はりまや橋〜桂浜
太平洋の海原に何を想ふ・・・
桂浜
坂本竜馬記念館
いくら疲れても、旅の朝は早起きだ。６時２０分に目覚め、狭いカプセルを這い出した。身だしなみを整え、桂浜行きのバスが出る南はりまや橋バス停へと歩いた。バスの時間まではまだ２０分あまり。少し早起きしすぎたようだ。
高知県交通のバスは桟橋線沿いに走り、一路郊外へと走る。ごく普通の生活バスだが、どこまでも続く太平洋を望む気持ちのいい路線だ。
ひと山越えて着いたのが、終点・桂浜だ。大きな土産屋さんがたくさんあるが、早朝とあってどこも開いていないので、そそくさと立ち去る。丘に登れば、坂本竜馬像がじっと太平洋の大海原を見つめていた。遠き地を見つめ、何を思うのか‥‥
人の少ない、美しい浜へと降り立つ。水族館があるが早朝でまだ開いておらず、少ない観光客は思い思いの時間を過ごしていた。名所の景勝地は、こんな時間に楽しむのが一番だ。もっとも夜には月の名所という一面も持っているそうで、ぜひ見てみたい思いにかられた。
龍王岬から弓形の浜を見下ろし、さらに登ったところにあるのが坂本竜馬記念館だ。まだ時間は８時半で、昨日のように早く入れてもらえないかなとの望みは、入り口のシャッターを前に打ち砕かれた。仕方なく、まずはグルリと外を見てまわった。
まず原色の外観が目を引くが、これは結構好みが分かれそう。ただし桂浜からは見えないようにできていて、景観には配慮したようだ。下から見れば、隣の国民宿舎の方が余程目立っている。海側へ行くと、グンと突き出たガラスの箱に目を奪わた。坂本竜馬像と同じ海の望み方を狙ったのだろうか。
ようやく開館時間を迎え、館内に入る。特別、竜馬ファンというわけではないが、いい生き方をしている偉人だと改めて思う。そして館内や屋上から気持ちよく見渡せる太平洋。絶景であるのと同時に、竜馬も見た海から入館者もそれぞれ、何かを思うのだろう。
バスの時間のおかげで、２０分あまりで出なくてはならないのが悔しかった。駆け足でバス停へと戻り、市内へ、そして次の目的地へと急いだ。
スイッチバックの新改駅
大歩危・小歩危の景勝を見ながら
琴電琴平駅
はりまや橋からは、土電桟橋線"１００円電車"でＪＲ高知駅へ。高知駅前電停は昨年移設され、ＪＲ駅まで徒歩０分の位置になった。雨の日でもまったく濡れず、しかも繁華街まで１００円で行けるのだからとても便利。ＪＲの往復券と１日乗車券をセットにした「路面電車きっぷ」も発売するなど意欲的な営業にも取り組んでいて、頑張る土電にエールを送る。
高知駅は何やらお祭騒ぎ。この日、かつてのキハ１８１系の「南風」の復活運転が行われ、それを待ち構える人で賑わっていたのだ。僕はこの先の長丁場に備えて、売店で「鰹のたたき弁当」を買い込む。保冷剤を入れることで実現した、初の生モノを取り入れた駅弁だ。
阿波池田行き普通列車は、キハ５２系のワンマンカー。２時間半をロングシート、トイレなしで過ごさねばならないが、もう諦めの心境だ。土曜昼前の普通列車は、ざっと座席が埋まる程度で高知駅を離れた。
次の薊野では、件の「懐かしの南風号」とすれ違った。国鉄カラーの古豪気動車は、ＪＲ西日本から借りてきたもの。思えば上場企業のＪＲ西日本が、いまだ現役で使っている気動車を駆使してしまったのだから、ＪＲ四国も侮れない企業だ。
その後は乗降とも多く、乗客は減らないまま土佐山田を出て、山越えにかかった。次の新改駅はスイッチバックの駅で、特急の待ち合わせもあってしばし停車。山の中の小駅でのひとときは、多くの乗客にとってリフレッシュの時間になったようだ。南風を撮ったついでに撮影を続けているのか、鉄道カメラマンの数がすさまじい。もっとも彼らもＪＲにとっては貴重なお客様。通常ならガラ空きになるだろう山峡の区間でも、乗客が減ることはなかった。ロングシートのほとんどがカメラマンで埋まる光景は、一種異様ではあったが‥‥
ロングシートでも空いてればいいかなと思って買い込んだ駅弁だったが、結局は回りの視線を気にしつつコソコソ食べることになってしまった。大歩危、小歩危の景勝を眺めながらのカツオのタタキ、それはうまかったとしか言いようがない。
時刻表上では、高校野球で有名な阿波池田で乗り換えだが、今乗ってきた列車がそのまま多度津まで行くようだ。駅前に出てみると、車の通るごく普通の道路上にアーケードがかけられていてビックリ。アーケード＝歩行者天国という九州の図式とは、根本的に異なるのだなと感心することしきりだった。次の列車で多度津まで行かず、琴平で降りた。
琴平からは、高松琴平電鉄・通称コトデンで高松を目指す。コトデンは高松・瓦町を中心に４方面に鉄路を延ばす、香川の鉄道会社だ。ファン的には大手のお古を大事に使っている電鉄としても有名だったが、近年では車両の置き換えが進んでいる。琴平で待っていたのも、最近転入してきた元京王の電車だった。冷房もバッチリ効いている。
走り出せばけっこう速い。架線柱、枕木ともＲＣで、軌道状態もよく揺れない。単線とはいえ交換は効率よく行われている所なども合わせて、西鉄天神大牟田線の南端区間に乗っている気分だ。縦書きの時刻表、次の列車は○○を出ましたという案内、「指づめ注意」のステッカーがあるあたりは、関西私鉄風だ。高松に近付くにつれて乗客も増えていき、すれちがう電車は４両編成。その勢いは大手私鉄を思わせる。
栗林公園駅で途中下車。そう、コトデンには有人駅のほとんどで途中下車が可能な制度があるのだ。駅は最小限の設備、街と同じスケール感の駅舎がいかにも私鉄の雰囲気で心地いい。「コトデンスーパー」が併設された、地域密着の駅だ。だがしかし、スーパーの中は空っぽで、入口には「差し押さえ物件」の張り紙が。ここでようやく、琴電が事実上の倒産企業であることを思い知ったのだった。
コトデンそごうの破綻をきっかけに、経営破綻に追い込まれてしまった琴電。民事再生法の枠組みのなか、電車の営業は続けられている。こんなに頑張っている「地域の足」を倒産に導くとは、そごうも罪なことをしたものだと、この時は思った。
栗林公園の菖蒲
茶室「日暮亭」
高松といえばやっぱりうどん！ 栗林公園駅付近をうろうろ歩いていると、ありました「セルフ」のうどん屋さん。なるほど噂通り安い。かけうどんなら並で１５０円程度、大でも２００円しない。大を頼めばお腹いっぱい。しかも次回の２０円割引券をくれるのだから、一帯どこで儲けているのだろうと同業者（ウチの実家はうどん屋です）として不思議なほどだ。しかしお客としては、このうどんに対する気軽な感覚を実に羨ましく感じた。
幹線道路を渡り、栗林公園へ。３７０年前に作られた、回遊式の庭園だ。まずは北庭の方に足を向けると、ちょうど菖蒲が見ごろを迎え、美しい花を咲かせていた。赤ちゃん連れの母子が憩い、おじいさんがカメラを向け、いい雰囲気だ。蓮池や、手入れの行き届いた松の木もお見事。こんなに立派な庭園が街中にあるとは、うらやましい。
園内には商工奨励館や、日暮亭、掬月亭といった茶室などの木造建築も点在していて、個人的には静かな林の中にあった日暮亭にひかれた。残念ながらお茶の時間は終わっていたが、少しだけ入れてもらって雰囲気を味わった。縁側に腰掛け、風にそよぐ木々を眺めながらの茶は、さぞや格別なことだろう。南湖のほとりに建つ、掬月亭もなかなかの風情を醸し出している。
ぐるりと回遊してみれば、５０分が経過。普通は１時間半くらいかけるものみたいだけど、ちょっと早足だったかな。栗林公園駅に戻って、再びコトデンの人となった。市街地の幹線道路を踏切りで突っ切る堂々さは、松山の伊予鉄と同じだ。
立派な瓦町ターミナルで、志度線に乗り換え。かつては旧型車両の宝庫だったという志度線だが、こちらは元名古屋地下鉄の車両が幅をきかせるようになって、動いている旧型車とは出会えなかった。琴平線より小型の車両で、なるほど家々までの距離が琴平線より近い。急なカーブで、車輪をキィキィ軋ませながら走る様は、いかにもローカル私鉄だ。
ただ、冷房の冷気を入れるために少し扉を開けて、足を組んでだらしなく運転している運転士の姿はいただけない。そういえば、瓦町の女性駅員は何を話しているか分からないほどの小声だったし、他の職員さんも決して気持ちいい対応ではなかった・・・ 残念ながらコトデン社員の接客は悪評が高く、その一端に触れてしまい憂鬱だ。決して社員さんたちが悪いわけではなかろうが、かつての国鉄のように、それを許す体質が破綻を招いたような気がしてならないのだ。再生の意気込みは、まず態度で示してもらいたい。
海を見ながらゴトゴト走った志度線は、平成の大合併の先陣を切った新生・さぬき市の志度駅で終点だ。ＪＲ志度駅前に出ると高松名物・うどん製麺所のうどん屋さんを見つけ喜び勇んだが、もう閉店した後で落胆。おとなしくＪＲ高徳線で、高松へと戻った。
サンポート高松「コリドー」
片原町アーケード
数年振りの高松駅は様変わり。地平だが、頭端式のホームがずらりと並ぶ立派な駅に生まれ変わっていた。派手にラッピングされたマリンライナーや、３方面の特急、都市圏電車まで、色とりどりの列車がホームを飾る。さすがは四国の代表駅だ。
駅舎も大きな吹抜けのある、明るい建物になっていた。割引きっぷの宣伝が、藍染め風の垂れ幕になっていたのが目新しい。そのものは目立たないものの、雰囲気を大事にしたようで好感を持った。
そんな高松駅を含め、周辺では再開発事業「サンポート高松」が進捗している。高松港ターミナル、ホテル、コリドー、レストハウスなど新しい施設が次々と誕生。高松市の規模を考えると、少し気合が入りすぎなのでは？ とも思えるが、ちゅんと多世代の人々を集めている。決して成功とはいえなかった青森や函館のウォーターフロント再開発を見ているだけに、地方都市であってもこのくらいの規模と気合でやらなければ、水辺空間の活性化などできないのかな、と考えた。
高松駅から今夜の宿・片原町までは歩いてしばらく。平野に大きく広がる高松市街地はアーケード街が発達していて、例によって自転車も乗り放題のようだ。こんなに長いアーケードを歩いていられるか、という考えもあるのかも。片原町アーケードは屋内なのに街路樹が植えられ、途中にはコトデンの踏み切りまである。かなり普通の街路に近い印象だ。
今夜の宿は、ネットの宿サイトから予約したビジネスホテルだ。一泊通常５０００円のところが、割引でなんと３８００円。さてどんな部屋に詰め込まれるのかと思っていたが、２間続きの立派な和室に通されてビックリ。風呂もユニットではなセパレートでしっかりした浴槽。しかも大浴場も自由に使ってよいとのこと。ビジネスホテルにとってはオフの土曜日とはいえ、本当に儲けているのか不思議なほどだ。
夕ご飯は、近くのお好み焼き屋でワールドカップを見ながら食べた。セルフサービスのおでんも置いてあったが、お好み焼きとおでん？ 高松のうどん屋にも普通におでんが置いてあり、高松のおでんも独特の「あり方」があるのかもしれない。
とうとう明日は最終日。早寝して、明日も朝からめいっぱい楽しもう。