上品になった印象だ。
 …そう、僕がこの車両に乗るのは初めてではない。キハ183系特急型気動車、彼はちょっと不運な流浪の民なのだ。


自由席車内

大きめに掲げられた座席番号

シーボルト時代の183系

3度目の転進

 乗り込んで始めに目に入るのは、反対側のワインレッドの乗降扉だ。九州新幹線用800系にあわせた色彩のようだ。改造車ということで、近年のJR九州特急のような豊なデッキ空間は望めないが、思想は極力取り入れているようである。
 車内のインテリアは、真っ白な天井や壁に対して、落ち着いた色彩の座席が並んでいて、これも800系新幹線の流れを汲んでいる。また今回は自由席なので関係なかったが、座席番号の表記が従来に比べてかなり大きくなっており、ユニバーサルデザインといえるだろう。

 この車両、これまでに3度の改造が重ねられている。
 最初に登場したのは1988年、「オランダ村特急」として博多〜佐世保間を走り始めた。運転席を2階に上げて、先頭まで座席を配置、気動車版の小田急ロマンスカーとも言われた。供食設備のカフェテリア車両も連結。バス接続ではあったものの、当時「西のディズニーランド」とも呼ばれたテーマパーク「オランダ村」への観光客を運ぶ使命を担った。
 「オランダ村特急」は好評のうちに小倉、さらに門司港延長となり、北九州地区からの観光客も運んだ。1両が増結された際には子供向けの遊具室「チャイルドサロン」の連結という、先進的な試みもなされている。さらに、電車特急「有明」との協調運転を実施したことも忘れられない。ダイヤの逼迫している鹿児島本線を走るため特別装備を施し、国内初の施策だった。
 このように様々な話題を提供してくれた「オランダ村特急」だが、「オランダ村」は規模を拡大して「ハウステンボス」に飛躍。同時にJRも大村線に新駅を設け電化、電車特急「ハウステンボス」が走り始め、オランダ村特急は1992年3月に廃止となった。もっとも、オランダ村特急は全区間が電化されているにも関らず気動車で登場しており、予定されていた引退だったのかもしれない。

 半年の沈黙の後、キハ183系は改造を受け、1992年7月15日の「つばめダイヤ」で、「ゆふいんの森U世」として再デビューを飾る。前後の展望席はフリースペースとなり、ビュッフェや4人用、6人用の個室も設けられ、T世とは違った魅力を打ち出した。
 ところが1999年、キハ71系「T世」の代替としてキハ72系「新ゆふいんの森」が登場した際には、当初の予定が覆されキハ71系は続投、キハ183系「U世」は先立って1月末に運用を離れた。キハ71系は急行型の足回りを使った車両で老朽化していたが、ゴージャスな車内やハイデッカー構造などの魅力を備えた車両で、キハ183系よりも評判が良かったのだろう。続投のため大がかりな改造を施されたキハ71系に対して、ここでキハ183系は再び活躍の場を追われた。

 その年の春に、懐かしいトリコロールカラーに戻された183系は、長崎〜佐世保間を結ぶ特急「シーボルト」となった。美しい大村湾の眺望を背景に展望車はうってつけだったが、ビュッフェ車は廃止され、B級特急に成り下がった感は否めなかった。
 同区間の特急料金は特定で500円とされ大サービスぶりを発揮したが、快速が行き交う同区間で1日2往復の特急はイレギュラーであり、乗客も伸び悩んだ結果2003年春、同列車は廃止される。

 さらに1年の眠りを経て、3度目の転進を図った先が、かつて活躍した久大本線・博多〜別府間の特急「ゆふDX」というわけである。


ちょっと押し込められた感じの喫煙室

元6人用個室のフリースペース

3号車のフリースペース

4号車のフリースペース

ゆとり多い車内

 日田を過ぎても乗客はほとんど減らないが、車内は落ち着いてきた。ここで車内を一巡りしてみよう。
 1号車指定席…この先頭に、前面展望が思いのままの「パノラマシート」がある。約束通り、9席すべて埋まっていた。3列に並ぶ座席はこぶりでリクライニング機構もなく、ゆったりと眠りたい人には不向きだろうが、おかげで展望はよく開けている。通常期比で200円高い指定料金が必要で、「新幹線開業で、JR九州が儲け主義に走った」と揶揄されることもあるが、この展望に200円なら、多くの人は納得するのではなかろうか。
 竹製の照明器具が置かれ、指定席との間には「のれん」が掛けられるなど和のテイストが取り入れられている点も、新幹線つばめと同様だ。

 2号車自由席の後部には、全車禁煙となった代わりに喫煙室が設けられた。またかつての普通個室は、4人室は車販準備室、6人室はフリースペースに生まれ変わっている。フリースペースは広すぎる感じで、個室のままで良かった気もするし、押し込められた感じを受ける喫煙室をこことしても良かった気がする。
 3号車自由席にも、前部にフリースペースが設けられており、3両が基本だった「ゆふ」に対する4両編成のゆとりと言えそうだ。もっとも「ゆふ」も4両となる日があるほど混雑する時期もあり、事実今日すれ違った在来「ゆふ」も4両編成だった。明日、明後日の週末には「ゆふDX」自由席が定員オーバーになるのは明白で、その時にはフリースペースが座席代用となるのだろう。
 乗客の季節波動が大きい列車に対する、座席提供のひとつの考え方といえそうだ。

 最後部4号車にももちろん「パノラマシート」があり、座席は後ろ向き固定となっている。当然、後ろに流れていく車窓を眺めていくことになるが、180度に開ける展望は爽快で、こちらでも200円の価値は感じる。
 パノラマシートの後ろには、1号車にはなかったフリースペースも設けられており、都合2・3・4号車にフリースペースが設けられていることになる。
 自由席は7〜8割の乗車率、指定席は満席の盛況で、そのうち多くの人は満席の「ゆふ森」から回ってきたのだろうが、この車両なら満足ではなかろうか。


切株山

パノラマシートから見た由布岳

がら空きになったパノラマシート

1.5往復のユニークな車両運用

 豊後森が近付き、車窓を飾るのは伸びやかな田園と、切株山だ。豊後森機関庫の廃墟を後に、次の停車駅は豊後中村駅。ここから由布院にかけては久大本線で一番の難所で、さすがのJR車両も歩みが遅くなる。

 この日は運行開始からまだ日が浅いからということか、4両にも関らず車掌は2人乗務だった。事実、4号車のトイレが水浸しになるトラブルが発生、対応に追われていた。また急に暖かくなったこともあり車内の暖房は暑すぎる感じで、特に金魚蜂状態のパノラマシートからは苦情が上がっていたが、由布院を前に適温になってきており、対処されたようである。新登場の列車に関しては、何かと慣れない面も多いようだ。
 一方、ゆふ森に乗っているような客質乗務員の乗務はなく、一般「ゆふ」と同様の、車販会社の係員の乗務である。もちろん応対はJR九州の客室乗務員にひけを取らない丁寧なものだが、商品内容には一工夫欲しい気がする。それにワゴンそのものにも、新車両にふさわしいものを望んでは贅沢だろうか。

 ところで、この「ゆふDX」はユニークなダイヤを組んでいる。というのも、3往復の列車に運用されるのは2つの編成で、1編成が1.5往復するダイヤ。「ゆふDX」は1編成しかないため、列車毎に奇数日・偶数日で「ゆふ」と「ゆふDX」が入れ替わるダイヤとなっているのである。旅程が「ゆふDX」に合うかは、時の運といえるだろう。
 ちなみに31日は、予備車を利用してすべてが「ゆふ」として運転され、奇数日・偶数日のリズムが崩れないよう配慮されている。閏年の2月29日も同様の措置をとると時刻表にもはっきり記載されているが、次の2月29日は4年後の2008年。その時も、本当にこんな変則ダイヤが残っているのだろうか。
 いっそ、この編成を2両+2両にバラして、在来「ゆふ」2両をくっつけてしまえば、全列車をパノラマ車連結とすることができるのに、と素人は思うが、恐らく先刻検討済みではあるだろう。

 そんなことを考えているうちに、列車は由布院に到着。降りるわ降りるわ、自由席はともかく、指定席の乗客は2名となってしまい、さっきまでの混雑が嘘のようである。「ゆふ森」はいつもこんな調子だけど、シーズンには「ゆふ」までこうなってしまうとは、知らなかった。それとも、新車両効果で観光客が集まったのだろうか。

 指定席はがら空きだが、自由席には普段着の乗客を乗せ、いつものように走ってゆく。ゆふ森は停車しない向之原駅に停車。これ以外にも、これまで「ゆふ森」に見放されていた駅は多く、素敵なワインレッドの特急が止まることは福音ではなかろうか。事実、登場から間もないこともあって、沿線の人からはかなりの注目を集めていた。
 また営業側にとっても、「ゆふ森」が満席の際に、「ゆふ森ではありませんが、他にもいい列車がありますよ」と誘導しやすくなり、結果的に乗客の逸走を止める効果がありそうである。これまでB級特急に甘んじてきた「ゆふ」にスポットを当てたことは、様々な反響を呼びそうである。

 かなり進捗してきた高架化工事を見れば、大分駅に到着である。この先、列車は別府へとラストスパートを駆けるが、僕はここで下車。ゆとりたっぷりの2時間半の旅だった。
 

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