シーポートプラザの摩周丸
公立はこだて未来大学・スタジオ
未来大学の講義室
学内図書室
預かり所に荷物を預け、ついでに携帯の充電まで頼んで、身軽になって街へ出た。まずは、かつての連絡船待合所跡にできた再開発施設「シーポートプラザ」へ。以前に訪れた５年前よりもさらに寂しくなっていて、施設内も空き店舗だらけ。フラリと訪れたカップルが「さみしすぎる・・・」と戸惑っていたほどだ。係留され資料館となっている青函連絡船「摩周丸」共々、行く末が気になる。
次は、函館バス赤川線に乗り込んで、「公立はこだて未来大学」を目指す。函館市営から函館バスへの経営移管が行われたばかりのようで、車内には様々な掲示が揺れていた。中心部の五稜郭を抜け、バスは郊外へ。途端に、これまで２００円だった初乗り運賃が１４０円になり、運賃の上昇ペースも鈍った。函館の市電・バスはめちゃくちゃ高いなと思っていたが、それは中心部だけだったようだ。
すでに落葉の積もる坂道を登れば、目指す函館みらい大学だ。駅から４０分、中心部からも２０分強の道のりだったが、距離を考えれば３３０円の運賃は安い方だろう。函館市内が一望できる高台にあり、函館山とは逆の夜景が楽しめるということで「裏夜景」なんて言われているそうだ。
そして芝の上に乗ったガラスの箱のようにあるのが、「公立はこだて未来大学」だ。大学といえば敷地の正門があるものだが、ここは敷地がまるで公園のように開放的で、現に近所の人が犬の散歩に来ていた。そこにガラス張りの校舎なのだから、中の様子は周辺から手に取るように分かる。
ひとまず建物の正門から入り、事務室へ見学のお伺いを立てた。実際は、入口にある名簿に名前を書けば自由に見学できたらしいのだが、気付かずに事務員さんの手を煩わせることになってしまった。しかしおかげで、司書さんに図書室を案内して頂けることになり、結果的にはラッキー♪
学生全員にノートパソコンの携帯が義務づけられているこの大学、図書館も例外なく、デスクからベンチにまでＬＡＮが完備してある。そしてその事実が生んだ計画学的な変化、それは・・・
「検索用のパソコンが２台しかありませんし、それもめったに使われていません。学内のどこでもパソコンが使えるので、そこから図書館のページにアクセスすれば、どの本があるのか分かるからです。あれば図書館に来ればいいわけです。」
はぁ〜 パソコンが十数台置いてある我が大学の図書館を思い出しながら、感心した。蔵書数そのものはさほどではないが、ジャンルは多岐に渡っている。単科大学とはいえ、理数からデザインまで幅広いことを学べる大学なのだ。
見学時間終了まであと１５分もないが、「５時を過ぎても自由に見ていていいですよ」との声に甘えてゆっくり見学させてもらった。どの講義室も建物内に取り込まれた体育館も、廊下や外部に対して総ガラス張りの開放的な造りだ。講義室なんて元々広い空間だし、ガラス張りになったからといって落ち着かないということはないだろう。外から自由に入ってきた地域の人は講義の様子を眺められ、興味があれば飛び込んだっていいそうだ。空き教室では、ＬＡＮにつないだノートパソコンを囲んで話している学生たちが・・・ パソコンには好みのステッカーを張るなど各々が個性を出していて、すっかり持ち物の一部になっているようだ。
この大学を紹介するとき決まって登場するのが、柱の林立する大空間の中に、雛壇状に配された「スタジオ」の画像だ。スタジオはこれまたガラス張りの研究室の前に並んだ、机と椅子のある空間。研究室のミーティングスペースに、談話室の機能も兼ねた空間といえば正解だろうか？ 話し合う様子が、他の場所や研究室内からもよく見える。逆にスタジオからは、ガラス越しに函館の街並みが一望。適度に落ち着けるよう衝立があり、気持ち良く語らえそうな空間だ。
そしてここでもノートパソコンを囲む学生の姿が。僕ら普通の大学生が携帯電話を持ち歩く感覚、いや携帯を忘れても講義は受けられるから、それ以上当然の感覚でノートパソコンを持ち歩いているのだ。時代はここまで来ているのか？ 友達から譲ってもらった１万円パソコンが家にあるだけの僕は、なんとはなしの不安感を抱いたのだった。
これら開放的なつくりは、設計者の山本理顕さんがお得意とする所だが、この大学にとっては重要な要素だったことだろう。なんせ「情報学」の専門大学である。情報を自在に操れるようになれば、例えば講義は自宅にいながら受けられたり、教授とのやり取りもメールで済ませられたりと、「大学」という空間に来る必要性は薄らぐのだ。それでもあえて大学に来るのは、学問には生身の人間同士がぶつかり合うという過程が必須だからだろう。そのための舞台装置として、この開放的な造りは意味のあることだなと感じたのだった。
それならば、とも思う。地域への開放とはいってもここは郊外、地域外の人は「みらい大学へ行こう」と思わない限り、ここに来ることはないだろう。ならば都心部に同じ理念の大学を作ったら？ 様々な人が出会う、一大交流拠点になり「開放」の理念はさらに生かされるだろう。だろうが、無秩序になりすぎて、大学としての体裁を保てるのか不安がある。情報化の進んだ未来の大学は、どこもこんな形態になる、そんなことはなさそうだ。
九州に比べれば、はるかに日暮れが早い北海道。５時半を過ぎれば、もう「裏夜景」の幕開けだ。そしてガラス張りの大学からも、光が溢れている。そんな光に包まれ、様々な思いを抱きながら、函館バスに乗り込んだ僕はみらい大学を後にした。
俊足ランナー「スーパー北斗」＠函館駅
いざ最北へ！札幌駅で息を整える「利尻」
北海道には到達したが北上を続け、これから札幌へ、さらに夜行で最北の街稚内を目指す。函館〜札幌を結ぶのは、ディーゼルでありながら在来線特急表定速度トップを誇る「スーパー北斗」。キハ２８１系と２８３系の二種類の車両で運行されていて、僕の乗った２１号は新しい２８３系だった。一部の車両には「スーパーおおぞら」用の車両も混じっており、両方の列車に乗れたようでトクした気分♪ ビュッフェなど憩いのスペースはないが、客室乗務員（男女雇用機会均等法改正前はツインクルレディと呼んだ）が乗務。車掌室はオープンカウンター方式と、「お客さま」を出迎える体制を整えた列車だ。
夜遅いとあって、空席の多いまま函館を発車。気動車とは思えぬスタートダッシュだ。昼間なら大沼国定公園の美しい風景を愛でながら走るのだろうが、今はただ闇中の想像の世界だ。車内は暖房がムンムンと効いている。そりゃ外は寒かったが、九州人の感覚からすると異常なまでの暖房設定だ。冬の厳しい寒さは、人間の温感も変えるのかな？ やたらのどが渇き、函館駅で買ったサッポロクラシック（北海道限定ビール）も、おいしくあっという間になくなった。
有珠山噴火の跡も、洞爺湖温泉もすべて闇の中。退屈になった僕は、三十数人にも「北海道へ上陸！」とメールを発信し、その返信へ没頭するという作業に打ち込んだのだった。
新千歳空港の明かりを過ぎ、間もなく札幌へ。街の明かりが眩い。札幌駅で出迎えたのは、次々と発着していく近郊電車と、それに乗り込む通勤客だった。夜１１時前だが、コンコースも多くの人で賑わっている。やはり札幌は大都会なのだった。
そんな札幌駅では午後１１時ジャストに、東への「まりも」と北への「利尻」が同時発車するという旅情あふれるシーンが展開する。僕が乗り込むのは、稚内行き「利尻」だ。座席の気動車と寝台客車の混結で、座席車は掛け心地のいい椅子に交換された上、シートピッチもかなり広げられていた。これなら快適な夜を過ごせそうだ。さらに嬉しかったのは、各座席にパソコン用ＡＣ１００Ｖの電源が付いていたこと。僕はモバイラーではないが、夜行連泊では携帯の充電がままならないのでありがたく、さっそく窓枠に充電器をセットした。無理いって、函館駅で頼むことなかったな。
約束通り、「まりも」と同時発車。出走直後は「まりも」リードだったが、車両の新しい「利尻」が追いついて逃げ切りと、競馬さながらのデットヒートを楽しめた。車内はと見渡せば、指定席はオフの平日ということもあってだいぶ空きがある。しかしデッキは通勤客らで満杯。旭川までは帰宅列車としての使命を担っているのだった。
僕は温かい家庭でなく、寒い北の街を目指す旅人だ。遠慮も、寝過ごしの不安もなくリクライニングを倒し、深い眠りに落ちた。