そこで、1日普通列車乗り放題の「初詣フリーきっぷ」を手に、日豊本線を佐伯方面へ出掛けてみることにした。大分から延びる4方向の路線のうち、日豊本線宇佐方面、久大本線、豊肥本線にはよく乗るのだが、佐伯方面となるととんと御無沙汰している。しかも、沿線に降りたこともない。こんなホームページを作っているのに、これではいかん! という動機だ。
豊肥本線で大分へ出て、日豊本線に乗り換え。登場から1年余り、すっかり「顔」となた815系電車だ。ロングシート、2両の電車は、立客がパラリと出る程度。旧型電車は3両で、短縮されたのも止むなしかな、とは思うが、正月2日では「参考記録」にしかならないか。
牧、高城、鶴崎と、鶴崎からほど近い森町でバイトしている間に、すっかり身近になった地域を通ってゆく。電車の車窓から見ると、まったく別の場所に見えるから面白い。鶴崎は、今春から特急停車駅に昇格する、キーポイントとなる駅だが、いつも来ている所だからあえて降りない(いま手にしている切符も、鶴崎駅発行だ)。今まで特急が止まらなかったことが不思議な駅だ、と記しておこう。
広い広い大分市域を、ようやく坂ノ市で抜ける。幸崎駅では臨時にちりんとの交換のため、発車が数分遅れたのに、運転士はウンともスンとも言わない。そういえば、鶴崎での特急交換待ちも一切触れなかった。車掌は乗ってないんだ、運転士が何か言わないと、乗客は何も分からないんだよ。特に正月だから、いつも乗らない人も乗ってるんだ、何か言おうよ!と、心の中でブツブツ。正月早々、精神衛生上よろしくない。
臼杵、津久見と中規模の都市で次々降ろし、昼前の車内はのどかになってきた。臼杵から先は、太平洋の海原を望みながら走る。地方都市圏のロングシート化には一定の理解を示しているが、こんな風景に出会った一旅行者になった時、これがクロスシートだったらとは思う。
そんな海にもほど近い小さな駅、上浦町の浅海井駅へ降り立った。無人駅ではとの予想は覆され、小さな名産品店の売り子のおばちゃんが委託を受け持っていた。商売になっているようには見えないが、それでも正月2日も空けているのだから大したものだ。駅前も、いかにも昔ながらのそれの雰囲気で好感を持つ。
この駅から徒歩5分ほどの所にあるのが、「豊後二見ヶ浦」だ。初日の出を拝む名所で、昨日は賑わったのだろうが、この日は静かなものだった。ようやく、正月を迎えた気分になれた。
逆に、山の手の方に向かうと、岩場に囲まれた滝・暁嵐の滝(ぎょうらんのたき)がある。水量はそう多くはないが、それだけに怖さなどを感じない、女性的な滝だなーと感じた。
さらに遊歩道を上がると、展望台があるらしい。電車の時間まで残り30分ほどだが、郵便配達で鍛えた健脚を、なめてもらったら困るばい、とばかり駆け登った。眼下に広がるのは、箱庭のような浅海井浦の街と、海と、そこに浮かぶ二見ヶ浦。爽快。晴れやかな気分になったのだった。
気分も新たに、さらに日豊本線を下る。開かない2両目のドア前で立ち往生する人もなく、整理券もほとんどの人が取っていて、ワンマン運転は定着しているようだ。少なくとも、かつての豊肥本線敷戸駅よりは。
2面3線の佐伯駅に到着。日豊本線は続くものの、この先は普通列車1日5往復の超閑散路線になってしまうので、とりあえず今回はこの駅を南端とする。どうやら市街地は遠そうだ。
いずれ四国に行く機会もあるだろうし、宿毛行きフェリーの出る佐伯港まで歩いてみた。ものの5分もかからずにたどり着いた、アクセス便利なフェリーターミナルは、思っていたよりもずっと小さく、しかも全体が「古本屋」と化していた。面白いし、便利ではあるけれど‥‥
折り返し、上り列車に乗り込む。やはり815系だが、好きな電車だからまあいいか。シートヒーターが効いていて温かいが、座席下のステンレスがかなり熱くなっている。知らずに長時間触れていたら、低温ヤケドを負うかもしれない。
次なる下車駅は臼杵。ここも市街地が離れている。かつての臼杵城跡である臼杵公園へ上がると、市街地を見渡せた。城跡そのものは、その痕跡といえるものはほとんどない。
初売りを明日に控え、ひっそり閑の臼杵トキハ周辺が中心街のようで、むしろこちらの方に「駅前」の匂いが漂っているのが不思議だ。臼杵川まで出ると、対岸に醤油会社「フンドーキン」の工場があった。あれ?この光景、どこかで見た覚えが‥‥? そうだ、かつてCMのロケ地になってたんだ! 昨年はCM大賞を受賞した同社だが、九州ローカルの頃からCMは面白かったので、よく覚えていた。
国鉄色の「にちりん」とすれ違い、ふたたび臼杵駅を出発。2両の電車は、パラリと立客が出ている。幸崎を越えて、大分市内に入った坂ノ市で降りた。
駅前に出た瞬間、凍りついた。なんなんだこの光景は‥‥ 駅前通り沿いは、いたる所が空き地だらけで駐車場と化していて、ポツリポツリと建物が建っている。そのうち古いものは歩道側に屋根が迫り出していて、しかもどれも同じ形。もしや、かつて駅前商店街を形成していたのではなかろうか。それらが、歯抜けになくなっていった結果が、今の光景だとすれば‥‥ おおっ、怖い! ちなみに駅左手の廃業した旅館は、いかにも昔あったという雰囲気の「駅前旅館」で、けっこう貴重品かも。
下りの幸崎行きで、一駅佐伯側に戻る。終点を前にした車内は、極めつけにガラ空きだ。幸崎駅前も何もなく、寂しい。佐賀関行きJRバスの乗り継ぎターミナルでもあるが、佐賀関駅(バス停)周辺の方が、確実に賑わっている。
折り返し幸崎始発の普通で、大分へ戻る。途中の各駅はすっかり都市近郊駅の表情で、せめて大分〜幸崎くらい終日30分間隔は欲しいような気がする。もちろん、採算は無視した利用者サイドの意見にすぎないが。
とりあえず日豊本線・大分〜佐伯の様子を見るという、初期の目的は達成したが、そのまま上りに乗り継いで別府まで向かった。年末年始は市営温泉が無料開放になっていて、せっかくだし入っておこうというわけだ。
正月とあって、華やいでいる駅前から、風俗の客引きに捕まりつつ歩くこと数分。立派な木造の「浜脇温泉」に入浴。熱くてなかなか長湯はできないが、なんともいえぬいい雰囲気だ。正月無料、ありがたやありがたや。
ガラ空きの815系普通で大分へ。結局、日豊本線内はすべて815系に当たったことになる。キハ125系イエローワンマンで敷戸に戻れば、一日だけのお正月はつつがなく終了。また翌日からは仕事だぁー!!